ヨーロッパの解放 第三部 大包囲撃滅作戦(1971) | つぶやキネマ

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ヨーロッパの解放 第三部 大包囲撃滅作戦(1971)

 

第一部

 1943年11月30日、イランの首都テヘランの連合国首脳会談でソヴィエトのヨシフ・スターリン(ブフチン・ザカリアジェ)、アメリカのフランクリン・ルーズベルト(スタニスラフ・ヤシュキェヴィッチ)、イギリスのウィンストン・チャーチル(ユーリ・ ドゥーロフ)は、1944年5月に北フランスで「第2戦線」を開始する事を決定、スターリンはノルマンディー上陸作戦の直後にバルカン諸国へのソヴィエト軍の進撃が行われる事を同盟国に通告、12月15日にトルコ共和国の首都アンカラのイギリス大使ヒュー・ナッチブル・ヒューゲッセン(B・ホワイト)に届けられたスターリンの秘密文書は、大使館職員として入り込んでいたナチス・ドイツの諜報員によって複製されベルリンに届けられたが、アドルフ・ヒトラー(フリッツ・ディーツ)はハインリヒ・ヒムラー内務大臣(エーリヒ・ティーデ)にフランツ・フォン・パーペン副首相の諜報員は信じないと告げた。

 1944年2月29日、第一ウクライナ軍司令官のニコライ・ワツーチン大将(セルゲイ・ハルチェンコ)はウクライナの雪原でドイツ軍の襲撃に遭い重傷を負った。代わって指揮をとったゲオルギー・ジューコフ元帥(ミハイル・ウリヤーノフ)はベラルーシの沼地と森林地帯に進撃するべきだと提案し現地調査に向かった。

 オルロフ少佐(ボリス・ザイデンベルク)の砲兵連隊はドイツ軍の激しい抵抗に遭い足止めされていた。看護兵のゾーヤ(ラリーサ・ゴルーブキナ)は戦場に取り残されている負傷兵を回収し治療したいと進言するが拒否されたため一人で負傷兵の治療に向かう。治療をしているゾーヤに数人のドイツ兵が近づくのを見たセルゲイ・ツヴェターエフ大尉(ニコライ・オリャーリン)は機銃で擁護射撃、オルロフ少佐は兵士たちを率いて突撃しゾーヤ救出に向かい、ツヴェターエフ大尉は勝手な行動で砲兵連隊に危機を招いたゾーヤを叱責するのだった。

 ジューコフ元師のベラルーシの現地調査に同行したコンスタンティン・ロコソフスキー元帥(ヴラドレン・ダヴィドフ)は、湿地は通行可能であると結論付けスターリンに進言、 6月23日ベラルーシの共産主義同盟パンテレイモン・ポノマレンコ(アレクセイ・グラジリン)は27万のパルチザンにドイツ軍の補給路である鉄道の破壊を指示、「バグラチオン作戦」が開始される…というお話。

 

第二部

 6月24日、ベラルーシの沼地と森林地帯を沼地用のかんじきを装備したオルロフ少佐の砲兵隊や、伐採した樹木を沼地に敷き詰めた仮橋をミハイル・パノフ将軍(ニコライ・リブニコフ)のT-34/85戦車部隊がベラルーシのバブルイスク解放に向けて進撃を開始、6月25日、ソヴィエト軍航空隊とドニエプル小艦隊がベレジナ川を渡河中のドイツ軍戦車部隊を撃滅、ドイツ軍第9軍司令官ヴァルター・モーデル元帥(ペーター・シュトルム)は陸軍元帥エルンスト・ブッシュ(エリック・ガーバーディング)にソヴィエト軍の進撃を阻止するように命令した。

 ソヴィエト軍とパルチザンはポーランドのプウォツク、ベラルーシのヴィーツェプスクとヴォルシャ、リトアニアの首都ビルニュス、ベラルーシの首都ミンスクへと進軍、6月28日、ドイツ軍はバブルイスクの街を焼き払って撤退、翌29日バブルイスクは解放された。

 ロコソフスキー元帥の本隊はベラルーシのスウツクとバラナヴィダへ、イワン・チェルニャホフスキー上級大将の本隊とパノフ将軍の戦車部隊はミンスクへ進軍、パノフ将軍の戦車部隊はミンスク地下組織のコズロフ旅団のパルチザンと合流するとミンスクのトヴァルナヤ駅操車場を急襲し市街へ、パノフ将軍の戦車部隊とベラルーシのブルデイネイ第3戦車部隊はドイツ軍の抵抗が止んだ事で撤退したのを確認、ミンスクは解放された。105,000人のドイツ兵はミンスクの東で投降、スターリンはミンスクの敗北を信じようとしないヒトラーに向けてモスクワで57,000人の捕虜の行進を行なった。

