死を呼ぶスキャンダル(1973) | つぶやキネマ

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「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

死を呼ぶスキャンダル(1973)

 

 人気テレビ・キャスターのポール・サベージ(マーティン・ランドー)は自ら取材に飛び回る行動派で、スタジオ入りは常に放送ギリギリになるためディレクター(ヴィクター・ミラン)は頭を悩ませていた。番組プロデューサーのゲイル・アボット(バーバラ・ベイン)と調査中の犯罪組織のバハマ部門の取立屋の取材について編集室で話し合っていた所にワシントンのハヴィランド知事(ビル・クイン)から電話があって取材する事になる。それは政界に流れている最高裁判事候補のダニエル・マッケンジー・スターン判事(バリー・サリヴァン)の噂についてで、ポールとゲイルはスターン判事のオフィスで開かれた記者会見に出席するが、同席していたマリオン・スターン夫人(ルイーズ・レイサム)の様子がおかしい事に気づく。ポールは記者会見場に現れスターン判事を凝視する女性を目にする。その女性はリー・レイノルズ(スーザン・ハワード)で数日前からピーター・ブルックス(ポール・リチャーズ)という謎の男が尾行していたのだった。

 記者会見後にレストランでメモをとるポールの前にリーが現れスターン判事の親しい知人だと自己紹介し、親しげに見つめ合う二人の写真をポールに見せる。その写真は店のウェイターに撮られたもので番組で報道して欲しいと頼むリーに、番組はスキャンダルには使わないと答えるポール。何がしたいんだと聞くポールに、情報提供料として5000ドル欲しい、支払わなければ新聞社か雑誌社に売り込むときつい口調で迫る。あなたはそういう事はしない印象だがと答えるポールに、あくまでも商取引だと行って出ていくが、その一部始終を尾行して来たブルックスは近くのテーブルについて二人の様子を伺っていた。

 リーから渡された写真には合成や修正した跡がないとカメラマンのジェリー(ジャック・ベンダー)に、偽物だと良いと思ったが最悪な状況になったと考えるポールは、証拠不十分で放送するのは危険だとネットワーク報道・広報担当重役のテッド・セリグソン(ダブニー・コールマン)から釘を刺される。

 高層アパートの15階から女性が飛び降りたという知らせで事故現場に駆けつけたポールは飛び降りたのがリーだと知って驚く。リーのアパートを調べるポールに、チャンバース警部補(ウォーレン・J・ケンマーリング)は警察は自殺と断定したと告げる。高層アパートの家賃はマネージャーのドナルド・モートンが支払っていた様だが、リーは別のビルに200ドルで部屋を借りていてビルの所有者は資産家で政界にも知人が多いジョエル・ライカー(ウィル・ギア)だと話す。

 編集室で今後の調査についての会議をしていたポールにライカーから電話が入りパーティーに招待される。スターン判事は自宅で誕生パーティーを開いていたがポールから電話がかかりリーについて聴きたいと言われ表情が変わる。そんなスターン判事の様子を浮かない顔でみつめるマリオン夫人。スターン判事のオフィスを訪れたポールはリーが自殺した事を告げ写真を見せる。スターン判事は最初はパーティーで2回会っただけの知人だと言っていたが、リーに懇願されレストランで会って飲んだ、幸せな時間だったと語り写真はその時に撮られたと思うと話す。リーが5000ドル欲しいと言っていた、ゆすり目的でウェイターに小型カメラで撮らせた写真だったようだと話すポールにスターン判事はそんな話は信じられないと強く否定するのだった。

