火の鳥 乱世編   1976年  作:手塚治虫 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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火の鳥 乱世編

 

感想

ざくっと言えば、源平合戦に火の鳥のテイストを織り入れて組み立てたドラマ。
平家の永続を願う平清盛が、宋から火焔鳥を持ち帰らせる。
山で静かに暮らす木こりの弁太と、そのいいなづけのおぶう。
それが離ればなれにされ、おぶうは清盛の側室吹子、弁太は牛若(後の義経)の家来となる。

弁太が後の弁慶というのには少し違和感がある。伝え話として有名な五條橋での出会いはなく、独自の解釈で話が進む。

清盛と義経の関係を、猿の赤兵衛と犬の白兵衛に置き換えて表現する。それは義経の死後も続き、冥界で二人を引き合わせた火の鳥が、再び下界へ猿と犬になった二人を送り込む。

そして繰り返される協力と離反。

清盛が手に入れた火焔鳥は本物ではなかったが、逃げた鳥を追いかけ、苦難の末に病床の清盛に持ち帰る吹子。

だがその甲斐もなく清盛は没する。
弁太を家来としてさんざん引き回した牛若(後の義経)。

幾多の理不尽に耐えながらも、辛抱して附いて行く弁太だったが、最後に義経の顔を潰して殺す。

火の鳥としての見せ場はほとんどなく、やや物足りない感じはするが、元々火の鳥は全能者として人の前に君臨する者ではなく、対象の者にほんの少し手を添えるだけ。


あらすじ
<上巻>
1172年 京都
飯森山の茶飲み峠から町に出て来た弁太。

争いに巻き込まれるが天台座主 明雲に救われる。
町で櫛を拾って帰る弁太。山に戻り、いいなづけのおぶうに櫛を渡す。
弁太の母親とおぶうの父親が一緒に暮らし始めて十年。以来この二人も自然に同居している。都に出たいおぶうをけん制する弁太。

明雲と話す俊寛

平家を倒そうと画策する俊寛は藤原の成親が櫛を落とした事を知る。
父親の薬代に、櫛を商人に渡したおぶう。それが役人に見つかり、おぶうは拉致される。それを知って逆上する弁太。

拉致されたおぶうは平宗盛の屋敷に連れて来られ、その妻 葦の局の手で姪として作法を仕込まれる。
五條橋のたもとでさむらいを脅してはおぶうの消息を聞き回る弁太。

明雲が寺で描く「鳥獣戯画」。同席の鳥羽僧正覚猷に作を譲る。

その一方で弁太を描き、武蔵坊弁慶と名付けて小説の主人公としていた。平氏が滅びると言って覚猷を恐怖させる明雲。

葦の局に連れられて平清盛に面会するおぶう。吹子と名付けられた。
鳳凰の元になっているという火焔鳥に夢中の清盛。

吹子の美貌に惹かれて側女にする事を決めた。
口を吸われた後、涙を流し弁太の名を呼ぶおぶう(吹子)。


五條橋で侍から刀を撒き上げる事を繰り返している弁太は、この辺りを縄張りにしているヒョウタンカブリから、乞食組合に入る事を勧められ「神サマ」の元へ案内される。
「神サマ」は両腕がなく、鼻の大きな男。かつての我王。

弁太を見て、昔いた仏師の茜丸に似ていると言った神サマ。


神サマの元に居る牛若に、弁太と手合わせをさせる神サマ。
牛若に挑発されて丸太を振り回す弁太。おぶうを救い出してやると言った牛若は、平一門を仇と言った。


牛若と弁太に見せたいものがある、と言って山を上る神サマ。

そこには赤兵衛、白兵衛という二つの墓。
赤兵衛はサル、白兵衛は犬。
四十年ほど前の事。赤兵衛と共に、黒兵衛というボス猿がもう一匹おり、それに負けて赤兵衛が深手を負って神サマの元に来た。

