新聞小説 「カード師」 (12) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(12) 3/23(169)~4/6(183)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

感想
メインストーリーに戻って来た。
スマホや佐藤の爪、髪を奪った市井から逆に指令されたタスク。
借金のカタに拘束された女性、竹下を救うためゲームに参加した「僕」
ようやく本名が新藤だと判明した僕ちゃん。
でもここまで来て「新藤」と三人称にするのも「何だかナー・・・」

客の中に顔見知りがいて、ギャンブラーの業界は狭いという事か。
しかしこれだけ何かにつけて脈拍が上る者が、ギャンブルなんて出来るわけがないだろう。
今までやれていたのはディーラーだったから。
小説だから仕方ないが、こうして行動がこまごまと描写されるうちに、なんかとんでもなく「つまんない」ものを読まされている気になって来る。

小説って、うねりの様なダイナミックな思いを味わうとか、そういうものじゃないか?
そういえば前回、カードにGPS仕込むなんてムリと言ったが、前言撤回。

こういう商品がある。進んでるネー

挿絵画家に一言

最後の絵では、作家が「溢れるチップを手に」って書いてるんだから、札束ではなくチップにして欲しい(笑)


あらすじ 169 ~ 183
<一九三三年 ナチス政権下> 1~2
オレンジの光がぼんやりと見える。

非ドイツ的と言われた本が燃やされている。
遥か昔、教会で異端とされた本が燃やされたのは教科書で知っていた。それが今実際に起こっている。
あの場で演説していたのは、今思えばゲッペルス。
ヒトラーの側近として叫んでいた。「・・・ト、・・・ト、ト」抑揚だけが伝わる。


当時少女だった私には政治、思想の事は判らなかった。
でも彼らナチスの制服、旗、一斉に手を上げる動作は、人々の無意識の何かが具現化した結果。
あの時私たちは遠くへ離れるべきでした。
でも目の前の光景を前に、ただ動けなかった。

手記はここで終わっている。ある歴史の現象を、夢や虚構の現実化として捉える面で、二つの手記は共通しているのかも知れない。
だが佐藤の意図は判らない。
市井のGPSの動き。地図上に現れる軌跡。

郊外の霊園に立ち寄っている。

市井に渡された住所は白く現代的な建物。
インターフォン越しに神田と名乗り、ドアが開いて通される。

<クラブ ”R”> 1 ~ 13
スーツ姿の若い男に案内されて廊下を歩く。ここは治外法権だという。

また、何を見ても他言しないようにとの警告。
ドアを開いた中では、既にゲームが始まっていた。

テキサス・ホールデム形式のポーカー。
テーブルには五人の男と一人の女。女は上半身の服を着ていない。


「オールイン」と女は全てのチップを出す。竹下と呼ばれたその女性は、市井に依頼された勝たせるべき相手。女だったのか。

だがゲーム開始は30分後の筈。
いいのですか、と声を掛けた男がコールした。相手と同額を賭ける意思。
他の者は参加せず、ディーラーが宣言する「ショウダウン」
コールした男の勝ち。いわゆる「クズ手」。

参加者全員の意思があっての成立。

引きずられて行こうとする竹下。
「待ってください」と言うしかなかった。

竹下を勝たせるためにここへ来た。
状況を教えて下さいと言う問いに、さっき勝った男が解説。
彼女は早急に金が必要で、主催者に借金をしてゲームに参加したが、全て負けた。参加者の同意が得られれば条件付きでチップの追加が認められる。それが上半身裸の理由。

「彼女はどうなるんですか」の問いには、借りた金は返済してもらう、その前に別室で縛り上げる。


彼女の借金は四百万だという。
「僕が払います」払えてしまうのが腹立たしい。
スーツの男が、ディーラーという職業について言及。高収入ならイカサマの疑い。それには趣味でやっていると返答。
ゲーム参加者に諮るスーツの男。

竹下に勝った男の同意に、他の者も従う。
「では新藤さんが彼女を買うことになりました」
新藤という、隠している戸籍上の本名を言われて鼓動が高まる。
無事に帰れないかも知れない、というスーツ男は、あの女をイカサマで勝たせるために来たんだろう?占い師、と重ねた。

客としてゲームに参加する事を提案される。そしてここが「クラブ ”R”」である事を告げた。数ある地下クラブの中でも最悪な場所の一つ。
座らされた席には「S」と印字されたネームプレートとチップ。

最初からこのつもりだった?
斜め前の男はプロで有名な男、顔に殴られた跡がある。
正面の男に驚く。以前店に来てプロを負かした男。
順次席が埋まり、スーツの男が挨拶をする。

自らの栓財産を賭けたゲーム。チップの金額の説明。
自分の前に詰まれた6500万円分のチップ。

隠居するために溜めていた全額。

参加者は全部で十名。男八名、女二名。

女の一人は、店に来るスロープレイが得意な常連客。
ルールでは強制的にチップを賭けるシステム。順に回って来るSBが50万、BBが100万。それ以外に参加費が1ゲームにつき10万。

ずっと降り続けても10ゲームすれば250万を失う。
ゲームが始まった。来たカードはなかなかいい。
客のアクションが次第に移って行く。

降りる者、賭け金を上げる者が居る中、以前店でプロを負かした男、イニシャル「M」が「オールイン」と8000万あまりのチップ全てを押し出した。
ゲームに参加するには彼と同額の8000万が必要だが、オールインであれば賭けることが出来る。
テーブルの場が張り詰める、
Mがもし主催者側と繋がっていれば、この勝負に乗ることなど出来ない。
自分の番になる。降りるには惜しい。言葉で兆発するM。


様々な計算が交錯する。
チップへの手の動きを、意識的に行い始めた。

賭けるフリをしてMの反応を窺う。
考慮のためにタイムバンクチップを使って、更に1分の延長。

その間にMの動作を記憶する。次のゲームのための情報。そして自分の仕草にも意味を持たせる。
賭けたい。もう最後までこういうカードは来ないかも知れない。

抵抗する腕を無理に動かし、カードを前に出してゲームから降りた。
先に600万に賭け金をレイズしていた男が硬直している。

手元のチップは4000万ほど。
「オールイン」とその男が言った。目は虚ろ。
「ショウダウン」
カードの開示。Mの勝利が確定した。

負けた男は店の者に引きずられて行く。
最後の5枚目のカードが開かれた。♣のJ。

自分の手元にあったのがJ-J。賭けていたらMに勝っていた。
20年間溜めて来た金が、一瞬で倍以上になっていた。ただ一言「コール」と言っていたら。

残念だったね、と溢れるチップを手にMが笑みを見せて言った。
「・・・臆病者」