ヨーロッパの解放 第四部 オーデル河大突破作戦(1971) | つぶやキネマ

つぶやキネマ

大好きな「映画」について「Twitter」風に
140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

ヨーロッパの解放 第四部 オーデル河大突破作戦(1971)

 

 英米の連合軍をベルギーのアルデンヌでナチス・ドイツ軍が撃破、80,000人を捕虜にし120km後退させたと語るドイツのニュース映画を見たヨシフ・スターリン(ブフチン・ザカリアジェ)は、ウィンストン・チャーチル(ユーリ・ ドゥーロフ)から連合軍司令官ドワイト・アイゼンハワーに送られた書簡を確認、アレクセイ・アントノフ将軍(ヴァシリー・ストヘルチク)は1945年1月末には9,000量の戦車部隊と9,000機の航空隊、70,000の砲兵隊と180のライフル部隊がすぐに出撃可能で、前線司令官のゲオルギー・ジューコフ(ミハイル・ウリヤーノフ)、イワン・コーネフ(ワシーリー・シュクシン)、コンスタンチン・ロコソフスキー(ヴラドレン・ダヴィドフ)も攻撃命令を待っていると報告、スターリンは1月12日の攻撃開始を指示するのだった。

 1945年1月12日、ベラルーシ部隊とウクライナ部隊がバルチック艦隊の支援を受けて進軍を開始、ウクライナ・パルチザンもベルリンに向かって進軍。

1月17日、ポーランド陸軍部隊がワルシャワを攻略、ジューコフ元帥はベラルーシ部隊、 741ライフル部隊司令部オルロフ少佐(ボリス・ザイデンベルク)、コーキン中佐から戦況を、第1戦車大隊カトゥコフ中将からは無抵抗でベルリンに向かって進軍中との報告を受ける。

 ナチス・ドイツ軍が各地で敗退しているという報告をベルリンのアドルフ・ヒトラー(フリッツ・ディーツ)は放心状態で受けていた。アイゼンハワー大将は100日で休戦になるだろうと発言し、ソヴィエト軍がポーランドのヴィスワ河とオーデル河を攻略開始したという報告に、ハインリヒ・ヒムラー親衛隊長官(エーリッヒ・ティーデ)はアイゼンハワー大将と交渉のためにOSS(CIAの前身)スイスベルン支局長アレン・ダレスと接触する必要を強調、フランス・ベルギー・オランダを降伏させたと豪語するヒトラーはアメリカとの裏取引は承服出来ないと反発、さらにハインツ・グデーリアン装甲兵総監(ヘルベルト・コルブス)からヴィスワ河とオーデル河のソヴィエト軍第1戦車大隊が強力なので東部戦線は急激には好転せず今日にもキュストリンの南に到達するとの戦況報告を受け、150年も敵が足を踏み入れた事がないベルリンから60kmの距離のドイツの地に敵が迫っているのは裏切りと反逆だと激怒しグーデリアン装甲兵総監を叱責するのだった。錯乱するヒトラーにグーデリアン装甲兵総監はポンメルンでの反撃攻勢を提案、ヒトラーはヴィルヘルム・カイテル(ゲルト・ミヒャエル・ヘンネベルク)に反撃作戦を命じヒムラーにアレン・ダレスとの接触を指示し親衛隊副官のカール・ヴォルフ(ゼップ・クローゼ)を派遣する。

 チューリッヒで登山客に紛れてダレスに会ったヴォルフは、ソヴィエト軍がベルリンへ迫っているがアメリカはヨーロッパの社会主義化を望むのかと問うが、会話している二人の写真が女性登山客によって撮られてしまう。

 ジューコフ元帥は前線の司令官たちからベルリン攻略の準備は整っているが兵士たちには休息も必要との報告に苦悩していたが、カトゥコフ将軍(カール・ザベリン)の第1戦車部隊がベルリンから70km地点まで進軍、2日でベルリン到達可能と報告を受けてロコソフスキーの戦車部隊をベルリンから150km地点のアルンスヴァルデ地方ポンメルンを北から攻撃するように指令を出す。

