火の鳥 宇宙編 単行本 ④ 作:手塚治虫 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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宇宙編  初出:「COM」1969年3月号 ~ 1969年7月号

感想
火の鳥のもたらす不老不死は、どんどん若くなるという事象として描かれる。恋愛を巡るイザコザの裏で必死に取り繕う牧村。
どんどん若返って行くという話は、ブラット・ピットが主演の「ベンジャミン・バトン」があるが、この話を参考にしたのだろうか。

流刑星でナナが牧村を見守り、生き続けるために「植物動物」になってしまった場面は、ずっと重い印象として胸の奥に残っている。

 

あらすじ

2577年 オリオン座ペテルギウス付近の宇宙空間を進む宇宙船。
冷凍睡眠から醒めたクルーたち(想定外)。この一年の当番は牧村だったという。

ブリッジに上がると、手足を縛ってミイラ化した牧村が。クルーの一人が、牧村は孤独に耐えられずに、発狂寸前で自分の手足を縛ったと推定。
窓の外に浮かぶ小惑星。これが宇宙船に衝突し、その衝撃で残りの4人が起こされた。船の損傷がひどく、燃料も消失して航行不可能。
それぞれが個人用のカプセルに乗り込んで脱出する事を船長の城之内が決定。食料は半年分、酸素は一年半分積み込める。出来るだけ行動を共にするが、燃料は乏しく、後は運任せ。
残りのクルーは猿田、奇崎、一宮ナナ(女性)。奇崎はナナを愛していたが、牧村を愛していたナナは避ける。
出発直前、城之内は牧村が最後に残した「ぼくはころされる」のメッセージを読んだ。

4人は宇宙空間を進む。カプセルのコントロールは効かないが、相互通信は可能。城之内は、牧村が残したメッセージの事を伝える。

この4人の中に牧村を殺した犯人が居る。
牧村と、ナナを巡って恋敵だった奇崎が疑われた。

だが、避けていたのは牧村だったと言う奇崎。
牧村五郎とみんなとの関係。天才的な技術者。

地球帰還への水先案内人だった。
ナナは、牧村の脳が機械である事を知っていた。

その事に苦しんでいた牧村。

ある時、カプセルが付いて来るのを猿田が見つけた。牧村のカプセルだが、誰が乗っているかは判らない。通信にも応答がない。
何日か過ぎ、奇崎のカプセルが次第に離れ始めた。奇崎は、ナナとだけ話したいと二人に頼み、城之内と猿田はスイッチを切った。
再度、ナナに求愛する奇崎だが、牧村を裏切れない、とナナ。
奇崎は昔を思い出していた。

彼らが住んでいたのは、ペテルギウス第三惑星ザルツ。この星の資料を、650光年離れた地球まで送るためのミッションに参加した。

この仕事に人生の大部分を捧げる。

地球を知っているのは7年前にザルツへ来た牧村だけ。
奇崎とナナは結婚の約束をしていた。ザルツ最後の晩に入ったダンスホールで体調を崩したナナを介抱した牧村。その事でケンカになる奇崎と牧村。だが圧倒的に牧村が強かった。

驚く奇崎に、自分は282歳と言った。

ザルツ人の平均寿命は150歳。自分は歳を取らないと牧村は言う。
出航してから35年ほど経った時、ある事件が起きた。

ナナから奇崎に当番を引き継いだ時、奇崎が牧村の装置の換気バルブを閉めていたのに気が付いたナナ。重要な違反行為としてみんなを起こすと言ったナナを必死で止める奇崎。

結局その事はナナが胸に収めた。
奇崎に対するナナの気持ちは、そこで終わっていた。

だがナナは、牧村とは肉体関係はなかった、と奇崎に話す。
奇崎のカプセルが離れて行き、交信不能になった。

だが、誰が乗っているか判らない牧村艇はそのまま付いて来る。

城之内が、牧村から聞いたという火の鳥の話を始める。

ラトマスという恒星系で出会ったという。
火の鳥が結婚したいと言い、その代償として牧村に血を舐めさせた。その時から牧村の老化速度は1/100に落ちた。
猿田は牧村から、ある星で女と懇意になり、一種の魔力で不老不死になったと聞いていた。
ナナは、牧村の脳が機械だった事を告白。

ナナの思いは「あの死体は牧村さんじゃない!」。

何ケ月か過ぎ、彼らは彗星に引き寄せられて行く。

彗星の核は12km程度。引き寄せられる途中で、城之内の機体は小隕石に衝突して彗星を周回する軌道に取り込まれた。
ナナと猿田、牧村艇は彗星から離脱。
二人だけになって、猿田が自分もナナが好きだったと告白。

だが肥大した鼻のため諦めていた。
ナナを巡って話をするうち、牧村が告白。ある女から不老不死の薬をもらったが、それ以来肉体が若返りつつある。
この話は絶対に秘密という事で、猿田はそれを守った。
牧村艇に鳥の形をした光るものが近づくのを見る猿田とナナ。

