いよいよ関東地方も先週梅雨入りしました。以前「雨と言えば思い出す映画」を少し紹介したことがありますが、今日もそんな一本!この映画を初めて観たのは10数年前で珍しく連休が取れてまとめて借りて来た中の一本でした。地味ですが、じんわり温かくなってくる映画です

 

 

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「キツツキと雨」

1998年/136分

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職人気質の木こりの男と、ゾンビ映画の撮影でやって来た気弱な新人映画監督の青年との交流を描くハートウォーミングストーリー!

 

 

 監督

沖田修一

 

 主題歌

星野源「フィルム」

 

 キャスト

役所広司/岸克彦 (木こり)

小栗旬/田辺幸一(気弱な新人映画監督)

 

高良健吾/岸浩一(克彦の息子、無職)

臼田あさ美/麻生珠恵 (主演女優)

古館寛吾/鳥居 (ベテラン助監督)

島田久作/篠田 (ベテラン撮影監督)

黒田大輔/柴田 (助監督)

 

高橋努/野宮 (克彦の木こり仲間)

伊武雅刀/石丸 (克彦の木こり仲間)

 

山崎努/羽場敬二郎 (ベテラン大物俳優)

 

監督は、ほのぼのとした語り口が特徴の沖田修一監督。「南極料理人」「横道世之介」「モリのいる場所」などすばらしい作品がたくさんあります

 

 

役所広司/克彦 (木こり)

小栗旬/田辺幸一(気弱な新人映画監督)

高良健吾/岸浩一(克彦の息子、無職)

 

ある地方の山里離れた山村が舞台_木こりの岸克彦(役所広司)は、妻に先立たれ現在ニートの息子、浩一(高良健吾)と二人で暮らしていた。ある日、この山村に映画の撮影隊がやって来る。監督は、この映画が初監督となる田辺(小栗旬)という若者だが、彼はまわりのスタッフに遠慮ばかりしていて思うように映画が撮れず、ついに逃亡したのだが・・・

 

黙々とチェンソーで木を切る男

「すいませーん」

どこからか男の声

「すいませーん」

下の方に男がいることに気づく

「すいません・・・」

「ハイ・・」

「本番中なんで・・」

「ハイ・・?」

「あの、本番中なんで・・」

「ハイ・・?」

「今、映画撮ってるんで・・」

「ハイ・・」

木を切っているのは木こりの克彦(役所広司)。声をかけて来たのは、映画撮影に来ている助監督の鳥居(古館寛吾)。要するに映画の撮影をしていてチェンソーの音がうるさいので少しの間作業を止めてくれとお願いに来ている。ようやく納得したが、今度は克彦が鳥居に

「枝打ちは?」

「ハイ・・?」

「枝打ちは?」

「ハイ・・?」

「枝打ちはしてもいいんか?」

「んん?・・うるさくないなら」

木こりの克彦は、枝打ち作業はして良いか聞いて、道具を取り出し起用に木に登り枝を払いだす。それを感心して見つめる鳥居・・ここでタイトルバック!

 

オーピニングから、独特の間合いとクスっと笑えるやりとりは何とも言えない味わいがあります。お互いに相手の素性はなんとなくわかるのだが、そこから先のことが理解できないでいる。映画撮影にチェンソーの音が邪魔になること、枝打ち作業がどういう作業なのか分からず、木こりと映画の撮影隊という奇妙な取り合わせが出来上がり、これから先の展開の面白さを予感させます。このあたりの運びの上手さはさすがと言わざる得ません。同監督の「南極料理人」でも、少ないセリフの中での人物描写が巧みでした

 

ゾンビ映画の撮影隊の面々

エキストラとして参加する村の人々

 

  雨でも・・きっと晴れるさ

 

全体としては、終始ほっこりしてほのぼのとした気持ちの良い映画です。大自然と人とのふれあいをいっぱい詰め込んだやさしい映画です。物語としてはドラマチックな演出や場面がある訳ではなく、心地よい音楽を一定のリズムで聴いているような安心感があります。朴訥な木こりと映画の撮影隊というミスマッチな組み合わせも見事に絡み合い、撮影風景、エキストラ集め、温泉シーン、大御所との絡みなどクスクス笑えるシーンも満載です。基本的にこの映画はセリフが極端に少なく、独特の間合いが面白さを助長させています。オープニングでもあった様な”噛み合わない会話”が、自然を通して相手を思いやる気持ちが芽生え理解しあってくる様子は気持ちいいですね

 

俳優陣もすばらしいです。気弱な新人監督の小栗旬。ちょっと惚けた木こりの役所広司さん。彼は以前テレビCMでやっていた某住宅総合メーカーのダ〇ワハウスのとぼけたおじさんとほぼ同じキャラクターで、その天然ぶりと真面目ぶりが笑えます。役所広司さんのゾンビメイクもめったに見られるものではありません。意外とツボだったのがベテラン助監督役の古館寛吾さん。物腰は柔らかいのですが平気で無理難題を押し付けてきます(笑)その他、島田久作さん、伊武雅刀さん、山崎努さんなど楽しい面々が脇を固めています

