新聞小説 「カード師」 (20) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(20) 272(7/7)~283/(7/19 )
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

 

感想
あっけなく佐藤が死んだ。それもコロナウイルスで。
佐藤自身は、画像で見せられた英子を否定したが、本当のところはどうなのか? 僕自身は、同一人物と認識しているみたい。
そして出て来た英子側組織のラスボス(グレー男)。

山本に殺されそうになって返り討ちにしたが、自分も怪我をした。
そんな程度で崩壊するような組織なら、大したモノじゃないな。
この男の話す「三島論」がウスい。

ほんの上っ面を撫でる程度で、右翼を語っているつもり・・・
今までのエピソードもみんな、そう。これがこの作家のスタイルか。
そのグレー男からも離れて、唐突に自身が育った養護施設に行き、耐震工事の費用を寄付しようとする僕。
帰りの運転手の話、イマイチ胸に響かない。
新興の町の住民に宿るムラ意識、といったところか。

集団が形成される時、当然そういう事も起きるのだろう。
 

特攻隊のキーワードで、ちょっとネットをしらべてココを見つけた。
「特攻」に至る精神構造の根底にあるのは、農耕に基づく「ムラ社会」だという。稲作が水を必要とし、水を通じて強く結び付けられ、移動が困難なところから、個人より集団を重んじる。
この文献の末尾に「特攻隊はまた生まれるか」の記述。
作者の意図がここに収束するのであれば、これはもう「名作」になる資質を有しているかも(それは褒め過ぎやろ)
それから、連載中にコロナ騒ぎが勃発して、うまく利用したつもりかも知れんが、なんか「あざとい」んだよな。

 

ようやく次章で英子が登場するみたい・・・・


あらすじ 271~283
<二週間後> 1、2
佐藤の秘書からの電話。「佐藤さんが近々入院する」

肺炎の徴候だという。

 

佐藤の遺書を読み終えて、二週間が経っていた。

英子氏との連絡が取れない。
遺書の中では死んだ事になっている彼女。死を偽装した理由は?
秘書の話は続く。五日前、海外の要人に会ってから体調を崩した。
彼と直接話したい、と言うと佐藤が電話に出た。掠れた声。
私の死が、まさかこれか? の問いを否定する。

「鈴木英子さんは生きています」に沈黙する佐藤。
彼女の五年前の写真を秘書のPCに送った。それを見て笑う佐藤。
「この女性は自らを英子と名乗ってるのか?」
背後にいたのがこの女性で、あの、ピッチャーと言っていた田中も同じ企業ということか。
チェック柄の名を初めて聞いた。
そして、この女性に、全て思い通りにすると伝えろと言った。
回復したら、人を殺したあらゆるコレクションを見せると言った佐藤。

お前に占いの力はないが、覚醒するかもしれない、とも。
その一週間後に死んだ佐藤。

中国の武漢で、原因不明の肺炎が広がるとのニュース報道。

<夢の跡> 1 ~ 5
人の姿のない道。COVID-19の流行で、街から人が消えた。
他の占い師達と同様、彼の死を予知出来なかった。
周囲の店全てのシャッターが下りている。

更に深くなる霧の先に人が立っていた。
ダークグレーのスーツに、似た色のコートを羽織った五十代ほどの人間。
「君を待っていた」という。 眼鏡にマスク。


君のせいで、もう部下がいない、と言った。そして-
「山本は死んだよ」
部下が殺したという。距離を取って付いてきてくれ、と言って歩き出す。
逃げるべきだった。だが興味が湧いた。
更に、彼が乗るタクシーを別の車で追えとの指示。
新しく巨大なビルに着く。君が雇われていた企業が入っていた、と言った。別々のエレベーターで12階へ、の指示。
広いオフィス。無人の椅子の群れ。

ウイルスでまだ放置されている、との言葉。
鈴木英子があんな動きをしていたとは、と続ける。
値崩れしていた株を、佐藤に大量に買われた時に、山本が裏切った。
妄想に取り付かれ、勝手に焦っていた。一週間以内にとか何とか・・・
君がそそのかしただけで、いきなり私を撃つんだから。君の仕業だ。
男が白いドアを開けた。その会議室の窓を開け始める。

撃たれた私は入院した。

それさえなければ佐藤の乗っ取りなど防げた。もう全て遅いが。
私達がどの様な企業だったか。よくある会社だよ。
広告・世論操作。企業・人物調査。ハイエナみたいなもの。
その中で政治家たちと深く関わる様になった。
前任者は蓄財が目的。私の夢は日本の国旗と同化すること。
この日常の何が面白い?人の死。虚無であるからこそ美に惹かれる。
1970年。私が七歳の時、三島由紀夫が自殺した。

日本を変革させるため、軍服を着て自衛隊の駐屯地で人質を取り、国軍になれとの主張の末に切腹したのか。
そんなはずがない。彼の脳裏にあったのは、政治ではなく、その本質は日本国を憂え切腹する「美」。

