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 誰が作ったのかも分らぬまま、民間で伝承されている童謡や戯れ歌は、中国社会では古代から、民衆が政治批判や社会風刺を載せて楽しむ歌謡文学だった。


【戯れ歌】
 ここで言う戯れ歌とは、中国語で「順口溜」(シュンコウリュウ)と呼ばれるもので、非常に語呂のよい韻文の一種である。 (p.2)
 戯れ歌も民謡と見なせる。けれども、戯れ歌には遠慮のない、あからさま不満が込められているものが多い。其の時の指導者や、政治体制を褒めている歌もないわけではないけれど、それらはたいてい “やらせ” である。 (p.3)
 つまり、不満の込められた社会風刺的な戯れ歌を通じて、中国近代社会を見てみよう、というのがこの書籍の主旨らしい。

 

 

【時代の変遷】
50年代  手を取り合い      解放軍       英雄に嫁ぎ
60年代  競い合い         紅衛軍       貧農に嫁ぎ
70年代  もたれあい        運転手       軍人に嫁ぎ
80年代  騙しあい         大学生       学歴に嫁ぎ
90年代  つぶし合い        商売人        スタイル抜群に嫁ぐ 
       (p.12)           (p.15)        (p.107)
 中華民国が成立した1949年から現在までを、10年ごとに刻みながら、その時代の人情機微を唱ったものである。実にうまく時代と、その人間模様の特色を掴んでいる。   (p.12)

 

 

【一人っ子政策を戯れる】
 ところで、国が重い罰則を設けて計画出産を奨励しても、それをくぐり抜ける人々が多数いることは、いま述べたとおりだが、生まれてきた子供が女児だったときは、話が少し違ってくる。

豚を飼えば たべられる
犬を飼えば 番をする
猫を飼えば ねずみを捕る
ちんちんなしのお前など 何の役にもたちゃしない      (p.62)
 

【日本企業名】
 索尼(ソニー)、佳龍(キャノン)、施楽(ゼロックス)、三得利(サントリー)となる。いずれも音訳だけれども、実にうまくイメージに合う文字を使っていることがわかると思う。さすがに漢字の国である。 (p.134)
 これで、うまくイメージに合う文字を使っている????? 
 日本人のイメージでこれらの漢字を見たら、索尼なんて尼さんを紹介するアングラ企業名だし、佳龍なんてキャノンなどとは思いもつかないし、施楽じゃまるで製薬会社だし、三得利じゃあ拝金丸出しじゃん。


【関係・後台・後門】
 「関係」(グワンシ)と「後台」(ホウタイ)は、中国人が極めて大切にするもので、中国では、これなしに世の中は生きられないほどである。・・・(中略)・・・同じような言葉に「後門」(ホウメン)がある。  (p.122)
 いわゆる「こね」である。

 

 

【開放路線の実態】
旗は共産主義
看板は社会主義
道は資本主義
根っこは封建主義

 
 政府が相変わらず社会主義路線を堅持を唱い続けているとき、戯れ歌は開放路線の実態がなんであるかを、すでに80年代には見破っていたのである。  (p.153)

 

 

【政治家 と 役人】
毛沢東 息子に野良仕事教えた
劉少奇 息子に国境守れと教えた
胡耀邦 息子に清廉なれと教えた
趙紫陽 息子にテレビの横流し教えた
鄧小平 息子に詐欺騙り教えた        (p.53)

 胡耀邦の逝去9周年を迎えた98年4月15日には、全国25都市で、それぞれ彼を追悼する行事が持たれ、しかも、そのいずれもが官製の行事ではなく、庶民の自発的な行動だったという。 (p.56)
 胡耀邦という方、あまりよく知らないけれど、中国政界では稀に見る清廉な方だったらしい。
 しかし、
 少々悪いことをするぐらいの方が安心できることは、現在の戯れ歌の中にも中国人の思考方法として、脈々と流れているように思われる。
ご馳走になるだけ受け取りません なんと立派なことだろう
ご馳走になります受け取ります 少しもおかしくありません
ご馳走になりません受け取りません それはおかしいあやしいぞ  (p.158)
 中国は、長い歴史の中で、官僚が私服を肥やすのは当然の権利であると認知され続けてきた国である。日本人一般が想定している清廉な感覚と言うのは基本的にありえない。常にお金に結びついてこその相互扶助である。防衛庁守屋次官の汚職報道は、中国人から見れば、「何故、あれで逮捕されなければいけないのか???」というのが普通の思いなのである。
 
<了>