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 2年前に出版された本。中国関連は読み飽きていたけれど、チベット問題が喧伝される昨今なので何となく手にとってしまった。ただし、この本の 「中国がうまくいくはずがない30の理由」 の中に、チベット問題は含まれていない。記述されている殆どは経済問題である。
 統計指標として用いられる様々な経済用語に関して、我々一般人でも分かるように、意味の説明とともに具体的な使い方が書かれている。そういった統計指標を根拠にして中国が成長しているという見解がまことしやかに語られてきたけれど、それらに関してことごとく逆の解釈を示している。

 
【GDPの上昇を根拠に中国が豊かになっているといえるのか?】
 GDPの計測には問題が多く、GDPの増加=豊かさの向上とは限らない。   (p.45)
 GDPには、過大な軍事費支出も、犯罪関連支出も含まれているのだから、購買力平価換算にせよ為替レート換算にせよ、豊かさの向上を意味してはいない。

 

 

【10年以上続いている巨額の経常黒字は中国経済の強さの証明か?】
 巨額の経常黒字は中国人による自国経済の先行き不安感の表れであり、強さというより弱さの象徴と捉えることも可能です。中国には投資機会が潤沢なはずなのに、なぜ中国のことを一番良く知る中国人が国内に投資せず、外国に投資しているのか、・・・(中略)・・・。資金の海外逃亡  (p.67-68)
 日本の高度成長期10年間 (1955~1975) の経常収支を見ると、赤字と黒字が交互に繰り返し、外需の経済成長への寄与度は、輸出と輸入が打ち消しあいほぼゼロ。日本における高度成長は、内需主導型経済成長であり、国内に産業資本が蓄積されてゆく重要な期間だった。

 

 

【外貨準備高でも急増する中国。国際金融においてもアジアの中心は中国になるのか?】
 外需依存状態にある中国にとって、元のレートを事実上の固定相場状態に維持するために、貿易黒字分をドルの買い支えに回さなければならないという抜き差しならない理由からそうなっているだけ。対外貿易黒字額で中国を上回る日本は、その黒字分を外貨準備より対外投資に向けて国際収支をバランスさせているのである。日本のほうが遥かに健全でまっとう、ということになる。

 

 

【高度成長期にインフレに悩まされた日本であるのに対し中国の物価は安定している。中国経済は優れているか?】
 固定相場制の下では生産性が向上すれば物価は上昇する。  (p.73)
 1ドル360円であった1960~1970の固定相場10年間に日本の消費者物価は74%増加。一方、1995~2005の10年間に中国の物価は18%しか上がらなかった。日本との比較で見れば、中国の経済成長は生産性の向上によってもたらされたものではないということになる。
 

 

【知的財産権の問題】
 知的財産権の行過ぎた保護強化が必ずしも望ましい政策ではないことも、バグワティ教授は指摘しています。教授は、特許を20年保護するWTOの規定は、特許を全く保護しないことと同様、非効率であることは、大方の経済学者の意見であるとしています。  (p.95)
 マクロで考えればそういうことだけれど、中国がルールを破ればWTOの制裁を受けるのは当然。
 ディズニーに関しても、チクリ一刺し。
 自社の権利保護に極めて熱心なことで有名なディズニーは、白雪姫や眠りの森の美女といったヨーロッパ文化の遺産をタダで使うことで莫大な利益を上げています。少しは後ろめたくないのでしょうか。  (p.96)
 こう問い詰めても、ディズニー側は、おそらく 「 『事後法』 など問題外」 と言うのだろう・・・・。

 

 

【アジアの経済外交で、日本は中国に負けているのでは?】
 経済ブロック化ではなく、中国も含めて全ての国を対等に扱う自由貿易が得。  (p.101)
 かつてのソビエトと東欧諸国の例をひいて、中国がASEAN諸国を囲い込めば、ASEAN諸国は中国の非効率な産業を支えるために経済効率を下げさせられることになる、と著者は書いている。
 FTA ( Free Trade Agreement ) “自由貿易協定” といいながら、最恵国待遇として相互関係を持つことは、PTA ( Preferential ) “えこひいき貿易協定” であり、長い目で見た場合に決して優位はもたらさない。最終的には保護貿易のようなデメリットを引き込むことになる、という考え方。
 

 

【中国の沿岸部と内陸部の経済格差は解消されるか?】
 中国に存在する格差は、農村と都市というより、戸籍上の農民と都市民の間にあるといったほうがいいでしょう。現在の中国に良く似た社会制度を持つ国がかつて存在していました。それは、南アフリカ共和国です。中国の戸籍制度は一種のアパルトヘイトなのです。   (p.138)
 中国において農民が無学なのは、政府の政策に基づいている。アパルトヘイトが多くの白人にとって望ましいものであったのと同様に、中国の都市民にとっては、農民の労働力は安価なため都合が良いのである。
 つまり、中国の経済成長は、生産性が上昇することで賃金が上昇した日本の高度成長とは異なり、単純労働の投入量が増えることで経済が成長する生産性向上なき経済規模の拡大ということができます。  (p.140)
 他の著書でも、中国の工業製品の収支は、海外からの設備投資分の回収に長期間必要とするため、実質的な利益は当分見込めない、とする見解が書かれているのを読んだことがある。

 

 

【日中関係に関する結論】
 中国との経済関係は日本にとってそれほど重要ではありません。この平凡な事実が広く知られるようになれば、日本と中国は同じアジアの一員でありアジアの発展に共同して責任を持つなどという日中関係特別視と決別し、中国との関係を幾多ある対外関係のうちのひとつとみなす、親中でもなく反中でもない適度に距離を置いた日中関係が築けるはず、それが筆者の結論です。   (p.202)
 
<了>