そんな頃神サマは白犬の子供も拾って来た。
犬と猿との同居がうまく行く筈がない。

だが一緒に暮らすうちに互いが助け合う様になった。
ある時、赤兵衛が友情の証しを白兵衛に求め、黒兵衛との対決に白兵衛が姿を見せた。

犬に仰天した黒兵衛が負け、山での権力取り戻した赤兵衛。
だがその後一年程で二匹は噛み合って死んだ。犬と猿だから気が合わなかったという弁太に「輪廻転生の宿命だ」と言う神サマ。
源氏は白、平家は赤、となぞかけを疑う牛若。

牛若を呼んで輪廻転生を説こうとした神サマだが、取り合わない牛若。そうこうするうちに体が弱る神サマ。
山頂まで運んでもらい、静かに息絶える神サマ。

1176(安元2)年 正月
一族を集めて年始の祝いを行う清盛。一族を心配する思いが募る。
不吉な白昼夢を見て怯える清盛を慰める吹子。
火焔鳥を思い出し、その血を飲んで寿命を延ばすことに執着する清盛。
清盛は、突然都を京都から福原に移す事を決め、1162年から工事は始められた。

屋敷の偵察に来たヒョウタンカブリは、吹子と話すチャンスを得た。
弁太に、明後日吹子に会わせると言うヒョウタンカブリ。
会いに行くといきり立つ弁太に「だんどりと作戦がある」と牛若。
牛車を奪って火を点けて邸に突っ込み、騒ぎを起こして奪い去る作戦。

牛車を待ち伏せる牛若たち。けしかけられて牛車を襲う弁太。

吹子を見つけ、連れて逃げようとするが、逃げるとは言っていない、と言う吹子。部下たちに取り押さえられる弁太。
激怒した清盛が弁太を処刑しようとした時、吹子がその命乞いをした。

今までのいきさつを全て話す吹子。
吹子を愛する清盛は、弁太を殺さず島流しにする事で許した。

護送される途中で逃げ出した弁太を助ける牛若。

平泉の藤原家へ行くのに同行せよ、と言う牛若に反発する弁太だが、一緒に居た商人の吉次から、吹子の手紙と形見の髪を見せられて、付いて行く事を決めた。
 

1176年。源義経17歳(幼名牛若丸)。藤原秀衡を頼って都を去る。
不作法な牛若に閉口する家臣だが、源氏の世が終わるのを見越して恩を売る計算をする秀衡。
弁太に、武士になれと言う牛若。

名乗りは飯森弁太山妹(いいもりべんたやまいも)。

1176年。福原に一艘の宋船が着いた。火焔鳥の到着。

喜ぶ清盛だが、鳥は怯えるばかり。
吹子には心を許すため、鳥の世話を任せる清盛。だが鳥はニセ物。

 

すぐに生き血を飲むと言う清盛に、神様にお告げを立て、良き日を決めてからにと説得する吹子。
その晩、永遠に生き続ける地獄の夢を見る清盛。

鹿ケ谷の秘密会議に呼ばれる後鳥羽上皇。打倒平家を約す関係者。
明雲を訪れる俊寛。鹿ケ谷での会議で革命実行を4月13日とする事を告げるが、民衆がついて来ないものは失敗する、と反対する明雲。
陰陽師からの知らせで生き血を飲む日が4月13日だと知る清盛。

