つぶやキネマ -2ページ目

つぶやキネマ

大好きな「映画」について「Twitter」風に
140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

文化果つるところ(1951)

 

 シンガポール海峡にある島の貿易港にあるヒューディック商会で管理責任者をしていたピーター・ウィレムス(トレヴァー・ハワード)は、経理の不正が発覚したとして支配人のヒューディック(フレデリック・ファルク)から解雇を言い渡される。貿易商のトム・リンガード船長(ラルフ・リチャードソン)の貨物船が寄港する事を妻(ベティ・アン・デイヴィス)から知らされたピーターは恩人のリンガード船長を港で出迎える。ヒューディッグは事務所を訪れたリンガード船長に推薦されて雇ったピーターを詐欺の容疑で解雇したので連れて行けと告げる。ヒューディック商会を解雇された事を知って激怒した妻に家から追い出されたピーターは、酒場で彼を慕っているラムゼイ(ジェームズ・ケニー)や支配人のヴィンク(ウィルフリッド・ハイド=ホワイト)に金を無心するが断られ、船に戻るリンガード船長の跡を付け彼の目の前で海に飛び込む。狂言自殺である事を見破ったリンガード船長は、14年前にも困窮していたピーターを助けた事を懐古、今回の事を悔い改めるならもう一度助けるから一緒に来るように告げる。

 ピーターを乗せて出港したリンガード船長は、岩礁を抜ける水路と操船の方法を教えバタム島の海岸近くにある交易村に連れて行く。水上生活者たちが暮らすシンバと呼ばれる魚村でピーターはリンガード船長の貿易業務をしている義理の息子エルマー・オルマイヤー(ロバート・モーレイ)と夫人(ウェンディ・ヒラー)、孫娘のニーナ(アナベル・モーレイ)に紹介され、オルマイヤーの補佐役として働く事になる。村人たちによってリンガード船長の寄港を歓迎する宴が開かれている中、村人たちを仕切っているババラッチ(ジョージ・クールリス)が盲目の村長エル・バダヴィ(A・V・ブランブル)とその娘アイーサ(ケリマ)をつれて現れ、投網漁の障害になっている川底の岩を取り除くため火薬を譲って欲しいと迫る。リンガード船長は、彼らの真の目的は岩礁を破壊してアラビア商人アラガパン(ピーター・イリング)の交易船を通行可能にしジャングルに道路を通して交易の支配を狙っているのだと反論し、リンガード船長を欺こうとすればトラブルや不幸を招くと警告する。

 ピーターは翌朝、出航を控えたリンガード船長が船室を出た隙に秘密の水路が記された海図を複製する。オルマイヤーから補佐役は不要と言われたため暇を持て余していたピーターはボートで水上生活者たちの様子を見に出かけるが、宴の時に会った村長の娘アイーサに目を奪われる。そんなピーターにババラッチが声をかけ村長の家に案内し客として来ていたアラガパンを紹介、彼はシンガポールでのピーターの噂を聞いたし勇気と航海士としての能力のある男だと知っているので一度腕前を見せて欲しい、シンガポールから流れてきた者同士仲良くしようと語る。

 アイーサに対するピーターの様子に不安を感じていたオルマイヤー夫人は、夕食後のトランプで圧倒的な強さを見せたピーターに、ギャンブラーだと知っているがアイーサは父を支えて戦った兄弟たちより勇敢で無慈悲だったという噂だと警告する。オルマイヤーの誕生パーティの席でリンガードの帰りが遅れている理由を聞き鹿撃ちに行くから銃を貸して欲しいとせがむピーターにオルマイヤーは「お前はハンターじゃない、着飾って好きなゲームがしたいだけで、鹿よりもガゼルを追いかけたいのだろう、二本足の危険なガゼルを」と罵声を浴びせる。怒ってボートを漕ぎ出したピーターは水上生活者の家の柱の影にいるアイーサを見つけ物陰に誘い出すと抱擁を交わすのだった…というお話。

 

 1896年にジョセフ・コンラッドが発表した「文化果つるところ」を原作に、「邪魔者は殺せ(1947)」「落ちた偶像(1948)」「第三の男(1949)」という傑作を続けて発表したキャロル・リードが製作・監督した作品だが、期待していたのとはちょっと違う作品になっていてがっかりした記憶がある。密度の濃いドラマ部分は相変わらず素晴らしいのだが、せっかくのロケ撮影が制約があったのか上手く行っていないような場面も多く、特に水上生活者の村が舞台になった後半はスケール感に乏しい上にエピソードもぶつ切りな感じで、演出的にも見せ場がほとんど無く、名優達の演技もあまり印象に残らないのが残念なトコロ。クライマックスに至る過程も単調で、迎えた結末もなんとなく消化不良な感じ。原作通りなのかもしれないが、ピーターとリンガード船長の対決場面(罵り合いだが)はもっと大胆な脚色があっても良かったように思ってしまった(注1)。

 

 本作一番の問題は、基本的に自分の利益しか考えていない嫌なヤツしか出て来ないのでキャラクターや物語に感情移入し辛いのだよ。ヒロインであるハズの奔放な娘アイーサも、村長の娘として生まれチヤホヤされて育ったのか欲望のままに生きている感じで好感度がゼロなのも困ったもんなのだ…こういうタイプが好みな男性は確実に存在するのだが。ピーターを慕って追いかけ回す村のカヌー少年が頻繁に登場するので、後半でストーリーに深く絡んでくるかと思ったらガッカリさせられた…ピーターが破滅に向かう流れのきっかけを作る重要な役割が与えられてはいるんだけどね。オルマイヤーの幼い娘ニーナも出番や台詞も多い割にストーリーに上手く組み込めていなくて彼女の出演場面だけ作品から浮き上がってしまっていて、登場するたびにストーリーの流れが停滞している…子役特有の台詞回しも本作の作風には合っていない。

 一番気になったのはピーターを演じたトレバー・ハワードと恩人であるリンガード船長を演じたラルフ・リチャードソンの年齢差だった。撮影当時トレバー・ハワードは38歳だったのに対してラルフ・リチャードソンは47歳なのだが、トレバー・ハワードが実年齢より老けて見えるために9歳差なのだが同い年ぐらいに見える事だ。本作のストーリー的には未開のアジアで輸送船の船長として生き抜いて来たベテランと野心家で向こう見ずな遊び人の若者ぐらいが丁度良いのだが、その辺りの違和感が最後まで付き纏い、未開地の利権をめぐって中年同士が争っている感じに見えてしまう…恩を仇で返す形になったピーターの極悪人度も薄目だし。去って行くリンガード船長に向かって開き直ったように叫ぶピーターの哀れさは中々良かったし、駆け落ちして一緒にジャングルで生活していた村長の娘アイーサに完全に見放されたようなラスト・シーンはなかなか素敵だったんだけどねぇ(注2)。

 

●スタッフ

製作・監督:キャロル・リード

原作:ジョセフ・コンラッド

脚本:ウィリアム・フェアチャイルド

撮影:エドワード・スケイフ、ジョン・ウィルコックス

音楽:ブライアン・イースデイル

 

●キャスト

トレヴァー・ハワード、ラルフ・リチャードソン、

ロバート・モーレイ、ウェンディ・ヒラー、

ウィルフリッド・ハイド=ホワイト、ジョージ・カラリス、

ケリマ、アナベル・モーレイ、

フレデリック・ファルク、ジェームズ・ケニー、

A・V・ブランブル、ベティ・アン・デイヴィス、

ピーター・イリング

 

◎注1;

  ジョセフ・コンラッドの作品は多くの映画人を刺激するようで、オーソン・ウェルズが劇場映画デヴュー作として企画しながらも頓挫した「闇の奥(1899)」、「The Secret Agent(1907)」を原作としたアルフレッド・ヒッチコック監督「サボタージュ(1936)」、「ロード・ジム(1900)」はヴィクター・フレミング監督 が1925年に、リチャード・ブルックス監督「ロード・ジム(1965)」として、「The Duel(1908)」はリドリー・スコット監督が「デュエリスト/決闘者(1977)」として、「闇の奥(1899)」は舞台をベトナム戦争に変更してフランシス・フォード・コッポラ監督が「地獄の黙示録(1979)」として、ニコラス・ローグ監督が原作に比較的忠実なテレビ・ドラマ「真・地獄の黙示録(1993)」として発表しています。小説第一作の「オルメイヤーの阿房宮(1895)」は2011年にシャンタル・アケルマン監督によって映画化される等、テレビ・ドラマも含めると28作品が映像化されている。

