このブログは洗足音楽大学の授業How to Composeの予習復習用に書いております。履修学生の方に特化した内容ですので、御理解の上お楽しみください。

リベラル・アーツという言葉をご存知ですか?
リベラル・アーツとは・・・
「人が持つ必要がある技芸(実践的な知識・学問)の基本」と見なされた自由七科のことである。
だそうです。
ギリシャとか、ローマとか、プラトンとか?なんかその辺の頃から西洋の方々がやってた、お勉強だそうで7科目もあるそうです。
言語系3学トリウィウム(文法・論理・修辞)
数学系4学クワドリウィウム(算術・幾何・天文・音楽)
だ、そうです。
音楽は数学の仲間なんです。







たしかに、作曲法は数学と似ているとこがあります。
対位法を勉強するときは、は鍵盤押さえてるよりゆびで数えてた時間の方が長かったかもしれません。
作者が数学を意識して作ろうが作ろまいが、数の支配を受けている音楽が、楽しくなったり悲しくなったり・・・人の感情を動かすのは不思議な事です。







以前にもお話しましたが、数を使って作曲するのは、そんなに珍しい話でもないし難しい事でもありません。
むしろ、ハードルを下げる為に、使っていただきたい手法の数々ですが・・・
今回は前期のHow To Improviseでお話ししました、シンメトリックの理屈を使ってできる、コード進行の作り方を、お話しします。





ジャズ界の1のでかい足? John Coltraneさんの大好きだったマルチ・トニック・システム
マルチ・トニック・システムとは、John Coltraneの有名曲「Giant Steps」のコード進行で使われている手法で、一つの曲の中に複数のトニックを使う作曲法です。
と、ここで先ほどのリベラル・アーツ=数学、が登場〜
西洋音楽は12の調・・・ですがほんとは、(調は全部で30あります)
それを表した物が下記の表です。
Cycle of 5th(4th)

#方向に5度ずつ、
♭方向に4度ずつ
調が変わっていく表です。
この表は楽典として皆さんは触れると思います、が、じつはこの表(システム)を利用して音楽を作っている方はたくさんいらっしゃいます。
Thelonious Monk
Bud Powell
Oliver Nelson
Oz Noy
等の楽曲を参考にして下さい。
Thelonious Monk(1917年10月10日 - 1982年2月17日)
ユニーク度合いが半端じゃない彼の作品は、ロジカルな部分が前面に出てこないのですが(そこがすごい)非常にストイックな理論派なんです。
解釈が曖昧な進行やメロディが全く無い、完全無血楽曲ばかりのモンクですが、彼の4度進行の使い方にはユニークな特徴があります。
このコード進行はリズムチェンジと呼ばれている進行です。アイ・ガット・リズムがネタもとですが、

モンクの手にかかるとこうなります(楽譜はクラス内で提示)
"Humph" by.Thelonious Monk

F#からスタートしてトニックまで4度進行で直滑降です。

アイ・ガット・リズムのサビも4度進行ですね・・・
その他4度進行利用した曲は(楽譜はクラス内で提示)
"Skippy" by.Thelonious Monk
"Bemsha Swing"by.Thelonious Monk
"Bright Mississippi"(Sweet Georgea Brown) by.Thelonious Monk
"Jordu" by.Duke Jordan
"Yesterdays"Jrome Kern
7thコードが4度進行でどんどんつながっていく進行はエクステンディッド・ドミナント(Extended Dominant)という言い方でジャズ・ハーモニーの中で登場します。
以後お見知り置きのほど・・・
サイクル4を使ってフレーズを作る練習は、
"patterns for jazz"等の本にもたくさんのExampleが載っていて楽しい?練習法ですので、自分でも作ってみてください。
ここまでは4度進行Cycle of 4thのお話でした。





はい、ここからマルチ・トニックに突入〜
マルチ・トニックとは複数のトニックを使って
作曲(主にコード進行を作る)法です。
複数のトニックを使う時にはそのトニック通しがCycle of 4thの表の中で均等な音程関係にある物を選ぶのが、基本的なやり方です。
先ずは2トニック