4月13日未明。比叡山延暦寺。松明を持つ修行僧の集団。
革命潰しを狙って明雲が仕掛けた作戦。
その事を知った後鳥羽上皇は、明雲を都から追放する。

だが護送の途中で僧たちが彼を取り返す。

都に火がかけられ、清盛の元にも迫って来た。
火焔鳥も避難させよとの指示で動かし始めるが、箱が壊れて鳥が飛び出す。
鳥を追う吹子。

屋根にまで上って鳥を抱き寄せる吹子だが、崩れる建物。
ヒョウタンカブリが吹子と鳥を見つけ、船でアジトまで運ぶ。
逃げ出そうとするが、体が言う事をきかない。

当分保養だ、とヒョウタンカブリ。

火焔鳥と吹子をなくして取り乱す清盛。
多田行綱の密告で俊寛らの謀反を知り、流罪にする清盛。

後鳥羽上皇にも攻め入ろうとする清盛。

都の変事は藤原秀衡の元へも届いた。

吹子の死を聞かされ泣きわめく弁太。
弁太を慰め、村の豊年祭りに誘い出す牛若。

ヒノエという女に好かれて家まで押しかけられる弁太。

ヒノエを一晩泊めるが、翌朝家財道具が一切ないのに驚く。
札付きの結婚詐欺だと近くの女に教えられる弁太。

村の者がヒノエを捕まえてくれて家財道具は戻った。
それを許す弁太だが、再び盗んで逃げだすヒノエ。
牛若がヒノエを馬で追いかけて捕えて戻る。

お人よしにもほどがある、と怒る牛若。
ヒノエに餞別を渡して別れる弁太は、お寺に頼んで小さな仏像を譲り受け、それに向かって一心に祈った。
そこに戻って来たヒノエ。一緒に拝ませて欲しいと涙を流す。
男と寝ると、発作的にものを盗みたくなるのだと言う。

新しい歴史上の人物、源頼朝が登場。
文覚上人に和泉判官兼隆の討伐を報告する頼朝。

そして源氏の再興を誓う。

清盛は鹿ケ谷の陰謀、重盛の病死などで心を乱す。
火焔鳥や吹子に執着する清盛。
明雲に、死後の世界の事を聞く清盛。

死んでからの生まれ変わりを説く明雲。




<下巻>
1181(治承五)年2月27日。清盛の重体が伝えられる。

ヒョウタンカブリの元で保護されていた吹子が、清盛の危篤を教えられる。
清盛を助けに行くため、火焔鳥を持って都に行こうとした吹子だが、ヒョウタンカブリはその鳥を殺してしまった。
鳥の死骸を包みに背負って都に向かう吹子。
その道中を遮る番兵のところに明雲が通りかかり、吹子を清盛のところまで連れて行った。
鳥の血を飲まされるが、息絶える清盛。

清盛の死後、木曽義仲が叛乱を起こし、都に攻めのぼった。
一方平氏一族は西方に落ちのびる。
僧たちが叡山への避難を進言する中、明雲は吹子に、平民に戻れと言って寺から去らせた。
木曽義仲が隊を率いて明雲を訪れる。

一族のために火焔鳥を手に入れたいと言う。そんなものはこの世にないと否定する明雲を殴り飛ばす義仲は、腹いせに寺を焼いた。

奥州平泉の里で出陣の準備を整えている源義経。

出陣の支度をしていない弁太を叱りつける。
泣いて止めるヒノエだが、それを諭して出掛ける弁太。

寿水3年1月20日。京都 宇治川
侵攻のため川を渡ろうとする義経に、冷たい川を兵士が渡るのは消耗が激しいと進言する弁太。
だが強引に行ってしまった義経。
自分の隊は筏で渡ろうと、材木を切り出す弁太。
筏で川に乗り出すが川下に流される。
ようやく渡って戦場に辿り着くが、既に戦は終わっており、あるのは死骸ばかり。

隊を追って山越えの途中で、傷付いた武将に出会う弁太たち。木曽義仲の伯父、志田三郎義教(よしのり)だった。
首を取るように言う部下を止めて手当てした弁太は、義教を背負って、彼が持っていた笈と共に都を目指す。
だが義教はそこまでもちそうになく、笈の中味を義仲の奥方、巴御前に届けてくれと弁太に頼む。
それは火焔鳥の死骸。平清盛が宋から取り寄せたもので、天台座主 明雲が埋めたと聞いて掘り出した。
不老不死の噂を聞いていて、自分もその血の固まりを食べたが、こうして死ぬ身だから効き目はない・・・
義仲は火焔鳥に取り付かれているから、それを見せて落ち着かせてやりたい、と言い残して息絶える義教。

寿水3年1月21日。加茂 六条河原
義仲と義経の一戦。戦に負け、巴御前と敗走する義仲。

そこに火焔鳥が見つかったとの知らせを受け、戻ろうとする義仲だが、泥田に馬が嵌り動けない。
ずっとつけ狙っていたヒョウタンカブリが、義仲を矢で射殺す。
義経の元に義仲の首が届いた。

