恐怖の館(1971) | つぶやキネマ

つぶやキネマ

大好きな「映画」について「Twitter」風に
140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

恐怖の館(1971)

 

 ペンシルヴァニア州東部のダッチ・カントリーへ一家でハイキングに来ていた芸術家のマージョリー・ウォーデン(サンディ・デニス)は、牧場に隣接した古びた一軒屋に魅せられ絵を描き始めるが、その一軒屋に売り家の看板が立てられている事を見つけ、夫でテレビのプロデューサーのポール・ウォーデン(ダーレン・マクギャヴィン)に購入を提案する。ポールは勤務先のニューヨークのテレビ局から遠い事を理由に反対するが、家の中に居た家主で隣の牧場主ゲールマン(ジェフ・コーリイ)と交渉の末に購入する事を渋々了承する。さっそく一家で引っ越して来たマージョリーは自作の魔除けのモビールを納屋に付けようとするが、それを見ていたゲールマンから、壁に魔除けの星形六角形のマークを消した跡があり、一ヶ所に同じような魔除けを付けるのは良くないと反対される。ポールは仕事が忙しく週末だけ帰宅する事が多くなり、マージョリーは息子スティーヴィー(ジョニー・ウィッテカー)と娘ローリー(デビー&サンディ・ランパート)の3人で過ごす事が増えて、マージョリーは不安を打ち消すように陶器の魔除けを大量に作り始め、完成した魔除けのペンダントをいつも身に付けているようにとスティーヴィーの首に掛ける。帰宅したポールは魔除けの出来を褒めてくれたが、マージョリーはゲールマンが牧場で殺したニワトリを振り回す儀式のような行動を繰り返している事を話す。ポールもこの近隣の人たちは少し変わっていると感じていたが、アップル・バーという新製品のコマーシャル撮影のロケにこの家を使う事が決まったとマージョリーに告げる。赤ん坊の泣き声で深夜に目覚めたマージョリーは、子供部屋や地下室を調べるが特に異常は無く、泣き声を追って納屋に入ったマージョリーは、鳴き声が隅に置かれた古びたストーブの中から聞こえる事に気づき、おびえながら蓋を開けてみるが中にはネズミが居るだけだった。慌てて家に戻ったマージョリーは、子供部屋で悪夢にうなされているスティーヴィーを見つけるが、翌朝起きて来たポールには何故かその事を話さなかった。コマーシャル撮影の日、新居のポーチでの撮影は順調に進んでいたが、録音技師(ジョン・J・フォックス)がマイクに奇妙な雑音が入ると訴える。ポールは古くなった冷蔵庫が原因ではないかと考えたが、スティーヴィーが首にかけていたマージョリーお手製の魔除けを女優のベス(ローリー・ヘイガン)がマイクにかけると何故か雑音が消え撮影は無事に終了する。その夜行われた撮影終了の打ち上げパーティで、マージョリーの魔除けを気に入ったベスはスタッフたちの首に掛けて回る。打ち上げパーティーが終わり帰路についたベスと恋人のプロデューサーのジョン(デヴィッド・ナップ)は、夜の山道を走行中に突如としてフロント・ウィンドウに小さな赤い光が激突し車は道をそれて転落し炎上、ふたりは事故死してしまう。マージョリーはゲールマンの儀式を目撃しポールが抗議しに行くが、ゲールマンからこの土地とマージョリーは悪魔に監視されていると聞かされる。近くに住む料理本の編集者のハリー・リンカーン(ラルフ・ベラミー)が主宰する近隣住民を集めたパーティーにポールと共に招かれたマージョリーは、甥のアーネスト・リンカーン(ジョン・ルービンスタイン)から、買った家の以前の住人が納屋から転落死した事を知らされる。その話はシラーという人の納屋で起きた事故と聞かされていたマージョリーは困惑するが、ハリーは趣味で心霊現象や魔除けについて研究をしていて、マージョリーの作った魔除けを絶賛する。マージョリーは、ハリーの蔵書を参考にして子供部屋の床に魔除けの魔法陣を描くが、その頃からスティーヴィーの奇妙な行動が始まり、親密になったハリーから悪魔は信仰が薄れた人の怒りや弱みに付け込んで憑異すると聞かされる。深夜に再び赤ん坊の泣き声が聞こえマージョリーは納屋に向かうが、声の主は納屋の棚に置かれた瓶の中で赤く光る物体だった...というお話。