 ベルリンでは、敗戦が濃厚になったのにそれを認めようとしないヒトラーに対して危機感を抱いた一部の将軍たちが行動を始めた。エルヴィン・フォン・ヴィッツレーベン将軍(オットー・ディーリヒス)の邸宅に、ルートヴィヒ・ベック(ヴェルナー・ヴィーラント)、ギュンター・フォン・クルーゲ(ハンジョ・ハッセ)といった将軍たち、カール・ゲルデラー(マックス・ベルンハルト)、予備軍参謀本部のフリードリヒ・オルプリヒト(ヴィルフリード・オルトマン)、クラウス・フォン・シュタウフェンベルグ大佐(アルフレッド・ストルーウェ)、ヴェルナー・フォン・ヘフテン中尉(ハンス・エドガー・シュテッヒャー)らが密かに集まり、ヒトラーの暗殺とドイツ全軍の指揮権掌握の「ワルキューレ作戦」の計画が進められていた…というお話。

 

 「ヨーロッパの解放 五部作」の「第一部クルスク大戦軍戦(1970)」「第二部ドニエプル渡河大作戦(1970)」に続く第三部だが何故か本作だけ二部構成になっている。上映時間130分と他の作品より少し長めだからという理由だとは思いますがあまり意味が感じられない構成になってます…ハリウッド映画でも1960年代中頃までは上映時間120分を超える映画は休憩があったよね。

 邦題から激しい戦闘場面が続くものと期待していたが、全2作同様に史実の再現場面や著名な将軍たちによる戦略的な場面が中心で、一番楽しみにしていた映画オリジナルのキャラクターたちが活躍する場面はほんの少しという残念な結果であります(注1)。

 

 前作では大活躍だったニコライ・オリャーリン演じるツヴェターエフ大尉が本作では見せ場ゼロという大惨事。それに加えて本作では「それホントに必要なのか?」な描写ばかりでゲンナリ。各キャラクターはそれなりに魅力的に描かれているのに感情移入させてもらえないという苦行がラストまで続きます。「五部作」の中間部に当たる本作を観たあたりで、映画用に生み出した創作パートがおざなりで史実の再現に注力するのは「ヨーロッパの解放」のスタイルなんだろうという諦めムードに支配されてしまうのだった(注2)。

 

 そんなドラマ部分への不満が積み重なってイライラが増しているにもかかわらず、元プラモ少年はT-34/85中戦車が走り回る場面にはうっかり興奮してしまう。T-34/85戦車部隊がミンスクの操車場を襲撃する場面は迫力たっぷりで、もっとこんな場面が観たかったと思わされるし、ノルマンディー飛行隊の場面では製作当時のソヴィエト軍のレシプロ練習機も登場、ドニエプル艦隊の場面ではこちらも製作当時のソヴィエト軍の小型艦船が多数登場していて、そっち方面の軍事マニアや現役プラモ少年たちにはかなり刺激的だったのではないかと想像している(注3)。

 

 史実にも興味があるので実在の人物の再現場面も楽しく観れるのだが、戦争映画らしい場面がそれなりに良く出来ているだけに、どっちつかずの中途半端な作品になってしまっているのがホントに残念なのだ。主役となるキャラクターによる五部作全体の柱となる物語が無いのが致命的なのだが、散漫なストーリーで構成された三作を観て来て、文芸大作を書いた事があるような作家にストーリー構成を考えてもらうべきだったのではという思いが湧き上がるのであった。

 

●スタッフ

監督・脚本:ユーリー・オーゼロフ

脚本:ユーリー・ボンダリョフ、オスカル・クルガーノフ

撮影:イーゴリ・スラブネヴィッチ

音楽:ユーリー・レヴィティン

 

●キャスト

ニコライ・オリャーリン、ラリーサ・ゴルーブキナ、

ミハイル・ウリヤーノフ、ボリス・ザイデンベルク、

ウラッドレン・ダビードフ、ヴラドレン・ダヴィドフ、

アレクセイ・グラジリン、ブフチン・ザカリアジェ、

スタニスラフ・ヤシュキェヴィッチ、フリッツ・ディーツ、

エーリヒ・ティーデ、B・ホワイト、

セルゲイ・ハルチェンコ、ウラジミール・ラズモフスキー、

エルノ・ベルトリ、イリーナ・アゼル、

ニコライ・リブニコフ、ペーター・シュトルム、

エリック・ガーバーディング、オットー・ディーリヒス、

ヴェルナー・ヴィーラント、ハンジョ・ハッセ、

マックス・ベルンハルト、ヴィルフリード・オルトマン、

アルフレッド・ストルーウェ、ハンス・エドガー・シュテッヒャー

 

◎注1; 

