新聞小説 「カード師」 (3) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(3)  11/2(32)~11/18(47)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

 

ルームサービス 1~8
僕の占い部屋を訪れた、佐藤の女性秘書。占いが当たったという。
株で彼の会社に劇的な利益をもたらした。
あのケースでは株しかないと思い、ノートについてはペンだこからの類推。
だが、ヤマを張ったに過ぎないものを実現させたのは英子氏達だろう。
仕事の中止を伝えたのに、ここまでした。それほど重要な男なのか。

明日の十六時に、契約を結ぶため来てほしいとの伝言。ただ彼女は本日退職するとの事。
僕が言った、捨てられるとの占いは単なるきっかけだと言った彼女。

 

出されたコーヒーに口をつける彼女。

コーヒーは好きだが占いは嫌いだという。

 

会ったばかりの占い師に人生を決められたくない。
占いは力。現実だけ見つめて生きるには、この世界はあまりにも厳しい。だからそういう力が必要、と僕。
試しに占いますか?と誘う。一枚だけ引くタロット。

 

迷いながらもカードを引く彼女。出たのは死神。
あの男に使えると思って用意していた束を出してしまった。

こわばる彼女。
「これは悪いカードじゃない」

カードにある太陽を指して、再生でもあると繕う。
「あなたを占ってるのかも知れない」目の前の相手を念じて引いたのだと言う彼女。悪い結果だった時の保険。
ポケットからレコーダーを出して電池を抜いた彼女。

 

「彼は人を殺してる」と言う彼女。それも一人ではない。
ある男が彼・佐藤に報告するのを聞いていた。その時の自分は少し麻痺していた。失敗したら仕方ないと思う自分。
佐藤は男に食事する事を命じた。

ルームサービスのメニューを見せられ、和定食を選んだ男。
運ばれた食事を食べ始める。


最初はサラダ。もうすぐ死ぬのに健康を考慮している。
次いでステーキ。沖縄産の塩を付けた。そして豆腐。

更に刺身、天ぷら・・・
全て食べ終わった時、一本の映画を観たような気がした。

佐藤が男に聞く。

ステーキに塩を付け過ぎた時、なぜサラダではなく豆腐に行った?
豆腐にかかったソースが甘そうだったから、と返す男。
それが最後の会話。

男の秘書二名に連れられて男は去った。その日に男は死んだ。

男が去った後、食事について佐藤と話した彼女。

最後に残った漬物を無理に食べた姿を笑う佐藤。
「その男性は占い師でした。あなたの前任の」

無表情を装うが、鼓動が乱れ始める僕。

 

佐藤には関わらない方がいいと言う彼女に、そのまま言葉を返す僕。
心配ないと言う彼女。佐藤は一度関係を持った女性は殺さないという。
そして腕のGPSリングはフェイクだと言った。

彼女が去ってから、自分のペン型レコーダーを止める僕。
英子氏に電話をかける。以前は繋がり難かったが、すぐに出た。


電話が来たことで占いの成功を祝う英子。
子会社のファンドに仕掛ける案件を、たまたま今回のタイミングに合わせたと種明かしをする英子。
それぐらい、あの男に人を送り込む事が重要。
佐藤が殺しまでやる事を伝え、降りると言う僕に 「--駄目」
今回以外にもかなりお金を使っている。あなたは降りられない。

今までの依頼との違いに、チェック柄が話していた”権力の動き”を思い出した。
部屋に来ませんか、という誘いに軽く笑い、電話が切れた。
あの男は騙し続けられない。

だが英子氏達から逃げるのも不可能に近い。
タロットを引こうとしてやめる。意味がない。

 

 

ヒトラーの占い師 1~8
佐藤の待つホテルに出向く僕。

あの女性秘書はおらず男性秘書が応対。

前回同様の白いトレーナーの佐藤がファイルを見せる。

「これが何か、わかるか」
三枚の写真。大きな石、何かの用紙、♢の4のトランプ。


「わかりません」 説明が始まる。
石は、ある南方の部族の英雄を殺したもの。戦勝した翌日、転んだ時にその石に頭をぶつけて死んだ。その石はずいぶん前からその目的のために埋まっていた。
書類は、不渡りになった19世紀のフランスの手形。この書類で、ある商人が死んだ。
カードはポーカーに使われたもの。ある天才プレイヤーが、40万ドルの返済に迫られた。必死にプレイし、何とか12万ドルに漕ぎ着けた時に勝負の時が来た。相手は地元の、太った道楽息子。
仕上げの一枚を待たずに全額賭けた(オールイン)。キングかジャックが来ればフルハウスで勝利。
だが現れたのがこのカード。道楽息子の勝利。
このカードも製造された時から、様々な勝負を経ながらずっとこの時が来るまで待っていた。

 

続ける佐藤。
私にとっての、その様なものを事前に見つけたい。

どういう経緯でそれによって終わらせられるのか。排除するのではなく、知った上での顔合わせ。その瞬間に興味がある。
彼は狂っているのだろう、と思う。なぜこうまで「こう」なのだろう。

