ヨーロッパの解放 第一部 クルスク大戦軍戦(1970) | つぶやキネマ

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ヨーロッパの解放 第一部 クルスク大戦軍戦(1970)

 

 第2次世界大戦、ソヴィエト連邦へ侵攻したナチス・ドイツはスターリングラード(現ヴォルゴグラード)で大敗を喫し撤退を余儀なくされたが、1943年2月、劣勢を挽回すべくロシア南西部クルクス地域で大反撃作戦を開始しようとしていた。最新鋭ティーガーI重戦車の威力に自信を持ったアドルフ・ヒトラー総統(フリッツ・ディーツ)はソ連軍撃破を確信、総統大本営ヴォルフスシャンツェ(狼の巣)でエーリッヒ・フォン・マンシュタイン将軍(ジークフリート・ヴァイス)たちに1万人の兵力と800輌のティーガーIを含む2700輌の戦車と1800機の航空機を投入するツィタデレ作戦開始を指示した。

 1943年4月12日、ソヴィエト連邦国家指導者ヨシフ・スターリン(ブフチン・ザカリアジェ)は3人のソヴィエト軍司令官をモスクワに招集、アレクサンドル・ヴァシレフスキー元帥(エブゲーニー・ブーレンコフ)、ゲオルギー・ジューコフ元帥(ミハイル・ウリヤーノフ)、アレクセイ・アントノフ将軍(ウラジスラフ・ストルツェルチク)にヒトラーの反撃作戦を阻止するよう厳命した。

 7月5日、クルクス地域ではソヴィエト軍部隊とドイツ軍部隊がにらみ合っていたが、偵察部隊による小競り合いが起きるだけでドイツ軍の大攻勢の予兆はなかった。コンスタンチン・ロコソフスキー将軍(ウラドレン・ダビーダフ)がドイツ軍捕虜から翌朝のドイツ軍大攻勢開始の情報を得た事から、2時間後に大攻勢開始を控えたジューコフ元帥はロケット砲カチューシャ等での砲撃を開始するが、その砲撃に対してもドイツ軍は沈黙を続けた。ソヴィエト軍防御線の塹壕では第206ライフル連隊のルーキン中佐(ヴセヴォロッド・サナエフ)が部下のセルゲイ・ツヴェターエフ大尉(ニコライ・オリャーリン)、オルロフ少佐(ボリス・ザイデンベルク)、マキシモフ少佐(ヴィクター・アヴュデシュコ)にドイツ軍戦車部隊に戦線を破られないように指示、従軍看護士ゾーヤ(ラリーサ・ゴループキナ)は恋人のツヴェターエフ大尉を心配して最前線まで会いに来ていた。

 予想していた時刻になってもドイツ軍の攻撃が始まらない事にクルクスのソヴィエト軍司令官ジューコフ元帥たちは苛立っていた。現地の恋人を戦車内に連れ込んでいた戦車長ワシリエフ中尉(ユーリ・カモールヌイ)は戦車兵ドロジキン軍曹(ヴァレリー・ノシク)からの知らせで部隊へ戻ったが、第1戦車部隊司令官ミカエル・カトコフ中将(コンスタンティン・ザベリン)から叱責される。

 ドイツ軍第9軍司令官ヴァルター・モーデル元帥(ペーター・シュトルム)は中央司令室のギュンター・フォン・クルーゲ(ハンジョ・ハッセ)に対し出撃命令を直訴、5時30分のユンカースJu88爆撃機部隊によるクルクスのソヴィエト軍への大規模な空爆を開始、爆撃によって破壊されたソヴィエト軍塹壕内ではツヴェターエフ大尉が砲撃を指示するが、ティーガーI大戦車軍団が目前に迫っていた…というお話。

 

 第2次世界大戦の対ドイツ戦を「大祖国戦争」と呼称するソヴィエト連邦(当時)が総力を挙げて製作した全5部作・上映時間7時間48分の超大作で、元ブラモ少年としては映画では珍しいドイツ軍のティーガーI重戦車も登場するという事で異常な興奮と膨れ上がった期待感と共に劇場に駆けつけたのだが、タイトルの「大戦車戦」は軍事演習を見せられているような場面ばかりだし、実在の著名人や将軍たちが多数登場するが作戦会議ばかりしている印象で、第2次世界大戦史にあまり興味のないアクション映画好きにはさっぱり理解出来ない退屈な映画だったようだ(注1)。