 本作がイマイチ物足りないのは、登場人物の紹介をストーリーを先に進めるためだとは思うが色々省略してしまった脚本にあると思う…一応ストーリーが進むにつれて少しずつ人物像が浮き上がる仕掛けにはなっているのだが描写不足であまり上手く行っていない。冒頭に登場したそれなりに魅力的なキャラクターたちが中盤から全く登場しないのも勿体無い感じ。船に戻るリンガード船長をビーターが尾行する場面はナカナカ良かったのに、その後の狂言自殺の場面は無骨過ぎで盛り上がらないし説得力皆無。作品全体を通しても要所要所で描写不足が目立つ上に編集の工夫も足りない感じで、ストーリー展開のリズム感が削がれてしまう…ベテラン作曲家のブライアン・イースデイルの音楽も貢献度が低いんだよなぁ。

 

◎注2;

 極悪人が主人公の物語は別に珍しくないし、そういう役ばかり演じて大スターになった俳優さんも多いのだが、観客を物語に引き込むためには何かしら好ましい部分が必要になる。悪事を働いても観客が許してしまうぐらいに主人公が美形だったり人間的に魅力的だったら問題ないのだが、本作の主人公であるピーターにはそういった部分が欠落しているのだ。他のキャラクターたちも上部は善人風でも野心を秘めているような奴ばかりで所謂正直モノは皆無…オルマイヤー夫人は一応善人の設定なのだが、作品のイメージを変えるほどの好ましい人物とは言えない。

 主演の二人が全編で熱演しているので、物語の後半でピーターが改心するだろうと期待してしまったのがモヤモヤした原因…絶望的な結末が多めのジョセフ・コンラッド原作だという事をクライマックスに至るまですっかり忘れていた。

 ピーターは自分の行いについて後悔はしているが改心はしないし最後まで無法者のまま終わる。作品冒頭でピーターが解雇されるまでに、親しい友人や仲間と良い関係を築いている優しい無法者的な人物描写等や陽気なギャンブラーとしての姿や、愛想をつかす奥さんとビーターの夫婦仲を示す場面があったらもう少しピーターに感情移入出来たカモ。

 キャロル・リード監督が発掘したと言われている村長の娘アイーサを演じたフランス人女優ケリマの台詞がまったく無いのは物語の展開上不自然なので、聾唖者の設定なのかと思っていたら叫ぶ場面がワンシーンだけあったので違ったようだ…脚本には台詞がちゃんと合ったが英語がダメだったから喋らない設定にしたのではないかと妄想している。

 ピーターを慕って追いかけ回す村のカヌー少年はロケ地でスカウトしたようだが、何故慕うようになったかという描写が無いので作品に対する貢献度がイマイチ…村の若者ぐらいに設定年齢を上げて台詞も有りでピーターとの親密な関係を築く描写があれば良かったかと。

 映像的には、冒頭の港の場面はロケが中心でセットも雰囲気たっぷりで期待させてくれるし、スクリーン・プロセスやミニチュア合成を駆使した秘密の水路を進む場面はナカナカ楽しい。

 作品前半はシーンごとの描写不足が気になるものの密度の濃い演技合戦が続いてグイグイ引き込まれるのだが、ピーターがリンガード船長の船に乗ったあたりからなんとなく物足りない感じになり、舞台が漁村に移ってからはロケ地の制約の問題なのか単調で絵にならない画面ばかりが続き緊張感が削がれる…ロケ撮影とセット撮影の照明や画質が違いすぎるのも問題。クライマックスの舞台となるジャングルも描写不足で、どんな場所なのかがイマイチ掴みにくいので物語に対しての集中力が薄れてれてしまう…せっかくロケしているのに勿体無いよね。

 本作で一番面白かったのは、自然に振る舞うロケ地の住民を撮ったエキストラの映像を演出に上手く取り入れて編集している所で、セルゲイ・エイゼンシュテインがサイレント期の作品群で行ったモンタージュ論の実践みたいな感じになっていてニコニコしてしまった。

 

 

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死を呼ぶスキャンダル(1973)

 

 人気テレビ・キャスターのポール・サベージ(マーティン・ランドー)は自ら取材に飛び回る行動派で、スタジオ入りは常に放送ギリギリになるためディレクター(ヴィクター・ミラン)は頭を悩ませていた。番組プロデューサーのゲイル・アボット(バーバラ・ベイン)と調査中の犯罪組織のバハマ部門の取立屋の取材について編集室で話し合っていた所にワシントンのハヴィランド知事(ビル・クイン)から電話があって取材する事になる。それは政界に流れている最高裁判事候補のダニエル・マッケンジー・スターン判事(バリー・サリヴァン)の噂についてで、ポールとゲイルはスターン判事のオフィスで開かれた記者会見に出席するが、同席していたマリオン・スターン夫人(ルイーズ・レイサム)の様子がおかしい事に気づく。ポールは記者会見場に現れスターン判事を凝視する女性を目にする。その女性はリー・レイノルズ(スーザン・ハワード)で数日前からピーター・ブルックス(ポール・リチャーズ)という謎の男が尾行していたのだった。

 記者会見後にレストランでメモをとるポールの前にリーが現れスターン判事の親しい知人だと自己紹介し、親しげに見つめ合う二人の写真をポールに見せる。その写真は店のウェイターに撮られたもので番組で報道して欲しいと頼むリーに、番組はスキャンダルには使わないと答えるポール。何がしたいんだと聞くポールに、情報提供料として5000ドル欲しい、支払わなければ新聞社か雑誌社に売り込むときつい口調で迫る。あなたはそういう事はしない印象だがと答えるポールに、あくまでも商取引だと行って出ていくが、その一部始終を尾行して来たブルックスは近くのテーブルについて二人の様子を伺っていた。

 リーから渡された写真には合成や修正した跡がないとカメラマンのジェリー(ジャック・ベンダー)に、偽物だと良いと思ったが最悪な状況になったと考えるポールは、証拠不十分で放送するのは危険だとネットワーク報道・広報担当重役のテッド・セリグソン(ダブニー・コールマン)から釘を刺される。

 高層アパートの15階から女性が飛び降りたという知らせで事故現場に駆けつけたポールは飛び降りたのがリーだと知って驚く。リーのアパートを調べるポールに、チャンバース警部補(ウォーレン・J・ケンマーリング)は警察は自殺と断定したと告げる。高層アパートの家賃はマネージャーのドナルド・モートンが支払っていた様だが、リーは別のビルに200ドルで部屋を借りていてビルの所有者は資産家で政界にも知人が多いジョエル・ライカー(ウィル・ギア)だと話す。

 編集室で今後の調査についての会議をしていたポールにライカーから電話が入りパーティーに招待される。スターン判事は自宅で誕生パーティーを開いていたがポールから電話がかかりリーについて聴きたいと言われ表情が変わる。そんなスターン判事の様子を浮かない顔でみつめるマリオン夫人。スターン判事のオフィスを訪れたポールはリーが自殺した事を告げ写真を見せる。スターン判事は最初はパーティーで2回会っただけの知人だと言っていたが、リーに懇願されレストランで会って飲んだ、幸せな時間だったと語り写真はその時に撮られたと思うと話す。リーが5000ドル欲しいと言っていた、ゆすり目的でウェイターに小型カメラで撮らせた写真だったようだと話すポールにスターン判事はそんな話は信じられないと強く否定するのだった。

 リーの葬儀が行われている墓地にタクシーで現れ、棺に薔薇の花束を捧げ立ち去ろうとする黒衣の女性にポールが声をかけるが、彼女は無言のままタクシーで去る。フラワー・ショップを43件当たって突き止めたその黒衣の女性は化粧品のCMモデルのアリソン・ベイカー(ミシェル・ケイリ―)でポールはCMの撮影現場にアリソンを訪ねる。リーとは数ヶ月にパーティーで知り合って意気投合したと話すアリソンにポールはライカーのパーティーかと問う。ライカーはモデルや女優が好みで花で飾られた部屋に大勢が集められていて彼はその中からお気に入りを選んでいたようだ、孤独な女が死ぬと必ず自殺と言われるがリーは誰かに殺されたのだと話し撮影に戻って行った。