 リーの葬儀が行われている墓地にタクシーで現れ、棺に薔薇の花束を捧げ立ち去ろうとする黒衣の女性にポールが声をかけるが、彼女は無言のままタクシーで去る。フラワー・ショップを43件当たって突き止めたその黒衣の女性は化粧品のCMモデルのアリソン・ベイカー(ミシェル・ケイリ―)でポールはCMの撮影現場にアリソンを訪ねる。リーとは数ヶ月にパーティーで知り合って意気投合したと話すアリソンにポールはライカーのパーティーかと問う。ライカーはモデルや女優が好みで花で飾られた部屋に大勢が集められていて彼はその中からお気に入りを選んでいたようだ、孤独な女が死ぬと必ず自殺と言われるがリーは誰かに殺されたのだと話し撮影に戻って行った。

 ゲイルとジェリーはリーがアパートを出て5マイル離れたモーテルで暮らしていた事を突き止める。アパートのドアマンの証言ではリーはマネージャーのモートンに読まれるのを恐れたのか手紙もモーテルに転送していたらしいが何故高層アパートを出てモーテルに移ったか。疑問に思ったゲイルはモーテルの主人にモートンという男を探していると告げるが、予約はないが数分前に二人の男がリーが利用していた部屋のドアを叩いていたと証言、ゲイルとジェリーは階段を降りて来るその男たちと女性を車内から撮影する。

 撮影したフィルムからは男たちや女性の素性や車の特定は出来なかったが、ポールは司法省のラッセル(パット・ハリントン・Jr)から呼び出されワシントンに向かう。ラッセルから撮影フィルムの提出を要求され、リー、マネージャーのモートン、CMモデルのアリソンの写真を見せられるが、さらにポールと会うリーを尾行していた男の写真も見せる。その男は弁護士助手やボディガードをしているピーター・ブルックスで、これらの写真は全て資産家ライカーの関係者であると告げ、ライカーについて何を知っているか教えろと迫る…というお話。

 

 「刑事コロンボ・シリーズ」「ジェシカおばさんの事件簿シリーズ」「エラリー・クイーン劇場シリーズ」等のクリエイターで脚本家チームのリチャード・レビンソンとウィリアム・リンクが製作・脚本を担当し、「スパイ大作戦(1966~1969)」で人気スターになったマーティン・ランドー、バーバラ・ベイン夫妻を起用しシリーズ化を狙ったパイロット・フィルムで、監督には「続・激突!/カー・ジャック(1974)」で劇場映画の監督としてデヴューする直前のスティーヴン・スピルバーグが指名された…本作がスピルバーグにとって最後のテレビ・ムービーになった。

 当時のテレビ界としては最高の布陣で挑んだ作品だったが、ストーリーはよくある政界スキャンダルで新味が無い上に、話を複雑にする目的だったのか無駄に登場キャラクターが多く、物語の流れが最悪なのに加えて思わせぶりな展開ばかりが続き本題が見えにくい脚本が原因で、視聴者には何が起きているのかさっぱりな印象の薄い作品になってしまった(注1)。

 

 放映前はスピルバーグが監督のテレビ・ムービーと聞いて「激突!(1971)」のような傑作を期待してしまったが残念な結果に…この脚本では誰が監督しても同じ結果だったろう。しかし全編に渡って彼らしい映像のてんこ盛りで、ファンにとっては思わずニヤニヤしてしまう場面が続出し、演出や撮影で後に大監督となる片鱗を本作でも見せてくれている(注2)。

 

 マーティン・ランドーとバーバラ・ベインが夫妻で出演しているので、ポールとゲイルの二人の関係を恋人か夫婦と思い込んでしまうが、実際には仕事上のパートナーという感じでそれらしい場面も皆無、この辺りも視聴者が色々混乱してしまう原因になっていたような気がするのだ。スターン判事夫妻の関係も脚本の描写不足が原因で解りにくくなっているし、偽装殺人の実行犯らしきピーターは逮捕されるものの黒幕のライカーがどうなったのかについては全く描写されないあたりもモヤモヤが残る…シリーズ化を狙っていたようなので、主人公ポールのライバル・悪役としてレギュラーで登場させる予定だったのではと妄想している(注3)。

 

