新聞小説 「カード師」   (18) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(18)251(6/16)~259/(6/24 )
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

 

感想
この佐藤の手記が「難物」
とことん、とっ散らかってついて行けない(涙)
佐藤は、一応Iの毒牙から英子を守ったという事か。

そのIも阪神淡路大震災で命を落とした。
オウム真理教のエピソードは、一体どういう位置付けか。

単なるスパイスなのか?
UFOにはびっくり。量子力学からUFOまで、振り切れ方がハンパない。この辺りが若者ウケなのか。
でもユリ・ゲラーの頃、UFO特番もTVで全盛の時期だった。

矢追健一なんて、良く出てたっけ(矢追純一?)
Iは既に死んでいるんだから、これからは佐藤と英子の「その後」が語られるという展開なのかな?

あらすじ 251~259
<遺書・You will take a red card > 1 ~ 6
私があなたに会った日のことを、あなたはよく覚えていた。
児童養護施設での、宿題を見てあげるボランティア。

Iの代わりに家庭教師を務めた。
あなたは十二歳だったが既に美しく、Iの苦悩が腑に落ちた。
あなたは、Iから教わったという、ダイ・ヴァーノンが考案したというトランプの手品「You will take a red card」を私にやって見せた。


青い背のカードを使い、一枚おきに表を向けた六枚。

被験者が念じた数字に基づき、カードを裏返すと赤い色が現れる。
そしてあらかじめ書いておいた予言の紙を相手に見せる。

「You will take a red card」

これをやった時、彼は悲しそうだった、とあなたは言った。

何を選んでも結局こうなる。
このカードにジョーカーを加えれば、結果が変わると私は言った。


あの一言が自分を変えた、とあなたは言ったが、本当だろうか。
君がジョーカーになるといい。このつまらない世界の、という謎かけ。
私は、あなたがIの気持ちに気付いていると感じた。

君は彼に同情すべきじゃない、彼の想いは君とは関係ない。

施設責任者にIの性癖を伝えた。
Iは施設へ行くのをやめ、経済的理由から大学も休学した。
オウム真理教を知っているか、と行方不明だったIが訪ねて来た。

伸びた髪。


修行により解脱出来るという。

解脱の方法が具体的に示されていた。性の排除も。
自分の醜い性が神聖化されると言った。

彼は私を勧誘したが、彼自身も著作は読んだものの入信はしていなかった。
拒否した私。空中浮揚の不自然さ、麻原に対する不快感か。
解脱すれば世界の真理がわかると言ったI。物理学では到達出来ない。また、施設に性癖の事を伝えた事にも感謝された。
彼と会ったのはそれが最後。

その後教祖の麻原が、弟子に自分の子を産ませていた事を報道で知った。また1990年に彼は衆院選に立候補した。
奇妙な世界が渋谷の路上に出現していた。

麻原の顔の被りものを付けた若者の集団が、踊っている。

被りものの中はIだろうか、とも思った。心は安らいでいるだろうか。
私は株で蓄財した。私の恋人と一組の男女で立ち上げた会社。
ものが予期せず壊れた時に凝視する癖があった。

損なわれる事による安堵。だが自らはやらなかった。
ある投資家に会うため、神戸から東京に向かった。だが相手は現れず、電話も通じなかった。深夜恋人からの緊急ポケベル。

神戸で地震があったという。仲間の男女とも連絡が取れない。

仲間の男女は、地震による火災で死んだ。結婚を控えていた。
その地震の夜、恋人が交通事故で死んだ。飲酒運転の車によるもの。
こんな事が起こる筈がない、との思い。オフィスを片付けている時、曲がったスプーンを見つけた。幼い時に曲げようとした。

いつか奇跡が起きて曲がると冗談を言っていた。
彼らの死。こうであってはならないとの思い。
地震を事前に知ることが出来れば、死ぬことはなかった。
会社を畳み、装備を整えて東北にあるUFOが出るという山に向かった。
Iの言葉。UFOが集団幻想なら、 見ている時の脳は、世界の真実の認知の間に居る。そこで念じ、祈り、望めば過去が変わると夢想した。

二重スリット実験のように。
何度もUFOを見たという男が近づいて来た。


<佐藤の遺書・UFO> 1 ~ 3
生きていれば、生涯抱える苦しみを一つや二つ背負うと、その男は言った。
UFO観察のベテラン。日常がしんどくなると、ここに来る。
重要なのは、待つこと。絶望的なまでに。
光を放つUFOを見た時は、全身が活性化され多幸感に包まれる・・・
何故UFOが見たい?と男が訊ねた。
Iの考えを伝えるのは難しかった。

集団幻想という言葉を言えば傷付くか。
一週間が過ぎた頃、それは出現した。

巨大な月の夜空に、光る球体が浮いていた。

ビデオカメラで撮影を始めた男。
飛行機でも、ヘリコプターでもない。場がざわめく。確かに奇妙な動き。
もっとはっきりしたものを期待したが、時間がない。
地震をなかった事にするのは諦め、恋人や同僚の男女が生きていると思い続けた。
彼らとの過去のやりとりが蘇える。彼女の、結婚に対する期待。

 

私はそれを避けていた。だが再び聞ける。
帰って来るのは明日か。そうなればいい。

いや、絶対にそうならなければならない。

光る球体は、向こうの山へ遠ざかって行った。
私は公衆電話から恋人の実家に電話した。

 

彼女の父親が出たが、彼女は死んだまま。同僚の男女も死んだままだった。
翌日、男が東京地下鉄の事件を教えて来た。

異臭騒ぎで大勢が病院送り。
二日後、オウム真理教の施設に強制捜査が入った。

Iは、オウム真理教には入信していなかった。
別のセミナーに所属していたが、地震の時、子供らを助けるために死んだ。
彼に全てを告白された時、なぜ治療を受けろと言わなかったのか。

そう言えば良かったのだ。
知る限り、彼は暴発せず人生を終えた。