 ゲイルとジェリーはリーがアパートを出て5マイル離れたモーテルで暮らしていた事を突き止める。アパートのドアマンの証言ではリーはマネージャーのモートンに読まれるのを恐れたのか手紙もモーテルに転送していたらしいが何故高層アパートを出てモーテルに移ったか。疑問に思ったゲイルはモーテルの主人にモートンという男を探していると告げるが、予約はないが数分前に二人の男がリーが利用していた部屋のドアを叩いていたと証言、ゲイルとジェリーは階段を降りて来るその男たちと女性を車内から撮影する。

 撮影したフィルムからは男たちや女性の素性や車の特定は出来なかったが、ポールは司法省のラッセル(パット・ハリントン・Jr)から呼び出されワシントンに向かう。ラッセルから撮影フィルムの提出を要求され、リー、マネージャーのモートン、CMモデルのアリソンの写真を見せられるが、さらにポールと会うリーを尾行していた男の写真も見せる。その男は弁護士助手やボディガードをしているピーター・ブルックスで、これらの写真は全て資産家ライカーの関係者であると告げ、ライカーについて何を知っているか教えろと迫る…というお話。

 

 「刑事コロンボ・シリーズ」「ジェシカおばさんの事件簿シリーズ」「エラリー・クイーン劇場シリーズ」等のクリエイターで脚本家チームのリチャード・レビンソンとウィリアム・リンクが製作・脚本を担当し、「スパイ大作戦(1966~1969)」で人気スターになったマーティン・ランドー、バーバラ・ベイン夫妻を起用しシリーズ化を狙ったパイロット・フィルムで、監督には「続・激突!/カー・ジャック(1974)」で劇場映画の監督としてデヴューする直前のスティーヴン・スピルバーグが指名された…本作がスピルバーグにとって最後のテレビ・ムービーになった。

 当時のテレビ界としては最高の布陣で挑んだ作品だったが、ストーリーはよくある政界スキャンダルで新味が無い上に、話を複雑にする目的だったのか無駄に登場キャラクターが多く、物語の流れが最悪なのに加えて思わせぶりな展開ばかりが続き本題が見えにくい脚本が原因で、視聴者には何が起きているのかさっぱりな印象の薄い作品になってしまった(注1)。

 

 放映前はスピルバーグが監督のテレビ・ムービーと聞いて「激突!(1971)」のような傑作を期待してしまったが残念な結果に…この脚本では誰が監督しても同じ結果だったろう。しかし全編に渡って彼らしい映像のてんこ盛りで、ファンにとっては思わずニヤニヤしてしまう場面が続出し、演出や撮影で後に大監督となる片鱗を本作でも見せてくれている(注2)。

 

 マーティン・ランドーとバーバラ・ベインが夫妻で出演しているので、ポールとゲイルの二人の関係を恋人か夫婦と思い込んでしまうが、実際には仕事上のパートナーという感じでそれらしい場面も皆無、この辺りも視聴者が色々混乱してしまう原因になっていたような気がするのだ。スターン判事夫妻の関係も脚本の描写不足が原因で解りにくくなっているし、偽装殺人の実行犯らしきピーターは逮捕されるものの黒幕のライカーがどうなったのかについては全く描写されないあたりもモヤモヤが残る…シリーズ化を狙っていたようなので、主人公ポールのライバル・悪役としてレギュラーで登場させる予定だったのではと妄想している(注3)。

 

 政界や財界関係者が多数集まるジョエル・ライカーのパーティー会場で流れている映画はビング・クロスビー主演の「ミシシッピ(1935)」でW・C・フィールズがインチキ・ポーカーをしている…本作には登場しませんが手札が全部エースになるというギャグの場面です。ポール達が打ち合わせをしている編集室にはW・C・フィールズとバスター・キートンの写真やポスターが貼られているので、使用フィルムと合わせてスピルバーグの指定だったのかも。

 

●スタッフ

監督:スティーヴン・スピルバーグ

製作:ポール・メイソン

製作総指揮・脚本:リチャード・レヴィンソン、ウィリアム・リンク

ストーリー原案・脚本:マーク・ロジャース

撮影:ビル・バトラー    

音楽:ギル・メレ

 

●キャスト

マーティン・ランドー、バーバラ・ベイン、

ウィル・ギア、バリー・サリヴァン、

ピーター・ブルックス、アリソン・ベイカー、

ルイーズ・レイサム、スーザン・ハワード、

ジャック・ベンダー、ダブニー・コールマン、

ヴィクター・ミラン、ウォーレン・J・ケマーリング、

ビル・クイン、パット・ハリントン・Jr、

リチャード・スタール、カール・ゴットリーブ

 

◎注1; 

 作品冒頭、写真館で撮影してもらっているリーとカメラを買いに来た客のフリをして様子を伺っていピーターが登場、ピーターがカメラマン(リチャード・スタール)を買収して連絡先を手に入れる場面があるのだが、そもそもリーは無警戒でピーターは尾行しているんだから、わざわざ買収する必要はないはず。そんな感じの意味不明な場面が多く、何かの伏線ではないかという思いが湧き上がるのだが、後で不要な場面だった事が解るという展開の連続で視聴者は緊張感を削がれる…あの電話の意味は何かとか考えているうちにストーリーが進んでるんだよね。しかも明らかに伏線なはずなのに回収されないまま終わってしまったエピソードもチラホラ。無関係な人物が整理されないまま多数登場し、それぞれ思わせぶりな発言や行動をするので視聴者は大混乱、番組が3分の2ぐらい進んでもどういう話なのかがよく解らないまま本当の悪の黒幕が登場する場面を観せられる。事件解決後にポールと面会した判事夫人のマリオンが、夫の浮気は自分が病気で妻らしい事をしてあげられなかったからだと告白するのだが、様々な事柄でジェンダー問題がピックアップされる現在だったら批判を浴びたかもしれないですな…この場面は丸々カットしても良かったぐらいだと思いますね。

 

◎注2; 

 全編通して奥行きを強調した画面構成や移動撮影、照明や撮影レンズの選択等が秀逸で「激突!(1971)」「恐怖の館(1972)」同様にテレビ・ムービーのレベルを遥かに超えているあたりがスピルバーグらしい…監督としての実力を評価された後だったから撮影についての権限も増えたようだが脚本の手直しまでは口出し出来なかったのだろう。ポールがリーの葬儀やアリソンのCM撮影現場を訪ねる場面では俯瞰や仰角でのカメラ・ポジションを駆使し、会話のシーンではロー・ポジションでカメラを固定しパン・フォーカスで複数の被写体を捉える等、「絵」になる画面の切り取り方のお手本が続出…平均的なテレビの監督では考えつかないだろうね。リーの高層アパートのベランダを歩く黒猫とか、カメラのズームの様子やポールの車のヘッドライトのアップ等をインサート・カットとして撮影しているあたりは、必要な編集素材がちゃんと頭に入っている事がわかりテレビの前で思わず声を上げてしまった。

 撮影監督は「恐怖の館(1972)」でも組んだビル・バトラーで、2年後に「JAWS/ジョーズ(1975)」でも撮影監督として参加、それ以降は劇場映画の撮影監督として「カプリコン1(1977)」「グリース(1978)」「ロッキー・シリーズ」「チャイルド・プレイ(1988)」等で活躍しています。

 

◎注3;

  マーティン・ランドーはアクターズ・スタジオ出身でアルフレッド・ヒッチコック監督の「北北西に進路を取れ(1959」で注目され「クレオパトラ(1963)」「偉大な生涯の物語(1965)」「ネバダ・スミス(1966)」等に出演後、「スパイ大作戦(1966~1969)」の変装の名人ローラン・ハンド役で大ブレイク、ティム・バートン監督の「エド・ウッド(1994)」でベラ・ルゴシを演じアカデミー助演男優賞を受賞している。

 バーバラ・ベインはファッションモデル出身で様々な人気テレビ・シリーズにゲスト出演し、夫マーティン・ランドーと出演した「スパイ大作戦(1966~1969)」のシナモン・カーター役で人気女優に…大人のお色気が凄かったのだが当時はこちらが子供だったので。「スペース1999(1973~1976)」でも夫妻で共演したが1993年に離婚している…90歳を過ぎた現在も女優として活躍中。

 スターン判事を演じたバリー・サリヴァンは舞台俳優出身で「戦略空軍命令(1955)」「四十挺の拳銃(1957)」「バンパイアの惑星(1965)」「夕陽に向って走れ(1969)」「候補者ビル・マッケイ(1972)」「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯 (1973)」「大地震(1974)」等で活躍した大ベテラン、本作でも存在感で共演者を圧倒しています。