虚無の上に立つ性と美の一致点を彼は求めた。切腹には興味ないが、自己存在を美で昇華した、あの男に衝撃を受けた。
それと浅間山荘での立て籠もり。両極の暴発で日本の政治は後退し、君たちの好きなユリ・ゲラーが登場する。
男が何を言っているのか、まだよくわからない。話を続ける男。
あの三島を見た後、日本国旗を見る目が変わった。

体が貫かれる思い。
世界の全ての元凶は「差」。生まれ、容姿、能力・・・だが国旗の前では平等。第二次大戦下の日本が理想に近い。政治はどうでもよく、美の問題。
日本国旗を手に神社に集い、敵の殲滅を誓う。

あの時代の熱狂をこの世界に出現させたかった。
現天皇は平和尊重だから、跪くのは別の天皇。雄路天皇や武烈天皇。
美しい日の玉となる自分を夢想する。天皇陛下万歳と叫び、日本国旗の美そのものに命を捧げ、敵機にその命ごと突入する。

三島由紀夫が書いている、特攻隊の遺書。「七生報国」「必敵撃滅」などの短文、これこそかがやける肉体の言葉。

自らの個を既存の言葉に埋める-言葉が生命を飲み込む。
このコロナの流行を利用して、世論を自分の思想側に傾けるいい機会だった。 だがもう終わりだ。
なぜ君を呼んだのか、もう分からなくなった、とコートから拳銃を出した。


私を滅ぼした者の前で死ぬ、と言ってこめかみに拳銃を当てる。

一週間ほどこんな風なのだという。
お前が見ているからだ、消えろ、との言葉で部屋を出た。
だが銃声は聞こえなかった。

三島の場合、介錯が失敗して、彼は苦痛の中で死んだという。

これほど人のいない新幹線は初めて。

マスクをしたスーツの男が一人。席が近い。


<手品> 1 ~ 3
7/15
僕は離れた席に移動した。
生まれた土地になぜ向かっているのか、自分にも分からない。
英子が養護施設の援助をしていたからだろうか。

もう二十年以上帰っていない。
駅からタクシーに乗る。ここから三時間。
開発の進んだ駅前から離れるにつれ、見覚えのある通りが増える。
無人の窓の向こうにブエルを見た気がした。

今何を願おうかと考え、息が詰まった。

願いが浮かばないのは、もうこの世界にいる意味がないのか・・・
タクシーを降りて歩く。

施設の建物が見えた時、土手に座っている少女がいた。
花柄の布マスク。多分施設の子だろう。


何をしているの? の問いに「・・・難しい」
前に超能力者が来て、布で隠した小さなボールを大きなボールに変えたという。その次は玩具のネズミを鳩に変えた。

そして怖い夢を見たと続ける少女。
地震が来る夢を見た、と職員に言っても信じてくれない。
建物は地震に弱くて、工事しないといけないのに、お金がない。
布で隠してパッと取ったら丈夫になるかも?、と眼下の施設を布で隠す少女。
施設を出てアメリカに行き、手品師になった山倉は、五年前に亡くなっていた。ショウをし続けた。死因は癌。
涙ぐむ自分に困りながら、少女にトランプのマジックを見せる。

♣8を布で隠し、外すと♡A。
この世界ではこんな事が起こる、だから大丈夫。

「本当?」君の願いも現実になる。
施設を訪ねた。ドアを開けると子供たちの目。既視感があった。
職員たちは全て入れ替わっており、対応する施設長は小柄な年配女性。
耐震補強の費用寄付を申し出る。

見積りした結果では1900万だった。
あのポーカーで目減りして今は5000万。払えば残金3100万。
以前自分を占った”半分以上を失う”の意味のカードを思い出して笑う姿に、訝る施設長。
施設の周囲を歩いた。昔ブエルを見つけた林は駐車場になり、山倉を見送った道も更地になっていた。

<蟹> 1、2
帰りのタクシーで、町のことを話す運転手。例のウイルスについて。
この町では、まだ感染者はいないという。
東京から来た家族の家から出火した。コロナからの避難で来たとの噂。放火かも知れない。
その家族の子供が川で亡くなった。

地元の子供が、沢蟹の群れを追い上流で見つけた。

事件性はなかったが、両親は精神を病んで東京に戻った。
ここは、他所から来た者たちで形成された町。

新しい町なのに土地意識が強く、天災の時には犠牲が要ると言う者までいる。そのせいか、運転手の小二の息子が、夜に沢蟹の音が聞こえると言い出した。


それに怯える息子は、寝る時も電気を点けている。
あの家族にお悔みを言いたかった。

人の死が安堵を以て総括されてはならない、と運転手。
佐藤の遺書を思い出す。この世界はホログラムのようなもの。
歴史や出来事は、当てる光の角度が変わるだけで、同じ事の繰り返し。
東京からその家族が来た時、まるでウイルスが実体化したような興奮を町民は感じたらしい。