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 父は中国人、母は日本人、日本生まれで、国籍は中国、香港にも長く滞在し、アメリカ滞在7年という著者。
 香港返還直後の98年2月初版。時流に関係ないことの中にも興味深い記述がある。
 2000年11月に 『それでも地球は回る』(文藝春秋) という著作を読んで以来、著者の名を記憶している。読みやすい日本語を書く方。

 

 

【本物の中華料理】
 おおざっぱに言えることは、中華料理が油っこいと思っている日本人のイメージに合うのは、はっきり言って田舎の味だということくらいだろうか。北京にしても広東にしても、実はあっさりしていて日本料理と見まがうほどだ。
 残念ながら、団体パック旅行で中国へ行っても美味しい味にめぐり合える保証はほとんどなさそうだ。安かろう、悪かろうの見本みたいなものだが、大量の当てがいぶちの料理など、所詮はそんなものである。(p.27)
 中華料理といっても大衆用と富裕層用の2種類があるということか。日本料理にしても同じような傾向はあるだろう。油こってりは殺菌・保存に優れていてオールマイティーで経済的だけれど、油の下味を消すためにどうしても濃厚な味になってしまう。若いうちはそれでよくても、年齢が長ずるに及んで体が受け付けなくなるのだから、富裕層は費用をかけて油を減らした料理を考案するのが普通である。

 

 

【黒人内差別】
 97年にアメリカでベストセラーになった『ザ・ディレイニー姉妹』 の記述から。
 私の家族のなかでも色のあまり黒くない兄弟姉妹のほうが、辛い目にあうことが少なかったの。でも、家族の間ではその話は一度も出ませんでしたよ。・・・(中略)・・・」
 社会的には、一見して白人のように見えても黒人の血が一滴でもまじっている人間は、 “カラード” として差別され、同じ黒人同士でも色のより黒いほうが差別されるのだという。(p.31)
 カラードといえば有色人種の意味と考えるけれど、アメリカにおいてはそうではないらしい。
 黒人同士であってすら色の濃さで差別があるのだから、東洋系とアフリカ系が共に理解し合うのを期待するのは幻想である。
      《参照》  『日本人とアメリカ人』 山本七平 祥伝社
             【日本人はカラードではない】
             【黒人解放運動にアジア人は関係ない。プラクティカル(現実的)ではないから】

 

 

【華人】
 華人というのは、外国籍を取得した中国人とその子弟、つまり中国人の血統を受け継いでいる人々のことをさして言うのだが、政治的、社会的な扱いは外国人並みで、中国政府が都合しだいで親戚扱いしながら、実際には “他人” として遇している存在である。
 華人という言葉を、単に広義な中国人として理解していたから、「ええっ!」 である。
 不用意な認識違いを改めるために、書き出しておいた。

 

 

【米中間の養子縁組】
 国の発展のために外貨収入を欲する一方で捨て子に手を焼く中国と、豊かな物質文明を謳歌して金で買えないものはないアメリカ。両者の需要と供給が、今、はからずも一致して養子縁組は最盛期となったのだろうか。(p.41)
 養子縁組にかかるさまざまな費用を合計すると、5千7百ドルと記述されている。およそ50万円。
 「それで、子供は選べるのですか?」
 「いいえ。北京で小さな写真を見せられて、これがあなたのお子さんです、と言われるの。好きも嫌いもないのよ」 (p.47)
 もしも、拒否したら次に斡旋する保証はないと北京で言われたという。
 現在、アメリカ人の里親と中国人の子供の養子縁組は年間約二千組に上るという。対象国は中国ばかりか、ベトナムや韓国などアジア全域にわたる。 (p.47)

 

 

【アメリカで弁護士が多いわけ】
 訴訟社会アメリカで、最も弁護士が多いのは日系人が多く住むカリフォルニアだけれど、それはさておいて、アメリカで弁護士が多いわけは・・・
 まさか! アメリカに弁護士が多い理由は学資ローンの返済のためだなんて、本末転倒もいいところじゃないか。・・・(中略)・・・。冷静に考えてみれば、彼の話もあながち的外れとは言えなさそうである。(p.52)
 ご自身の長男の学資総額は、4年間で1300万円にもなっていたという。年間300万円以上である。
 もしも日本でこれだけの学資を全額ローンでまかない、就職してアパート生活をしながらの返済なら、間違いなく不可能だろう。
 日本はアメリカ社会の歪みをそのまま猛追しているから、やはり学資を返済できない人々は急増中である。

 

 

【中国の弁護士】
 アンケートで、「中国でもっとも悪印象をもつ職業は何か?」 という質問に対し、その答えの1位は 「公安警察」 だった。
 さもありなん。・・・(中略)・・・。
 そして一般民衆がワースト・ツーに選んだ職業 ―― それが 「弁護士」 なのである。しかもアンケート対象者を法曹界や知識人だけに限って見ると、1位と2位が逆転し、弁護士が1位になってしまうのだ。(p.57)
 中国において裁判は金次第なのは周知のことであるけれど、なぜ弁護士なのかと考えれば、裁判官への賄賂+自分のリベートということで、とんでもなくボッタクルからなのだろう。

 

 

【ざれ歌】
 「ざれ歌」 のなかにもそうした時代の変化を的確にとらえて、鮮やかに切って見せたものがある。
 50年代人幇人     (人を助け)
 60年代人整人     (人を粛清し)
 70年代人哄人     (人を欺き)
 80年代各人顧各人   (自分のことばかり)
 90年代見人就「宰」人 (人を見ればすぐに搾り取る)
 昨今はなるほど役人たちは農民から作物を買い取るから手形を濫発するし、道を通れば無数の通行税を徴収される。工場を経営しても百種以上の名目で税金を課せられ、納税を拒否すれば役人とて強盗に早変わりする時代である。誠実な人にはまったく生きにくい世の中になっている。(p.143-144)
 訳はだいぶ違っているけれど、同じ 「ざれ歌」 が下記の書籍にも掲載されていた。
      《参照》  『中国「戯れ歌」ウォッチング』 南雲智 論創社
               【時代の変遷】

 

 

【名言】
 広東省にあるディズニーランドを真似た大型レジャーランドへ行ったことがある。
 週末だというのに園内は閑散として人気がなく、乗り物の半数以上は開店休業の状態。聞けば電力不足で全部は稼動できないとのことだった。
 広い園内にはわずか4ヶ所しかトイレがなく、迷いながら5分以上も歩いて行ってみると、ドアの蝶番がどこも外れたままで鍵がかからず、洗面台の蛇口は外れて水が垂れ流しの状態になり、新品の洗面台に茶色い水垢がこびり付いていた。・・・(中略)・・・。
 その帰り道に、私はふと思い出した。
「中国の建物は・・・建築中から次々に、中古になりますねえ・・・・」
 ある日本人の技術者がホテルの建築指導に中国を訪れた際、溜め息まじりに言ったことがあった。
 これこそ、まさに名言だろう。(p.172-173)
 中国のこのような様子は、日本のテレビでも何度か放映されているから驚きはしないけれど、建築中から中古になっているものを、発注側が修繕要請もしなければ、受注側は応じもしない、ということの方に日本人は驚き絶句する。

 

 

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