 マリオン・スターン夫人を演じたルイーズ・レイサムはテレビ界で活躍、アルフレッド・ヒッチコック監督の「マーニー(1964)」「白熱(1973)」スピルバーグ監督の「続・激突!/カー・ジャック(1974)」「フィラデルフィア・エクスペリメント(1984)」等に出演。

 リー・レイノルズを演じたスーザン・ハワードはテレビ界で活躍「弁護士ペトロチェリー(1974~1976)」「ダラス(1978~1991)」等に出演。

 ピーター・ブルックスを演じたポール・リチャーズは「テーブル・ロックの決闘(1956)」「ブレーキング・ポイント(1963)」「続・猿の惑星(1970)」「署長マクミラン/亡霊の夜(1972)」等に出演。

 ゲイルの助手のカメラマンのジェリーを演じたジャック・ベンダーはテレビ俳優として活躍後にテレビの監督・プロデューサーに転身、劇場映画「チャイルド・プレイ3(1991)」、テレビ・シリーズ「ビバリーヒルズ高校白書(1992~1995)」「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア(2001~2006)」「エイリアス(2001~2004)」「ゲーム・オブ・スローンズ(2016)」等の監督作が、「LOST(2004~2010)」では製作総指揮を。

 ジョエル・ライカーを演じたウィル・ギアはトーキー初期から活躍する大ベテラン俳優で「大平原(1939)」「折れた矢(1950)」「ウィンチェスター銃'73(1950)」「捜索者(1956)」「冷血(1967)」「ダラスの熱い日(1973)」「アメリカを震撼させた夜(1975)」等に出演。

 アリソン・ベイカーを演じたミシェル・ケイリ―は「0011 ナポレオン・ソロ/消された顔 (1965)」「エル・ドラド(1966)」「甘い暴走(1968)」「大悪党ジンギス・マギー(1970)」等で活躍したグラマー美人(死語)です…本作でも深いスリットの入ったロング・スカート姿が素敵です。

 写真館のカメラマンを演じたリチャード・スタールは「この人どっかで観たよなぁ俳優」で、「刑事コロンボ/アリバイのダイヤル(1972)」で旅行代理店の支配人を演じてました。

 スピルバーグの友人で「恐怖の館(1972)」にも出演していた監督・脚本家・俳優のカール・ゴッドリーブがフロア・マネージャーの役で一瞬だけ出演。

 

 

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刑事コロンボ/ロンドンの傘(1972)

 

 ロンドンの売れない俳優のニコラス・フレイム(リチャード・ベースハート)は妻で女優のリリアン・スタンホープ(オナー・ブラックマン)の色仕掛けによって引退していた大物演劇プロデューサーのサー・ロジャー・ハヴィシャム(ジョン・ウィリアムズ)を動かし製作資金を得て、シェイクスピアの「マクベス」の主役の座を手に入れた。初日を明日に控えロイヤル・コート・シアターでは念入りなリハーサルが行われていたが、リリアンの楽屋に公演前日には姿を見せない事で有名なサー・ロジャーが突然現れ、夫妻に利用された事が解ったので公演を中止すると宣言、疑惑を否定して再考を懇願するニコラスとサー・ロジャーがもみ合いになるが、リリアンが投げた化粧品の瓶が頭に当たって倒れ込んだサー・ロジャーはその場で絶命する。誰にも知らせずこっそり楽屋に来たというサー・ロジャーの話を聴いていた夫妻は死体を衣装箱に入れリハーサルが終わるのを待ってサー・ロジャーの屋敷に運び事故死に偽装しようと計画する。劇場のドアマン兼雑用係のジョー・フェンウィック(アーサー・マレット)がリハーサル中にリリアンの楽屋に入り込んでいたが、ニコラスはパブに行くようにチップを渡しジョーを追い払うと、愛車の1962年型モーガン/プラスフォーに死体が詰まった衣装箱とドアの裏に立て掛けてあったサー・ロジャーの傘を積み込み、リリアンが運転するサー・ロジャーの車と共に邸宅に向かい、読書中に事故死したという偽装工作を済ませる。

 スコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)の視察と研修のためにヒースロー空港に降り立ったロサンゼルス警察のコロンボ警部補(ピーター・フォーク)は、出迎えたダーク刑事部長(バーナード・フォックス)に伴ってサー・ロジャーが事故死した邸宅へ向かう…というお話。

 

 今回はコロンボが出張先のロンドンで殺人事件に遭遇というヒネリ過ぎたアイデアながら、破綻のない脚本とベテラン監督の堅実な演出に加え豪華なゲスト陣の出演でシリーズ屈指の楽しい作品になった…何より弟に借りたと言うカメラ片手にロンドン観光に夢中になるコロンボをピーター・フォークがめちゃ楽しそうに演じているのがGoodです。そして犯罪そのものも、これまで定番だった計画殺人とかではなく俳優夫妻が富豪のスポンサーを誤って殺してしまったというのも新鮮だし、殺されたサー・ロジャーの執事タナー(ウィルフリッド・ハイド=ホワイト)が真相に気づいてしまうという、もうひとヒネリ追加したストーリーが秀逸で、ラストで犯人を追い詰める手段が子供の悪戯のようなコロンボのトリックというのも最高…出張先なので捜査権の無いコロンボは刑事というより私立探偵な雰囲気なのも新鮮。120分枠(通常はCM込で90分)を活かしたゆったりとした展開も良かったが、ヒースロー空港でコロンボが行方不明となるエピソードは蛇足だったような…楽しいんだけどね(注1)。

 

 本シリーズは犯人役のゲストが豪華なのもウリの一つだが、今回は脇役陣も映画ファンがニコニコしてしまう顔ぶればかり…名優に三文役者を演じさせるというイタズラ心も素晴らしいデス。それに加えてスタッフのクレジットに監督リチャード・クワイン、撮影ジェフリー・アンスワースという名前を見つけたら、小生のようなコテコテのハリウッド映画ファンにとっては一大事。作品の面白さや完成度もタイプは違うがパイロット版2作目のリチャード・アーヴィング監督の「死者の身代金(1971)」とシリーズ第1作となったスティーヴン・スピルバーグ監督がした「構想の死角(1971) 」に迫る勢い(注2)。

 

 これまでは作品ごとにコロンボのキャラクターが不徹底だったり犯人像や物語の展開にもバラツキがあったのだが、本作の評判が良かったからなのか次作でも監督にリチャード・クワインが起用され、スタッフ間ではシリーズの見直しと基本フォーマットの再構築が行われたようで、以降のシリーズは変則的なアイデアを取り入れても安定した面白さを維持する事が可能となったように思いますね。

 

●スタッフ

監督:リチャード・クワイン

製作:ディーン・ハーグローブ

製作総指揮・原案・ストーリー:リチャード・レヴィンソン、ウィリアム・リンク

脚本:ジャクソン・ギリス

撮影:ジェフリー・アンスワース、ハリー・ウルフ    

音楽:ディック・デ・ベネディクティス

 

●キャスト

ピーター・フォーク、リチャード・ベースハート、

オナー・ブラックマン、ジョン・ウィリアムズ、

ウィルフリッド・ハイド=ホワイト、バーナード・フォックス、

ジョン・フレイザー、ジョン・オーチャード

 

◎注1; 

 本シリーズは、回を重ねるごとにマンネリに陥らないように様々な工夫を凝らしては来たのだが、前作や前々作あたりで限界も見え始めていて、面白いアイデアのストーリーも脚本の不備やちょっとした演出や編集のミスでモヤモヤが残る作品になってしまっていた。本作は奇抜なアイデアのおかげなのか、設定は維持しつつも自由で開放的な雰囲気に溢れた作品になっていて、コロンボの推理や捜査課程についてもミステリーの王道といった感じに収まっていてホントに楽しい…オチはある意味反則なんだが。今回これは新しいなあと感じたのは犯人像だった。犯人の俳優夫妻はずる賢いだけで犯罪を犯すような人物では無いのだが、誤ってサー・ロジャーを殺してしまった事で追い詰められ偽装工作に走るというあたりが新機軸…それが原因で起こるドタバタも楽しく描かれていて素晴らしい。そういう意味ではラストに救いがあっても良かったのではと思ったが、ニコラスが三文役者として本領を発揮するという場面がそれに当たるのかも…発狂したという説もあるようだけどね。

 

◎注2; 

