バルジ大作戦(1965) | つぶやキネマ

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バルジ大作戦(1965)

 

 第2次世界大戦のヨーロッパ戦線。1944年12月、アメリカ陸軍情報将校のダニエル・カイリー中佐(ヘンリー・フォンダ)は偵察機でベルギーのアルデンヌの森を偵察中にドイツ軍将校ヘスラー大佐(ロバート・ショウ)の乗った高級車を撮影する。従卒コンラッド伍長(ハンス・クリスチャン・ブレヒ)の運転で地下に造られた新しい秘密基地に到着したヘスラー大佐は司令官コーラー将軍(ヴェルナー・ペータース)からシューマッハ中尉(タイ・ハーディン)が率いる空挺部隊がアメリカ軍兵士に偽装して降下しアメリカ軍を混乱させ、ヘスラー大佐の指揮する機甲師団がアメリカの防御線を突破してアントワープを奪還するという極秘計画を知らされる。ヘスラー大佐はコンラッドから新任の戦車長ディーペル少佐(カール=オットー・アルベルティ)が率いる戦車兵たちは若くて経験が浅い事を指摘されるが、行進歌「パンツァーリート」を合唱し闘志を表す戦車兵たちを部下として認めるのだった。

 アンブレーヴのアメリカ軍司令部に帰還したカイリー中佐はドイツ軍の反撃を危惧するが、グレイ少将(ロバート・ライアン)やプリチャード大佐(ダナ・アンドリュース)はドイツ軍は反撃のための資源と人員が不足していると主張してカイリー中佐の警告を退ける。しかしカイリー中佐はドイツ軍反撃の可能性を探るためにドイツ軍と対峙する最前線のウォレンスキー少佐(チャールズ・ブロンソン)が指揮するトーチカを訪れドイツ兵捕虜の確保を指示、ウィーバー中尉(ジェームズ・マッカーサー)とデュケスン軍曹(ジョージ・モンゴメリー)が10数名の捕虜を連れ帰るが捕虜が少年のような若い兵士ばかりだった事からドイツ軍が反撃の準備をしているという根拠は薄いとプリチャード大佐は断定、カイリー中佐は捕虜たちが短いゴムホースを所持していた事を訝しむ。

 アメリカ軍上層部はドイツ軍の反撃は無いと考えていたが、ドイツ軍の最新鋭の重戦車キング・タイガーの大部隊を率いたヘスラー大佐がアルデンヌの森ヘ進撃を開始し、物資の闇取引で私腹を肥やしていたアメリカ軍の戦車長のガフィー軍曹(テリー・サバラス)も戦場へ向かうが、強力な火力と防御力を誇るキング・タイガー戦車の攻撃にアメリカ軍の主力であるシャーマン戦車は全く歯が立たず敗退、ウォレンスキー少佐の案内でキングタイガー戦車の調査に乗り出したカイリー中佐はガフィー軍曹たちが大破した戦車を放置して退却する中、キング・タイガー戦車の乗員を手榴弾で殺害しキング・タイガーの大部隊を指揮しているのがヘスラー大佐である事を確認する。

 アメリカ軍に偽装したシューマッハ中尉の空挺部隊は重戦車が通過出来る唯一の橋を確保し爆破の偽装を行い、アンブレーヴ等の拠点を結ぶ交差点を制圧し道路標識も変えてしまったために、撤退中のアメリカ軍兵士の多くは混乱し捕虜になりマルメディではアメリカ軍捕虜の虐殺が勃発、銃撃を察知したデュケスン軍曹の機転でウィーバー中尉は負傷しながらも逃げ延びる。

 ヘスラー大佐のキング・タイガー大隊を偵察したカイリー中佐は大隊のトラックが空のドラム缶を運搬しているのを目撃、ガフィー軍曹はアンブレーヴの街の闇物資を保管している部屋でベルギー人の闇商売の相棒で恋人のルイーズ(ピア・アンジェリ)と再会し互いの想いを確認する。グレイ少将は撤退の準備を中止しアンブレーヴの死守を決断、ヘスラー大佐はコーラー将軍の迂回命令を拒否してアンブレーヴを包囲して進撃を開始、火力で劣るアメリカ軍は反撃のために司令部をミューズ川まで撤退、ウォレンスキー少佐を含む多くのアメリカ人兵士が捕虜となり、撤退した司令部に帰還したガフィー軍曹はルイーズがドイツ軍の砲撃で死亡した事を知るのだった…というお話。