 

 その面白さが大絶賛されアメリカ以外では劇場公開された「激突 !(1971)」の次にスティーヴン・スピルバーグが監督したTVムービーなんだけど、前作同様に広角レンズを効果的に使った映像設計やカメラワーク、細かいカットを積み重ねる恐怖演出等、映画監督としてのテクニックは撮影当時24歳にも関わらず、すでに完成されていた事がよく解る作品であります。とても新人監督とは思えないその演出や映像センス、視聴者を画面に釘付けにするテクニックは、映画界からTV界に活動の場を移して来た数多くのベテラン職人監督をも凌駕していて、"ハリウッドの天才少年"と揶揄された理由も理解出来ますね(注1)。

 

 太陽が照りつける明るい田舎の風景と一家に襲いかかる不気味なムードのコントラストも素晴らしく、マージョリーが黙々と魔除けを作る場面や赤ん坊の声に誘われるように納屋に入って行く場面、息子のスティーヴィーが壁にボールを繰り返し叩き付ける場面等は何度観てもドキドキしてしまうし、初めて観た時にポールがフィルム編集者のアラン(アラン・ジェイ・ファクター)から撮影したフィルムを見せられポーチに立つベスの後ろの窓の奥の暗い室内を光る眼のような物が横切る場面は背筋が凍るほど吃驚した記憶があります。家族を襲う怪奇現象を描く場面は特撮的な映像はほとんど無く、照明や送風機等を使用した物理的な効果と細かいカット割で表現していて、赤い光で表現される悪霊は中盤までまったく姿を見せないのもかえって不気味さを強調している...低予算のTVムービーである事を逆手に取ったようなアイデアが実に上手いのだ。悪魔がハリーやマージョリーに襲いかかる場面は、11年後に製作する事になる「ポルターガイスト(1982)」そのままで吃驚(注2)。

 

 本作で唯一残念なのは、ベスとジョンの乗った車のフロント・ウィンドウに小さな赤い光が激突しフロント・グラスがヒビ割れる場面がチープなアニメーションで処理されている事。低予算のTVムービーでは、実際にフロント・グラスを割って撮影する予算が無かったんだろうけど、リアルに表現出来なかったのなら別の演出方法を考えるべきだったと思う...車が転落炎上する場面は結構お金がかかってそうで迫力あるんだけどね。リンカーン邸のパーティーの場面には、「JAWS/ジョーズ(1975)」の脚本家で新聞社のベン・メドウズ役で出演もしているカール・ゴットリーブが出ていますが、スピルバーグ自身もその場面に出演しているらしい...何度も観ているのだが残念ながらいまだに発見できず(注3)。

 

●スタッフ
監督:スティーヴン・スピルバーグ    
製作:アラン・ジェイ・ファクター    
脚本:ロバート・クローズ    
撮影:ビル・バトラー    
音楽:ウラジミール・セリンスキー

 

●キャスト
サンディ・デニス、ダーレン・マクギャヴィン、
ラルフ・ベラミー、ジェフ・コーリイ、
ジョニー・ウィッテカー、ジョン・ルービンスタイン、
デヴィッド・ナップ、ローリー・ヘイガン、
デビー・ランパート、サンディ・ランパート、
アラン・ジェイ・ファクター、カール・ゴットリーブ

 

◎注1; 