 ニコラス・フレイムを演じたリチャード・ベースハートは、舞台俳優からハリウッドに進出「夜歩く男(1948)」「タイタニックの最期(1953)」等に出演、フェデリコ・フェリーニ監督作「道(1954)」で世界的に注目され、ジョン・ヒューストン監督作「白鯨(1956)」や「カラマゾフの兄弟(1958)」「太陽の帝王(1963)」「サタンバグ(1964)」「ドクター・モローの島(1977)」等に出演、「地球の危機(1961)」のテレビ・シリーズ化作品「原子力潜水艦シービュー号(1964~1968)」のネルソン提督役でテレビ界にも進出。

 リリアン・スタンホープを演じたイギリスの女優オナー・ブラックマンは、20代で映画デビュー「SOSタイタニック/忘れえぬ夜(1958)」テレビ・シリーズ「おしゃれ㊙︎探偵(1962~1964)」「アルゴ探検隊の大冒険(1963)」「007/ゴールドフィンガー(1964)」「シャラコ(1968)」「砂漠の潜航艇(1968)」等に出演、映画ファンにとってはお色気ムンムンの悪女プッシー・ガロア(!!!)を演じた「007/ゴールドフィンガー(1964)」が一番印象に残っているだろう。

 サー・ロジャー・ハヴィシャムを演じたイギリス俳優ジョン・ウィリアムズは、アルフレッド・ヒッチコック監督作「パラダイン夫人の恋(1947)」「ダイヤルMを廻せ!(1954)」「泥棒成金(1955)」、ビリー・ワイルダー監督作「麗しのサブリナ(1954)」「情婦(1957)」等の名優。ちなみに本シリーズの観客に最初に犯罪を見せるというフォーマットは「ダイヤルMを廻せ!(1954)」がヒントになっている…本シリーズのクリエイター・コンビのリチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクはテレビ・シリーズ「ヒッチコック劇場(1955~1961)」の脚本を3本執筆。

 スコットランド・ヤードのダーク刑事部長を演じたイギリス俳優バーナード・フォックスは、「SOSタイタニック/忘れえぬ夜(1958)」「史上最大の作戦(1962)」「秘密殺人計画書(1963)」テレビ・シリーズ「奥さまは魔女(1964~1972)」「スター! (1968)」「タイタニック(1997)」「ハムナプトラ/失われた砂漠の都(1999)」等に出演、タイタニック号沈没の映画に2本出ているツワモノ。

 サー・ロジャーの執事タナーを演じたイギリス俳優ウィルフリッド・ハイド=ホワイトは、「第三の男(1949)」「文化果つるところ(1952)」「恋をしましょう(1960)」「ダニー・ケイの替え玉作戦(1961)」等に出演、彼が出ているとなんだか得した気分になるのが不思議…本シリーズにはもう1本出演してます。映画ファンに最も知られていると思われるのが「マイ・フェア・レディ(1964)」のヒュー・ピカリング大佐役だろうなぁ。

 ドアマンのジョーを演じて良い味出していたアーサー・マレットは「この人どっかで観たよなぁ俳優」の典型で、映画・テレビ・舞台俳優や声優として「メリー・ポピンズ(1964)」「南海征服(1966)」「夜の大捜査線(1967)」「バニンシング・ポイント(1971)」「ヤング・フランケンシュタイン(1974)」「ハロウィン(1978)」「フック(1991)」等の数多くの作品に出演してます。

 サー・ロジャーの邸宅の地元の警官を演じたジョン・オーチャードも「この人どっかで観たよなぁ俳優」として強く印象に残る…方言丸出しという役だからといって吹替がズーズー弁なのはやり過ぎ。テレビ・シリーズのゲスト俳優として活躍していて映画は「華麗なる賭け(1968)」「北極の基地/潜航大作戦(1968)」「汚れた7人(1968)」等に出演しています。

 監督のリチャード・クワインは俳優出身で「フォー・ミー・アンド・マイ・ギャル(1942)」「ワーズ&ミュージック(1948)」等のジーン・ケリーのミュージカル映画に出演していたが映画監督に転身、「スージー・ウォンの世界(1960)」「逢う時はいつも他人(1960)」「求婚専科(1964)」等の作品を見てファンになったのだが、特にジャック・レモンと組んだコメディ「媚薬(1958)」「女房の殺し方教えます(1964)」は大好きで繰り返し観ている。本作でも洒落たコメディ・センスが随所で活かされていて、リチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクが本シリーズに連続登板させたのも納得であります…第3シーズンにも登板してます。

 本作の撮影監督はジェフリー・アンスワースとハリー・ウルフで、ジェフリー・アンスワースはロンドン・ロケのパートを担当し素晴らしい映像を作品に提供している。ジェフリー・アンスワースはロンドン出身の撮影監督で、「2001年宇宙の旅(1968)」「マジック・クリスチャン(1969)」「オリエント急行殺人事件(1974)」「未来惑星ザルドス(1974)」「遠すぎた橋(1977)」「スーパーマン(1978)」等の名作・大作を担当、「キャバレー(1972)」「テス(1979)」でアカデミー撮影賞を受賞しています。

 ハリー・ウルフは本シリーズの「死の方程式(1971)」「黒のエチュード(1972)」「悪の温室(1972)」「アリバイのダイヤル(1972)」等の10作品の撮影を担当、本作はハリウッドでのスタジオ撮影のみを担当したようだ…製作費の関係なのかしょぼいセットでの撮影でお気の毒デス。

 

 

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刑事コロンボ/アリバイのダイヤル(1972)

 

 ロサンゼルスのアメリカン・フットボール・チームのロケッツのゼネラル・マネージャーのポール・ハンロン(ロバート・カルプ)は、先代創業者の残したスポーツ王国の事業の拡大を進めていたが、野心に欠け浪費家で遊び人の二代目エリック・ワーグナー(ディーン・ストックウェル)は事業の妨げにしかならない上に、雇われ重役でしかないハンロンは気分屋のエリックから突然解雇されるのを恐れていた。業績を上げていずれは社主に収まると言う野望を抱いていたハンロンはエリックの殺害を計画、試合中はコロシアムのオーナー専用室に居たというアリバイ工作のために、まだ就寝中だったエリックに電話で海外出張の約束を取り付け、試合開始直前にコーチのリゾ(ジェームス・グレゴリー)に電話し、観客席の販売員に変装してコロシアムを出てアイスクリームの巡回販売車に乗ってエリックの邸宅に向かいプールにいたエリックを氷塊で殴り溺死させる。

 プールで発見されたエリックはロサンゼルス市警の担当刑事クレメンス(クリフ・カーネル)によって事故による溺死と判断されたが、殺人課の警部補コロンボ(ピーター・フォーク)はブールサイドが水道水で不自然に濡れていた事に疑問を持ち捜査を開始する。

 エリックの妻シャーリー(スーザン・ハワード)が所在不明な事から、コロンボはチームのゼネラル・マネージャーでエリックの片腕のハンロンから詳しい事情を聞こうとするが、エリックの死亡を知らされたハンロンの挙動に疑念を抱く。コーチのリゾからは独善的で強引だが経営手腕はたしかで創業者一族に信頼されている事やハンロンの言動の不可解な変化についての証言も得る。

 ハンロンと敵対しているワーグナー家の弁護士ウォルター・カネル(ディーン・ジャガー)が葬儀の準備に追われるワーグナー邸を訪れ、ハンロンがエリックの死を知らせて来なかったと叱責し口論となる。シャーリーの所在確認に邸宅を訪れていたコロンボは、新人秘書のジョンソン(キャスリン・ケリー・ウィジェット)が邸宅にかかって来た電話を受けるたびにラジオに雑音が入る事に気がつく…というお話。

 

 本作はコロンボが容疑者逮捕の決め手として犯人のアリバイの欠陥を指摘する所謂「アリバイ崩し」がメインなのだが、本シリーズでは意外にもこのタイプは初めて。冒頭で犯人のアリバイ工作を丁寧に描くのは定番だったものの、これまでは捜査の過程で解ったアリバイの欠陥でコロンボが真犯人と確信するというのが主流だったが、本作は犯人にアリバイの欠陥を直接突き付けるという形になっているのが新機軸。しかし、結末からストーリーを作ったシナリオの典型で、肝心のアリバイ工作も含めてあちこち穴だらけなのがなんとも情けない。さらに毎回ファンが楽しみにしているコロンボのオトボケ捜査も少なめという体たらくで、観賞後に物足りなさに襲われる凡作になってしまった…発想は悪くなかったんだけどね(注1)

 

