刑事コロンボ/アリバイのダイヤル(1972) | つぶやキネマ

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刑事コロンボ/アリバイのダイヤル(1972)

 

 ロサンゼルスのアメリカン・フットボール・チームのロケッツのゼネラル・マネージャーのポール・ハンロン(ロバート・カルプ)は、先代創業者の残したスポーツ王国の事業の拡大を進めていたが、野心に欠け浪費家で遊び人の二代目エリック・ワーグナー(ディーン・ストックウェル)は事業の妨げにしかならない上に、雇われ重役でしかないハンロンは気分屋のエリックから突然解雇されるのを恐れていた。業績を上げていずれは社主に収まると言う野望を抱いていたハンロンはエリックの殺害を計画、試合中はコロシアムのオーナー専用室に居たというアリバイ工作のために、まだ就寝中だったエリックに電話で海外出張の約束を取り付け、試合開始直前にコーチのリゾ(ジェームス・グレゴリー)に電話し、観客席の販売員に変装してコロシアムを出てアイスクリームの巡回販売車に乗ってエリックの邸宅に向かいプールにいたエリックを氷塊で殴り溺死させる。

 プールで発見されたエリックはロサンゼルス市警の担当刑事クレメンス(クリフ・カーネル)によって事故による溺死と判断されたが、殺人課の警部補コロンボ(ピーター・フォーク)はブールサイドが水道水で不自然に濡れていた事に疑問を持ち捜査を開始する。

 エリックの妻シャーリー(スーザン・ハワード)が所在不明な事から、コロンボはチームのゼネラル・マネージャーでエリックの片腕のハンロンから詳しい事情を聞こうとするが、エリックの死亡を知らされたハンロンの挙動に疑念を抱く。コーチのリゾからは独善的で強引だが経営手腕はたしかで創業者一族に信頼されている事やハンロンの言動の不可解な変化についての証言も得る。

 ハンロンと敵対しているワーグナー家の弁護士ウォルター・カネル(ディーン・ジャガー)が葬儀の準備に追われるワーグナー邸を訪れ、ハンロンがエリックの死を知らせて来なかったと叱責し口論となる。シャーリーの所在確認に邸宅を訪れていたコロンボは、新人秘書のジョンソン(キャスリン・ケリー・ウィジェット)が邸宅にかかって来た電話を受けるたびにラジオに雑音が入る事に気がつく…というお話。

 

 本作はコロンボが容疑者逮捕の決め手として犯人のアリバイの欠陥を指摘する所謂「アリバイ崩し」がメインなのだが、本シリーズでは意外にもこのタイプは初めて。冒頭で犯人のアリバイ工作を丁寧に描くのは定番だったものの、これまでは捜査の過程で解ったアリバイの欠陥でコロンボが真犯人と確信するというのが主流だったが、本作は犯人にアリバイの欠陥を直接突き付けるという形になっているのが新機軸。しかし、結末からストーリーを作ったシナリオの典型で、肝心のアリバイ工作も含めてあちこち穴だらけなのがなんとも情けない。さらに毎回ファンが楽しみにしているコロンボのオトボケ捜査も少なめという体たらくで、観賞後に物足りなさに襲われる凡作になってしまった…発想は悪くなかったんだけどね(注1)

 

 本作を観賞していてシリーズとしての違和感を最初に感じたのは、コロンボがプールサイドが濡れている事に気が付きすぐに舐めてみる場面だった...何故即座にプールの水では無いと閃いたのか?本シリーズにおいては従来なら、現場周辺を歩き回りプールサイドが濡れている原因が水道のホースから出た水だと解りカルキ(消毒薬の塩素)が入っているプールの水では無い事に疑問を持つという描写を加えたはずだが、そういう「コロンボ」らしさが本作には少ないのだ。それ以降はストーリー上の細部の不自然さが気になって楽しさも半減、ウォルターの妻シャーリーを迎えに行ったハンロンのリムジンをコロンボが空港で偶然見つけたみたいな描写があるのに、電話ボックス内にハンロンを見つけた後に尾行していたのを白状したりしているし、ハンロンが空港に来た事や公衆電話から電話した相手についてもちゃんと聞かなかったり、いつものねちっこいオトボケ捜査ぶりとは少し違うのもすごーく気になった(注2)。

