新聞小説 「カード師」   (14) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(14) 4/20(196)~5/11(216)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

 

感想
ゲームが進むうちに、次第にジリ貧となって行く僕。
Mの次には経営者のI。挿絵で、なんか今井美樹をイメージしてしまった(彼女も立派な五十代)。そして英語ネイティブのU。
このUとの勝負でイカサマを仕掛けて勝つ僕。それを助けたのがM。

しかしこのイカサマがツッコミどころ満載。
53話で胃薬男に死神カードを出させた時のトリックを流用。

二枚ピッタリに合わせて番号を誤魔化す方法。
だがカードと言ってもプラスチックトランプの厚みは0.25mm程度。二枚重ねたら0.5mm。いくらチラ見せでも、慣れた者なら絶対見逃さない筈。

映像確認で判らないなら、解像度が悪い。
それに摩擦でくっつけるなんて意味不明。

こんなに訳わからん事するぐらいなら、単なるすり替えでいいのに(どうせまた剥がして戻したんだから)。何か凄いテクニックで切り抜ける、というサプライズが欲しかったのだろう。

話を戻して
Mが助けてくれたのは、単なる気まぐれか。ディーラーと組んでUが<10>を使ったイカサマをやった事への怒り。けっこうイイ奴かも知れない。

多少持ち金は目減りしたが、参加メンバーが五人に減った事でゲームから降りた僕は、ようやくYとの接触に漕ぎ着ける。

しかし人間廃業ってなんや? あんなこと?こんなこと?(まあいいか)

ディーラーの「神田」として潜入する筈だった((10)参照)のが、本名まで知られて全財産のチップでゲームをやらされる・・・
市井も知らない情勢の変化があったのか、それも含めて「僕」を試すタスクなのか。

しかしもう、かれこれ半年つき合っているが、未だに黒幕が何なのかも判らないし、キーマンだと思われていた英子は出て来ないし、何か新聞小説としてダメダメやな。

そういえば東洋経済のコラムで中村文則へのインタビュー記事が載っている(ブロ友さん情報)。
42歳にしては若く見える。

2年前に新聞連載された「逃亡者」の出版に際してのもの。
25歳で作家デビューし、18年間一線に居ることへの自負が感じられる(良くも悪くも)
今回のコロナについては天災に近いが、その後に起こるのは人災だと言う。コロナ前に書いた小説が当てはまってしまった・・・
今と戦前戦中の空気が似ているとも。右傾化への危惧。
今回のコロナ騒ぎに関連して、書店に激励メッセージを送ったという。


小説の書き方として、パソコンで打ったあと、必ずプリントアウトして推敲するという。これには好感を持った。
自分は純文学作家だと公言しているので「純文学って何だ?」と調べてみた
上位10点の中で「こころ」「コンビニ人間」「金閣寺」「銀河鉄道の夜」「人間失格」「GO」を読んでる。そんなつもりはなかったが、意外に好きなんか???
だがその公言の後で「僕がそんな甘ったるいわかりやすいもの書いたら、読者さんが怒りますよ」なんてこと言ってる。
純文学だから読み難くしているなんて、何と不遜な。

今まで感じて来た読み難さはこのためか(ガックリ)
まあ、それならそれで付き合い方を変えるまで。

 

 

あらすじ 196 ~ 216
< 人間達 > 1~21
三人消えた。あと二人。僕の手元は4000万を切った。
僕の下にはYが居るだけで、彼女のチップは1000万程度。

消えるのはどちらか。
今まで勝負に参加していない、Yではないもう一人の五十代女性が、僕とYの破産を予測して融資の提案をした。


融資の条件は、皆の前でスタッフの誰かに抱かれること。

男は同性に抱かれることになる。
彼女が、どこかの経営者である事を思い出した。
必要ないと言う僕に対し、Yはお願いしたいと言った。

見ているだけでは本物の世界に入れない、と言うYに女性は、持つ者と持たない者の差について説いた。

次のゲームでYが、近くの男と一騎打ちになって勝ち、手持ちを倍増させた。
Yに負けた男はパーカーにサングラスの、いかにもポーカープレイヤーのいでたち。

 

Yの誘いに乗って騙されでもしたのか、感情的になっている。
次のゲームでもYがパーカー男に勝利し、手持ちが4000万近くになる。

次のゲームでMが500万賭け、僕とパーカー男が同額を賭けたが、Yがレイズして2000万を賭けた。今の僕の手札では出せない。
その時、経営者の女性が4000万をレイズした。そしてYを挑発する。

