火の鳥 未来編 単行本③ 作:手塚治虫 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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未来編  初出:「COM」1967年12月号 ~ 1968年9月号

 

感想
黎明編の続きか、と思いきや、はるか未来の話。
核戦争の末に地上で住めなくなった人類。5ケ所残っただけの地下都市も愚かさのために全滅。
それから三十億年にも亘るマサトの見守り。ちょっとバカらしいほどの時間的スパンの長さ。
特に印象に残ったのは「ムーピー」。好みの容姿で、楽しい体験をさせてくれる・・・そらー人間、堕落するだろう。

物語の終盤で「黎明編」と組み合わさる事により、最小的な「火の鳥」の構成として完結(連環)可能となっている。
後に描かれる各編は、時代としてこの話の間に含まれる形。
手塚の、この構想は最初から意図していたのか、未来編が終わってから延々と描き継ぐ決心をしたのか、その辺は判らない。

 

人類の愚かさが何度も繰り返し語られる。
現実世界でも、地上にある核兵器で、人類を含めた動物を何十回も絶滅出来るという。本当に愚かとしか言いようがない。

 

宇宙は意識体である、という概念は小松左京が「果しなき流れの果に」で表現している(書評   ガイド版)。この小説の発表が1965年だから、手塚がこれに影響された面があったのかも知れない。

 

それにしても、現在の最新研究で言われている「宇宙は生きている」という概念をあの時代に、これほどの確信を持って描けたというのは、本当にすごい。

 

 

あらすじ

西暦3404年。地球は急速に死にかかっていた。人類は「永遠の都」として世界に5ケ所の地下都市ユーオーク、ピンキング、レングード、ルマルエーズ、ヤマトを作り、それぞれ500万の人が住んでいた。

 

メガロポリス・ヤマト。
海で泳ぐ山之辺マサトとタマミ。呼び出しのベル音で現実世界に戻される。バーチャル体験。
マサトはテレビ電話でロックに呼び出される。同期なのに上司の立場のロック。
ロックはヤマトに、同居しているのはムーピーではないかと尋ねる。タマミは親戚だと否定するヤマト。
ロックの解説。ムーピーは50年前にシリウス12番星から連れて来られた不定形生物。望む形になれるため、ペットとしてどんどん繁殖。中には人間の姿をさせ、家族としたケースもあった。
ムーピーの持つ、人を心地よくさせる能力。ムーピー・ゲームという疑似体験。それが人々の気力を奪い、亡びつつある太陽系の中で人類生き残りの妨げになっている。ムーピーは危険な生物。
中央本部は3年前からムーピーを絶滅させる命令を出していた。
ロックはムーピーを今夜のうちに始末しろと命令。仕方なく命令を受けるマサト。

 

自宅に戻ってタマミを殺そうとするが、どうしても出来ない。マサトはタマミを連れて逃げ出す事を決心。
だが証明書のないタマミには列車の乗車券も入手出来ない。やむなくいかがわしいホテルにいったん投宿。支配人に口止め料を渡す。マサトが追われていると知って通報しようとする支配人。
電子頭脳「ハレルヤ」に面会するロック。ムーピーの生き残りが居ると伝えると「お殺し」と一言。
ホテルから逃げ出したマサトとタマミ。行き場を失ったマサトは地上への脱出を考える。タマミは反対するが逆らえない。

極寒の地表に出る二人。

 

地表にある建物。研究所だった。人造生物ブラドベリィに話しかける猿田博士。外に出たいというブラドベリィに、その羊水から出れば死ぬと警告。どうしても出たいと言うブラドベリィに、一度だけ、と羊水を抜く。
歩き出したブラドベリィだが、すぐに倒れて溶けてしまった。
猿田博士は、滅びゆく人類を前にして、新たな生物の創造を試みていた。だが人造生物はみなガラス管の、人工羊水の中でしか生きられない。天に向かって生命の秘密を教えて欲しいと叫ぶ。
そこに姿を現した火の鳥。神か?と問うと否定。
地球が死にかかっている、私は地球の分身だと言う。
どうすれば治せる?と問う猿田に、これからここへ来る人間なら治せる、と言う火の鳥。
そこへやって来る人影二つ。ロボットのロビタに回収を命じる。
ロックの指示で追跡隊が出発。

 

目覚めたマサトは猿田博士に、タマミに会わせろと迫るが、別室で治療しているという。
タマミは羊水の中で治療を受けていた。猿田博士の名はマサトも知っていた。
伝説の人。宇宙生命に関する膨大な研究の後、地球に戻ったが地下生活を嫌って一人地上で暮らしている。

 

 

追っ手がドームに迫っていた。迷惑がかかるから、とタマミを出して逃げようとするマサトに、ムーピーはしばらく養生させると言う猿田博士。
追っ手に対抗するため、女性型のロボットを多数出す。
ロビタの話す女性ロボットの理由。醜い顔で生まれた猿田博士。何度手術しても良くならず、恋人も作らず、結婚もせず・・・
ロボットで恋人を作り、夫人を作り、娘を作り、何人も何人も。
口先だけの愛情に辟易してロボットの声帯を外した。そして役に立つ日を待ちながら、ロボット達は長い間保存されて来た。敵に立ち向かって次々に自爆するロボット。追っ手は全滅した。
ここに留まる決心をするマサト。