 

 そんな欠陥だらけのストーリーと脚本に加え演出もイマイチ締まりがない。監督のジェレミー・ケーガンは脚本に書かれた場面をきっちり撮ってはいるようだが、俳優のちょっとした細かい演技を丁寧に捉えるタイプでは無いようで、特にシーンの繋がりを円滑にするインサート・カットはほとんど撮っていなかったのではというくらいブツ切りで繋がりの悪い場面が多いのだ…フットボールの試合やチアガールの映像、旅客機の着陸時の様子や空港等の編集スタジオに保存されているストック・フッテージが多用されているんだよね(注3)。

 

 そんな凡作ではあるが映画ファンにとっては何気にゲストが豪華なのが嬉しかったりもするし、コロンボの愛車のプジョーが何度か登場するのもニコニコしてしまう…空港の場面の車体の汚しがわざとらしくて笑える。盗聴テープを聴き返す埠頭のカフェでは好物のチリを食べていたりというファン・サービスもあるのだが、何度も登場するプールで濡れてダメになった靴に関するエピソードは演出次第でもう少し面白くなりそうだったのが残念…監督はギャグ演出には興味なかったんだろうね(注4)。

 

●スタッフ

監督:ジェレミー・ケーガン

製作:ディーン・ハーグローブ

製作総指揮:リチャード・レヴィンソン、ウィリアム・リンク

ストーリー監修:ジャクソン・ギリス    

脚本:ジョン・T・デュガン

撮影:ハリー・ウルフ    

音楽:ディック・デ・ベネディクティス

 

●キャスト

ピーター・フォーク、ロバート・カルプ、

ディーン・ストックウェル、ディーン・ジャガー、

ジェイムズ・グレゴリー、ヴァル・エイヴリー、

ヴァレリー・ハーパー、キャスリン・ケリー・ウィジェット、

スーザン・ハワード、リチャード・スタール、

クリフ・カーネル

 

◎注1; 

 本作で最も重要な要素のハンロンのアリバイは色々問題だらけ。まず気になったのはオーナー専用室は警備員の許可を得た来訪者やチームやコロシアムの関係者なら誰でも何時でも入って来れる事。オーナー専用室に入るにはエレベーターを出た所に制服の警備員がいて、そのすぐ先にはスタンドのVIP席(のような感じ)に数人の観客が座っている。その後方の通路の先にオーナー専用室への階段がある…コロンボもオーナー専用室には二度登場するがハンロンの許可をもらったりはしていないのだ。さらに売り子に変装したハンロンがオーナー専用室から出て観客席に現れる事から、警備員がいるエレベーター方向以外にも出入り口がある事が解る…入ったはずのない売り子がオーナー専用室から出て来たら警備員は驚くよね…ハンロンの不在中(犯行中)に誰かが入って来る可能性もゼロではない。オーナー専用室の電話も、交換を通さない直通タイプなのでハンロンの不在中(犯行中)に電話がかかって来る可能性もある…誰もオーナー専用室の電話番号を知らないというのはあり得ないし少なくともワーグナー家の人々や弁護士は知っているよね。さらに酷いのはコロンボから通話記録の話題が出た時にハンロンが怒鳴り散らして話題を変えている…ハンロンとエリックの通話記録が1回しか無いのは脚本上の大きな「穴」だからね。

 変装したハンロンは観客席を抜けた後、販売関係者専用通路の出口に止めてあるアイスクリーム販売車に乗り込むのだが、その販売車の周囲に観客はいないのでアイスクリーム販売車である必然性が薄い…ここで変装を解いて普通車に乗り込めば子供に目撃されたりしなくて済んだのに。完全犯罪を企んだのに邸宅のある高級住宅街では目立つアイスクリーム販売車を何故選んだかというあたりは、凶器を氷塊にした事からアイスクリーム販売車と発想したのだろう…乗用車でもアイス・ボックスを積めば運べるし死因が打撲後の溺死になれば良いのだから凶器は氷塊でなくても良いのだよ。