対角線上のCとG♭は-5th(+4th)ですので、均等(シンメトリック)な関係です。
従って互いの持っている機能的なコード(Fanctional Chord)を使っていろんな進行を作る事が出来ます。
トニック同士
||: C G♭ :||
ドミナント導入
||: C D♭7 | G♭ G7 :||
リレイテッド2マイナー導入
||: C | A♭m7 D♭7 | G♭ |Dm7G7 :||
セカンダリー・ドミナント、サブ5その他・・・
||: C E♭7| A♭m7 D♭7 | G♭ A7 |Dm7G7 :||
||: C A7 | A♭m7 D♭7 | G♭ E♭7 |Dm7G7 :||
||: C F7 |Em7 A7 |A♭m7 D♭7 | G♭ B7 |B♭m7 E♭7 |Dm7G7 :||
||: C B7 |Em7 E♭7 |A♭m7 D♭7 | G♭ F7 |B♭m7 A7 |Dm7G7 :||
etc……
という具合に、Fanctional Chord達を駆使して+5thの関係にある互いのキーを行き来します。
例えば・・・
||: CMaj7 F#m7(♭5) B7 |Em7 Bbm7 E♭7 | Dm7 G7|A♭m7 D♭7 |
|G♭Maj7 Cm7(♭5) F7 |B♭m7 Em7 A7 | A♭m7 D♭7| Dm7 G7 :||
この進行を基にメロディを付けてみると・・・

ここまで、の説明でおそらく「ん?要するに転調してるんでしょ?」っと思われた方もいると思いますが、マルチ・トニックの旨味?は通常の転調(バラードのサビに違うキーに行く)とは違い、めまぐるしくキーを行き来するということと、どのキーも同等に扱うということが特徴です。
と、言う事は一定のサイクルでコードが戻って来る循環コード進行の作り方?とも言えるでしょう。
代表的なマルチトニック進行は、
2トニック
3トニック
4トニック
があります。
6トニックもシンメトリックな音程で調が並びますが、その様な曲はあまり見た事がありません。





それではいよいよ
3トニックを紹介します。

C→A♭→EはそれぞれM3rdずつの均等な音程関係にあります。
3つのトニックそれぞれが持っている機能的なコード(Fanctional Chord)を使っていろんな進行を作る事が出来ます。
トニック同士
||: C | E |A♭ :||
トニック同士
||: C | A♭ |E :||
ドミナント導入
||: C B7 | E E♭7 | A♭ G7:||
ドミナント導入
Coltrane change!(Giant Steps)
||: C E♭7 | A♭ B7 | E G7:||
リレイテッド2マイナー導入
||: C |F#m7 B7 | E |B♭m7 E♭7 | A♭ |Dm7 G7 :||
リレイテッド2マイナー導入
||: C |B♭m7 E♭7 | A♭ | F#m7 B7 | E |Dm7 G7 :||
サブ5&リレイテッド2マイナー導入
||: C |Cm7 F7 | E |Em7 A7 | A♭ |A♭m7 D♭7 :||
||: C F7 |Em7 A7 | A♭D♭7 |Cm7 F7 | E A7 |A♭m7 D♭7 :||
etc……
例えばこんな風に作曲出来ます・・・(弾いてみてください)


作曲はもちろん、アドリブにも応用できます。







ここでコルトレーン・チェンジの説明を少し詳しく致します
コルトレーン・チェンジとは3トニックを使ってできる様々なコード進行の中で、特にJohn Coltraneが好んで使用した、3小節で循環するコード進行の事です。
俗に言う循環コードというのは必ず元(のコード)に戻る進行です。
例えばC A7 Dm7 G7(1.6.2.5)は循環コード進行です。
John Coltraneはこの循環する進行を使用して「アウト」なサウンドを作り出す事に成功しました。
例えばCからスタートする3トニック進行は
必ずCに戻りますが、A♭,Eのコードを通過している間はCのキーから外れ(アウト)てしまいます。