更にケース付きのトランプの束を見せる佐藤。ヒトラーの占い師が使っていたものだという。名はハヌッセン。ユダヤ人である事を隠し、ヒトラーの演説を指南した。
ハヌッセンに関する人物描写がしばらく続く。
ここで動揺してはならない。

 

彼は、国会議事堂放火事件を予言した事で殺されたと言われる。人々から称賛を得る誘惑に負けて、越えてはならない一線を越えた。

その彼が使っていたトランプをくれてやると言う。

ハヌッセンがやったのは、タネのある透視術や、盗聴による事前把握などで、トランプは聞いた事がないが・・・

「ありがとうございます」と受け取る。

契約に入る佐藤。まず一年。月200万で年間2400万。専属ではないが、呼んだらすぐ来ること。
「それと・・・髪と爪だったな」
銀の爪切りで切り、髪は黒いナイフで少量切った。白手袋をつけ、用意して来た小箱に納めた僕。リングを外す事の了解を得る。

 

次いで男を写した二枚の写真を見せる佐藤。

どちらに先に会うべきかを見て欲しい。
カードで占おうとするが、うまく行かない(と見せかける)。
彼らの名前が必要だと言うと、意外そうな態度。

出来れば生年月日も。
前回の占いからあまり日が経っていないのが理由だと説明する。
一度持ち帰り、必要な情報を受けた後メールで伝えると言った。
不満そうだったが、男は受け入れるしかない。
今日は秘書が送れない(子供の迎え)と言った後、さっきのトランプは♣の5と♣の4に前の持ち主の血がついていると言った。

前の占い師がその持ち主だったという。

 

男の部屋を辞し、タクシーで帰る。一年も出来るはずがない。
写真の二人と英子氏達との関係を思い、終わりになる事を願った。
占い用のマンションで男が待っていた。英子氏の同僚。

山本という名を思い出した。
「依頼がある。ついてこい」との言葉に、別の案件を受けている、と断る。空にプロキオンが良く見えた。
「今は英子か?」の問い。

情報の共有がなっていない事に苦言を言う僕。
「俺たちが居なければお前は完全に無意味だ」の言葉を無視する。

 

マンションに入り、ソファベッドを倒して横になる。

占いの場で生活感を出したくないが、契約の間は仕方がない。

 

「面接に、落ちました」市井が言う。

彼女が入って来た時から嫌な予感。
前回の励ましはタロットの偽装。僕に占いの力はないが、なぜかうまく行くと自分でも信じていた。まずは聴く時。

 

高圧的な面接官に、対応が判らなくなった。

気持ちよさそうだった面接官。

 

 

感想
あの男・佐藤への占いが当たった。それはやはり英子氏達の関与。
佐藤と本格的な契約を結んだ後に出された、二人の男の写真。
そして市井が面接に落ちたとの報告に来て、次章「女帝」へ続く・・・
ハヌッセンの話は実話。ネット情報

 

しかしここまで来て、パターン化された進め方に少しイラつく。
自分より上手に潰されたプロの話、イカサマを疑う「腕時計」の話、岸田亜香里の幼い頃、ディオニュソスの話、そしてハヌッセン。

道楽息子の件も前の話の焼き直し。
結局エピソード話ばかりに埋没していて「思わせぶり」なだけ。
特に女秘書の話した、殺された占い師が和定食を食う順番なんて・・・どーでもいいだろ。塩を付けたの、漬物を残したの・・・

 

要するに一人称だから世界観が広がらず、エピソードに頼る事になる。エピソードが登場人物の本人由来ならまだしも、無関係なものが多すぎる。
その点で言えば前作の「ひこばえ」は、ツッコミどころが多々あれど、同じ一人称でもエピソード話でページを稼ぐような事はそれほどしていなかった。
それともこういった駄エピが伏線となって、あとで効いてくる?(それも疲れるナ)

これがこの作者のスタイルなのだろうか。今までファッショナブルな挿絵に騙されて来た様な雰囲気があるが、ちょっと気になる。

 

挿絵といえば「ヒトラーの占い師」の章の一番上のヤツ。シワの入った、紙の様な、布のようなものであり、文章とは直接繋がらない抽象画(それとも英雄を殺した石の一部?)。新聞では白黒だったが、全く色の変化が判らない。いくらコスト上の制約があるとはいえ、これはカラーにせんといかんだろう。担当のダメっぷりに驚く。
挿絵でもう一つ。
挿絵の男は「僕」なのだろうか(ハヌッセンではないよな)。

何か若い時のハンフリー・ボガードみたい。

でも顔出しまでして名前も判らないなんて。

それとも顔出しNG?(ケイさん叱られてたりして・・・)

訂正
43話の男はどうもハヌッセンの様です(ゆきぷうさんご指摘)。
ただ、調子に乗りすぎた愚か者には見えんナー。
こちらが実物のハヌッセン。43歳没という事だから、挿絵はちょっと若すぎるな(まだ言ってる)