見ているだけだと言われた事に対する報復か。
そこで英語ネイティブのUが、賭け金を8000万にレイズした。
Mと僕はフォールド。パーカーは同額を賭けた。
更にYを挑発する経営者の女。そして融資の誘い。融資を受けて掛け金を1億にすれば、勝てば4億。融資を返しても手元に3億以上残る。
ただ、負ければ6000万の負債。Yはゲームを降りた。
Yにつられて賭けたパーカーが巻き添えを食う。
経営者の女がコール。

テーブルに3枚のカードが出される。<♢A> <♣K> <♣2> 
Uが同額を賭ける。パーカー男には5000万しか残っておらず、乗るにはオールインしかないが、思考停止を起こしている様に見える。
手元のチップを半分出したが、それでは足りない。

ディーラーに注意され、ようやくオールイン。
次のカードが出される。<♢6>

ミズI。さっきの融資の話は自分にも有効ですか?とUが尋ねる。
自分の4億4000万に加え、融資を受ける3億と合わせ7億4000万のオールインをするという。
賭博狂よりあなたのような人間が恐ろしい、と言いながらもそれを受ける経営者の女、ミズI。19億以上の勝負になった。
「ショウダウン」 彼女は<♣A> <♣K>。

Uは<♡A> <♡K>で引き分け。パーカーは敗北。
チップは彼女とUへ均等に分けられる。
スーツの男に導かれて部屋を出るパーカー男。

恐らく彼に記憶はないだろう。

ゲームは進み、強制的に賭けさせられるSBとBBの金額もアップして、このままでは何もしなくても破産する。
メンバーの一人、六十近いWのネームの男。

 

2億近いチップを持つが、たまに参加しても賭け金が釣り上がるとフォールドを繰り返す。

数回のゲームで、もう2500万ほどしか残っていない僕。
次のゲーム。<♣K> <♣8>
微妙だが賭けるしかない。500万を賭ける。

Uが1000万をレイズ。これを受ければ残りは1500万。
あなたの優れた勘が、この勝負を降りろと言っている。

でも乗らざるを得ない、とU。
そんな状況でコールし1000万を賭けた。他の者は降りる。
カードが出される。<♡Q> <♢Q> <♣J>
もうフラッシュはない。どうしようもない。

経営者の女が融資を申し出る。

断るがディーラーがそれを受け、3000万の借金が成立。
「これがクラブ”R”!この理不尽・・・」と笑うスーツ男。
騙せればUをフォールドさせられる。表情を作ってさりげない演技を行う。
その上で1500万を賭けた。手元には50万しかない。
その50万は・・・帰りの電車賃ですか?とU。
ここでUが乗れば僕は負ける。

無に近づければ強いカードと思わせられる。
多少の疑問を感じながらもUが1500万をコールした。
次のカードが出される。<♢10>
10は全て抜かれていた筈なのに。心臓に痛みが走る。

いつ<10>を入れたのか。Uが主催者と繋がっているとしたら、ストレートかもしくはフルハウス。いずれにしろ僕の敗北。
最後のカードは<♡K>。

他のカードは<♡Q> <♢Q> <♣J> <♢10>
どう考えても<K>のワンペアでは負ける。
Yに視線を送って注意を引けと訴える。例えばチップを倒すとか。
だがYは動かない。
「ショウダウン」 視界が薄れて行く。
Uのカードは<♡A> <♢K> 予想通りストレート。僕の敗北。

その時、不意にMがチップを崩して大きな音を立てた。

そこに皆の視線が集まる。
その瞬間、僕は手元の二枚のカードの下に、袖に入れていたカードを滑り込ませる。


この場で使われるカードの銘柄は市井から聞いていた。
以前タロットで、作為的にカードを選ばせる時に使った手法。

カードの片面に薬品を塗り、摩擦で二枚重ねる。
二枚のうちの一枚に隠してあった一枚を重ね1枚のように見せる。
<♣8>が<♠k>に化け、元の<♣K>と合わせてフルハウスの成立。
Uの表情が一瞬固まる。
すぐカードを裏返し、一瞬手で覆った裏で、貼り付いた<♠k>を剥がして袖に戻し、カードの薬品をテーブルの上で拭って、元の二枚を場のカードの塊に入れた。
そのカードの塊は、他のプレイヤーがフォールドして返したものであり、ディーラーがその中身を確認する事など許されない。
テーブルの下で、<♣K>をズボンの切れ目のポケットに隠した。

「・・・グッド・カード」とUが言ったが、驚きの表情。

やはり主催者と繋がっている。
ばれるだろうか。
ディーラーが、何気ない仕草で戻ったカードを束ごと確認しようとした。
彼を止めなくてはならない。
その時Mが「こうでなくては。毎回U氏が勝つのならイカサマってことになる」と助け船。
スーツの男がそれに同意して場が収まった。
勝った額は3000万に過ぎず、まあいいと彼らも思っただろう。
だが、なぜMが。

