新聞小説 「カード師」 超あらすじ②(227~最終(295)話) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

2019年10月~2020年7月まで、朝日新聞に連載されたこの小説の単行本が今年5月に出版されている→こちら
それを記念して(?)放置していた超あらすじの後半をまとめた。
実はこの一ケ月超あらすじ①へのアクセスが急増しているため、今回読者サービス(笑)
これを読む前に超あらすじ①を読むことをオススメします。

全体感想
いかさまポーカーのディーラーをやる傍らで、カード占いの副業をしている「僕」が、企業乗っ取りに関わる陰謀に巻き込まれて行く話。
二行だけで書くとえらくカッコいいが、中味はかなりドメスティック。乗っ取りを仕掛ける「英子」と主人公の「僕(新藤)」との共通点は、児童養護施設で育った過去。
ただ、それがストーリーの背骨ではない。
読み進みながら、一体この小説の「背骨」は何だろうと問い続けた。英子は「僕」に、ある企業のキーマンに占いの能力で食い込めと指令。それを受ける「僕」だが遂行の途上で様々なアクシデントを経験。
その企業のキーマン佐藤は、阪神淡路大震災(1995年)で同僚男女が死に、直後のサリン事件で、自身に影響を与えた友人を亡くした。

その後東日本大震災(2011年)で、拠りどころだった女性「英子」も亡くした。
結局佐藤が愛した英子、の妹が「僕」の知っている英子だった。
望んで、死んだ姉の人生をトレースする「英子」
その間にも「僕」の中に宿るギリシャ神話の悪魔「ブエル」や、佐藤の調べた各世代の残虐の歴史が挿し込まれる。
物理法則に頼んで過去の改変を試みた佐藤に対し、ライバル会社(英子が顧問をしていた)のキーマンは、三島由紀夫に心酔する男だった。
結局それらの者は退場。英子も去り、「僕」は日常を取り戻す。

とりあえず連載が終わった時の感想ではかなり酷評した(こちら)が、こうして超あらすじをまとめてみると、いかにも気鋭の作家のエネルギーが感じられる。
社会不安が二つの震災に集約・投影され、また人格形成の背景に児童養護施設を持って来たのも、安易だとのそしりを承知の上だろう。
ちりばめられるギリシャ神話、三島由紀夫、オウム真理教などなど。それに加えて現在進行中のコロナ禍も取り込んだ。
テンコ盛りとの見方もあるが、じっくり読み返せばそれなりの伏線回収は出来るだろう。

クズ的な生き方の「僕」が唯一善行をした「児童養護施設の耐震工事への寄付」は、この小説の中で僅かな救いとなっている。
そして最終局面で久しぶりに出て来たブエルが言う「やはり君たちは絶望なんて出来ないんだよ・・・」の言葉が作者の結論か。
絶賛、とまでは言わないが、今まで接して来た作家とはかなり異なった感覚を味わった。

超あらすじ②

(16)こいぬ座の神話 1 ~ 3 6/8(227)
山本が住むホテルに出向き、殺害用として毒薬の瓶を受け取った。佐藤を明日殺せとの指示。
以前彼にした占いを山本に繰り返すと<皇帝>が出る。
それは「主人殺し」
現トップを殺し、トップになる・・・
甘言を吹き込むと、笑みを浮かべる山本。
 

唐突な最後 1 ~ 9
佐藤の部屋に入ると、チェック柄の男が死んでいた。
「・・・その男を知っているな」
気が動転して意味のない言葉を呟くが、それに構わずルームサービスが呼ばれる。
無理やり選ばされたペペロンチーノが運ばれた。
前の占い師は毒殺された。

嘔吐に襲われながらもそれを食べる僕。


二人きりになると佐藤が言った。
「お前は・・・占いの能力がないのか?」
「はい・・・ありません」
残念だ、と佐藤。そして自分はもうすぐ死ぬと言った。
その上で自分の死因を占え、と以前渡した物理学者のタロットカードを渡される。
<神> <無意識10> <ホログラフィック原理>
「もういい・・帰れ」の言葉で解放される。

以前送ってくれた秘書があとに続く。
佐藤の死を防ぐ方法を聞く秘書。英子という人物に宛てた、長い遺書のようなものがあると言って渡される。
マンションには戻れず、ホテルに移動。

これを読めばもう無関係ではいられない。

(17)佐藤の遺書・あるオカルト者の記録 1~12 6/17(239)
奇妙な癖があった。鉛筆、消しゴムを粉になるまでナイフで裂く。クラスメイトからの迫害。

相手をナイフで切った時に噴き出した液体の不潔さ。
ユリ・ゲラーのスプーン曲げに衝撃を受けた。

つまらない世界からの超越。
大学で初めて会った。理学部の物理学科だった。
古代人は神の声が聞こえたが、その能力がなくなってから占いをやるようになったと言う
この世界に対する違和感。
その違和感の元を知るため、彼は科学を探求した。二重スリット実験。検知器の有無により振る舞いを変える光子(電子)
我々の世界は二次元のホログラムの様なものだ、とも。


