火の鳥 異形編 作:手塚治虫  1981年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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小説 火の鳥にちょっとイラついたので、本家のマンガレビュー。
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感想
八百比丘尼の伝説は日本各地にある様だ(春日井市の一例)。「やおびくに」と読む事が多い。
人魚の肉を食べた女が絶世の美女となり、不死になるといった内容。
 

戦国の世でのし上がった八儀家正。

ここでも繰り返される猿田彦の、鼻の呪い。
父の命を助けようとする比丘尼を殺した事で、時の牢獄に捕らえられた左近介。
三十年ごとに時を繰り返すという罪の償いを、火の鳥が仕組む。

これが八百年繰り返されるという事か・・・
そしてここに「百鬼夜行絵巻」の原典を結合させて、歴史の空白を埋めるチャレンジに取り組んでいる。


あらすじ
嵐の夜、左近介が供の可平を連れて蓬來寺に辿り着く。
その寺を一人で守る八百比丘尼(はっぴゃくびくに)に「斬らねばならぬ」と言う左近介。
八百年も生きているという伝説を気にする左近介に、ほかの人間が身代わりになって生き続ける、と比丘尼。
ここは時間が閉ざされている、と笑う比丘尼を斬り首を刎ねる左近介。


可平に風呂を沸かさせて入る左近介は、女だった。


翌日は晴天。小舟で近道をしようと琵琶湖に乗り出すが、櫂が思うように動かせず座礁し、舟は壊れて沈んだ。
来た山道も大木が倒れて通れない。まるで左近介を引き止めている様だ。自分と比丘尼が生き写しだった事を思い出す左近介。

父の病床に呼ばれた八百比丘尼。

比丘尼の診立てでは鼻癌。命にかかわる。


父は乞食同然から戦国の世を、数多くの人を殺しながら出世して来た。千金を積んでも治りたいという父に、七日後に特効薬を持参すると言って辞した比丘尼。
そうさせてはならない、とここまで来て比丘尼を殺した左近介。
父は放っておくのだ。父が死ねば私も・・・女に戻れる。

しばらくすると、近在の百姓たちが列をなして訪れて来た。

やむなく袈裟を着て比丘尼になりすます左近介。
今年も功徳を授けて欲しいと言う。

比丘尼は長年、来た者たちの怪我、病を治していた。
詳しく話を聞くと、光る羽でなでたという事を聞き、本堂を捜し回る左近介。ご本尊の裏からそれは出て来た。

孔雀の様な美しい羽が一本。それで病人を撫でると治った。


この羽を使って父を治そうとしたのだと理解する左近介。だがもしそれをやれば、父は比丘尼から羽を取り上げ、殺してしまっただろう。
男と期待されて生まれて来た、女の左近介。過酷な教育で男として育てられた。十六歳まで自分を男だと思い込んで生きて来た左近介。
だが一番家老の息子に恋をした事で、自身が女だと知る。

それを知った父はその息子を戦死に追い込んだ。

左近介の母までも人質に送り出されて死んだ。
三年前から父を殺そうとしたが出来なかった。

鼻にできもの出来たのが幸い。

寺から出られない日々が続く中、湖から多くの死体が流れ着く。

旗の家紋は自分の家のもの。そこには応仁二年とある。

今から三十年前。時の逆行。

比丘尼がその様な事を言っていた。
おびただしい数の難民やケガ人が押し寄せる。
父の犠牲者たちかも知れないと思い、比丘尼姿で次々とケガ人を助ける左近介。

その治療は何年も続き、中には妖怪までが訪れた。

それをわけ隔てなく治す左近介。
恐れおののく可平だが、左近介の慈悲心に打たれて留まり、彼らの姿を模写する事で平静を保った。


十年も経ったころ、村人から領内の事を聞くと、世継ぎが生まれ左近介という名だという。ようやく因果応報の意味を知った左近介。
その夜の枕元に火の鳥が現れる。あの羽は火の鳥のもの。
自分が殺されるのが怖い左近介に、人を殺した罪の裁きを受けると突き放す。
だが人でない者も救ったことで、左近介は一つの関門を抜けたという。
残された二十年の間、訪れる者を無限に助ければ、三十年目に一日だけこの場所が下界に開く。

その時もし罪が消えていれば外の世界に出られる。


ある日、この藩の家老が訪れる。主君の八儀家正が重体のため、治療の依頼。火の鳥に言われた事を思い出し、家老に付いて城に出向く。父との再会。そこには若い自分自身の左近介もいた。
寺に戻って可平に全てを話す左近介。今日一日だけは時間から解放される。自分は鳥との約束があるが、可平だけでも寺から出よと命じる。出て行く可平に、描き溜めた妖怪も絵も持参させた。


嵐の夜、蓬來寺を訪れる左近介と可平。そして繰り返される会話。

比丘尼として斬り殺される左近介。
可平はのちに土佐光信の弟子となり、土佐光慶と号した。

百鬼夜行絵巻は、かつて光慶が写しとった妖怪たちの絵を師匠に見せて参考としたもの。