 そして肝心の最後にハンロンを追い詰める高級時計の〇〇の音だが、ハンロンがオーナー専用室で準備をしている時に試合開始の午後2時に〇〇が鳴るのである。復線として一往入れた場面だが、30分にも〇〇が鳴るタイプというのは視聴者には伏せている…推理力の高い視聴者にはその時点で解っちゃうからね。逮捕への決め手となったこの「アリバイ崩し」なんだけど、コロンボは1回目のオーナー専用室訪問では高級時計が鳴るのを聴いていないので「その日は鳴らないようにしておいた」という言い訳も成り立つ…他のシリーズ作品のように事情聴取そっちのけで高級時計についてあれこれ聞いて「これと同じ時計を持ってる親戚がいる」とか言わせておけば良かったんだけどねぇ。

 

◎注2; 

 本作のコロンボのキャラクターは他のシリーズ作品に比べて少し異質で、ピーター・フォーク自身が監督した「パイルD-3の壁(1971)」の時とよく似ている感じ…ピーター・フォーク自身は視聴者の好みとは真逆のシャープで推理力抜群の刑事として演じたかったようだ。

 いくら敏腕刑事でもプールサイドに撒かれていた水をすぐに舐めてみるのはあまりにも不自然だし、ハンロンの不自然な受け答えや行動に疑問を持ったり盗聴器の存在を見破ったり葬儀の準備中に邸宅にかかって来た電話を犯人の関係者と睨んだりと、推理力や閃きが抜群なのに、唐突にプールへの階段を降りて靴を濡らす不注意さや、アリバイの欠陥を閃くのが旅行代理店の鳩時計という辺りはバランスが悪い...コロンボのボケやヘンテコな発言はあくまでも捜査上のテクニックなのに。

 本作全体を通してコロンボのユーモアが少なめなのも気になるトコロで、警官から現場検証を即される初登場の場面でも前作までよりも少し冷たい感じがするし、現場周辺の捜査も警官任せにしていて「足で稼ぐ刑事」な感じが希薄。得意のオトボケ捜査もボケを被せる感じが少ないし、うんざりした相手がついボロを出すといった展開も少ない。高級コールガールのイブ・バブコック(ヴァレリー・ハーパー)を訪ねたコロンボが客と間違えられて、その後に客が現れる場面はもっと面白くなりそうだったのに。辛抱強いコロンボが執拗に食い下がる事も少なめで、短気で怒りっぽいハンロンの圧力に負けているように見える場面もある。本作の脚本家ジョン・T・デュガンはコロンボのキャラクターをちゃんと掴んではいなかったのだろう。本シリーズでは「ホリスター将軍のコレクション(1971)」の脚本も書いていて、他に「ボナンザ(1959~1963)」「ドクター・キルデア(1961~1966)」「ベン・ケーシー(1961~1966)」「スパイ大作戦(1966~1973)」等の人気テレビ・ドラマの脚本家として活躍してはいるが、ミステリーや推理ドラマが得意な訳では無さそう。

 

◎注3; 

 そもそも脚本が穴だらけで推理モノとしては完全に失格なのだが、盗聴していたのをハンロンが知っていたと解る場面や盗聴器を仕掛けた秘書バブコック=ロゴージーに対する演出の手際の悪さで面白さが半減してしまっている。そもそも普段は高級コールガールをやっている女性が、邸宅の電話機の裏蓋を開けて高価な盗聴器を仕掛けるなんて芸当が出来るのか疑問…回収には私立探偵本人が忍び込んでるという矛盾。さらにエリックの事故死の数日前に秘書を解雇していたら警察に殺人事件かと疑われる可能性もあると考えなかった不自然さ等々…脚本の欠陥・欠点に気がついていても監督に修正する権限は無かったんだろうけどね。