 政界や財界関係者が多数集まるジョエル・ライカーのパーティー会場で流れている映画はビング・クロスビー主演の「ミシシッピ(1935)」でW・C・フィールズがインチキ・ポーカーをしている…本作には登場しませんが手札が全部エースになるというギャグの場面です。ポール達が打ち合わせをしている編集室にはW・C・フィールズとバスター・キートンの写真やポスターが貼られているので、使用フィルムと合わせてスピルバーグの指定だったのかも。

 

●スタッフ

監督:スティーヴン・スピルバーグ

製作:ポール・メイソン

製作総指揮・脚本:リチャード・レヴィンソン、ウィリアム・リンク

ストーリー原案・脚本:マーク・ロジャース

撮影:ビル・バトラー    

音楽:ギル・メレ

 

●キャスト

マーティン・ランドー、バーバラ・ベイン、

ウィル・ギア、バリー・サリヴァン、

ピーター・ブルックス、アリソン・ベイカー、

ルイーズ・レイサム、スーザン・ハワード、

ジャック・ベンダー、ダブニー・コールマン、

ヴィクター・ミラン、ウォーレン・J・ケマーリング、

ビル・クイン、パット・ハリントン・Jr、

リチャード・スタール、カール・ゴットリーブ

 

◎注1; 

 作品冒頭、写真館で撮影してもらっているリーとカメラを買いに来た客のフリをして様子を伺っていピーターが登場、ピーターがカメラマン(リチャード・スタール)を買収して連絡先を手に入れる場面があるのだが、そもそもリーは無警戒でピーターは尾行しているんだから、わざわざ買収する必要はないはず。そんな感じの意味不明な場面が多く、何かの伏線ではないかという思いが湧き上がるのだが、後で不要な場面だった事が解るという展開の連続で視聴者は緊張感を削がれる…あの電話の意味は何かとか考えているうちにストーリーが進んでるんだよね。しかも明らかに伏線なはずなのに回収されないまま終わってしまったエピソードもチラホラ。無関係な人物が整理されないまま多数登場し、それぞれ思わせぶりな発言や行動をするので視聴者は大混乱、番組が3分の2ぐらい進んでもどういう話なのかがよく解らないまま本当の悪の黒幕が登場する場面を観せられる。事件解決後にポールと面会した判事夫人のマリオンが、夫の浮気は自分が病気で妻らしい事をしてあげられなかったからだと告白するのだが、様々な事柄でジェンダー問題がピックアップされる現在だったら批判を浴びたかもしれないですな…この場面は丸々カットしても良かったぐらいだと思いますね。

 

◎注2; 

 全編通して奥行きを強調した画面構成や移動撮影、照明や撮影レンズの選択等が秀逸で「激突!(1971)」「恐怖の館(1972)」同様にテレビ・ムービーのレベルを遥かに超えているあたりがスピルバーグらしい…監督としての実力を評価された後だったから撮影についての権限も増えたようだが脚本の手直しまでは口出し出来なかったのだろう。ポールがリーの葬儀やアリソンのCM撮影現場を訪ねる場面では俯瞰や仰角でのカメラ・ポジションを駆使し、会話のシーンではロー・ポジションでカメラを固定しパン・フォーカスで複数の被写体を捉える等、「絵」になる画面の切り取り方のお手本が続出…平均的なテレビの監督では考えつかないだろうね。リーの高層アパートのベランダを歩く黒猫とか、カメラのズームの様子やポールの車のヘッドライトのアップ等をインサート・カットとして撮影しているあたりは、必要な編集素材がちゃんと頭に入っている事がわかりテレビの前で思わず声を上げてしまった。

 撮影監督は「恐怖の館(1972)」でも組んだビル・バトラーで、2年後に「JAWS/ジョーズ(1975)」でも撮影監督として参加、それ以降は劇場映画の撮影監督として「カプリコン1(1977)」「グリース(1978)」「ロッキー・シリーズ」「チャイルド・プレイ(1988)」等で活躍しています。

