7ー4.張り合いについて~取り懸けを解いて離れる方法~
<張り合い>つづき
勝手の親指はそらすの?
親指の付け根の関節(三つ目の関節)は手首の近くにあります。押し手で角見に弓力がかかったとき弓と押し手の手の内の十文字ができていなければ、弓力に負けてこの関節で折れてベタ押しになります。
ベタ押しでは弓の姿勢をコントロールできないので、親指の付け根の関節から先を弓に真っ直ぐ押せるように、角見部分の皮を握りに巻き込み親指の爪を上に向けるようにして反らす。
手のひらの中心が十文字になっていればいいという人もいますが、骨からの力が下回転のモーメントとなり、離れで弓が前に倒れるようになるので、物理的には、親指の骨を十文字(直角)に当て、小指で弓の姿勢を保つ方が理にかなっています。
私のように猿腕の人は、鳥の首と頭の形のように結構手首を前傾させなければ手の内と弓の十文字は作れないのですが、十文字の角度さえ出せていれば弓力は骨格が支えるので、楽に押しを効かせることができます。小指を握りに当てずに素引きしてみると実感できます。
勝手の親指もカケ帽子の中でそらし、親指を弾いて離れるようにすると教わりました。
しかし、ただ単に親指をそらして跳ねあげようとすると、手を開く離れになってしまうので、少し違うように思えます。
軽快な離れを生むためには、取り懸けた3つの指は出来る限り平行に近い角度で薄く取り懸ける必要があります。機械的なロック状態を軽減するためもありますが、弦は三つの指の中をかいくぐって出て行くわけですから、弦の進路に悪影響をおよぼさないためでもあります。(ごく簡単な理屈で、発射台が曲がっているロケットが、まっすぐに飛び出せるわけはないのですから)
そして、中指が親指を越す(弾き)ために中指で親指の腹を前に押し出す方向に力を加えます。
さらに、中指の力に釣り合わせて親指を反発させるようにすると、親指はそった形になります。
つまり、そらすではなく、中指の力に釣り合わせて「そった形になる」が正しい表現だと思います。そうすることで、離れの際の親指のブレが無くなります。
押し手と勝手の手の内の形を作って見比べてください。
形は違いますが、中指で親指の腹を押すように力を入れ親指を反らすようにして小指を締めることは、押し手も勝手もほぼ同じ力の作用をやっていることに気づくと思います。これが重要なポイントなのです。
敵に明かしてはいけない手の内は、見ればすぐわかる押し手ではなく、カケの中に隠された勝手の取り懸け方と懸け解きの働かせ方だと私は思います。
押しで離れろとも言われます。既成概念ですが、誰が考えても文字通りでは無理なことを言っています。これは、勝手を含めた作用のことを言っているのだと私は解釈しています。押し手と勝手の作用はほぼ同じなのですから。
しかし、このネット社会となっても約35年前の私と同じように有効な情報を得られることなく上達できずに苦労している方々がいる。
あえて、自分がこれまで得た情報を具体的に明かし、苦労している皆さんの手助けになれば幸いに思います。(35年前に得ていた情報は、その頃の私には到底解釈できなかったわけですが・・・)
会の張り合いでは、暴発しない様に中指で押さえてきた親指のロックする方向の力を、中指で親指の腹を前に押し出す方向に変えることで、カケ帽子を中指で弾く作用(親指を残しつつ中指が外れること)となります。
そして、勝手では親指のそった形を維持しようとすることで、勝手の親指から肘までの骨は一直線の棒のようになっています。
この軸中心に肘から先で捻りをかけることで、勝手の親指を中心としたブレのない動きで懸け解きが実現できるわけです。(手首で捻ると、親指の先は手首を中心にブレを生むことになるのでやらないでください)
勝手のことばかりなので、押し手はいいのですか?
