新聞小説 「カード師」   (19) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(19)  260(6/25)~271/(7/6 )
作:中村 文則  画:目黒 ケイ


感想
この手記の脈絡のなさ。前章と同じ「とっ散らかった」の言葉を贈ろう。
阪神淡路大震災で友人の I を亡くした佐藤は、天災予知のために占い師を雇う。
そんな頃、弁護士として現れた英子。I が作ったというタロットカードで占ってもらうが、これがまた意味不明。

そういえば I は学生時代、理学部の物理学科だとか言ってた(243回)。「僕」が持っていた「気が狂った物理学者が作ったタロット」と関係あるのかな?でもIは休学したとか言っていたし・・・
<追記>
気になって読み返してみたら141回で、佐藤がこのタロットを所望する場面がある。それは「僕」が英子からもらったものであり、佐藤はこれを作った人間を知っていると言っている。やっぱ I だな。

話を戻して

1999年7月と言えば、ノストラダムスの大予言で人類が滅亡すると言われていた時期。

ミレニアム(2000年)問題と絡めて、何かテンションが高かった。

それからいきなりポーンと10年以上も飛んで「東日本大震災」
ここで英子は死んだという。
その大震災からも、既に9年経っている。

災害で亡くなった恋人、友人、英子に対する思い入れは理解したいが、この、人物と年代・出来事の配置は、何か無理がある。

そして何度も繰り返される観測・記録する事による過去の改変妄想。全ての根源は量子力学での「二重スリット実験」
計測器を入れると結果が変わるという事象を、とことん拡大解釈して来る。文系の人間が理系ツールをわけも分からず振り回してる・・・キチガイに刃物、そんなワードが思い浮かぶ。
過去の改変なんて、同じ新聞の土曜版「小説 火の鳥」に感化されたか・・・
そういえば「派手なベンツ」という事であの挿絵。ドアが描いてないからヘンなクルマ、と思ったがガルウイングの300SLならナットク。それにしても描き方おかしいけど(左ハンドル車だから助手席は右の筈:まあいいか)

話変わって各キャストの年齢推定をすると・・・
佐藤は、Iがオウムの話をした頃が、あの宗教の法人設立時期だとして、1989年に二十歳と仮定。その時英子12歳。

となると佐藤は現在51歳、英子43歳。僕ちゃんは40ちょい前とか言ってたから39歳。こんな関係ダナ。
Iも、もし生きていたとすれば佐藤と同じ51歳・・・

それにしても、何とか手記は終った。

次からは「まとも」な小説モードになってくれ~~


あらすじ 260~271
<佐藤の遺書・英子> 1~12
Iが世界の秘密を知る事が出来ていれば、地震に遭うこともなかった。これを予知出来ないなら、占いに意味はない。

1995年はこの国にとって大きな年。

あの時の動揺が揺るがした少年たち。
数年後、神戸から始まった猟奇的少年犯罪。
私は再び投資を始め、財を成した。そして占い師を雇った。

それは事業に関するものではなく、天災を当てるため。
大人になって再び私の前に現れたあなたは、占い師を見ても愚かだとは言わず「弔いですね」と言ってくれた。
君は弁護士をしていると言った。Iから遠ざけられた事で人生が変わった。だから今度は私の人生を変えると言った。
君を愛することで、世界を愛するようになるという。


彼女が持つタロットカード。Iから手紙と共に送られて来た。

彼が作ったものだという。1999年7月を越えても世界が滅びなかったら使ってくれ、と言われたもの。
「・・・やってみるか」彼女に切ってもらい、並べ始める。

13枚並べられたカード。絵は恐らくIが描いたもの。
これを描いていた時のIは追い詰められていたが、完成した時「これで世界の全てがわかる」と興奮したらしい。
だがその、カードの並びは解釈のしようがなかった。
静かに短く泣いた彼女。Iの死を知った時、とてもいい死に方だと思ったという。あの様な傾向を持った者として。だが彼はそんな死に方をしなくて良かった。苦しんで、今でも生きていれば励ますことは出来た。
彼女は弁護士として、常に立場の弱い者の側についた。