 2月4日、スターリンはフランクリン・ルーズベルト(スタニスラフ・ヤシュキェヴィッチ)、チャーチルとのヤルタ会談で、ソヴィエト軍の攻撃が戦果を挙げていると強調、チェルニャコフスキーの部隊はケーニヒスベルクに迫り、ロコソフスキーの部隊は東プロイセンを迂回してドイツ中央地域へ、ジューコフの部隊はオデール河を突破、コノフ元帥の部隊はブレスラウに迫っていて、ベルリン死守のためにオーデル河に軍を集中派遣していて他の地域のドイツ軍の抵抗は少ないのでソヴィエト軍は総攻撃の準備は出来ていると提言する。アメリカ側はアイゼンハワー将軍の陸軍部隊はデュッセルドルフへ進軍可能でそのままベルリンへ突入出来ると報告するがスターリンは英米連合軍のベルリンまでの現在の距離は600kmで我々はすでに60kmの地点にいると微笑し、ルーズベルトは今こそ合同軍事作戦を開始すべき時と締めくくる。会談の記念写真撮影の後スターリンは首脳二人に感謝を述べたが、アレン・ダラスとヒトラーの特使ウォロフのチューリッヒ会談の写真を取り出し、このような陰謀は共闘の障害にしかならないと写真を破り捨て席を立った。チャーチルはソヴィエト軍がベルリンを占領したら将来の安全保障条約締結は困難になるので至急に連合軍の進撃を開始せねばとルーズベルトに語りかけるのだった…というお話。

 

 ソヴィエト連邦(当時)が総力を挙げて製作した「ヨーロッパの解放」全五部作の第四部なのだが、日本での劇場公開は「第一部/第二部」「第三部」「第四部/第五部」の三分割公開だった。前作「第三部 大包囲撃滅作戦(1971)」でこの五部作にハリウッド的な戦争映画を期待してはいけない事をしっかり学んだので「続きはどんなかなぁ?」ぐらいの気分で観賞。しかし史実再現以外の創作ドラマ部分の主役的存在のはずだったニコライ・オリャーリン演じるセルゲイ・ツヴェターエフ大尉はワン・シーンに登場するのみで、その恋人でヒロインだったはずのラリーサ・ゴルーブキナ演じる看護兵のゾーヤや準主役クラスの登場人物たちは出演シーン・ゼロという予想を遥かに超えたストーリーに呆然としてしまった。戦争映画らしいシーンはそれなりにあるのだが活躍するのはポーランド戦車兵が中心で、ソヴィエト軍によるベルリン攻略というクライマックスも大した盛り上がりもなく最後は何の余韻もなく映画はいきなり終了してしまう…大劇場で一般公開するような映画の体をなしていないラストなんだよね(注1)。

 全体的にはこれまで通りスターリン、ヒトラー、ルーズベルト、チャーチル等の歴史的人物や著名な将軍たちによる史実を再現した場面が中心で、史実や戦史に興味があればそれなりに面白く観賞出来る仕掛けにはなっているのだが、本作の見所はそっちですと言われれば「それならもっとたっぷり観せてくれ」と反論したくなる程度の投げっぱなし描写が多いのがナサケナイ(注2)。

 そんなワケで創作ドラマ部分はどーしても兵器や軍用車両等が登場する戦闘アクション場面ばかり注視する元プラモ少年的な楽しみ方になってしまう。まずは映画冒頭で挿入される当時のドイツのニュース映画にIII号突撃砲戦車やSd.Kfz.251ハーフ・トラックの走る姿に興奮…一瞬しか映らないのだが当時はそんなんでも貴重な映像だったのだ。ヤルタ会談の後あたりから何とか戦争映画らしくなり、散々焦らされたからかソヴィエト軍のT-34/85中戦車が走り回っているだけで嬉しくなってしまう(注3)。