 史実の再現場面も無駄に描写が長かったり「その話ホントに必要なのか?」というものばかりで観賞中は疑問符が次々続々と浮かぶ。

ドイツの諜報員がスターリンからの秘密文書を盗む場面は演出も的確で丁寧な描写がなされているが、ストーリー的にはそれほど重要でもないから困ったものなのだ。それはワツーチン大将がドイツ軍の待ち伏せに会う場面も同様で、全部カットしても影響がないにも関わらず上映時間を占拠している。第一部の終盤に挿入されるノルマンディー飛行隊の場面も、ソヴィエト軍パイロットのザイツェフ中尉(ウラジミール・ラズモフスキー)と自由フランス軍パイロットのピエール・プイヤード少佐(エルノ・ベルトリ)がザハロフ司令官の美人秘書タニヤ(イリーナ・アゼル)の気を引こうとする駆け引きや、撃墜されたプイヤード少佐を救助に向かうザイツェフ中尉の友情が描かれるが「こんなエピソードも入れてみました」以上の効果を上げてはいない…ちなみに本作ではプイヤード少佐は救出後にザイツェフ中尉と共に撃墜され戦死した事になっているが実際のプイヤード少佐は1944年末にフランスに帰国しているようだ。

 このようにどうでも良いようなエピソードを加えて水増しするぐらいならレギュラー主役たちの活躍場面を増やすべきだったと思いますね。

 さらに第二部の後半では、ソヴィエト軍は全く関与していないヒトラー暗殺計画について30分近くかけて描かれていて、この事件が起きたのもソヴィエト連邦の手柄みたいな扱いには苦笑するしかない。ちなみにこの暗殺計画について詳しく描かれた映画化作品は「ヒトラー暗殺(1955)」「ワルキューレ(2008)」等、エピソードとして登場する作品は「将軍たちの夜(1962)」等があります。

 

◎注2; 

 本作では見せ場ゼロだったツヴェターエフ大尉だが、恋人の看護兵ゾーヤ関連のエピソードも本筋とはほぼ無関係で、この「戦場の恋人たち」というそれなりに魅力的なキャラクターを無駄使いしてしまったのが本当に惜しい。使命感に駆られて負傷兵救出に向かうゾーヤとそれを守ろうとするツヴェターエフ大尉と砲兵隊という、ちゃんと脚本を描き込めば面白くなりそうなシュチュエーションをあっさり処理、ゾーヤを救出したツヴェターエフ大尉がゾーヤの頬を叩き見つめ合うという変形ラブ・シーンのみ。そして、戦火が止んだ束の間の休息に湖水で泳ぐゾーヤにツヴェターエフ大尉が寄り添い抱擁を交わす…ゾーヤが全裸かもしれないというサービスもあります。

 

◎注3; 

 ワツーチン大将がドイツ軍の襲撃受ける場面等では、広大な雪原を進軍するソヴィエト軍大部隊の素晴らしい映像があるし、進軍するソヴィエト軍大部隊を捉えた空撮場面は「第一部クルスク大戦軍戦(1970)」よりも格段に向上していて迫力があります...一部に「クルスク大戦軍戦」からの流用がある感じ。

 T-34/85戦車部隊がベラルーシの沼地を進撃する場面では、現地の兵士が履いていたかんじきからヒントを得て伐採した樹木を沼地に敷き詰めて仮橋として、砲兵隊や戦車部隊が進撃する様子を描いていてもう少し詳しく観たいという思いが湧き上がります…「第二部ドニエプル渡河大作戦(1970)」では、川を渡れず沈んでしまうT-34/85中戦車の乗員を心配してしまったが本作でも沼に沈んで行くT-34/85中戦車が登場。

 ノルマンディー飛行隊の場面では前作までは機種が見分けられないカメラ・アングルやサイズの映像ばかりだったのが、本作では機種が特定出来るぐらいにはっきり描写されている。戦闘機についてのとぼしい知識から判断してノルマンディー飛行隊はヤコブレフYak-3(空冷エンジン型)が、ナチス・ドイツ軍のメッサーシュミットをヤコブレフYak-3(水冷エンジン型)がそれぞれ演じていたように思います。

 渡河中のティーガーI戦車部隊をドニエプル艦隊が襲撃する場面に登場する艦船は、古めの現役艦船を集めて撮影したようで一眼で第二次世界大戦当時のモノとは違うのがわかります…このシーンが極端に短くあっさり処理されていたのはそれが原因かも。

 「バグラチオン作戦」開始以降はT-34/85中戦車が大活躍で、合流したパルチザン兵士たちを乗せて森の難所を進撃するあたりは、勇ましい場面ではないのにワクワクしてしまう。そしてミンスクの操車場を貨物車等を破壊しながら走り回る場面には大興奮、元プラモ少年としては見所の少なかった本作の中で最も印象に残ったのであります。

 

 

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