善悪ではないという。

自身の出身以外の児童養護施設にも援助し、虐げられた者を助けた。
でも聖人ではなく、ブランド服を好み、性にも奔放。


他の男(帽子の)を交えての三人による政治論。

この国の神道の神 天照大神は女性神。卑弥呼の例。
人類の進化に話が飛ぶ。ヒトの進化に関わる宇宙人との遭遇。
宇宙人から、言語に関係するFOXP2遺伝子を組み込まれたが、その特別な者が他のヒト科の者と交配して、今のレベルに落ち着いた・・・
これが人類が、性に原罪意識を持つ理由だという。

財団を作る目標があるという彼女。世界の価値観を変えると。

多様性を尊重して格差を減らし、各差別をこの世界からなくす。

彼らが帰った後、電話を受けた。

神戸の震災の前日、会う筈で来なかった投資家の男。
行けなかったのは偶然だという。持病があり、行く途中で死んだ。

爪の先で何かを叩く音。
世界の本質は君も知っているだろう。

君はもう一度あれを経験し、自分自身の命も終える・・・

2011年3月11日。マンションで、突然足元が揺れた。
棚が倒れて行く中で、今までの人生を思った。


契約していた五人の占い師らは、誰も地震が来るとは言っていなかった。隣りのマンション、鉄塔が苦しげに揺れる。
震源地は知らなかった筈なのに、宮城にいて集団訴訟の弁護をしているあなたを、この揺れが殺しているかも知れないと思った。
あなたの死を知ったのは、それから二週間後。

車ごと津波に飲まれた。
英子の死体と対面した女性に聞いた。遺体の写真を撮れと言った。

その場で写真を撮った女性。英子だった。
 

あなたがこの様に死ぬ世界なら、どのような意味もない。
被災地に出る幽霊の噂を聞いて、道路が開通すると車で現地に出掛けた。あなたとよくドライブした、この派手なベンツを何日も走らせたが、あなたは現れなかった。


大きな天災の後にはUFOが現れるという。未来人の「観光」
だが私は、不安に直面した人々の精神の揺らぎだったと思う。
結果的にあなたの命を奪った海に出た時、光る球体を見た。

神戸の山で見たものかも知れないと願い、過去の改変を願った。
あの時、すぐ確認したのがいけなかった。観測しようとしたから。
だから今度は別のことを考えた。会えなくてもいいから、私の知らない現実で生きている。
あなたが生きてさえいれば、この世界を愛せるかもしれない。

宇宙を膨張させる、暗黒エネルギーの存在。一説によれば、その時に存在した知的生命体が観測したから現れた。
幼少から夢想した情景。宇宙飛行士となって放浪し、地球以外の天体に降り付く。そこに一枚の金属板が立っているのを見つける。

人類以外の、初めての文明の跡。何が書かれているか。
”私達は生き、滅んだ。滅んだ理由はあなた達と一緒だ”
私は東京に戻った。

その後、語るべきもことはない。

会社の規模は大きくなったが、意味のないこと。
今思うのは、自分がどのように死ぬのか、前もって知ること。
あなたを含む皆の死を予測出来なかった自分の義務。
だがそれも、もう意味がない。私はもうすぐ死ぬという確信。
そろそろだ、と思っている。

狂気と思ってもいい。自分の正気にもさほど興味はない。
あなたが死んでから、他の者たちが死んだのを、自分にまつわるもの全てが不吉だったからと考えて姓名、
生年月日、手相を変えた。占い的には非の打ちどころがない。

今後の人類についての予言(めいたこと)
文字の発生が、神の声を聞けなくなった原因の一つだと「神々の沈黙」は語る。
文字を読むことで前頭葉が活性化される。

その事が他の動物との違いだが、発達した脳を苦痛に感じ始める。
光る画面を見ると、前頭葉が抑制的になるという。

人間は、いずれ恍惚とした豚になる。
人類は、徐々に別の生物になっている可能性がある。

文章もいずれ読めなくなる。
AIに頼るうち、人間は思考する必要がなくなる。
バーチャルなものが進んだ先の世界。

我々が住む銀河は、いずれブラックホールに吸収されるという。

だが落ち込んで全て崩壊するのではなく、記録されるという物理学の説がある。


だがそれは何のためだろう。

この世界は何のために記録され、何のために過ぎて行くのだろう。
死ぬ前に、それだけは知りたかったかも知れない。

Iの夢でもあった、この世界の本質を。
英子。これを読めば、あなたはまた笑うだろうか。