イメージ 1

 京都大学教授の著書。数年前、整然とした内容の書籍、 『ドル化 米国金融覇権の道』 (シュプリンガー・フェアラーク) を読んで著者の名前を覚えていたけれど、この本はビジネスマンや一般人向けに読みやすく書かれている。
 長銀を買収したリップルウッドに関わる人脈を追って記述している部分では、広瀬隆の著書を読んでいるような面白さがあった。しかし、この書籍の趣旨は、アメリカによる日本支配が着々と遂行されつつあることを記述するためにある。全体的には、面白いどころか暗澹たる気分になるだけである。

 

 

【アメリカの対日最終目的】
 2010年までに、米国は日本市場を世界に「開放」させなければならない。
 この計画は日米構造協議(SII)の延長線上にある。   (p.20)
 日米構造協議(SII)は、クリントン政権時代に始まった対日政策である。
 これ以降、日米保険協定によって、アメリカ企業が日本に根付くまで日本企業の活動を制限したり (p.154)、米国にとって最大の脅威だった、コンピュータOS「TRON」の採用を日本のメーカーに断念させたり (p.214)、アメリカは日本に対して様々な制限と圧力を加え続けてきているのである。最近では、裁判における陪審員制度まで含めて、日本のアメリカへの統合化が着々と進められている。
 ビル・クリントンで始まった対日政策の仕上げを行うのは、ヒラリー・クリントンであらねばならないのが、米パワー・エリートの描くシナリオである。

 

 

【米国外交問題評議会の2000年レポート】
 EUの対日差別政策を阻止するためにも、日本企業と日本政府は、米国政府の力を必要とせざるを得ない。そんな日本の状況を、米国政府は巧みに利用して、日本政府に「日米経済統合構想」への参加を促すべきだと、レポートは記している。 (p.28)

 

 

【ベクテルと神戸市の医療特別区構想 : 何故か? 】
 1999年、神戸市は先端医療産業特区の可能性について、ベクテルに調査を依頼した。ベクテルは世界最大のゼネコンであり、・・・(中略)・・・。 (p.115)
 ベクテルは神戸市に以下の提案をした。難しい用語が使われており、神戸市民以外はあまり目にすることがない資料だと思うが、読者諸氏は厭わずに目を通していただきたい。
 私はここに、有事体制の準備を嗅ぎ取っている。 (p.116)
 ベクテルはアメリカ軍産複合体の主要部分を占める企業であり、当初は建設が主体であったが、今日では放射線を用いた高額な医療機器の分野にも進出している。
 すでに京阪地区には二つの大きな空港がある。この意味でこの神戸空港は、商業ベースでペイするはずのない空港だ。赤字が必然的なこの空港を、医療特区のすぐ横に建設することを国が認可したのは、単純な構造特区という視点から出たものとは思えない。
 東アジア有事の際、・・・(中略)・・・空港周辺の再生医療機関で手術を受け、米国の大学や医療機関から遠隔指示を受けるシステムが、着々と作り上げられようとしているのではないだろうか。  (p.120)
 アメリカの走狗となって、国民の不戦と平和への希求をないがしろにする政治家と官僚たち。何も知らずに黙っていれば確信犯罪的に戦争へと向かって行くのが、今日の政治の必然というものなのであろう。

 

 

【ウォルマートの従業員状況】
 船井総研のアメリカ視察対象になっているウォルマート。顧客に対しては無条件返品ポリシーなど、優れた経営面を示してはいるが、従業員に対しては以下のような状況である。
 ウォルマートの従業員離職率は44%におよび、年間や60万人が入れ替わる。同社の各店舗では、従業員に「フード・スタンプ」(食糧配給制度)と生活保護を自治体に申請するよう指導している。そのため、低い時間給パート労働にしているというのだ。これだけで、同社は10億ドルの公的資金を浪費していることになる。 (p.104)
 長所伸展法を骨子とする船井総研流の視点とは別に、企業の社会的責任という視点から、全体最適であるか否かを見定める必要がある。
  《参照》  『アメリカのサービス革命』  国友隆一 ぱる出版
             【経営とは】
 アメリカは部分においても全体においても、とかく光と闇のコントラストが強烈な国である。
 
<了>