 スピルバーグは、「続・激突!/カージャック(1974)」で劇場映画の監督としてデビューする前に、「四次元への招待(1969)」を2本「ドクター・ウェルビー(1971)」、「ネーム・オブ・ザ・ゲーム(1971)」、「ドクター・ホイットマン(1971)」を2本、「刑事コロンボ/構想の死角(1971)」、「Owen Marshall, Counselor at Law(1971)」のTVシリーズの6本/8話と、「激突 !」と本作、「死を呼ぶスキャンダル(1973)」の3本のTVムービーを監督している。「刑事コロンボ/構想の死角」はシリーズ全69話中で最も映画的な作品だし、「激突 !」は海外では劇場公開され、本作も当時の他のTVムービーと比較しても極めて映画的なのだ。最初に日本で放映されたのはNHKで、とにかく面白くて民放でも何度か再放映されたので録画して繰り返し観たのを記憶しています。同じTVムービーの「激突」はすでにBlu-ray化されているのに本作はアメリカでもビデオ発売のみで、その後はDVD化もされていないという不思議。国内でもかつて「ヘキサゴン」というタイトルでビデオが発売されていたようだが現在はもちろん廃盤。ちなみにマーティン・ランドー、バーバラ・ベイン夫妻共演の「死を呼ぶスキャンダル」も録画してあるハズなのだが現在行方不明...トホホ。本作の放映は「エクソシスト(1973)」の原作が出版された年で映画の公開2年前。その事に関連して、脚本を書いたロバート・クローズは、脚本は2年前に書き上げていたと語っているが、これはどうもハッタリ臭い。ロバート・クローズは「闇の閃光(1970)」で監督デビューし「燃えよドラゴン(1973)」で注目され「SF最後の巨人(1975)」「ブルース・リー/死亡遊戯(1978)」「バトルクリーク・ブロー(1980)」等の脚本家・監督として活躍しているが、本作はむしろラルフ・ベラミーも出演している「ローズマリーの赤ちゃん(1968)」の影響で製作されたと考えるのが妥当だろう...恐ろしい目のアップから始まるしね。マージョリーを演じたサンディ・デニスは、「バージニア・ウルフなんかこわくない(1966)」「女狐(1967)」「雨にぬれた舗道(1969)」等の演技派女優で、「下り階段をのぼれ(1967)」でアカデミー主演女優賞を受賞している...Blu-rayを出してくれないかなぁ、いやいや贅沢言わないからDVDでも可。本作でも、引っ越して来た新居で次々と不思議な現象に襲われ、悪魔の存在を確信し徐々に病んで行く感じが素晴らしく恐怖演技も最高で、俳優の演技で安っぽくなりがちなホラー作品に風格を付け加えている。ポールを演じたダーレン・マクギャヴィンは、「旅情(1955)」「黄金の腕(1955)」「紐育ウロチョロ族(1957)」「カスター将軍の最後(1965)」「危険な国から愛をこめて(1970)」等で脇役を中心に活躍、TVシリーズ「マイク・ハマー(1958)」「はみだし野郎アウトサイダー(1968)」では主演、本作と同じ年に放映されたTVムービー「事件記者コルチャック/ナイト・ストーカー(1971)」が注目され、さらに「事件記者コルチャック/ナイト・ストラングラー(1972)」が製作され「事件記者コルチャック(1974〜1975)」としてシリーズ化されてTV界で人気スターとなる。テレビのプロデューサーを演じた本作も、本来の明るいキャラクターと安定した名演技で陰鬱になりがちなホラー作品のクッションとして存在感を発揮している...役柄は違うけどほとんどコルチャックです。ラルフ・ベラミーはトーキー初期から活躍して来たベテラン俳優で、第二次大戦後はTV界が中心になったようだ。オジさん世代には「プロフェッショナル(1966)」「オー!ゴッド(1977)」等の名脇役ぶりが記憶に残っています。特に「ローズマリーの赤ちゃん」の産婦人科医エイブラハム・サパスティン役は、本作の心霊現象の研究が趣味という料理本の編集者のハリー・リンカーンと共通する"善人風なのに怪しい"という雰囲気が素晴らしかったです。ハリーの甥を演じたジョン・ルービンスタインは、名ピアニストのアルトゥール・ルービンシュタインの息子で「ウェスタン・ロック ザカライヤ(1971)」「ザ・カー(1977)」「ブラジルから来た少年(1978)」等に出演、TVシリーズ「私立探偵ハリー(1984〜1986)」のジャック・ウォーデン演じるハリーの息子の弁護士役もなかなか良かったです。ブロードウェイ等で舞台俳優としても活躍していて、「候補者ビル・マッケイ(1972)」やTVムービー等の音楽も担当しています。本作では、かなり怪しいハリーとアーネストのコンビが"実はこのふたりが..."という印象が強く、視聴者をミス・リードする事に貢献(?)してます。息子スティーヴィーを演じるジョニー・ウィッテカーは、6歳の頃からTV界で子役として活躍、本作への起用は「ドクター・ウェルビー」に出演したのがきっかけのようで、悪魔に狙われる少年を不気味に演じています。子役の演出に定評のあるスピルバーグは、すでにこの頃から手腕を発揮していますが、最初から少し暗い雰囲気なのは演出ミスのような気がします...子役にこんな演技させたら現在なら児童虐待と言われそうだ。本作の後には、ディズニー映画「雪だるま超特急(1972)」、子役時代のジョディ・フォスターと共演した2本「ジョディ・フォスターのライオン物語(1972)」「トム・ソーヤーの冒険(1973)」もナカナカ良かった...特にトム・ソーヤー役は原作のイメージに近くて素晴らしかったです。