 監督のジェレミー・ケーガンは、テレビ・ドラマの監督で当時27歳で本作がデヴュー3作目。日本で放映された作品は少なく「ピケット・フェンス ブロック捜査メモ(1992~1996)」「シカゴホープ(1994~2000)」等がある。本作は演出次第ではもう少し良作になったと思える場面が多いので、ついつい注文が多くなってしまう…スティーヴン・スピルバーグみたいな天才はそんなにゴロゴロいる訳ではないよね。

 

◎注4; 

 今回の犯人のハンロンを演じるロバート・カルプは前回の「指輪の爪あと(1971)」の短気な私立探偵ブリマーに輪をかけたシリアスで直情型の人物として演じていて、他の出演作品で見せていたお得意の演技パターンとも少し演技を変えているのが素晴らしい…日本語吹替版はその辺りを強調し過ぎていて少し鬱陶しいんだけどね。テレビ・シリーズ「あなたは目撃者/架空実況中継(1953)」でデヴュー、劇場映画では「ニューヨークの休日(1963)」「ボブ&キャロル&テッド&アリス(1969)」等、「殺人者にラブ・ソングを(1972年)」では監督も兼任。以降はテレビ界を中心に活躍していて本シリーズにもあと2本出演しています。

 エリック・ワーグナーを演じたディーン・ストックウェルは、子役として劇場映画デヴューし「紳士協定(1947)」「緑色の髪の少年(1948)」で注目されるがその後低迷、本作あたりからテレビ俳優として活躍し「パリ、テキサス(1984)」「デューン/砂の惑星(1984)」「ブルーベルベット(1986)」等で劇場映画に本格復帰しました。本シリーズにもう1本出演しています。

 コーチのリゾを演じたジェイムズ・グレゴリーは、1940年代から脇役を中心に映画界やテレビテレビ界で活躍する大ベテランで「影なき狙撃者(1962)」「魚雷艇109(1963)」「エルダー兄弟(1965)」等に出演、ディーン・マーティンの「サイレンサー・シリーズ」でも活躍。「続・猿の惑星(1970)」ではゴリラのアーサス将軍を演じています…本シリーズは「猿の惑星シリーズ」の出演者の宝庫。本シリーズは「死の方程式(1971)」にも。

 ウォルター・キャネル弁護士を演じたディーン・ジャガーは、サイレント映画時代から活躍している超ベテラン。アカデミー賞の助演男優賞を受賞した「頭上の敵機(1949)」、「聖衣(1953)」「尼僧物語(1959)」「死亡遊戯(1978)」等で活躍。

 邸宅侵入をコロンボに見つかる私立探偵ラルフ・ダブスを演じたヴァル・エイヴリーは、1950年代から映画界やテレビテレビ界で活躍するベテラン、「長く熱い夜(1958)」「荒野の七人(1960)」「ショーン・コネリー/盗聴作戦(1971)」等で存在感の強い名演を見せてくれます。本シリーズには「ホリスター将軍のコレクション(1971)」と本作以外にもあと2本登場しています。

 高級コールガールのイブ・バブコックを演じたヴァレリー・ハーパーはテレビ界で活躍する女優さん。日本で放映されたのは本作ぐらいなのが残念です…お客を演じた俳優さんも何かで見た記憶が。

 旅行代理店の支配人(一応ミスター・フレモントという名前になっている)を演じたリチャード・スタールもテレビ界で活躍する俳優さんで、本作の後シリーズの常連になりなんとロバート・カルプと一緒に再出演してます。

 本作で登場するエリック・ワーグナーの邸宅は、スティーヴン・スピルバーグが監督した「構想の死角(1971)」でジャック・キャシディ演じるケン・フランクリンの邸宅として使われたのと同じ家です…テレビ界の御用達ロケ地として数多くの作品でも使われているらしい。

 

 

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