 本作を観賞していてシリーズとしての違和感を最初に感じたのは、コロンボがプールサイドが濡れている事に気が付きすぐに舐めてみる場面だった...何故即座にプールの水では無いと閃いたのか?本シリーズにおいては従来なら、現場周辺を歩き回りプールサイドが濡れている原因が水道のホースから出た水だと解りカルキ(消毒薬の塩素)が入っているプールの水では無い事に疑問を持つという描写を加えたはずだが、そういう「コロンボ」らしさが本作には少ないのだ。それ以降はストーリー上の細部の不自然さが気になって楽しさも半減、ウォルターの妻シャーリーを迎えに行ったハンロンのリムジンをコロンボが空港で偶然見つけたみたいな描写があるのに、電話ボックス内にハンロンを見つけた後に尾行していたのを白状したりしているし、ハンロンが空港に来た事や公衆電話から電話した相手についてもちゃんと聞かなかったり、いつものねちっこいオトボケ捜査ぶりとは少し違うのもすごーく気になった(注2)。

 

 そんな欠陥だらけのストーリーと脚本に加え演出もイマイチ締まりがない。監督のジェレミー・ケーガンは脚本に書かれた場面をきっちり撮ってはいるようだが、俳優のちょっとした細かい演技を丁寧に捉えるタイプでは無いようで、特にシーンの繋がりを円滑にするインサート・カットはほとんど撮っていなかったのではというくらいブツ切りで繋がりの悪い場面が多いのだ…フットボールの試合やチアガールの映像、旅客機の着陸時の様子や空港等の編集スタジオに保存されているストック・フッテージが多用されているんだよね(注3)。

 

 そんな凡作ではあるが映画ファンにとっては何気にゲストが豪華なのが嬉しかったりもするし、コロンボの愛車のプジョーが何度か登場するのもニコニコしてしまう…空港の場面の車体の汚しがわざとらしくて笑える。盗聴テープを聴き返す埠頭のカフェでは好物のチリを食べていたりというファン・サービスもあるのだが、何度も登場するプールで濡れてダメになった靴に関するエピソードは演出次第でもう少し面白くなりそうだったのが残念…監督はギャグ演出には興味なかったんだろうね(注4)。

 

●スタッフ

監督:ジェレミー・ケーガン

製作:ディーン・ハーグローブ

製作総指揮:リチャード・レヴィンソン、ウィリアム・リンク

ストーリー監修:ジャクソン・ギリス    

脚本:ジョン・T・デュガン

撮影:ハリー・ウルフ    

音楽:ディック・デ・ベネディクティス

 

●キャスト

ピーター・フォーク、ロバート・カルプ、

ディーン・ストックウェル、ディーン・ジャガー、

ジェイムズ・グレゴリー、ヴァル・エイヴリー、

ヴァレリー・ハーパー、キャスリン・ケリー・ウィジェット、

スーザン・ハワード、リチャード・スタール、

クリフ・カーネル

 

◎注1; 

 本作で最も重要な要素のハンロンのアリバイは色々問題だらけ。まず気になったのはオーナー専用室は警備員の許可を得た来訪者やチームやコロシアムの関係者なら誰でも何時でも入って来れる事。オーナー専用室に入るにはエレベーターを出た所に制服の警備員がいて、そのすぐ先にはスタンドのVIP席(のような感じ)に数人の観客が座っている。その後方の通路の先にオーナー専用室への階段がある…コロンボもオーナー専用室には二度登場するがハンロンの許可をもらったりはしていないのだ。さらに売り子に変装したハンロンがオーナー専用室から出て観客席に現れる事から、警備員がいるエレベーター方向以外にも出入り口がある事が解る…入ったはずのない売り子がオーナー専用室から出て来たら警備員は驚くよね…ハンロンの不在中(犯行中)に誰かが入って来る可能性もゼロではない。オーナー専用室の電話も、交換を通さない直通タイプなのでハンロンの不在中(犯行中)に電話がかかって来る可能性もある…誰もオーナー専用室の電話番号を知らないというのはあり得ないし少なくともワーグナー家の人々や弁護士は知っているよね。さらに酷いのはコロンボから通話記録の話題が出た時にハンロンが怒鳴り散らして話題を変えている…ハンロンとエリックの通話記録が1回しか無いのは脚本上の大きな「穴」だからね。

 変装したハンロンは観客席を抜けた後、販売関係者専用通路の出口に止めてあるアイスクリーム販売車に乗り込むのだが、その販売車の周囲に観客はいないのでアイスクリーム販売車である必然性が薄い…ここで変装を解いて普通車に乗り込めば子供に目撃されたりしなくて済んだのに。完全犯罪を企んだのに邸宅のある高級住宅街では目立つアイスクリーム販売車を何故選んだかというあたりは、凶器を氷塊にした事からアイスクリーム販売車と発想したのだろう…乗用車でもアイス・ボックスを積めば運べるし死因が打撲後の溺死になれば良いのだから凶器は氷塊でなくても良いのだよ。

 そして肝心の最後にハンロンを追い詰める高級時計の〇〇の音だが、ハンロンがオーナー専用室で準備をしている時に試合開始の午後2時に〇〇が鳴るのである。復線として一往入れた場面だが、30分にも〇〇が鳴るタイプというのは視聴者には伏せている…推理力の高い視聴者にはその時点で解っちゃうからね。逮捕への決め手となったこの「アリバイ崩し」なんだけど、コロンボは1回目のオーナー専用室訪問では高級時計が鳴るのを聴いていないので「その日は鳴らないようにしておいた」という言い訳も成り立つ…他のシリーズ作品のように事情聴取そっちのけで高級時計についてあれこれ聞いて「これと同じ時計を持ってる親戚がいる」とか言わせておけば良かったんだけどねぇ。

 

◎注2; 

 本作のコロンボのキャラクターは他のシリーズ作品に比べて少し異質で、ピーター・フォーク自身が監督した「パイルD-3の壁(1971)」の時とよく似ている感じ…ピーター・フォーク自身は視聴者の好みとは真逆のシャープで推理力抜群の刑事として演じたかったようだ。

 いくら敏腕刑事でもプールサイドに撒かれていた水をすぐに舐めてみるのはあまりにも不自然だし、ハンロンの不自然な受け答えや行動に疑問を持ったり盗聴器の存在を見破ったり葬儀の準備中に邸宅にかかって来た電話を犯人の関係者と睨んだりと、推理力や閃きが抜群なのに、唐突にプールへの階段を降りて靴を濡らす不注意さや、アリバイの欠陥を閃くのが旅行代理店の鳩時計という辺りはバランスが悪い...コロンボのボケやヘンテコな発言はあくまでも捜査上のテクニックなのに。

 本作全体を通してコロンボのユーモアが少なめなのも気になるトコロで、警官から現場検証を即される初登場の場面でも前作までよりも少し冷たい感じがするし、現場周辺の捜査も警官任せにしていて「足で稼ぐ刑事」な感じが希薄。得意のオトボケ捜査もボケを被せる感じが少ないし、うんざりした相手がついボロを出すといった展開も少ない。高級コールガールのイブ・バブコック(ヴァレリー・ハーパー)を訪ねたコロンボが客と間違えられて、その後に客が現れる場面はもっと面白くなりそうだったのに。辛抱強いコロンボが執拗に食い下がる事も少なめで、短気で怒りっぽいハンロンの圧力に負けているように見える場面もある。本作の脚本家ジョン・T・デュガンはコロンボのキャラクターをちゃんと掴んではいなかったのだろう。本シリーズでは「ホリスター将軍のコレクション(1971)」の脚本も書いていて、他に「ボナンザ(1959~1963)」「ドクター・キルデア(1961~1966)」「ベン・ケーシー(1961~1966)」「スパイ大作戦(1966~1973)」等の人気テレビ・ドラマの脚本家として活躍してはいるが、ミステリーや推理ドラマが得意な訳では無さそう。

 

◎注3; 

 そもそも脚本が穴だらけで推理モノとしては完全に失格なのだが、盗聴していたのをハンロンが知っていたと解る場面や盗聴器を仕掛けた秘書バブコック=ロゴージーに対する演出の手際の悪さで面白さが半減してしまっている。そもそも普段は高級コールガールをやっている女性が、邸宅の電話機の裏蓋を開けて高価な盗聴器を仕掛けるなんて芸当が出来るのか疑問…回収には私立探偵本人が忍び込んでるという矛盾。さらにエリックの事故死の数日前に秘書を解雇していたら警察に殺人事件かと疑われる可能性もあると考えなかった不自然さ等々…脚本の欠陥・欠点に気がついていても監督に修正する権限は無かったんだろうけどね。