だが去っていく。

更に時間は過ぎ、食糧がほとんど尽きた頃、知らない恒星系に引き込まれて行くのを感じる二人。
幸いにも恒星への衝突は回避され、猿田とナナは近くの惑星の引力圏に取り込まれる。
目覚めた猿田。水も空気もある。空を飛ぶものを石で落し、食べてみると植物の味。
一方、同じように辿り着いたナナ。水を求めて植わっている植物を傷付けると、そこから血が出て来た。移動出来ないが動物だった。
牧村艇を見つけたナナ。扉を開けると、そこには赤ん坊がおり、ナナを見て泣き出した。その赤ん坊を抱きしめるナナ。

何年もサバイバル生活を続ける猿田。

ある日近づいて来る人影に、ナナか?と思ったが鳥の足先を持つ女性だった。テレパシーによる会話。
女性はラトマス星系の惑星フレミルの住民。ラトマスは牧村が以前派遣されていたところ。だがここはその国ではないと言う。

牧村を待っていたと言い、許せないとも。

牧村が派遣されたのは調査のため。

彼女らは優しく迎えたが、牧村は狂ったように暴れた。
潜在意識を調べた結果、恋人との破局が原因と知り、ラダという娘が牧村の世話係として遣わされた。
最初はバカにしていた牧村も、料理、踊り、物語など、次第にラダの提供するものに依存して行く。
ある日、牧村のシャツを洗濯したラダは、恋人との思い出のシミを消したと激怒。元に戻せとの難題。だがラダは元通りにした。

牧村の事は何でも覚えておきたいというひたむきな心。
愛し合うようになった二人。牧村はラダの兄に結婚の願いを伝える。

兄はフレミル人と地球人は結婚出来ないと反対するが、それを押して結婚した二人。

ラダが兄を訪れ宇宙集像機を作ってくれと頼む。

牧村の希望。反対するが、懇願されやむなく渡す。
集像機で地球の歴史、自身の生い立ちを説明する牧村。

生まれた時から宇宙飛行士として育てられた牧村は、肉親の情愛とは無縁だった。
ある日美しい女性に会った牧村。彼女は牧村を誘惑した。

牧村は初恋だったが、彼女にとっては遊び。センターを脱走して女性に会いに行ったが、冷たくあしらわれた。

その時の不始末が原因で宇宙に飛ばされた牧村。

牧村は試しに、と言ってその女性を集像機に出した。

だが今になってあなたを愛していると言う女。
兄に相談するラダ。牧村はその女を時々出して愛し合っているという。元々牧村の願望が形に現れたもの。だから反対した、と兄。
虚像の女にそそのかされて、牧村はラダを撃ち殺し、そしてその足の肉を焼いて食った。
残忍な性格が爆発し、牧村は村人を皆殺しにした。最後に残った女を追い詰める牧村。女は私を撃たなかったら不老不死にしてくれるという。彼女の生き血を飲めばそうなると言われ舐めてみたが、何の変化も感じない。笑い出す女。
怒って女を撃つが、すぐに生き返る女。逃げ出した牧村。

女は、牧村がその後どんどん若返って行ったと話すが猿田は、ロケットでは若返らなかったと言った。牧村はそれを隠していた。
自分そっくりの皮膚ケースを来て、赤ん坊の肉体でそれをコントロール。薄れる意識の中で、これは宇宙人の復讐だと気付き、最後のメッセージを書いた。残されたミイラはケースの抜け殻。
その赤ん坊を牧村艇に入れて送り出したのはこの女。

この星は流刑星。ここで牧村はまた育ち、大人になったらまた若返り、を永久に繰り返す。
猿田が「お前はだれだ?」と聞くと、女は鳥の姿になり、飛び去って行った。

赤ん坊の声を聞きつけて洞窟に入り、ナナと赤ん坊になった牧村を見つけた猿田。ナナは火の鳥から牧村のいきさつを聞いていた。
ナナは、この星で最初に見た、血の出る動けない動物の話を猿田に聞かせる。足だけが放射状に集まった形。流されて来た囚人はつらい生活に耐えられなくなって、あの姿にメタモルフォーゼ(変態)してもらうという。そうすると永久に生きられ、嵐にも耐えられる。
女性の、この動物は乳も出るので、赤ん坊をそれで育てていた。

動物たちと友達になったと言うナナ。
改めてナナに求婚する猿田。だが未だに牧村を愛しているナナは、この赤ん坊を育てると言って断った。

荷物を取りに行ってから戻った猿田。ナナはおらず、足の動物の下で泣いている牧村の赤ん坊。猿田はそれを槍で突き刺し、谷底へ捨ててしまった。
猿田の心に呼びかける声。ナナと一緒になるために赤ん坊を捨てた猿田に、ナナには永久に会えないと言う。
ナナは、この星に留まっていつまでも牧村の世話がしたい、とメタモルフォーゼを願い、火の鳥はそれを叶えた。

 


猿田の目の前に居るのがそのナナ。
牧村を殺そうとした罰として、猿田は醜い顔を孫々まで刻まれる。

そして地球に送り返された。