英子。彼はあなたを一方的に愛していた。

二十一歳の彼が、十二歳のあなたを。
たまたまのアパートで、彼の持っていたビデオを観てしまった。当時話題だった宮崎勤を想起させるもの。

後日子供に対する性癖を告白した
その上で、家庭教師先の英子という少女を真剣に愛している、とも。は告白する相手を間違えた。

(18)遺書・You will take a red card  1~6 6/26(251)
児童養護施設で十二歳のあなたに会った。

宿題を見るボランティアで、の代わりに家庭教師をした。

あなたは既に美しく、の苦悩が腑に落ちた。
から教えられた「You will take a red card」というトランプマジックをしてくれたあなた。
施設責任者にの性癖を伝えた。彼はその後大学を休学。

行方不明だったが訪ねて来た。

オウム真理教を知っているかと聞く。
勧誘されたが拒否した。空中浮揚の不自然さ、麻原への不快感。
株で蓄財した私。恋人と一組の男女で始めた会社。
東京に向かう列車の中で神戸の地震を知った。
仲間の男女はその時の火災で亡くなり、恋人も交通事故で死んだ。事故を事前に知ることが出来れば、死ぬことはなかった。
会社を畳み東北の、UFOが出るという山に行った。
が言っていたUFO目撃論。集団幻想の意味。

念じ、祈れば過去が変わる。
 

佐藤の遺書・UFO 1 ~ 3
UFO観察のベテランという男と一週間待ち続け、それが現れた。
月の夜空に浮かぶ球体。飛行機でも、ヘリコプターでもない。
恋人や同僚の男女が生きていると思い続け、公衆電話から恋人の実家に電話した。父親が出たが、彼女の死は変わらない。

同僚の男女も死んだまま。
翌日、東京地下鉄の事件を知る。異臭騒ぎで大勢が病院送り。
はオウム真理教の信者ではなかった。

別セミナーに属していたが、地震の時子供を助けるために死んだ。知る限り、彼は暴発せず人生を終えた。

(19)佐藤の遺書・英子 1~12 7/12(260)
1995年はこの国にとって大きな年(阪神淡路大震災)。
この数年後、神戸から始まった猟奇的少年犯罪。
再び財を成した私は占い師を雇った。それは天災を当てるため。
大人になって再び私の前に現れたあなた。

弁護士をしていると言い、私の人生を変えると言った。
彼女はから自作のタロットカードを貰っていた。1999年7月を越えても世界が滅びなかったら使ってくれ、と言った
完成した時、これで世界の全てがわかる、と興奮したらしい。
彼女は自身の出身以外の養護施設にも援助したが、ブランドを好み性にも奔放。

他の者も交えての政治論。この国の神 天照大神は女性神。
人類進化に寄与した、言語に関するFOXP2遺伝子は宇宙人からもたらされたという。
彼女は財団を作る目標があった。格差、差別をなくしたい。

2011年3月11日。突然足元が揺れた。今までの人生を思った。

雇っていた占い師は役に立たず。

あなたの死を知ったのはその二週間後。
宮城で集団訴訟の弁護をしていた。

震災地に出る幽霊の噂を聞いて、車を走らせた。
海で光る球体を見た時、過去の改変を願った。
神戸の時は失敗。だから別のことを考えた。

会えなくてもいいから、私の知らない現実で生きていて・・・
幼少からの夢想。宇宙飛行士となって放浪し、地球外の天体で一枚の金属板を見つける。人類以外の文明の跡。

その後、語るべきことはない。会社の事も意味はない。
今思うのは、自分がどう死ぬかということ。
あなたを含む皆の死を予測出来なかった自分の義務。
だが、もうすぐ死ぬという確信の前には意味がない。
今後の人類についての予言(めいたこと)
文字の発生が、神の声を聞けなくなった要因の一つ。
光る画面を見ることで前頭葉が抑制されるという。

A・Iに頼るうち、恍惚とした豚になる。

この世界は何のために記録され、過ぎて行くのだろう。
死ぬ前に、それだけは知りたかった。

の夢でもあった、この世界の本質を。
英子。これを読めば、あなたはまた笑うだろうか。

(20)二週間後 1、2 2/21(271)
佐藤の遺書を読んで二週間後、秘書から彼の入院を知らされる。
彼と直接話したいと言うと、佐藤が電話に出た。掠れた声。
鈴木英子は生きています、と言って秘書のPC宛てに彼女の五年前の写真を送った。
それを見て笑う佐藤。本人が英子と名乗っているのか?・・
そしてこの女性に、全て思い通りにさせると言った。
その一週間後に死んだ佐藤。
中国の武漢から広がった肺炎の報道。
 

夢の跡 1 ~ 5
COVID-19の流行で街から人が消えた。
霧の先に立つ五十代ほどの男。眼鏡にマスク。

「山本は死んだよ」と言った。
巨大なビルに導かれ、12階のオフィスに着いた。
鈴木英子の動きへの驚き。

値崩れした株を佐藤に買われた時に山本が裏切った。
妄想に取りつかれ、私を撃った。君のせいだ。

私たちは、よくある会社。広告・世論操作・・・
その中で政治家たちと関わった。
1970年。私が七歳の時に三島由紀夫が自殺した。
日本の変革のために、自衛隊の駐屯地で切腹した。彼の脳裏にあったのは政治ではなく、日本国を憂え切腹する「美」
切腹に興味はないが、自己存在を美で昇華した姿に衝撃を受けた。更に浅間山荘での立て籠もり。それらで日本の政治は後退。
あの三島を見た後、日本国旗を見る目が変わった。
あの時代の熱狂を、この世界に出現させたかった。特攻の精神。

