新聞小説 「カード師」   (10) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(10) 2/25(143)~3/4(151)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ


感想
錬金術師の話がようやく終わり、メインストーリーに戻って来た。
「僕」の商売領域に現れた市井(紗奈)。

奪ったものは返せないが、言われたところに出掛けて、ある男をポーカーで勝たせれば全て教えると言う。
今のところは市井の話に乗るしかない。

 

だがその一方で、佐藤から渡された別の手記を読み始める「僕」。

これがエテカの頃から300年も下った時代の「魔女狩り」の話。

また当分この話が続くだろう(うんざり)
本当に「とらえどころ」のない小説。

最初の紹介記事で「テーマも多岐に亘ります」とあったが、これらをテーマと言えるのか。単なる挿話であり、メインストーリーの伏線にもなっていない(今のところ)。
例えば「ダヴィンチ・コード」辺りなら、当時の絵画や教会制度が、謎解きの直接の道案内だった。

この小説にはそういう導きとしてのものがなく、単に話として記述されているに過ぎない。
将来、小説の完結を迎えて「ああ、そうだったのか」と言わせてくれるのだろうか・・・? 

 

オマケ
カードにGPSを仕込んだ、とあるが、発信器には電源が必要であり、さすがに1ミリ以下のカードに組み込むのは不可能(情報チップと勘違い?)
佐藤に付けられたギミックのリングに対抗しての話なのだろうが・・・
この辺りのリサーチの甘さも、この小説に対する取り組みの姿勢が感じられてツ・ラ・イ

 

あらすじ 143 ~ 151

<賭博者> 1 ~ 9
客が溢れている。不定期な欲望の動きか。
タートルネックの男。ブラックジャックでの「ヒット」の要求。

裏目に出て負ける。まるで負けるために来ているようだ。
もっとシンプルな客もいる。

隣りのルーレット台から動かない、柄ネクタイの男。


かつてわざと勝たせ、強い感覚を植え付けていた。中毒の発生。
快楽を覚えた脳は、反復を求める。
酷く負けている柄ネクタイ。今日の負けで前回の勝利の全てを失うだろう。だが彼は終わらない。もう終わることが出来ない。

 

ドストエフスキーの「賭博者」という小説のレクチャー。

サド性とマゾ性に関する解釈。
ジョセフ・ロージーの映画「エヴァの匂い」の中での、サド性とマゾ性にも関連を見出す。
賭け事全般についても、その対象が作り出す幸運と不運の支配下に入り、快楽と絶望に振り回される。
賭博に嵌る人間はマゾ的属性を持つ。

ここに来て、コントロールされたがっている人間たち。

 

だがポーカーは、他のギャンブルよりゲーム性が強く、ブロと素人の差が歴然としている。
常連客の痩せた男。自分が最も強い役を成立させていると確信した時、スロープレイになり、相手を誘い込む。
序盤では場の他の者の動きに合わせているが、相手が引けない状況になった時に賭け金を上げた。

そして互いのカードがめくられ、痩せた男の勝利。
彼は多分金のためにポーカーをしていない。
スロープレイを楽しむ女性客も居る。そんな時の彼女は、性的な行為にも感じられる。被虐的に見える姿に、男は群がり戦いを挑むが、最後に微笑むのは彼女。

 

「待ってるんだから、早く配って」
声が聞こえてブラックジャックのテーブルに向き直る。

市井が座っていた。
平静を装ったが、少し遅かった。

カードを二枚配る。

彼女がここに居る事実に、意識がまだついてこない。
♢7と♣Jで計17。「ヒット」の言葉。

もし4を超えるカードを出して21を超えると負け。
ここはステイの方が、との助言にも「ヒット」
カードは♠4で彼女の勝ち。

 

目的があって近づいた事に、なぜ、と問う。
三年も前に受けた面接の相談をしたのは、あの時自信がなくて飲まれた事から、受ける前に占いをしていたら、と興味が湧いたから。
彼女がまたカードを要求し、再び彼女の勝ち。

本当に聞きたい話を始める彼女。

盗んだものは、全て第三者に渡している。
ここに来たのは取引きをしたいから。
この場所に行けば、全部を話すと言われて渡された封筒の中の紙に、日付と時刻、住所が書かれている。
ここのディーラーになって、竹下という人物を勝たせろと言う。
ゲームはポーカー。

カードも渡された。神田と名乗れば全て通るとの事。
これをしても全てを教えてくれる保証はない。

だが、あなたに選択肢はないと言う彼女。
席を立つ時、私の名前、覚えました?と問われ、紗奈さんでしょうと答える。「やっと覚えたみたいですね」

わざと勝たせていた。

換金カウンターに向かう彼女に10%オフの会員証を手渡す。
こんな時にも営業、と笑う紗奈。それはGPSだ。

 

どうすればいいか。思わずタロットに手が伸びる。

信じていない筈が、自分の運勢を占っていた。
自分の運勢。今は凶。何が起きてもおかしくない。

注意すべきが女。苦い笑い。
タロットカードを切って並べる。悪魔、吊るされた男、塔。


カードを戻し、何度も切る。再び現れるカードに悩む。

佐藤から受け取った、別の手記を手に取る。

「一五八三年 ヨーロッパ南部 魔女狩りの記録」とある。
エテカとは別の人物が書いたもの。