◎注2; 

 スピルバーグの演出は、ジワジワ盛り上げた後一気に爆発する恐怖演出の素晴らしさは勿論なのだが。打ち上げパーティーと歓迎パーティーでは客が入り乱れ会話が交差するのを複雑なカメラ移動も加えてワンカットで撮影している場面は、演出・撮影・照明等とてもTVムービーのレベルではない。プロデューサーやスタッフから"天才少年"と揶揄された24歳のスピルバーグは、26歳で「市民ケーン(1941)」を監督し"ハリウッドの神童"と呼ばれたオーソン・ウェルズと変わらない才能を発揮していた事がよく解ります。恐怖演出や、母の愛が悪魔(悪霊)を退けるという結末が、スピルバーグ製作・脚本、トビー・フーパー監督の「ポルターガイスト」と酷似している事から、本作は"下書き"みたいな評価をされ、「ポルターガイスト」はホントはスピルバーグが演出したのではという噂が立った。スピルバーグは実際は演出にはノー・タッチだったようだが、特殊メイクで描写される場面に"手"だけ出演している。


◎注3; 

 前作「激突 !」では撮影ミスから"出演"してしまったスピルバーグだったが、本作ではエキストラとしてリンカーン邸のパーティーの場面に出演している(らしい)。このあたりは尊敬していたアルフレッド・ヒッチコック監督の影響なのかなと思ったが、製作費節約のために他のスタッフと一緒に出ただけという事のようだ...プロデューサーのアラン・ジェイ・ファクターはフィルム編集者のアランとして出演。ちなみに、スピルバーグはヒッチコック監督の演出の様子を見たくて、同じ頃ユニバーサルのスタジオで撮影していた「フレンジー(1972)」の撮影を覗きに行っていたようで、それは劇場映画監督としてデビューしてからも続いていて、「ファミリー・プロット(1976)」の撮影スタジオにも何度も現われ、それに気がついたヒッチコックはプロデューサーに彼を出入り禁止にするように要請したらしい。ヒッチコックの演出やカメラワーク等を盗んだスピルバーグに怒っての処置という噂もあったが、どうやらヒッチ先生お得意のジョークだったようです。

 

PS: 以下のサイトも運営しています、よろしかったらどうぞ。

 

★ 漫画を中心とした同人サイト
「日刊...かもしれないかわら版」
http://www.geocities.jp/saitohteruhiko/index.html

★伝説の漫画誌「COM」についてのサイト
「ぐら・こん」ホームページ
http://www.geocities.jp/saitohteruhiko/home/gracom/g_home.html
★「ぐら・こん」掲示板
http://gracom.bbs.fc2.com/

★Facebook「Teruhiko Saitoh」
https://www.facebook.com/#!/teruhiko.saitoh.3