 

 「バルジの戦い」として歴史に残る第2次世界大戦のドイツ軍最後の抵抗を描いた戦争アクション大作で、大規模な戦闘シーンには実物の戦車が多数登場するという事で話題になった。雑誌の紹介記事を読んで興奮した戦車大好きプラモ少年(当時)は絶対観たいと思っていたが劇場には行けず、初めての観賞はテレビ放映になり本物の戦車が走り回る迫力は我が家の14型のテレビでは堪能出来なかった…数年後に名画座で再会した時はフツーの映画も沢山観た後なので少し大人になっていて割と冷静に観賞した事を記憶している(注1)。

 

 本編冒頭には序曲があり中間部には休憩が、ラストには終曲が付くという昔のハリウッド大作では定番だった仕様で、史実を取り入れてはいるものの基本的なストーリーは完全なフィクション。史実よりも娯楽優先のハリウッド王道の戦争アクション大作だったにもかかわらず、「バルジの戦い」当時は連合国軍最高司令官だったアイゼンハワー元大統領や軍関係者等から史実と違うとクレームがついたらしい。本作は、ホンモノの戦車を大量投入した戦車戦の場面ばかりが話題になるが、豪華な配役で展開されるドラマ部分もしっかり構成され面白く出来ていて2時間47分の長尺にもかかわらず緊張感が途切れず全く飽きさせない辺りも記憶に残る作品なのだよ(注2)。

 

 本物の戦車が多数登場しキャタピラの音を轟かせながら走り回るだけで元プラモ少年としてはお腹いっぱいなのだが、スタッフやキャストも豪華で大スターや演技派による存在感たっぷりの名演技が堪能出来るのも嬉しいし、前半からドイツ軍のガソリン不足という伏線を強調し要所要所で繰り返し念入りに描かれるので、クライマックスのアメリカ軍の補給基地での攻防のハラハラドキドキが倍増…結末が解ってても楽しめる構成や編集が素晴らしいのだ(注3)。

 

 ハリウッドの戦争超大作にしては珍しく、反戦・厭戦の描写が頻繁に登場し勇ましい戦闘場面とのコントラストは抜群、戦史に残るアメリカ軍捕虜の大量虐殺が起きた「マルメディの虐殺」についても丁寧に描かれていて戦争の悲惨さも強調されている…テリー・サバラス演じるガフィー軍曹が戦場で商売して楽しそうなのと相殺されちゃってるけどね。

 本作で最も印象的なのはロバート・ショウ演じるヘスラー大佐とハンス・クリスチャン・ブレヒ演じる従卒コンラッド伍長の確執で、戦争があってこそ自らの存在感を示せるという職業軍人のメンタルをコンラッドが暴いてみせる場面は本当に素晴らしい…反戦をはっきり言葉にするのがドイツ軍の伍長というのが良いですな。

 破壊され放置された大量のドイツ軍戦車が次々と映し出される場面には、食料や石油を大量に備蓄あるいは自給自足が不可能な国は戦争しても勝てないという教訓が感じられる…戦争したがってる何処かの国のエライ人たちは本作を観てもわかんないんだろうなぁ(注4)。

 

●スタッフ

監督:ケン・アナキン

製作・脚本:フィリップ・ヨーダン、ミルトン・スパーリング

脚本:ジョン・メルソン

製作総指揮:シドニー・ハーモン

撮影:ジャック・ヒルデヤード

編集:レスター・S・サンソム、デレク・パーソンズ

音楽:ベンジャミン・フランケル

 

●キャスト

ヘンリー・フォンダ、ロバート・ショウ、

ロバート・ライアン、ダナ・アンドリュース、

チャールズ・ブロンソン、テリー・サバラス、

ジェームズ・マッカーサー、ジョージ・モンゴメリー、

タイ・ハーディン    、ハンス・クリスチャン・ブレヒ、

ヴェルナー・ペータース、カール=オットー・アルベルティ、

ピア・アンジェリ、バーバラ・ウェール

 