次のゲームではカードが悪くフォールド。
今手元は5000万。勝たせる筈だった竹下を「買った」費用500万がここから引かれる。
ゲームを降りる権利を得るまであと一人。狙うのは必然的にY。


更にゲームが繰り返され、増えたり減ったりの状況。
まだ僕の袖には<A>が1枚あるが、それを使う時ではない。

Mが1000万を賭けた時、いつも賭け金が上ると降りるWがコールした。
Uが賭け金を2000万に上げ、すかざずMがコール。
だが降りる筈のWが動きを止めた。
「コール」Wも同額を賭けた
そこでMはフォールドしたが、Wの異常に気付く。顔は紅潮、息も乱れている。
「コ・・・・コ」と言ってテーブルにうつぶせになる。
ディーラーは冷たくコールの確認を行う。
Wは明らかに発作の状態。

「あと20秒です」それはアクションを起こすまでの制限時間。
僕も使った様にタイムバンクチップの使用が必要。

だがWに意識はない。
制限時間が過ぎ、二人のスーツ男がWを引き起こし、他の者同様に引きずって行く。

プレイヤーがゲーム中に死んだ場合の取り扱いを説明するディーラー。
そうなった時点で参加者全員のカードが開示され、勝敗が決まる。
フォールドした者もカードの開示が必要と言われ、Mが不満を現す。
スーツの男が過去の前例を使って説明を行った。
ある客がオールインした時、賭け金を捻出するのに、その彼の一男二女たちの所有権も供出していた。
ショウダウンで対戦相手がスリーカードだと判明した時、その客はカードを伏せたまま動かなくなった。
ディーラーがショウダウンを要求するも聞かず、彼は突然ナイフで自分の首を切って絶命した。
テーブルは血で汚れ、店は被害を受けたが、プレイ中に客が死んだ時のルールがなかったのも事実。
ショウダウン後の、カード開示までの時間も決まっておらず、客以外がそのカードに触れていいかも判らない。
つまり彼は、自殺した事で手元のカードを秘密にする事に成功し、子供たちを守った。
長男、長女の値付けは百万。

次女は大学でミスの称号を得ており四百万だった。
それ以降、客がゲーム途中で死んだ場合は、死んだ時点で成立している賭け金を前提として、全てのカードを開示して勝負を実行する事とした。

残りのカードが開示され、Uは<Q>のワンペア。

、Mは<K>のワンペア。死んだWが<A>のワンペアで勝利。
つまりWは手元チップ1億4000万の上に4000万を得て死んだことになる。

「ゲームを降ります」 僕はややふらついて立ち上がる。

ディーラーも了解。
結局僕は6500万から1500万を失った。

トイレで顔を洗っていると後ろにM。
「帰るのか」
Mはあと2、3ゲームで帰ると言う。あのYを一文無しにしてやりたい。
50万を残した理由を判っていたM。

場のカードが5枚全て出るまで手札を見せないため。
Uがそれに気付いて賭け金を上げ、僕のオールインを強要していれば、あのトリックは不可能だった。
「でもなぜ」
Uが、ディーラーと組んで<10>を使ったイカザマを行った事が看過出来なかった。
用は足さず執拗な手洗いの後、ペーパータオルの一枚目を捨て、二枚目で拭いたM。
Yが自分を無視した事で、何を企んでいるかに興味を持ったという。
「見事だったよ。君の手元を見たが、速くて判らなかった」

感謝の言葉に「礼はいらない」とM。

次にどこかで会っても手加減はしない。
普段は意外にまともな仕事をしているというM。
年々こっちの世界の比率が高くなっている。

今回はヘマをして巻き込まれた。
ポーカー・・・そもそも数字には人を狂わせる何かがある。
鏡越しにこちらを一瞥したM。

「次に会った時は互いにもっと正常じゃないだろう」


竹下は別室に入れられていた。スーツの男が言う。
竹下が何者かは判らない。あなたの目的も。
だがあなたが<K> <K>で勝利した事で気に入った。
勝利した時の表情、まともじゃなかった。

あなたは何かした。でも映像で確認しても判らない。
ああいうやり方は嫌いではない、と言ってメールアドレスだけが書かれたクラブ”R”のカードを出し、ディーラーにならないかと言った。
悪くない、と思っている自分。

竹下の扱いについて訊ねられる。「お楽しみになりますか?」
「・・・どうしようかな」
危機に接した時は性が活性化されると言う。
ドアを開け、男は廊下を戻って行った。部屋に竹下がいた。
手を縛られ、上半身の服がないまま、不機嫌に睨んでいる。

彼女に二つの選択肢を与える。

質問に答え自由になるか。人間を廃業するか。
スマホを出して市井の写真を見せる。「この女性を知ってますね」
そもそも市井に言われ、この竹下を勝たせるために来た。