落ちた偶像(1948) | つぶやキネマ

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140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★


落ちた偶像(1948)


 ロンドンの某国大使館の執事ベインズ(ラルフ・リチャ
ードソン)は、大使が病気静養中だった夫人を迎えに出か
けたので、週末の広い大使館で大使の息子フェリップ(ボ
ビー・ヘンリー)と妻(ソニア・ドレスデル)の三人で過ご
す事になった。フェリップはベインズのアフリカでの冒
険談に夢中で彼をヒーローのように慕っていたが、ベイ
ンズは厳格でヒステリックで冷い妻に対して愛情を失っ
ていて、若いタイピストのジュリー(ミシェル・モルガン)
と不倫関係を続けていた。その状況に耐えられないジュリ
ーは身を引く事をベインズに告げるが、ふたりがカフェで
話している所をフェリップに見られてしまう。翌日、妻が
実家の母に会いに行くと外出したためベインズはジュリー
を呼び出しフェリップをつれて動物園に行くが、それはベ
インズの行動に不信感を抱いた妻の罠で、外出を装って大
使館に戻り火曜まで帰らぬという偽装の電報も送っていた
のだった...というお話。高い評価を得た前作「邪魔者は殺
せ(1947)」
はIRA活動家の末路を描いた重厚なサスペンス
だったが、一転して本作は不倫カップルが殺人犯の嫌疑を
かけられてしまうという小規模サスペンスで吃驚。カフェ
や動物園も登場するが大半が大使館内での出来事なので、
映像的にも前作ほどの充実感がないにもかかわらずメチャ
クチャ面白いのは、作品の雰囲気にピッタリのキャスティ
ングとキャロル・リード監督の演出力の高さによるのだろ
う(注1)。ベインズの妻の死因を知っているのが観客だけと
いう事や、現場に残っている証拠を思い込みの激しい刑事
たちが発見出来るかどうか解らないというサスペンスで、
ホントにハラハラしてしまう。フェリップがベインズをヒ
ーローのように慕っているという設定や、現場を外の階段
から覗き見していたフェリップが階段を下りる間に起こっ
ていた事を見逃しているという演出が、フェリップがなん
とかしてベインズを助けようとする後半のサスペンスの重
要な要素になっているあたりは何度観ても感心してしまう
...目撃した後怖くなったフェリップが逃げ出して街を走り
回る場面は、前作なみの凝りまくった映像が観られて楽し
いです。


●スタッフ
製作・監督:キャロル・リード
原作・脚本:グレアム・グリーン
撮影:ジョルジュ・ペリナール
音楽:ウィリアム・オルウィン


●キャスト
ラルフ・リチャードソン、ミシェル・モルガン、
ボビー・ヘンリー、ソニア・ドレスデル、
デニス・オディア、ジャック・ホーキンス、
ジェフリー・キーン、バーナード・リー


◎注1; 本作は小説家グレアム・グリーンの短編「地下室」
を原作者自身が映画用に脚色している。登場人物も少ない
し舞台も限定されているのでスケール感には乏しいのだが、
ドラマ部分もしっかり演出されているので緊張感が途切れ
ない..."恋愛"はサスペンス・ドラマでもある事の再確認が
出来ます。ちょっとしたインサート・カットが重要な役割
を持っているあたりは前作同様で、台詞に頼らなくても登
場人物の心理がちゃんと観客に伝わる演出はお見事であり
ます。ベインズを演じたラルフ・リチャードソンは、子供
が憧れてしまうぐらいの有能な執事を見事に演じているが、
まじめで無骨な感じの彼が不倫をしているというあたりの
意外性も含めて最高のキャスティングだと思いますね。戦
前から活躍している名優だが、本作以降はキャロル・リー
ド監督の「文化果つるところ(1951)」「ハバナの男(1960)」
等でも活躍、徐々に「カーツーム(1966)」「空軍大戦略(19
69)」「ローラーボール(1975)」等の大作の重要な脇役が中
心になって行くが、"神"を演じた「バンデットQ(1981)」や、
老魔法使いが素晴らしかった「ドラゴンスレイヤー(1981)」
では、彼らしい存在感を観せてくれる。オーデションで選ば
れフェリップを演じたボビー・ヘンリーは、子役っぽさのな
い自然な感じが素敵なのだが、3年後に出演作がもう1本ある
だけなので俳優にはならなかったようだ。ミシェル・モルガ
ンは、こういう恋に悩む女性がホントに上手い。終始暗い表
情なのだが大使館内でフェリップと遊んでいる時の笑顔が素
敵です。「狂熱の孤独(1953)」「夜の騎士道(1955)」「名誉
と栄光のためでなく(1966)」あたりの出演作も久しぶりに観
てみたくなりました。「邪魔者は殺せ」で冷酷な警部補を演
じていたデニス・オディアが本作でも雰囲気たっぷりにクー
ルな刑事を演じていて素晴らしい。刑事役でイギリスの名優
ジャック・ホーキンスが出ているのも嬉しいが、007シリーズ
でMを演じていたバーナード・リーや、同じく007シリーズの
常連だったジェフリー・キーンが鑑識担当刑事の役で出演して
いる...ちなみに007シリーズを4作監督したガイ・ハミルトンが
助監督で参加してます。

◎蛇足; 本作は家庭用ビデオが無かった時代に「第三の男(19
49)」同様にノーカット版の8mmフィルムを購入し繰り返し
観ていたのだが、かなり高画質で大使館内部を捉えたクリア
な映像が素敵だった。DVDの発売を楽しみにしていたが、何
故か日本盤DVDは出ないままなのでTV録画が処分出来ない
でいる...パブリック・ドメインの安価なDVDが流通している
んだけどね。


 

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