 

◎注3;

  マーティン・ランドーはアクターズ・スタジオ出身でアルフレッド・ヒッチコック監督の「北北西に進路を取れ(1959」で注目され「クレオパトラ(1963)」「偉大な生涯の物語(1965)」「ネバダ・スミス(1966)」等に出演後、「スパイ大作戦(1966~1969)」の変装の名人ローラン・ハンド役で大ブレイク、ティム・バートン監督の「エド・ウッド(1994)」でベラ・ルゴシを演じアカデミー助演男優賞を受賞している。

 バーバラ・ベインはファッションモデル出身で様々な人気テレビ・シリーズにゲスト出演し、夫マーティン・ランドーと出演した「スパイ大作戦(1966~1969)」のシナモン・カーター役で人気女優に…大人のお色気が凄かったのだが当時はこちらが子供だったので。「スペース1999(1973~1976)」でも夫妻で共演したが1993年に離婚している…90歳を過ぎた現在も女優として活躍中。

 スターン判事を演じたバリー・サリヴァンは舞台俳優出身で「戦略空軍命令(1955)」「四十挺の拳銃(1957)」「バンパイアの惑星(1965)」「夕陽に向って走れ(1969)」「候補者ビル・マッケイ(1972)」「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯 (1973)」「大地震(1974)」等で活躍した大ベテラン、本作でも存在感で共演者を圧倒しています。

 マリオン・スターン夫人を演じたルイーズ・レイサムはテレビ界で活躍、アルフレッド・ヒッチコック監督の「マーニー(1964)」「白熱(1973)」スピルバーグ監督の「続・激突!/カー・ジャック(1974)」「フィラデルフィア・エクスペリメント(1984)」等に出演。

 リー・レイノルズを演じたスーザン・ハワードはテレビ界で活躍「弁護士ペトロチェリー(1974~1976)」「ダラス(1978~1991)」等に出演。

 ピーター・ブルックスを演じたポール・リチャーズは「テーブル・ロックの決闘(1956)」「ブレーキング・ポイント(1963)」「続・猿の惑星(1970)」「署長マクミラン/亡霊の夜(1972)」等に出演。

 ゲイルの助手のカメラマンのジェリーを演じたジャック・ベンダーはテレビ俳優として活躍後にテレビの監督・プロデューサーに転身、劇場映画「チャイルド・プレイ3(1991)」、テレビ・シリーズ「ビバリーヒルズ高校白書(1992~1995)」「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア(2001~2006)」「エイリアス(2001~2004)」「ゲーム・オブ・スローンズ(2016)」等の監督作が、「LOST(2004~2010)」では製作総指揮を。

 ジョエル・ライカーを演じたウィル・ギアはトーキー初期から活躍する大ベテラン俳優で「大平原(1939)」「折れた矢(1950)」「ウィンチェスター銃'73(1950)」「捜索者(1956)」「冷血(1967)」「ダラスの熱い日(1973)」「アメリカを震撼させた夜(1975)」等に出演。

 アリソン・ベイカーを演じたミシェル・ケイリ―は「0011 ナポレオン・ソロ/消された顔 (1965)」「エル・ドラド(1966)」「甘い暴走(1968)」「大悪党ジンギス・マギー(1970)」等で活躍したグラマー美人(死語)です…本作でも深いスリットの入ったロング・スカート姿が素敵です。

 写真館のカメラマンを演じたリチャード・スタールは「この人どっかで観たよなぁ俳優」で、「刑事コロンボ/アリバイのダイヤル(1972)」で旅行代理店の支配人を演じてました。

 スピルバーグの友人で「恐怖の館(1972)」にも出演していた監督・脚本家・俳優のカール・ゴッドリーブがフロア・マネージャーの役で一瞬だけ出演。

 

 

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