 

代表者会議。電子頭脳ハレルヤの指示を優先させるため、市長を不信任にする動き。
ロックは追跡隊の全滅を知り、隣りの都市レングードの仕業だと先方に抗議。先方の電子頭脳ダニューバーの命令だと決めつけるロック。逆にハレルヤのを間違いだと言うレングード側。
コンピューター同士の対決になる事をハレルヤに知らせるロック。私の計算は変わらないと言うハレルヤ。
市長については危険思想だから追放を命令。更にロックの恋人についても、幸福になれないから別れろとの指示。
指示通り恋人と別れるロック。

コンピューター同士を、対決のため接続する12時が来た。お互いが正しいと言い張るハレルヤとダニューバー。延々と続いた論争の結果、両国の間で24時間以内に戦争を開始する事が決定した。
途方に暮れるロック。

 

猿田博士の助手として働くマサト。外に出られない人造生物たちを哀れだと思うが、猿田博士は電子頭脳の言いなりになって地下で暮らす人間の方が哀れだと言った。
猿田博士はマサトに、ムーピーのタマミを研究のために貸して欲しいと申し出るが、断るマサト。
タマミに会いに行くマサト。タマミはもう治ったからここから出して欲しいと懇願。
だがあと1ケ月はここに入っていないと、人の形を保てない。
動物の世話をしに行くマサトと入れ替わりにタマミに話しかける猿田博士。
人造生物をいくら育てても外界で生存出来ず、研究を進めるために君の体をくれないかと申し出る。それをすると、多分タマミは死ぬことになる。
人類にはこだわらない、何かひとつが生き残ればいいと言う猿田に、明日まで返事を待って欲しいと言うタマミ。

戦争に向かってカウントダウンが始まったヤマト市とレングード市。
スパイを使って20時間後に、レングードの司令部を破壊する爆弾を仕掛ける、というハレルヤの指示を遂行したロック。だが相手も同じような事を考えている筈。
このまま死ぬのがばからしくなり、都市から脱出するロック。

 

エアカーで地上を走るうちに、猿田博士の研究所を見つける。中に入ってマサトと出くわす。タマミを殺しに来たと思ったマサトが殴りかかり、闘いとなる。
殴り疲れて休んだ時にロックが、あと1時間でヤマト市とレングード市が消滅すると話す。
開戦時刻になり、大きな地震がドームを襲う。更に他の三都市からも応答なく、五つ全ての都市が核爆発で消滅した。
今までの人類の推移を振り返るロック。二十一世紀にはまだはつらつとしていたが、二十五世紀に文明が頂点に達した後、衰退が始まった。
皆昔の生活やスタイルにあこがれ、二十一世紀ごろの文明に戻ってしまった。老化現象を辿った人類。
電子頭脳の奴隷だと責めるマサトに、ロックは体外受精でチューブの中で生まれたと言う。ハレルヤが選んだ精子と卵子から生まれた。

 

タマミは猿田博士の申し出を受ける。
その後タマミを見つけるロック。タマミを連れ、ここにある自家用ロケットで宇宙に出るつもりだった。マサトが気付いて、再び殴り合いになる。
その時火の鳥が二人の前に現れる。そしてマサトの魂を引き出して、素粒子の世界から外宇宙までを見せる。今地球は愚かな人類のため、瀕死の状態。それを救うためマサトを不死の体にすると言う。

 

目覚めた時、そばに居たロックは、マサトがほんの少し気を失っていたと言う。火の鳥は消えた。
不死を確かめるため、腕を刺したり銃で胸を撃つも、何ともない。
絶望するマサト。

ガラスが割れ、外に出たタマミ。一方ロビタは猿田博士の本心を知っていた。タマミに恋をした猿田博士。研究するというのは嘘だった。冷酷にそれを暴くロビタ。
研究所内にも放射能が侵入し始めていた。そこにフラフラで辿り着くタマミ。逃げるのはもう間に合わない。猿田博士はタマミに言った通り、研究用のデータ取りを始める。
一方、ロケットの発射準備をしていたロビタを破壊してしまうロック。居なくなったタマミを追って猿田博士のところに行く。マサトもそこへ。
人の体を維持出来なくなったタマミのムーピーを見て猿田博士につかみかかるマサト。タマミの体の分析で、細胞の秘密を解くことが出来たという。
後はロビタの力で細胞転換手術をすれば助かると言ったが、ロビタは既にロックが破壊してしまった。
ロックはタマミと共に宇宙へ逃げるつもりだったが、猿田博士の言うには、この放射能の量ではもう命がもたない。
ロックはエアカーで研究所を飛び出すと、一番好きな景色の見える場所で最後の時を過ごした。

死を間近にした猿田博士。マサトが火の鳥の力で不死になった事を知ると、研究を受け継いでくれるよう頼む。
そしてこの体をロケットで打ち上げて地球を周回する軌道に乗せてくれとマサトに頼む。
周回する猿田博士の元に現れる火の鳥。あなたはまた復活するでしょう、と言い残す。