と心配になるかもしれない。しかし、心配は無用です。
二足歩行で直立の状態を保つことができる人間のバランス感覚を侮ってはいけないのです。腰を中心に両腕でやじろべえのようになった会の状態で、勝手側に力が偏らないよう釣り合うための反作用として、自然と押し手にも力は加わり、バランスを保つからです。
ただ、上半身のこれらの仕事をしっかり支えられるよう、両足の膝の裏(ひかがみ)を張ることは大切です。下半身で弓を引くというのはこのことを指しています。ここでも上半身と下半身のバランスを保つ作用が働きます。
離れは瞬間的な出来事です。離れ自体を人がコントロールするのは不可能です。自分でコントロールできるのは離れるまでなので、離れることを練習するのではなく、会での張り合いをうまく働かせることを練習することが上達の早道なのです。
会での張り合いは、他に余計な力がかかること無く真っ直ぐ離れるために効かせるものなので、矢所が散ってきたら、まず、張り合いが不足してないか確認しましょう。
張りの力の始点は肘であることが重要です。
肘で張れていると肩が離れの際のリンクの中心となるので、手はほぼ真っ直ぐ後ろに動きます。張りが手先きになっている場合は肘がリンクの中心となって弧を描くように手が動くので、離れで筈の位置がズレて矢は外れることになります。
張りとは、力むことではありません。緩むことない力とその方向なのです。
押しの張りも同様です。
押し手の中間の支えとなる肘を力の始点にして張ることで、肩からのリンク長さが半分になるので、真っ直ぐに押す方向のズレが小さくなります。
押し手は自分から見えています。
的付けがズレたり変なことをしていれば自分でも解ります。
勝手は自分からは見えません。
しかし、物理的に離れを行なっているのは紛れもなく勝手です。飛び出す矢の方向を最終的に支配しているのは勝手なのです。
私もそうでしたが見えないものはあまり意識しないし、押しだ、押しだという指導を受けるので、ますます見えなくなります。
押し手は自分で見て管理できますから、私は、ほぼ放置状態になっている勝手のことを中心に話しています。的中に関しては最も重要だからです。
手や腕で引いている時の的中です。
離れのブレが大きいため、矢所はバラついてしまいます。
肘で引けている時の的中です。
矢の軸線上に離れるので、矢所は安定します。
手や腕で引く方が楽なので、放っておくとすぐ楽な引き方になってしまいます。矢所がバラついてきたら、まず、肘で引けているかを点検すると良いでしょう。
的中と最も相関の高い要素は、肩中心に右肘で引けているかです。
このことは、会を上から見た写真の④でも明らかなように、物理的にもブレの少ない離れとなることが証明できています。
弓道を再開して以来、約2万射の練習から1万3千中まで積み重ねたこれまでの検証で、いわば、私の頭脳によるビッグデータ解析からも導かれた答えです。一般的にはこれを単なる人の勘と言いますが…。感覚を持てていない AIには、まだ導けない答えでしょうね。
写真のようなブレのない的中を実現できていることからも、かなりの確率で確からしいと思います。
早気はどう治したらいいのでしょうか?
この質問をされることがよくあります。
ここまで説明してきた会での張り合いが取り懸けを解く離れに不可欠であることが理解できれば、早気は大切な一射の完成を早々に放棄することになり、正射に至ることもできない行為であることは簡単に理解できると思います。
早気になるのは、大三が引き分けのスタートで、会がゴールだと勘違いしている意識があるからです。この考え方を変えられなければ、何をやっても絶対に治ることはないでしょう。動作は脳からの命令で行われるのですから。
引き分けはスタートラインに着くための助走であり、会はスタートライン、残身がゴールであることを自分の頭の中に摺り込んでください。
とにかく3秒間以上ただ持つ(体に会を摺り込む)ことから始めても良いでしょう。会の時間感覚、反射的に離さない感覚をつかむことは大切です。その後に、会の中で張り合うことを覚えていければいいのです。これは、上記の考え方を動作によって頭にも摺り込むことになります。
私が学生の時に、部員の早気を治したやり方なのです。
早気を治せるかどうかは、自分が間違った引き方をしていると、意識を変えられるかどうかによります。意識を変えられなければ治らないと断言します。
次回は、伸び合いについてを予定します。
的中と仲良しになるために、またのお越しをお待ちしております。
解りにくいところがあれば、遠慮なくご質問ください。