 

 スターリンやヒトラー等の歴史上の人物や実在した軍人たちが字幕付で紹介される再現フィルム的な場面の合間に、ニコライ・オリャーリン演じるセルゲイ・ツヴェターエフ大尉とラリーサ・ゴループキナ演じる恋人の従軍看護士ゾーヤ、ユーリ・カモールヌイ演じる戦車長ワシリエフ中尉が一般人の主人公として全5部作に登場していて、この2人や映画オリジナルの登場人物たちの場面は映画的でなかなか面白いのだが、それ以外は史実を紹介するような場面に終始していて、アクションたっぷりでワクワク・ドキドキの勇ましい戦争映画を期待するとガッカリする(注2)。

 

 全5部作の第1弾としてはかなりトホホな完成度で、本作を観た観客に次回作に期待しろというのは無理な相談、このあたりはハリウッド映画を見習うべきだったかも…日本では第1部と少し面白くなる第2部を合わせて公開したのは大正解ですな。

 ツヴェターエフ大尉の砲兵隊にティーガーI重戦車の大群が迫る場面や、ドイツ軍の大戦車部隊が行軍する上空をドイツ軍戦闘機部隊が通過する場面は、構図やカメラワークも良くて迫力があり映像的にハッとさせられる名場面だと思う…この場面は予告編でも使われていてかなりな力作ではないかと期待してたんだけどねぇ。こういう立体的な絵作りや演出をもっとして欲しかったが、おそらく大規模な軍事演習的場面はオーゼロフ監督はノー・タッチだったのだろう…ハリウッドのようなアクション専門の第2班監督がいれば少しは違ったのカモ。

 

●スタッフ

監督・脚本:ユーリー・オーゼロフ

脚本:ユーリー・ボンダリョフ、オスカル・クルガーノフ

撮影:イーゴリ・スラブネヴィッチ

音楽:ユーリー・レヴィティン

 

●キャスト

ニコライ・オリャーリン、ラリーサ・ゴルーブキナ、

ボリス・ザイデンベルグ、ミハイル・ウリヤーノフ、

ウラドレン・ダビードフ、エブゲーニー・ブーレンコフ、

ブフチン・ザカリアジェ、フリッツ・ディーツ、

ジークフリート・ヴァイス、ブフチン・ザカリアジェ、

ウラジスラフ・ストルツェルチク、ヴセヴォロッド・サナエフ、

ヴィクター・アヴュデシュコ、ユーリ・カモールヌイ、

ヴァレリー・ノシク、コンスタンティン・ザベリン、

ペーター・シュトルム、ハンジョ・ハッセ、

ヨセブ・グギチャイシュヴィリ

 

◎注1; 

 構想20年、製作期間6年、参加スタッフ500人、撮影フィルム約4万フィート、出演者約3万人、登場した戦車1万輌、登場した戦闘機千機、登場した大砲150門、登場したジープ千輌等々、製作したモス・フィルムの発表には、にわかには信じられない数字が並んでいる…全5部作のトータルとしても盛り過ぎだよね。

 本作の製作の動機はハリウッドの大戦車戦映画「バルジ大作戦(1965)」に対抗するためと言われて来たが、モス・フィルム発表の構想20年とは辻褄が合わない…おそらく配給会社の宣伝マンか批評家が思いつきで語った事が一人歩きしたのだろう。

 全5部作の全体のストーリーは1943年のクルスクの戦いから1945年のベルリンの戦いまでセルゲイ・ツヴェターエフ大尉を主人公として戦史に沿って描かれてはいるが、ソヴィエト連邦がいかにしてナチス・ドイツ支配からヨーロッパを解放したかがメイン、独ソ双方の首脳たちの会議の様子や戦果等を史実通りに描く事に注力し過ぎていて、ツヴェターエフ大尉や兵士たちのフィクション部分があまり印象に残らない困った映画なのだ。戦争映画の見所であるはずの戦闘シーンも、ちゃんと映画的演出がなされた場面と、走り回る軍事車両や兵士たちを記録映画のように撮っただけの場面が混在していて、観ているこちら側の緊張感が頻繁に削がれてしまう。