 

何百回か山が持ち上がり、地層をくつがえした。
だれ一人いない世界。何度頭を撃ち抜いても死ねないマサト。エアカーであてどなくさまようが、誰にも出会わない。
ある日壊れていない観測所を見つけ、中に入る。そこで一つの棺を見つける。その棺には、五千年は開けるなと書かれていた。
研究所で延々と続く時間。もう五百年も経っただろうか。タマミはムーピーの姿で生きていた。時折りムーピー・ゲームでマサトを楽しかった時代に戻してくれた。
人の姿で抱き合いながら、タマミはマサトに別れを切り出す。そろそろムーピーとしての寿命が尽きようとしていた。そして死んで行ったタマミ。

二千、三千と過ぎ、ついに四千年経った。棺に通って待つ日々。
五千三百年経った時、マサトはとうとうレーザードリルで蓋を開けてしまった。中の存在は こなごなに砕けていた。

 


更に時は過ぎ、マサトは話し相手のロボットを作ろうとした。タマミの顔を模して作ったロボットに命を吹き込む。だがそのロボットは不完全でマサトの言うことを聞かない。やむなく壊す。
そうして試作と破壊を繰り返したのは二百体以上。
嘆き、もうろうとするマサトの頭の中に火の鳥が出現。「ロボットではなく、新しい人間を作りなさい」

 

更に数千年。マサトは合成生物の創造に取り組む。
何とかタマミに似せた合成人間を羊水の中で生かすところまでは漕ぎつけたが、知能までは育たない。

そんな時、ここ千年でついぞなかった大地震に見舞われる。設備は破壊され、ガラス管から出た合成人間も泡となって消えた。
残された方法は、自然のなりゆきに任せて、いつか人類の祖先が現れるのを待つだけ。
原始のスープを準備して海に流し、ただ待つ・・・・
マサトの肉体は風化し、消え失せたが、まだ生きていた。ただ見守るだけの超生命体として。

 

膨大な時を経て単細胞から多細胞、下等生物へ。
そして爬虫類の登場。恐竜を経て、もうすぐ哺乳類が出現する。
だが恐竜を滅ぼしたのはナメクジだった。哺乳類もナメクジに征服された。
どんどん進化するナメクジの中から突出して生まれた二匹。凄いスピードで繁殖を始め、マサトはそれをアダムとイブ、と命名した。
どんどん進化するナメクジ。そのうち腐敗ガスで空を飛ぶ乗り物まで作り出した。
進化する中で北方系と南方系に別れる種族。
北方系の策で溶岩噴出が起き、南方系は全滅。だがその前に南方系は地球上の水を枯渇させる復讐を仕込んでいた。
最後に生き残った北方系の一匹が水たまりを見つけて一息つく。それに問いかけるマサト。
なぜお前のような下等動物が命を惜しむのか、と。
下等動物じゃない、死ぬのは怖い、と言っていたナメクジだが、死の間際にグチを言う。
なぜ私たちの先祖は賢くなろうとしたのか。下等動物のままで居れば、もっと楽に生きられたろうに、進化したおかげで・・・・

 

ナメクジに代わって体温を持つ生き物が現れ始めた。鳥や哺乳類。
待ちに待ったサルの出現。そして直立猿人へ。人類は進化のスピードを早めた。
雨乞いの儀式を行う者たち。人間の愚かさを嘆く意識体のマサト。

 

そこに現れる火の鳥。何十億年ぶりの再会に驚くマサト。火の鳥は三十億年ぶりだと言い、あなたに新しい人間を作って欲しいと頼んだ話をする。
人間たちからは「創造主」「神」とか言われているが、そんな気がしないマサト。
あなたは宇宙生命として生きていると言う火の鳥。そしてこの世界の至るところに宇宙生命があるという。
宇宙生命が物質に飛び込むことで、初めて生きてくる。宇宙、惑星、地球、動植物、その細胞、分子までも、全てに宇宙生命が入り込んでいる。
私の中に飛び込め、と言う火の鳥。この体には宇宙生命が何十倍も入っている。
それに従い、入って行くと、マサト!と呼ぶ声。ムーピーのタマミだった。全ての宇宙生命の中に吸い込まれて行く二人。

 


世界中を飛び回る火の鳥。中国では鳳凰鳥、ロシアでは火の鳥、ヨーロッパでは不死鳥と呼ばれた。
世界中でそのエネルギーにあやかろうと、鳥を追いかけた。

 

---鳳凰編の繰り返し----
ヒナクの夫ウラジが素手で火の鳥を捕まえるが、焼け死んでしまう。
火の鳥を追ってクマソに攻め入るヒミコ。噴火に飲まれてみな死んで行く。

火の鳥は思う。あのナメクジでさえ高等生物だったこともあった。ここではどうしてどの生物も間違った方向へ行くのだろう。
どんどん文明を進歩させて、結局は自分で自分の首を絞めてしまう。
でも今度こそ、今度の人類こそきっとどこかで間違いに気付いて・・・・
生命を正しく使ってくれるようになるだろう、と。
単行本 第3巻 第一刷 1980年