 監督のジェレミー・ケーガンは、テレビ・ドラマの監督で当時27歳で本作がデヴュー3作目。日本で放映された作品は少なく「ピケット・フェンス ブロック捜査メモ(1992~1996)」「シカゴホープ(1994~2000)」等がある。本作は演出次第ではもう少し良作になったと思える場面が多いので、ついつい注文が多くなってしまう…スティーヴン・スピルバーグみたいな天才はそんなにゴロゴロいる訳ではないよね。

 

◎注4; 

 今回の犯人のハンロンを演じるロバート・カルプは前回の「指輪の爪あと(1971)」の短気な私立探偵ブリマーに輪をかけたシリアスで直情型の人物として演じていて、他の出演作品で見せていたお得意の演技パターンとも少し演技を変えているのが素晴らしい…日本語吹替版はその辺りを強調し過ぎていて少し鬱陶しいんだけどね。テレビ・シリーズ「あなたは目撃者/架空実況中継(1953)」でデヴュー、劇場映画では「ニューヨークの休日(1963)」「ボブ&キャロル&テッド&アリス(1969)」等、「殺人者にラブ・ソングを(1972年)」では監督も兼任。以降はテレビ界を中心に活躍していて本シリーズにもあと2本出演しています。

 エリック・ワーグナーを演じたディーン・ストックウェルは、子役として劇場映画デヴューし「紳士協定(1947)」「緑色の髪の少年(1948)」で注目されるがその後低迷、本作あたりからテレビ俳優として活躍し「パリ、テキサス(1984)」「デューン/砂の惑星(1984)」「ブルーベルベット(1986)」等で劇場映画に本格復帰しました。本シリーズにもう1本出演しています。

 コーチのリゾを演じたジェイムズ・グレゴリーは、1940年代から脇役を中心に映画界やテレビテレビ界で活躍する大ベテランで「影なき狙撃者(1962)」「魚雷艇109(1963)」「エルダー兄弟(1965)」等に出演、ディーン・マーティンの「サイレンサー・シリーズ」でも活躍。「続・猿の惑星(1970)」ではゴリラのアーサス将軍を演じています…本シリーズは「猿の惑星シリーズ」の出演者の宝庫。本シリーズは「死の方程式(1971)」にも。

 ウォルター・キャネル弁護士を演じたディーン・ジャガーは、サイレント映画時代から活躍している超ベテラン。アカデミー賞の助演男優賞を受賞した「頭上の敵機(1949)」、「聖衣(1953)」「尼僧物語(1959)」「死亡遊戯(1978)」等で活躍。

 邸宅侵入をコロンボに見つかる私立探偵ラルフ・ダブスを演じたヴァル・エイヴリーは、1950年代から映画界やテレビテレビ界で活躍するベテラン、「長く熱い夜(1958)」「荒野の七人(1960)」「ショーン・コネリー/盗聴作戦(1971)」等で存在感の強い名演を見せてくれます。本シリーズには「ホリスター将軍のコレクション(1971)」と本作以外にもあと2本登場しています。

 高級コールガールのイブ・バブコックを演じたヴァレリー・ハーパーはテレビ界で活躍する女優さん。日本で放映されたのは本作ぐらいなのが残念です…お客を演じた俳優さんも何かで見た記憶が。

 旅行代理店の支配人(一応ミスター・フレモントという名前になっている)を演じたリチャード・スタールもテレビ界で活躍する俳優さんで、本作の後シリーズの常連になりなんとロバート・カルプと一緒に再出演してます。

 本作で登場するエリック・ワーグナーの邸宅は、スティーヴン・スピルバーグが監督した「構想の死角(1971)」でジャック・キャシディ演じるケン・フランクリンの邸宅として使われたのと同じ家です…テレビ界の御用達ロケ地として数多くの作品でも使われているらしい。

 

 

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ヨーロッパの解放 第五部 ベルリン大攻防戦(1972)

 

 ベルリンへ進軍したソヴィエト軍の大部隊はナチス・ドイツの守備隊を次々に撃破、市街地に残されたドイツ軍兵士はバリケードを築いた民家に潜んでいたが突入したソヴィエト軍部隊によって掃討された。第206ライフル連隊のセルゲイ・ツヴェターエフ大尉(ニコライ・オリャーリン)や従軍看護士ゾーヤ(ラリーサ・ゴループキナ)は占拠した民家でナチス支配の終焉と解放を喜ぶ市民の歓迎を受け休息していた。

 総統官邸の地下壕でアドルフ・ヒトラー(フリッツ・ディーツ)は呆然と戦況が記されたベルリン市街地の地図を見つめていた。守備隊との全ての連絡網が途絶えて現在の戦況が不明との報告を受け電話網の確認を指示、宣伝大臣のヨーゼフ・ゲッベルス(ホルスト・ギース)が電話した先はツヴェターエフ大尉たちが休息している民家だった。ベルリン市街がソヴィエト軍に制圧されているという事実を突きつけられ、ベルリンからの脱出を進言され錯乱したヒトラーは、愛人のエヴァ・ブラウン(アンジェリカ・ウォーラー)から休息が必要と慰められる。

 ドイツ軍守備隊のティーガーI重戦車部隊もソヴィエト軍のT-34/85中戦車部隊によって駆逐されベルリン市街は廃墟となりつつあった。総統官邸に通じているトンネルと地下鉄構内に強力な守備隊が立て籠って抵抗を続けていると報告を受けたツヴェターエフ大尉は砲兵隊を引き連れてトンネル内に突入、守備隊は砲撃によって撃破され、構内に避難していた市民や負傷兵はソヴィエト軍部隊によって解放される。

 総統官邸に通じる地下トンネルをソヴィエト軍部隊が進撃しカイザーホーフ駅に迫っているとの報告を受けたヒトラーは、ナチスが滅んだらドイツ人の世界は終わってしまう、もしソヴィエト軍に占領されたら新世代には何も残らないと激昂し全ての地下トンネルの水門を開くよう命じる。

 避難したベルリン市民と負傷兵で溢れかえるカイザーホーフ駅を制圧したツヴェターエフ大尉の部隊は地下トンネル内に水が溢れ出したのを知ると封鎖されている駅の出口を破壊し市民と負傷兵を外へ逃すが、ツヴェターエフ大尉は負傷して逃げ遅れた市民を助けようとして水没したトンネルに引き返し行方不明になってしまう。水没したカイザーホーフ駅へ降りる階段に残されたツヴェターエフ大尉のヘルメットを見てゾーヤは恋人の死を覚悟するのだった…というお話。

 

 第2次世界大戦の対ドイツ戦を「大祖国戦争」と呼称するソヴィエト連邦(当時)が総力を挙げて製作した「ヨーロッパの解放/全5部作」の完結編。冒頭からベルリン市街での激しい攻防戦の場面ばかりが続き、前作までは定番だった史実の再現は地下壕でのヒトラーの姿を描いた場面ぐらい…スターリンやチャーチルが全く登場しないのには吃驚。「第三部 大包囲撃滅作戦(1971)」あたりで映画用の創作パートよりも史実の再現に注力するのは「ヨーロッパの解放」のスタイルなんだろうという諦めていたのだが、本作は真逆の展開に戸惑いつつも五部作中では最も戦争映画を観ているという気分にさせてくれる結果に(注1)。

 

 そんな創作パートもこれまでの4作同様にストーリーは散文的で展開もまとまりがなく、各登場人物のエピソードも描写不足で感情移入しづらいのが困ったモノ。「全5部作」の主役扱いだったのに「第二部ドニエプル渡河大作戦(1970)」以降は影が薄かったニコライ・オリャーリン演じるツヴェターエフ大尉は地下鉄構内の攻防戦でシャープな演技と抜群の存在感を観せてくれる。作品後半の大活躍も期待したのだが戦死という残念な結果に…一応はトンネル内に流入した濁流に飲まれて行方不明なんだけどね。後半のソヴィエト軍部隊による国会議事堂攻略場面では「第四部 オーデル河大突破作戦(1971)」でコメディ・リリーフとして活躍したヴァレリー・ノシク演じるポーランド軍の戦車兵ドロジキン軍曹が登場、ユーリ・カモールヌイ演じる戦車長ワシリエフ中尉の命を受け難関を突破して友軍兵士と共に国会議事堂へ突入し無線を設置するという活躍を観せてくれますが…(注2)。

 