兄頼朝が鎌倉に戻るよう伝えるが、平氏討伐に燃える義経。

吹子は平氏の、山側の守りが全くない事に危惧を抱く。
野良着に着替え、家臣を連れて一の谷を偵察に行く吹子。

一方、一の谷に集結する義経の軍勢。明るくするため、民家に火をかける様命令する義経。反対する弁太だが逆らえない。
火をかけた時にヒョウタンカブリが飛び出して止める。

再会を喜ぶ弁太だが、罪もない者に害を加える義経が許せない。
昔はもっと分別があった、と咎めるヒョウタンカブリを斬り殺す義経。
鵯越(ひよどりごえ)に出発する義経に続く弁太。

途中何名か崖から落ちるが意に介さない義経。

1185年3月24日 壇ノ浦の合戦
敵の船上におぶう(吹子)を見つける弁太。オイラのところへ来いと言う弁太に、平家の女だから行けない、と吹子。
吹子の乗る船に乗り移った義経が、吹子を斬り殺した。
壇ノ浦での戦勝を喜ぶ頼朝。だが家臣が火焔鳥の事を告げ口。

義経がその血を飲めば天下を取られる・・・

後鳥羽上皇の元に身を寄せて任官を待つ義経。

恨む弁太だが、縁を切ることが出来ない。
上皇に、義経を鎌倉に寄こせと言う頼朝。

さもないと都に攻めのぼると脅迫。
そんな折り、暗殺されそうになった義経は、その刺客から火焔鳥の話を聞く。血を飲む前に殺せと頼朝から命令されたという。

街に義経追放の触れが出て逆上する義経。

頼朝に屈して義経を斬り捨てた上皇。
弁太たちと共に都を逃げ出す義経。訳がわからず腹を立てる弁太。
山伏を襲って着物と食料を奪った義経に怒る弁太。

だが平泉に戻ってヒノエと暮らせと言われて、またついて行く。

平泉に戻り、ヒノエと再会する弁太。元の木こりの生活に戻って喜ぶ。
そんな日も長くは続かず、ある日武装した義経たちが家を占拠。
この平泉の藤原氏が敵だと言う。鎌倉の圧力で義経の敵になった。
お断りだと言う弁太だが、もう敵に囲まれている。
刀を突き付けられ、やむなく防具を付ける弁太。
お前のためにみんな殺され、家まで乗っ取られた。

でもオイラの命だけは取られたくねえぞーっ。
そして丸太を手にすると、取り巻きの兵士に殴りかかる。

最後には義経の顔面を潰した。
ヒノエを背負って敵を倒しながら逃げる弁太。

弁太とヒノエがその後どうなったか、歴史には何も書かれていない


冥界で顔を合わせる平清盛と源義経。
そこに現れる火の鳥。二人はずっと以前に遡って生まれる、次の世界でも敵同士だと言った。同じ宿命。
それは権力が欲しいために!


鞍馬山に生まれ、成長と共にリーダーとなったサルは若く美しいメスを愛していた。
そのメスに目をつけた離れザルが戦いを挑み、負けるボスザル。

瀕死の状態で鞍馬山の天狗に見つけられたサルは、赤兵衛と名付けられた。天狗は大きな鼻で、両腕がなかった。
群れに戻って地位を取り戻そうとする赤兵衛に、むなしさを説く天狗。
傷の癒えた赤兵衛に、白兵衛と名付けた子犬を拾って来た。
最初はいがみ合うが、月日を重ねるうちに兄弟の様に仲良くなる二匹。

白兵衛を伴って山に登る赤兵衛。ボスの座を奪ったサルへの挑戦。
戦いの頂点で白兵衛が姿を現し、それに気を取られた相手を倒した赤兵衛。赤兵衛は白兵衛に感謝し、それを白兵衛も受け入れた。

双方に仲間が増えて、犬の群れにサルが威圧される様になったため、赤兵衛は白兵衛に交渉する。
だが互いに相手の数が多すぎると言うばかりで解決しない。
白兵衛の方が話し合いに行こうとした時、赤兵衛たちは木で道を塞いでいた。そして始まる闘争。
あくる日、もつれ合ったまま血と肉の固まりとなって息絶えた二匹を見つけた天狗。
二匹を並べて葬り赤兵衛、白兵衛の墓を建てた。