 第一部のハイライトであるクルスクの大戦軍戦も、ソヴィエト陸軍の協力によって大量投入された戦車軍団を走らせて第2班が無計画に撮影した場面を繋いだだけのような場面が続出、第2次世界大戦の戦場というよりソヴィエト軍の軍事演習フィルムを観せられているような気分に。

 元ブラモ少年としては映画冒頭にドイツ軍のティーガーI重戦車が登場しただけでニコニコだったが、ティーガーI重戦車の実物は終戦後はほとんど廃棄処分され各国の博物館に収蔵されている数輌ぐらいしか残っていなかったので、本作のティーガーI重戦車はソヴィエト軍T-44中戦車を改造した車輌で、正面から見るとそっくりなのだが側面から見ると砲塔が大き過ぎるし位置もおかしい。実際のティーガーI重戦車はその重量を支えるために通常より幅広のキャタピラを使用しているのだが、その辺りも再現していたのには思わず唸ってしまった。

 ティーガーI以外にも映画では珍しい珍しい8トンハーフトラックSd.Kfz.7や12トンハーフトラックSd.kfz.8の実物が登場していたり、スターリン3型重戦車JS-3を改造したV号中戦車パンターの姿があったりでついついマニアックな観賞になってしまう。さらにT-34/85中戦車を中心としたソヴィエト戦車軍団の中に現役(撮影当時)のT-62やスターリン3型重戦車JS-3が水増し車輌として目立たないように配置されていたりするのだが、そんな戦車軍団の中に襲撃砲戦車SU-100ジューコフを発見して元ブラモ少年としては狂喜乱舞(オオゲサ)。監督やメイン・スタッフは軍事ヲタクやプラモ少年ではなかったのか、そんなレアな軍事車輌たちには興味がなかったようでがあまり活躍しないのが残念。戦車関係で最も印象的だったのは、丘を高速で降って来たT-34/85が段差でジャンプする場面、あんな重たいモノがジャンプする姿はかなりレアであります…乗ってる戦車兵たちが着地の衝撃で負傷していないか心配。

 

◎注2; 

 ヒトラーやドイツ将軍たちドイツ軍兵士の台詞はロシア語吹替ではなく、原語の台詞にロシア語に翻訳した台詞をそのままかぶせる方式で、これは登場する各国著名人や兵士の台詞等でも同様に行われる。わが国公開版ではさらに日本語字幕が表示されるので、3国の言語が飛び交うという苦行…しばらくすると慣れて来るんだけどね。

 珍しい軍事車両や兵器工場の映像が多数登場するタイトルバックの記録映像が嬉しい。冒頭から20分近くモノクロ映像が続くがジューコフ元帥の命令で砲撃を開始する場面からカラーに変わる(タイトル文字もカラーだけど)。

 ウラジーミル・レーニンの死去後に後継者として独裁体制を強化したヨシフ・スターリンについては独裁者的な表現は皆無で、あくまで歴史的人物として描かれているが、ドイツ軍捕虜となりザクセンハウゼン強制収容所に収容されたスターリンの長男ヤーコフ・ジュガシヴィリ(ヨセブ・グギチャイシュヴィリ)とドイツ軍フリードリヒ・パウルス元帥の捕虜交換の本筋とはあまり関係のないエピソードが登場する。スターリンが「中尉と元帥を交換する馬鹿はいない」と実の息子を犠牲にしても捕虜交換のに応じなかったという有名な逸話なのだが、本作にこの英雄的場面が必要だったかは甚だ疑問…実名で登場する将軍たちの描写の多寡も何か意図があるのではと勘繰りたくなる。こんな場面を描くぐらいなら全5部作に登場する映画的主人公ツヴェターエフ大尉の描写を増やすべきだと思ったのだ。ツヴェターエフ大尉は第一部ではほんの少ししか登場しないし、ドイツ軍の砲撃で負傷して倒れている所へゾーヤが駆けつけて次回へ続くという中途半端さなのでほとんど印象に残らない。

 将軍たちの行動や戦略会議の描写が異常に多く一般のソヴィエト軍兵士たちが活躍する場面が少なくて、映画終盤の破壊された戦車から脱出した両軍の戦車兵による白兵戦のあたりは演出や編集も映画的で、ここへ来てやっと「戦争映画を観ている」という気分が戻ってくる。

 

 

 

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