19.弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
弦捻りは弦を弦枕に食い込ませる方向にかけているので、離れで引っかからないのでしょうか?おそらく、誰もが疑問に思うことでしょう。
<仮説10>
弦捻りをかけると離れで弦枕が引っかからないか?
<検証>
この質問を受けることは多いです。ちょっと考えてみましょう。
弦枕が引っかかるという感覚は、弦が弦枕から飛び出す前に腕を開く動作をするから起こるのであって、弦が弦枕から飛び出した後、腕を開く動作が起これば引っかかるという感覚は生まれない筈です。なぜなら、弦が飛び出す時には、勝手は会のままの位置から動いていないからです。
腕を残身の位置まで開くのは取り懸けが解けて、弓の力からすでに開放された後なので、引っかかる対象はもう既に無くなっていることになります。したがって、腕を開く時に引っかかることは物理的に無いのです。
しかし、解ける前に腕を開く動作をすると必ず引き離れとなり、先に引く動作が入るので、ここで引っ掛かるという感覚が生まれます。離れる前に引く動作が入るので、矢もズレて矢所が散ることになるわけです。的の前下に掃き矢になるのは、離れの瞬間に引き離れにより矢こぼれしているからなのです。
手や腕を動かすことで力の均衡を破ることをきっかけに手を開いて離れを出すという離し方をする人が多いわけですが、最初に力の均衡を破るための動作を起こすので矢がブレるのは当たり前で、押し手と勝手の離す動作のタイミングが合わなくなると急に中らなくなるわけです。
弦捻りによって取り懸けを解いて離れる場合、親指を中心に勝手が回転することで弦枕の溝の浅い部分に回転移動しながら離れてくれるので、弦がより滑らかに出てくれることになります。
弦が出て行く軌跡は、カケ帽子を見ると解ります。このように斜め下方向(弦ひねり方向)に出て行った物理的な痕跡が残リます。
人によっては真っ直ぐに引き離れることで取り懸けを解いて行くことを指導している場合もありますが、この方法でも弦捻りは有効です。
弦がスムーズに弦枕から出ないようであれば、弦枕が深すぎる可能性があります。この場合は弦枕の調整が必要です。
これは、弦で頭や腕を払うようになった人のカケの弦枕の写真です。
弦枕がほぼ直角90°の状態になっています。ここまでなっていると、的中がどうのこうのというレベルでは無く、離れで弦がひかかって危険なレベルと言うしかありません。
会の状態(赤点線は人差し指の側面)
会でのカケ帽子と弓の角度はほぼ45°になっています。この状態で90°の形の弦枕であれば、45°の返しの付いたフックに弦を引っ掛けているのと同じことになります。
想像するだけでも恐ろしい状態です。
返しの付いたフックに引っかけた状態では親指を思い切り開いて離さないと弦は出て行けません。その結果、頭や腕を払うことになるのです。
カケ帽子と弓の角度は会ではほぼ45°程度なので、弦枕の角度は45°もあれば弓に対して弦枕が90°であたることになるので、弦枕の角度は45°程度で充分なのです。
会の状態(赤点線は人差し指の側面)
こんな感じです
取り懸けが解けたとき弦がカケ帽子を押し開いて、弦枕の角度は90°以下になるので、弦はそのままの位置からスムーズに出て行ってくれるわけです。
弦枕の調整が必要な場合、弦枕が樹脂で覆われていて角が削れるときには、ヤスリで弦枕の頂点の角を削って滑らかにすると良いでしょう。
無争カケは最初から結講滑らかなんですが、さらに削りを入れました。
この程度の傾斜でも弦捻りをかけて弦を弦枕に密着させている限り、取り懸けが解けるまで暴発することはありません。
弦枕の樹脂部分が無く削れない場合は、エポキシ樹脂系接着剤を使って弦枕の底部分を45°程度に埋めるだけで、ごく簡単に調整することができます。
昔は鮫皮を貼ったり、皮を剥いでカケ帽子の中身を削ったりしていましたが、素人には極めて難しく失敗がリカバリーできません。高リスクです。
エポキシ樹脂系接着剤を使うと、埋め過ぎはヤスリで削れば良いし、削り過ぎたらまた埋めれば良いし、何度もやり直しがきくので失敗を恐れることもありません。弦枕の補強にもなるのでカケも永く使えます。
今回のケースは弦枕が深い場合でしたが、逆に角が削れて低くなる場合もあります。調整の仕方は同様に接着剤を盛って削って調整すればよいです。
(接着剤を塗る面はウエットティッシュなどできれいに拭いておきましょう汚れがあると剥がれてしまいます)
ちなみに、この接着剤で皮が擦り減った部分、カケ帽子の頭などにも薄く塗るだけで補修することができます。結構重宝しますので持っていて損はありません。2つの液を混ぜて硬化させます。ホームセンターや100均で売っています。
おそらくどのスポーツでも、道具を自分に合わせて調整しないということは無いでしょう。カケ替えのない自分にあったカケに調整することも鍛練のひとつです。チャレンジしてみてください。
弦枕の調整のやり方、実はこれも明かせない手の内のひとつなのです。
(明かしてしまいましたけどね・・・)
<まとめ>
取り懸けを解いて離れれば、弦枕は引っかかりません。
ただし、新品のカケは初心者でも使えるように弦枕が深い(角度が急な)場合が多いので調整が必要です。使い続けたカケも変形したり削れたりするので、調整が必要になります。弦枕は弓道の道具のケアの中で最も重要な部分です。本当にかけがえのないカケに調整・メンテしていきましょう。
次回は、中りに重要なのは押し手ではないのか?を予定します。
的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしています。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。