 

木こりの仲間たち

気弱な新人監督とベテランの助監督

 

  この映画は”二人”が面白い

 

もちろん主演の克彦(役所広司)と新人監督(小栗旬)の会話がメインで楽しいのですが、克彦と息子の浩一(高良健吾)、新人監督とベテラン助監督の鳥居(古館寛吾)、そして克彦と鳥居など”二人”の会話が面白い。言いかたが悪いかもしれませんが、女性同志だと「今日も嫌がらせ弁当」の篠原涼子と芳根京子ような女対女のような構図になり、どこか面白さの中にも緊張感があるのですが、この映画の中の男同志だと無防備な安心感があります

 

口数の少ない二人なのですが、好きなシーンがたくさんあります。撮影の合い間に二人が少しはなれてお弁当を食べているシーン。最初は言いたい事も言えない不甲斐ない新人監督だと思っていた克彦でしたが・・

 

「何才だ?」

「25才です」

「若いと言いたいのですか?」

克彦は少し離れた木を指して

「あそこに松の木があるだろ?あれが25年かそこらだ」

「その横にある松がだいたい60年・・俺だな」

「どうだ、あんまり変わらないだろ?」

「木が一人前になるのは100年かかるんだ。お前の後ろにある立派な木は150才だ」

 

相変わらず自信なさげに話す新人監督(小栗旬)に向けて声をかけるのですが、不器用さの中にも克彦(役所広司)の優しさが滲み出ていたセリフです

 

この他にも、車内で映画の内容を克彦に説明するシーンもクスッと楽しい!

 

「どんな映画なんだ?」

「ゾンビの映画です。しかもワサワサ出てきます」

「うんうん!」

「面白いですか?」

「面白い!」

「近未来で人口が6千人くらいになって、竹やり隊を作ってゾンビをやっつけます」

「おお~!」

「本当に面白いですか?」

 

この時の二人のやり取りも面白い!面白い!どうみてもZ級の陳腐なゾンビ映画なのですが、克彦は「面白い」を連発し、新人監督は「本当に面白いですか?」を連発。克彦は「最後はちょっと泣いた」とさえ言います(笑)

 

 

 

  キツツキと雨の意味は?

 

ゾンビ映画にかかわることで、不器用で息子とも満足に口をきけなかった男が、いろんな人と交流し自分を見つめ直すことが出来ました。一方で、気弱で思った事も口に出せなかった新人監督も、克彦や村人との交流で自分を見つめ直すことが出来ました。この映画の魅力は、この二人の心情の変化と成長を短いセリフと映像で表現したところだと思います

 

そもそもこの映画にはキツツキは出てきません。林業には全く詳しくないのでこれは想像ですが、冒頭のシーンで克彦が木の枝打ち作業をする様がキツツキに似ていることから”木こり”を指しているのだろうと思います。さらに、”雨”は木こりにとっても映画の撮影隊にとっても厄介なことです。つまり、相容れない立場の二人が相手を思いやり理解していき人間として成長していくたとえだと思います。それを象徴していたのが、ゾンビ映画の中のラストカットの雨のシーンです。わずかに晴れた隙をついて村人と撮影隊が一体となり、新人監督の今まで見せた事のない自信にみちた声で「カット!」がかかり撮影隊の映画は終了します

 

まるで年の離れた2人の青春映画のようです!

 

普段はうっとしく感じる雨ですが、ラストの雨のシーンは印象的でした。”雨が印象的な映画”と言えば、黒澤明監督の「七人の侍」ヘプバーンの「ティファニーで朝食を」さらに「マディソン郡の橋」「セブン」「ホテル・ルワンダ」などたくさんあり、みんな雨を効果的に撮っています。以前「第59回シネマDEクイズ/雨が印象的な映画」でも特集しています

 

 

 

 

 

ラストシーン

 

浜辺に克彦が作ってくれた”監督用の椅子”がひとつ

 

近くを部活風の女子高生がワイワイ言って通り過ぎる・・映画スタッフが撮影機材を持って走り去る、中にはハリボテの鮫を持ったスタッフが横切る・・次は鮫映画か?(笑)

 

「監督~」スタッフの声。今まで”監督の椅子”に座ったことがなかった新人監督(小栗旬)が、克彦(役所広司)の作ってくれた”監督の椅子”から立ち上がって撮影に向う

 

「ハイ、スタート!」

 

その声は今までより少しだけ大きく、自信めいた新人監督である田辺(小栗旬)の声でした。そして、その声は単に映画撮影のスタートだけでなく、彼自身の人生の新しいスタートのように聞こえました

 

エンディングに星野源の歌声

観終わってウンウンと頷いてしまう映画です。是非どうぞ!

 

雨でもきっと…晴れるさ