 本作の最大の問題は映画オリジナルのキャラクターに感情移入させてくれないという事、第一部に少しだけ登場したポーランド軍の戦車長ワシリエフ中尉(ユーリ・カモールヌイ)と戦車兵ドロジキン軍曹(ヴァレリー・ノシク)の活躍場面がそれなりにあるものの、ストーリーも演技もあまり笑えないコメディ・タッチで描かれていて、彼らがベルリンに突入するエピソードで出会うベルリン市民やベルリンを死守しようとするナチス・ドイツ軍との戦闘の結末も曖昧なままで放置されるので、観客側は少しだけ盛り上がった感情の置き場に困ってしまう。それにダメ押しするように別の若い戦車兵が登場しあっという間に悲惨な最後を遂げるんだから困ったモノなのだ(注4)。

 そんな感じの観賞した4作の中でも最も悲惨な完成度の作品なので、次の最終作が五部作の真のクライマックスだから「つなぎ」的な展開と描写で良いだろうという製作サイドの魂胆がミエミエ、最終作に期待すると言うよりも「もう観なくて良いかなぁ」と言う想いがよぎってしまったが、「第四部」「第五部」合わせた劇場公開なので、色々やりくりしてチケット代を捻出している貧乏な映画ファンとしては観賞を切り上げての途中退場なんて贅沢の極み、結局最後まで付き合う事になったのであった。

 

 ちなみに劇場公開タイトルやビデオ版タイトルは「ヨーロッパの解放 III ベルリン大攻防戦 第4部 ベルリンの戦い/第5部 最後の突撃」だった。DVD版は何種類か発売されていて色々ややこしいのだが、「第1部 クルスク大戦車戦」「第2部 ドニエプル渡河大作戦」「第3部 大包囲撃滅作戦」「第4部 オーデル河大突破作戦」「第5部 ベルリン大攻防戦」が定着しているようだ。

 

●スタッフ

監督・脚本:ユーリー・オーゼロフ

脚本:ユーリー・ボンダリョフ、オスカル・クルガーノフ

撮影:イーゴリ・スラブネヴィッチ

音楽:ユーリー・レヴィティン

 

●キャスト

ニコライ・オリャーリン、ラリーサ・ゴルーブキナ、

ミハイル・ウリヤーノフ、ウラッドレン・ダビードフ、

ヴァシリー・ストヘルチク、ワシーリー・シュクシン、

セルゲイ・リャフニツキー、ヘルベルト・コルブス、

ゲルト・ミヒャエル・ヘンネベルク、ブフチン・ザカリアジェ、

スタニスラフ・ヤシュキェヴィッチ、ユーリ・ ドゥーロフ、

フリッツ・ディーツ、アンジェリカ・ウォーラー、

ホルスト・ギース、ユリヤ・ディオシ、

ユーリ・カモールヌイ、ヴァレリー・ノシク、

ゼップ・クローゼ、カール・ザベリン、

エーリッヒ・ティーデ、フレッド・マール

 

◎注1; 

 不徹底だったとはいえ観客に創作ドラマ部分の主要キャラクターたちに感情移入させて来たのに、ここへ来て全く描かないと言う選択は信じられないのだよ...第一部のみに登場したポーランド軍の戦車兵なんてほとんど印象に残っていないよね。新たに投入した戦車兵のエピソードも中途半端な描写で放置したままベルリン中心部の巨大なティーアガルテン内にあるベルリン動物園を開放して唐突に終わりエンドマークも出ないラストは噴飯モノ。低予算映画なら順撮りで撮影して予算が尽きたのかと思う所だが、モス・フィルムが総力を上げたという触れ込みの超大作ではそんな言い訳は通用しないよね。

 

◎注2; 

 将軍たちから戦況報告を受けたジューコフ元帥が戦略に苦慮してアコーデオンを手に取る場面が印象的に描かれるが、特に意味もなく放置されたままなのがなんとももどかしい…音楽でリラックスして思考を整理するようなタイプの人物だったのだろうけどさ。