 さらに残念だったのは、総統地下壕でのヒトラーの姿を描いた史実の再現場面が前作までと比べてスケール・ダウンしていて登場する側近たちも異常に少なく脚本や演出もおざなりな感じ。愛人のまま死にたくないと言い出したエヴァ・ブラウンの希望を叶えようとヒトラーが結婚式の準備を側近たちに命じる場面の描写が変に丁寧なのには笑ってしまった。地下壕内でのヒトラーの最期については諸説あるのだが、本作では近年の定説とは異なる解釈で描かれているのが興味深い(注3)。

 

 「第四部」までの流れから考えて、連合軍の進軍状況を報じるニュース映画の映像なんかもあっても良さそうだったが、ソヴィエト軍によるベルリン制圧時の連合軍の戦況には全く触れず、勝利に歓喜するソヴィエト軍兵士たちとソヴィエト国民等の姿(記録映像)がモンタージュされていきなり現在(公開当時)の映像へジャンプし、ベートーヴェンの「運命」と共に兵士や民間人を含む各国の戦死者の数が紹介されエンド・マーク…ヨーロッパを解放したのはソヴィエトだと強調したかったのだろうけどねぇ(注4)。

 

 「全5部作」全体の感想としては、史実を中心に語る戦争映画としてのスケール感は申し分ないし俳優さんたちの演技も悪くないのに脚本や演出に統一感が無く、激しい戦闘場面での長回しの多用等の戦争アクションとしてトップ・クラスのカメラワークで描かれる素晴らしい場面と、単調な描写がダラダラ続く平凡で陳腐な場面が混在していて、たびたび高揚した気分が削がれてしまうのが困りモノ。「ソヴィエト連邦万歳」な映画なのに反戦や厭戦を示唆する描写がチョコチョコ顔を出すのはユーリー・オーゼロフ監督の本音のようにも思える…言い訳とも取れるケド。最良な部分の脚本や演出、撮影や美術で全編が構成されていたら、大傑作として映画史に残る戦争大作になったのではないかと思えるだけに残念(注5)。

 

 本作ラストで示される民間人を含む各国の戦死者の数を観れば戦争が何も生み出さない事は明らかだし、このような惨劇は二度と起こって欲しく無いと思えるのだが、悲しいかな現在も地球上では戦争が続いている…第二次世界大戦で大きな被害にあった同じ民族同士が争っているという悲劇。独裁者とその政権を倒してヨーロッパを解放した国が独裁者を生み出し若者を戦場へ送り出す。独裁者によるジェノサイドを生き延び建国した民族が独裁者を生み出しジェノサイドを行う…趣味の悪いB級コメディに登場するような狂人指導者同士の対立によって平凡な一般市民が大勢亡くなっている。指導者を選び間違えると武力で他者を駆逐する野蛮な「弱肉強食」の世界に簡単に戻ってしまう恐怖、人類は何時になったら学んでくれるのだろう。

 

●スタッフ

監督・脚本:ユーリー・オーゼロフ

脚本:ユーリー・ボンダリョフ、オスカル・クルガーノフ

撮影:イーゴリ・スラブネヴィッチ

音楽:ユーリー・レヴィティン

 

●キャスト

ニコライ・オリャーリン、ラリーサ・ゴルーブキナ、

ミハイル・ウリヤーノフ、ウラッドレン・ダビード、

ワシーリー・シュクシン、ボリス・ザイデンベルク、

フリッツ・ディーツ、アンジェリカ・ウォーラー、

ホルスト・ギース、ユリヤ・ディオシ、

ユーリ・カモールヌイ、ヴァレリー・ノシク

 

◎注1; 

 前作までの構成が無かったかのような戦闘場面中心の展開が続くのには吃驚したのだが、流石に完結編なのでスターリンやチャーチル、1945年4月12日のフランクリン・ルーズベルトの死去を受けて副大統領から第33代大統領になったハリー・トルーマンによるこの戦いの総括や想いを吐露する場面があるべきなのではと思ってしまった…T-34/85中戦車の大活躍には興奮しちゃった元プラモ少年だったけどね。

 特にスターリンが全く登場しないのはソヴィエト連邦政府と製作したモス・フィルムやユーリー・オーゼロフ監督の間に何か確執でもあったのではと勘繰ってしまう。おそらく当時のソヴィエト連邦は「スターリンの勝利」みたいな終わり方にはしたくなかったのだろう。

 

◎注2; 

 映画のために創作されたキャラクターの中でも主役だったはずのツヴェターエフ大尉が中盤で決定的な描写はないものの戦死してしまうのには吃驚。ラスト・シーンで勝利に歓喜するソヴィエト兵の中に恋人を失った看護師ゾーヤが登場するのだが、ツヴェターエフ大尉の最期の描写が曖昧だった事もあって観賞中はうっすら期待してしまった…負傷しながらも生き延びたツヴェターエフ大尉が現れるというアメリカ映画のようなラストを妄想したんだけどねぇ。

 「第四部」で大活躍だったポーランド軍の戦車兵ドロジキン軍曹は市街戦の激しい戦火を掻い潜って国会議事堂へ突入し戦車長ワシリエフ中尉と無線連絡を試みるがナチス・ドイツ兵の銃弾に倒れるという勇姿を見せてくれる。前作では人柄の良いコメディ・リリーフとして笑わせてくれていたので生き延びて欲しいと願っていたのだが…ラストで制圧した国会議事堂に辿り着きドロジキン軍曹を探しに来たワシリエフ中尉が名前を呼んで立ち尽くすあたりは不覚にも泣きそうになった。

 

◎注3; 

 本作撮影当時は、総統地下壕でのヒトラーの最期については諸説あったのでリアリティに欠ける中途半端な描写になったのも仕方がないと言えるが、敗戦濃厚と悟ったヒトラーが自ら金庫から青酸カリを取り出すのには「そんなアホな」と突っ込みを入れた。この辺りの描写はヒトラーとゲッベルスと側近の将校ぐらいしか登場しないのも不自然だし、いよいよヒトラーの最期が描かれるのかと緊張感が高まったあたりでエヴァ・ブラウンとの結婚式を挙げる事になり、連れて来られた神父がソヴィエト兵に助けられ抵抗を続けるナチス・ドイツ兵に降伏を進言するという、あまり重要性が感じられない描写の方に流れてしまい脱力。本作の解釈では、ヒトラーは自室に入りエヴァ・ブラウンに無理やり青酸カリを飲ませるが自殺は出来ず部屋に入った側近の将校が拳銃でと言う結末に。その後は総統地下壕の外に掘った穴に運ばれガソリンをかけて焼却されるまでが描かれている。ゲッベルスはソヴィエト軍司令部に使者を送り降伏はしないと宣言、妻マグダ(ユリヤ・ディオシ)と共に子供達に注射を打った後に夫妻は将校によって銃殺される。

 ヨアヒム・フェストによる研究書と約2年半ヒトラーの個人秘書だったトラウドゥル・ユンゲの証言と回想録を元に製作されたオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督作「ヒトラー ~最期の12日間~(2004)」では本作では曖昧だった部分も詳細に描写されています。

 

◎注4; 

 本作の最後には、ベートーヴェンの交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」と共に現在のパリが映し出され、ヨーロッパやソヴィエト連邦のこの戦争で亡くなった人の数が次々と表示される。フランス人52万、イタリア人40万、イギリス人32万、アメリカ人325,000、チェコスロヴァキア人364,000、ユーゴスラビア人160万、ポーランド人6,028,000、ドイツ人9,700,000、そしてモスクワ赤の広場のパレードが映り記念碑の映像が映され20,000,000のソヴィエト人が亡くなったと記される…戦死者の数に唖然とさせられますが、ここには日本やアジアの戦死者は含まれていない。

 ベートーヴェンの「運命」はハリウッドの戦争大作「史上最大の作戦(1962)」においても、ドイツ将校がノルマンディー沖合に集結した連合軍の大船団を発見する場面でも冒頭のフレーズが使用されています。

 

◎注5; 

 様々な点で統一感に欠ける「全5部作」だが、本作ラストのソヴィエト軍による国会議事堂攻略の激しい戦闘場面が本当に素晴らしい。激しい銃撃戦や白兵戦、爆発、火炎放射器やパンツェルファウスト(ドイツの対戦車兵器)等の描写が入り乱れる場面の、複雑な移動撮影を伴う長回しのカメラワークが本当に素晴らしく、危険で失敗が許されない場面なだけに念入りなリハーサルが行われた事が想像出来る…「全5部作」が全編こんな感じだったらと無いモノねだりをしてしまいたくなりますね。

 

 

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