◎注1; 

 70mmプリントを使用したスーパー・パナピジョン方式のシネラマ作品としてテアトル東京・大阪OS劇場で上映されたのだが、シネラマとしての公開はこの時だけだったと記憶している。名画座で観たのはシネマスコープ版だったがテレビ観賞とは雲泥の差の迫力に大満足、現在は自宅の100インチ・スクリーンにプロジェクターで投影し7.1chサラウンドで劇場の雰囲気を味わってます。

 

◎注2; 

 勇敢な兵士が活躍する勇ましいだけの戦争映画ではなく、戦争や職業軍人に対する批判が隠し味のように随所に織り込まれた辺りが元大統領や軍関係者は面白くなかったのだろう。特にラスト・シーンで徒歩で退却するドイツ軍のコンラッド伍長が持っていたライフルを投げ捨てる描写は「戦争上等」な方々にはカチンと来たのだろう。

 ドラマ部分を構成する登場人物は「司令部の戦況把握に疑問を抱き独自調査をする士官」「新米士官と古参軍曹」「戦場も商売にしてしまうアメリカ兵」「アメリカ兵と戦地の女性の恋」「戦争マニアの士官とそれに批判的な部下」等々の戦争モノの定番と言えるエピソードを上手く織り込み、各エピソードのキャラクターたちが一堂に会するというクライマックスには拍手喝采したくなる。

 大量投入された戦車はロケ地となったスペインの陸軍から貸し出されたもので、アメリカのM47中戦車がドイツのティーガーII(通称キング・タイガー)重戦車を演じ、M24軽戦車がM4中戦車を演じ、アメリカ軍の105ミリ自走榴弾砲M7やM3ハーフトラック等も登場している…ドイツ軍機甲師団の司令官となるヘスラー大佐が見せられるティーガーII戦車の模型が巨大なM47の模型だったのには思わず笑ってしまった。戦車戦の場面は実物が使われ撮影されているが、戦車が破壊される場面等は模型を使った特撮で処理されている。

 本作では、ドイツ軍機甲師団はティーガーII戦車の大部隊になっているが、実際は最新鋭のパンター中戦車がメインだったようだ。ティーガーII戦車は火力や装甲面は優れていたがアメリカ軍戦車に比べて燃費が悪く、作中で描かれているように燃料切れで動けなくなった所を狙われ破壊されたり走行不能で放置された車両が大半だったらしい。M47中戦車は部隊配備は1952年、M24軽戦車は1944年末に部隊配備された20輌が「バルジの戦い」で初陣を飾っている。ドイツ軍の作戦司令部の戦況を示す巨大テーブルに並べられた戦車の模型はキング・タイガーだったのには笑わせてもらいました。

 劇場公開版は序曲等を含む2時間47分だが、ビデオ・LD等では141分の短縮版で発売、DVD以降はオリジナルの全長版で発売されている。

 

◎注3; 

 監督のケン・アナキンは手堅い演出で「南海漂流(196)」「史上最大の作戦(1962)」「素晴らしきヒコーキ野郎(1965)」「モンテカルロ・ラリー(1969)」「太陽にかける橋/ペーパー・タイガー (1974)」等の娯楽映画を残した職人肌の名監督…ダース・ベイダーの本名は彼の名前かららしい。脚本のフィリップ・ヨーダンは「探偵物語(1951)」「魔術の恋(1953)」「黒い絨毯(1954)」「エル・シド(1961)」「人類SOS!(1963)」「北京の55日(1963)」「ローマ帝国の滅亡 (1964)」等で活躍、本作では製作も兼任している。彼の書いた脚本を元にミルトン・スパーリングとジョン・メルソンが修正・加筆を担当、撮影のジャック・ヒルデヤードはイギリス人撮影監督で「ホブスンの婿選び(1954)」「旅情(1955)」「追想(1956)」「戦場にかける橋(1957)」「クレオパトラ(1963)」「カジノロワイヤル(1967)」等で活躍、編集は「108急降下爆撃戦隊(1954)」「USタイガー攻撃隊(1955)」「大突撃(1964)」「地球は壊滅する(1965)」等のレスター・S・サンソムとデレク・パーソンズが担当、彼らの丁寧で堅実な編集が本作の成功に貢献していると思いますね。音楽は「文なし横丁の人々(1955)」「吸血狼男(1961)」「暗黒の銃弾(1962)」「イグアナの夜(1964)」等のベンジャミン・フランケル、出演はヘンリー・フォンダ 、ロバート・ライアン 、ダナ・アンドリュース、チャールズ・ブロンソン 、テリー・サバラス 、ジェームズ・マッカーサー、ジョージ・モンゴメリー、タイ・ハーディン、ロバート・ショウ、ハンス・クリスチャン・ブレヒ、ヴェルナー・ペータース、カール=オットー・アルベルティ等と古い映画ファンには嬉しいキャストで、個人的にはガフィー軍曹の愛人ルイーズを演じたピア・アンジェリが嬉しかった。