放心状態で将軍たちの報告を聞くヒトラーの姿は爆笑モノだし、絶望的な戦況を聞かされイライラが爆発して武装親衛隊上級大将のヨーゼフ・ディートリヒ(フレッド・マール)を解任し階級章や勲章を剥ぎ取る場面はかなり面白い…唖然としている将軍たちの表情から「次は我が身か?」と言う思いが伝わって来るよね。そんな場面とは対照的に、爆撃を逃れたベルリンの地下壕で宣伝大臣のヨーゼフ・ゲッベルス(ホルスト・ギース)と夫人のマクダ(ユリヤ・ディオシ)に愛人のエヴァ・ブラウン(アンジェリカ・ウォーラー)を嬉しそうに紹介する場面を加えたあたりはヒトラーの激情的な性格を良く表現出来ていたと思いますね…他の著名人はそっくりさん俳優を集めてるのにエヴァ・ブラウン役にはハリウッド的な可愛い女優さんを選んだのは何故か?…記録フィルムに残る実物のエヴァ・ブラウンとはかなり違うのだよ。そして、お気に入りの映画監督レニ・リーフェンシュタールの新作を側近たちと観賞しようとしたら爆撃による停電で中断、側近たちが対応に追われて退出した後に残されて途方にくれる独裁者とその愛人が笑わせてくれます…ヤルタ会談でアメリカの裏工作を暴露して米英の両巨頭をやりこめ、したり顔で立ち去るスターリンの姿もなかなか楽しい。

 

◎注3; 

 「ヨーロッパの解放」の第三部までは色々不満はありつつも元プラモ少年としては公開当時は古い写真でしか見る事が不可能だった実物の軍事車輌が登場するだけでニコニコだったのだが、本作はそんな部分も物足りない感じでかなり落胆した記憶がある…国家反逆者として収容所に送られるドイツ人捕虜たちを解放する場面なんか入れずにもっと戦車を観せろと思ってしまった。とは言いつつも、タイトルバックの雪原を激走する襲撃砲戦車SU-100ジューコフ、T-34/85中戦車が走り回るベルリン侵攻や、ティーガーI重戦車も登場する市街戦、カメラワークがなかなか良かったし第2戦車軍司令官セミョーン・ボグダーノフ(セルゲイ・リャフニツキー)がめちゃ格好良いベルリン動物園攻略の場面はそれなりに迫力があったので、この辺りをもう少し丁寧に描いてくれていたら元プラモ少年としても満足していたと思うのだよ。サーチライトを使ってナチス・ドイツ軍を撹乱する作戦は演習場でテストしその効果を確認する等なかなか面白そうだったのに雑な描写に終始して台無し…このあたりを上手くストーリーに組み込めていたらもう少し盛り上がったのになぁ。

 

◎注4; 

 ヴァレリー・ノシク演じる戦車兵ドロジキン軍曹は出番も多く見せ場がたっぷりなのだが、第一部と同様のコメディー・リリーフなので戦車燃料を探しに行き操車場に放置されたアルコールの積まれたタンク車を発見すると「いつも燃料の味見をする」と言って飲んで見せたかと思えば、近くの貨車に詰め込まれていたドイツ人捕虜たちを解放、キャタピラを破損した戦車の修理のために避難したベルリンの民家に隠れていた家族の美人娘といちゃついたりと、本筋とはあまり関係ないエピソードでの活躍に終始、杜撰なエンディングのワリを食ってその後はどうなったのかがさっぱり解らないと言う残念さだった。彼の代わりみたいな感じでベルリン動物園の場面には招集されたモスクワ大学の学生の戦車兵クルグリコフ中尉が登場するのだが、初めて見る巨大動物園の動物に見惚れて戦車のハッチから顔を出したところを狙撃されあっという間に死亡してしまう…ここは「西部戦線異常なし(1930)」のラストからの引用なんだけどね。

 

 

★Facebook「Teruhiko Saitoh」

https://www.facebook.com/#!/teruhiko.saitoh.3

 

★「ぐら・こん」ホームページ

https://gracom.web.fc2.com

★「ぐら・こん」掲示板

https://gracom.bbs.fc2.com