アウトしている間は非常に不安定なサウンドになりますがまた Cに戻って来た時に「あぁ〜良かった〜」と、なって快感を得る・・・
という至って変態的な行為をジャズ・ミュージシャン達は夜な夜なやっているのであります。
(なんていやらしい〜)
更に・・・
John Coltraneという人物は
このアウトサウンドを、普通の、一般の、進行を持つ、スタンダードナンバーに適応し、美しいサウンドをあえて破壊する行為に及んでいたのでありま〜〜〜す!
下記の曲達は破壊行為の被害者達です・・・
()内はColtrane のタイトル
“Summertime”
“But Not For Me”
“Body And Soul”
“Fifth House”
“How High The Moon”(Satellite)
“Tune Up”(Countdown)
“Confirmation”(26-2)
“Giant Steps”(これはオリジナルですが…)
2-5-1に対するコルトレーン・チェンジのリハモは次の通りです

このサウンドは慣れない人が聞くと、相当な違和感があると思います、が、これにはまると抜け出せないのですね〜
この手法、そしてサウンドが多数のフォロワーを生み出し、この後のジャズのサウンドが圧倒的に変化していく事になります。
故にジャズはどんどんマニアの音楽になっていった・・・のであーる!








それでは最後に4トニックです

4トニックはm3rdの均等音程で出来ています。
隣同士と対角線で事実上2つの音程(m3rd & +4)を使用できますので、並べ方のヴァリエーションがたくさん出来ます。
並べ方色々・・・
トニック同士
||: C |E♭ | A | G♭ :||
||: C |E♭ | G♭ | A :||
||: C |A | G♭ | E♭ :||
||: C | A | E♭| G♭ :||
||: C | G♭ |A | E♭ :||
||: C | G♭ | E♭ |A :||
(同じ並びでスタートのコードを変える事ももちろん出来ます)
ドミナント導入
||: C B♭7|E♭E7 | A D♭7 | G♭G7 :||
||: C B♭7|E♭ D♭7 | G♭E7 | A G7:||
||: C E7|A D♭7 | G♭B♭7 | E♭G7 :||
||: C E7| A B♭7| E♭D♭7 |G♭G7 :||
||: C D♭7 |G♭E7 |A B♭7 | E♭G7 :||
||: C D♭7 |G♭B♭7 | E♭E7 |A G7 :||
その他諸々
||: C Fm7 B♭7|E♭Bm7 E7 | A A♭m7 D♭7 | G♭Dm7 G7 :||
||: C Fm7 B♭7|E♭ A♭m7 D♭7 | G♭Bm7 E7 | A Dm7 G7:||
||: C Bm7 E7|A A♭m7 D♭7 |G♭ Fm7 B♭7 |E♭ Dm7 G7 :||
||: C Bm7 E7|A Fm7 B♭7|E♭ A♭m7 D♭7 |G♭ Dm7 G7 :||
||: C A♭m7 D♭7 |G♭ Bm7 E7 |A Fm7 B♭7 |E♭ Dm7 G7 :||
||: C A♭m7 D♭7 |G♭ Fm7 B♭7 |E♭ Bm7 E7 |A Dm7 G7 :||
etc….
例えばこんな風に作曲出来ます・・・(弾いてみてください)


はい!
それでは
マルチトニックシステムを使っている曲を最後に紹介して終わりますね。(クラス内で視聴します)
2トニックといえばこれ〜
Ladies In Mercedes by Steve Swallow
3トニックといえばこれ〜
Giant Steps by John Coltrane
Satellite by John Coltrane
26-2 by John Coltrane
Fifth House by John Coltrane
と言う訳で、私の本の宣伝ですが、今年出た最新の無窮動トレーニング〜コンテンポラリー・アプローチ、には、3トニックシステムの練習曲が沢山載っています。
もし変態の道にはまりたい方は是非お求めくださいませ。
それではミュージシャンのみなさん、冷えは万病の基!腱鞘炎と風邪にはくれぐれも気をつけて、お過ごしくださいませ〜
ジャーニー