 ロバート・ショウ演じるヘスラー大佐の「エロい事より戦争大好き」を示すために用意されたコーラー将軍が差し向けた高級娼婦エレナ(バーバラ・ウェール)を追い返す場面には笑ってしまった…ナチス・ドイツが敗北寸前でそんな事してる場合じゃないんだからヘスラー大佐の方が正解なんだけどさ。

 アルデンヌの森を進撃して来るドイツ軍機甲師団の迫力には圧倒されたし、アメリカ軍司令部のあるアンブレーヴの街の攻防でもドイツ軍機甲師団の進撃がたっぷり描かれるのだが、後半の大戦車戦は実際は悪天候の雪原での攻防だったのだが、本作では晴天の広大な荒地での攻防になっている。おそらくロケ地として選んだスペインの雪原は撮影時に雪が降らなかったのだろう…ハリウッド超大作といえども雪が降るまで撮影を延期したり広大な荒地を雪原に変える予算は無かった事は想像出来る。

 本作のような本物の戦車が多数登場する大戦車戦を描いた作品は映画史を遡っても「ヨーロッパの解放(1970~1972)」ぐらい…「戦争と人間 第三部 完結篇(1973)」には「ヨーロッパの解放/第1部 クルスク大戦車戦(1970」の戦車戦の場面が流用されているけどね。「バルジの戦い」を題材にした作品は「大反撃(1969)」「カンパニー・オブ・ヒーローズ・バルジの戦い(2013」「バトル・オブ・バルジ(2014」「ザ・バルジ ナチスvs連合軍、最後の決戦(2021)」等があるが戦車は登場するものの本作のような大規模な戦車戦は描かれていない。また、テレビ・ドラマ「バンド・オブ・ブラザース(2001)」にも「バルジの戦い」のエピソードが登場するが、アルデンヌの森でドイツ軍の砲撃に翻弄されるアメリカ陸軍空挺師団の兵士たちの苦闘が描かれている。イタリア製の戦争大作「アルデンヌの戦い(1967)」なんてのもあるがこちらは「バルジの戦い」とは無関係で大戦末期のオランダを舞台にしたスパイ活劇だった…ドイツ戦車を演じるM47の大隊は一応登場するんだけどね。

 

◎注4; 

 本作では「マルメディの虐殺」は武装親衛隊による計画的な虐殺として描かれ、捕虜となったウォレンスキー少佐がヘスラー大佐に抗議する場面等も登場するが、アメリカ兵捕虜が逃亡しようとして起きた偶発的事件という説もある。いずれにしても戦場ではジュネーヴ条約とか人道とかとは無関係に殺戮が起きてしまうという事だ。

 ドイツ軍の補給力についての描写も多く、燃料だけではなく食料も不足していた事が描かれる。ヘスラー大佐が従卒コンラッド伍長が現地調達で用意した士官用の食事(ワイン付)を拒否し兵士と同じ食事をと言う場面や、指令車を訪れたコーラー将軍にヘスラー大佐がアメリカ兵の家族から送られて来たケーキを見せて連合軍の補給力について語る場面がわざわざ描かれていて、ドイツ軍の補給力の弱さが燃料基地での攻防のサスペンスに効果を添えている。

 

 

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