このコロナの流行を利用して、世論を自分の思想側に傾けようとしたが、もう終わりだ。
コートから銃を出してこめかみに当てた。
消えろ、と言われて部屋を出た。
だが銃声は聞こえなかった。
 

手品 1 ~ 3
新幹線で、生まれた土地に向かっている。
駅からタクシーで三時間。
タクシーを降りて施設に向かう途中、マスク姿の少女に会った。
地震が来る夢を見た、と職員に言ったが信じてもらえない。

お金がない、とも。
少女にトランプのマジックを見せる。♣8が♡のエースになる。
この世界ではこんな事が起こる。だから大丈夫・・・

施設を訪ね、施設長に耐震補強費用の寄付を申し出る。
見積りでは1,900万。
施設の周囲を歩く。

昔ブエルを見つけた林は駐車場になっていた。
 

蟹 1、2
帰りのタクシーで町のことを聞く。

ここではまだ感染者は出ていない。
だが東京から来た家族の家から出火。コロナ避難で来たとの噂。
その家族の子供が川で死んだ。

事件性はなかったが、親は精神を病んで引っ越した。
運転手の息子が、夜中に沢蟹の音がすると言って怯えるという。
佐藤の遺書を思い出す。この世界はホログラムの様なもの。
同じことが繰り返される歴史。当てる光の角度か変わるだけ。

(21)別の世界 1 ~  7 8/2(284)
地下駐車場での待ち合わせ。
英子氏は黒いコートにマスク。隙がない。
「あなたは誰ですか」

鈴木英子の妹だと言った。あの震災で九年前姉は亡くなった。
同じ様に幼少期にダメージを負うも、人生に挑戦していた姉。
生きる意味がないと思っていたが、姉の残した化粧品でメイクしてみた。

姉にはなれない。でもその姿は私でもなかった。
司法試験に何度も落ちたが、六年前に合格。
--彼女に初めて会ったのが五年前--
姉の名で弁護士登録した。

姉となる事で自分の生を延長させる気持ち。
顧問をしていたあの企業は、変わってしまった。
佐藤にあなたを近づかせて乗っ取りを図ったが失敗。

佐藤に対する好意はあったが、名乗れない存在。
死ぬ前に電話を受けた。

姉が生きているという、もう一つの現実に対する感謝。

市井を使っていろんなものを盗ませ、ポーカーをする様仕向けたのは全て女のプライドからだった。
最初の時、久し振りに会ったのに断った・・・
全財産を取られればいいと思った、と言う彼女の笑いに、ギリシャ神話のヘラを思った。
今後は、作った財団を大きくして姉の遺志を継ぐという。
「一人でですか」と近づく僕を制する。
結局は姉を真似ている人に惹かれた。

今抱きしめられたら、考えも変わるかも知れない、と言いながら距離感を示す。あのウイルスに対する危惧も。
地下駐車場からの出口を出て行った彼女。
”半分以上がなくなる”は金銭以外の意味もあったかも・・・

---久し振り。 ブエルだった。


エピローグ 1 ~ 5(最終回) 
ここは占い用マンション。
額縁に気配を感じた。小さい頃呼び出したそのままのブエル。
危なかった事例を二つ。

佐藤との事と、あのクラブからの帰りで事故に遭いそうだった事。今なら色々教えられる。
母親のその後、父親が誰か・・・首を横に振る僕。

自身の存在の意味を実は知らない。
古代ローマでライオンと戦う男。皇帝ネロがやった火あぶり。

モンゴル軍がやった人の投擲。

人を惑わしているのとは、厳密には違う。
私たちは精神の投影に過ぎない。

彼らの欲望や行動を追認するだけ。今の疫病、天災や戦争などの惨劇時に、私やアスタロトが生まれた。
君は結果的にディオニュソスの様に、病んで行く世界を励ますかも知れない。
君はそろそろ目覚める。

カードの一枚をめくり、息を飲む。「本当に?」
佐藤の親友は、惜しいところまで行った。
もう一枚めくる。「そんな」
--やはり君達は、絶望なんてできないんだよ。
浮いたカードが回転する。
--だってそうだろう? 明日何が起こるかも分からない。
 

何か夢を見ていた気がしたが、思い出せなかった。

新たな顧客、吉田にリモートで占いを行う。うまく行っている。
彼女は恐らく大きな失恋の後。画面越しに励ます。
クラブ”R”からのオファーはまだ保留。
カードの束を掴んだ時、その一枚が落ちた。
裏向きのカード。次第に笑みが浮かぶ。


今度は何のカードだろう。
僕は指を伸ばして拾い、テーブルの上でめくった。(了)