新聞小説 「カード師」 (13) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(13) 4/7(184)~4/19(195)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

感想
前回でMとの勝負にチキン振りを発揮して負けた「僕」
臆病者と言われてもガマンし、プロギャンブラーとの駆け引きに勝って4000万弱のチップを得る。
次のゲームでMとの勝負!と思ったところに、ポーカー大会の勝者と思われるUの介入で勝ちを持って行かれる。
オールインを思い止めた直感は、一体何から来るのか。

今までの伏線(駄エピ)が関わっている?
ポーカーのルールは全く知らないが、詳しすぎる描写のためか流れは良く判る。そういう意味では良質な「ポーカー教育小説」

せっかく一億近くになったチップが4000万ほどになって元金を割り込んだ。この辺りに来てようやくギャンブル小説の体を成して来たか。

挿絵について
プロギャンブラーを引き込む時の足を描いた一枚が秀逸。

ドタ靴に、折り上げたGパン。少年のもの。
過去話(コチラ)で、いじめっ子のKを遊具の上に誘い込んだ時の回想が蘇える。


あらすじ 184 ~ 195
< 神 > 1~12
その後は、手元に来るカードが弱く、ゲームから降りるフォールドを繰り返す。参加料の名で既に200万以上失っている。

さっきの男の敗北の事もあり、場が慎重になる。
店の常連客で、スロープレイを得意とする女性、Yは一度500万を勝ったが、着ている服を脱いで胸を強調させた事も功奏したか。


斜め前のプロギャンブラーも少額を勝っている。

顔の血は乾き、自信を取り戻している。

ひとつわかったこと。恐らく全ての10が抜かれている。

ストレートを成立させるためには5か10が必須。5は何度か出たが10が出ない。主催者側が関与か。
次のゲームでプロのギャンブラーが300万を賭けた。

自分のカードは微妙だが、700万を賭ける。
Yが同額の700万を賭けた。

プロギャンブラーは400万を上乗せして700万とした。

カードが出される。手元と合わせてフラッシュが成立している。

多分相手もフラッシュだろうが、♢のエースを持つこちらの方が強い。
プロギャンブラーは、さっきMとのゲームを降りたのを見て、こちらを素人と踏んでいる。それを利用すれば彼を破産させられる。
僕はわざと動揺を滲ませ1000万を賭けた。一瞬Yと視線を交わす。

「降りろ」の意思だがそれは伝わり、Yはゲームを降りた。

彼を奈落へ誘っているという快感。

慎重に、直線を進ませるようにして惹き込み、破滅へ誘導。


次のカードが出る。♣8。かすかに動揺の顔を作る。
更に次のカードが出る。♡4。意味のない完璧なカード。
ギャンブラーが600万を賭けた。

相手はこちらのオールインを誘っている。素人のようなオールインを。
無表情のまま迷いを示し、時間を使った後「オールイン」と自分のチップの全てを押し出した。

プロギャンブラーもオールインをして、カードを広げた。<♢K> <♢J>。こちらは<♢A> <♢9>。勝利。
敗北したギャンブラーの表情が固まる。

だがそれは一瞬で無表情に戻った。
取り乱しはしなかったが、スーツの男たちに退場させられる時、立てなかった。引きずられて行く時、彼が一瞬こちらを見た。

3800万のチップが集まり、僕の手元が約1億になった。

プレイヤーが半数になればゲームを終える権利が得られる。
「・・・なるほどね」とMが言い、彼を引き込んでいる時何か線の様なものが見えなかったか?と尋ねる。
次のゲームに集中する事でMを無視する。

配られたカードは<♣8> <♡8>。微妙だった。
二人が200万を賭け、Mが800万を賭けるともう一人が同額を賭けた。Mと同額を賭ける僕。
先の二人も同額の800万に積み上げた。
5人が参加したのは初めて。誰かが<8>より上のワンペアを持っている筈。出るカード次第では降りるべき。
テーブルに3枚並んだ。<♣5> <♡5> <♡7> 難しい。
Mが500万を賭けた。

自分のカードにまだ可能性が残っており、僕も同額の500万を賭けた。
残りの3人も同額を賭けてテーブルがざわついた。

集まったチップは、場への参加費も含めて6650万。
次のカードは<♡6>。無表情のまま息を飲む。
最後のカード次第でストレートフラッシュになる。

だがその確率は簡易計算で4%。
ストレートになる確率は16%。フルハウスになる確率は4%。
フラッシュになる確率は18%だが、この状況ではフラッシュが成立しても負ける。
この状況でMが2000万を賭けた。
高校の時、初めて人前でカードマジックをやった時の事を思い出す。
肝心なところで指が震え、カードを落とした。落ちて行くトランプが、一瞬母を占おうとして弾かれた時の記憶と重なった。


何度目かの失敗で、手品師になれないと自覚した。

まさか人前で出来ないとは。
君はすごい人間になる、と言った筈の山倉。

人生から弾かれている、認められなかったような感覚。
今、望むカードが出たら、世界の摂理から認められる。

「コール」 Mと同じ2000万を賭けた僕。
1人が降り、残り2人はコール。テーブルには1億4650万。
「美しい」と言うM。あらゆる可能性を持ったカードの並び。しかも数字が低いから自分が一番強いと錯覚する。
人間が最も欲するのは神の贔屓。
その結果はディーラーの手にあるその順番で決まっている。

でも本当にそうだろうか、と問うM。
緊張の面持ちでカードを開いたディーラー。<♣8>
息を飲む。

自分のカード<♣8> <♡8>と合わせフルハウスが成立する。
こうなる確率は4%だった。Mは賭け金を上げない。

自分が弱いふりをして誘っているが、フルハウスの方が上位にある。
このままいけばMを破産させられる。
だが全てを賭けるのでは、降りる者も出て来る。

全員に賭けさせる上限を3000万と判断してチップを出した。
次の者がコールして同額を賭けた。
その次の者、英語がネイティブでUの名札の男が賭け金を1億に上げた。40代後半に見えるジーンズ姿。
かすかな悪寒。ポーカー大会のヨーロッパツアーで優勝した者か。

「神は相当性格が悪いらしい」 そう言ってMはフォールドしてゲームから降りた。
僕の番になる。ここでオールインしてフルハウスで勝利する。
もしあの男が<5>のフォーカードでさえなければ。
あり得るだろうか。その確率は0.17%。
今オールインするのはポーカー的には正しい。

既に6000万以上賭けて、手元は4000万を切る。だがこれまでの人生の蓄積のようなものの全てが、この勝負を降りろと言っている。

僕はゲームから降りた。カードにはもう届かない。

身体中の力が抜けていく。
次のプレイヤーがオールインをした。

その瞬間、1億に上げたUもオールインした。
開いたカードは<♢5> <♣5> フォーカード。別名クワッズ。
もしオールインしたら全てを失っていた。

グッド・フォールド、とUは言いMのストレートと僕のフルハウスも言い当てた。
オールインで敗北した男は、顔をひきつらせている。

全財産の2億を失った。
だがあの小刻みの震えは快感。彼は恐らく投資家。
余韻に浸るような僅かな時間の後、男は不意に立ち上がり部屋から出て行った。
冷静を装っているが、歩き方や視線が奇妙なほど真っ直ぐだった。