鳥巣清典の時事コラム06 「技術大国ニッポンの面目躍如」
尖閣事件を契機に中国からのレアアースの調達問題がクローズアップされる中、次のようなニュースが飛び込んできました。
「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と北海道大学の研究グループは29日、レアアース(希土類)を使わない新構造のハイブリッド車(HV)向け磁石モーターの開発に成功したと発表。
電気自動車(EV)にも応用可能で、次世代エコカーの開発競争で日本の新たな“武器”となる可能性もある」
さすがは、技術大国ニッポン、すごいですねえ。
いや、感動しました。
実は、尾崎弘之・東京工科大学教授のコラムに注目していた矢先でした。
<中国のレアアース輸出規制に見る「資源ナショナリズム外交」への対処法>
と題し、このように述べられていました。
「資源が乏しい日本は、常に資源ナショナリズム外交に翻弄(ほんろう)される。
石油輸出国機構(OPEC)諸国、天然ガスのロシア、レアメタルの中国など、過去に揺さぶりを受けた事例は少なくない。
しかし、資源を持たない我が身を嘆いても仕方ない。
重要なことは、資源ナショナリズムに対して、政府や民間レベルでどのように対処するかである」
その具体策の1つとして
「代替資源の開発」
を挙げられ、
「アイシン精機、京都大学は回転体に超電導材料を使う研究を行っている。
金属を使う場合と比較して、超電導モーターは10倍程度の回転力が出ると発表されている。
超電導はマイナス196℃以下の低温が必要なので、モーターとともに小型冷凍機の開発が必要となる」
と、具体的な開発情報を提供されていたのです。
『超伝導』と言えば、世界最高時速581キロを誇る超電導リニアモーターも、日本が世界に誇る先端技術。
これも、将来は有力な輸出産業になるでしょう。
いやはや、私たちは、すごい国に住んでいるのだな、と改めて思います。
だから、今の状況は、何かがおかしい。
でも今晩は、財政危機のことを忘れて、感動に酔わせてください。
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鳥巣清典の時事コラム05 「『デフレの正体』の衝撃」
藻谷浩介著『デフレの正体』(角川書店)は、なかなか勉強になる本です。
読んですぐに取材を申し込んでいますが、まだOKの返事が返ってきません。
私なりに興味深いポイントにひとつ触れておきます。
それは、
「国際競争にいくら勝っても、それとはまったく無関係に進む日本の国内経済の病気、『内需の縮小』の結果です。
これはいわば経済の老化現象でして、企業のせいでも政治のせいでも霞が関のせいでもない。
従って、日本が国際競争に勝ち続けることは、実は対策になってきませんでしたし、これからも対策にならないのです」
というあたりの記述です。
『内需の縮小』を生み出したのは何か?
について詳しくは、直に確かめてみてください。
ヒントとしては、(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストは2回目のインタビューで、そのことに軽く触れています。
私は、「流動性の罠」という米経済学者の言葉を借りて共感しています。
私は、日本経済を取材し始めてまもなく、違和感を持ちました。
どう見ても、まだまだ金持ちの国・ニッポンなのです。
なのに、政府は世界一の借金国。
なぜ?
いまだに疑問が氷解したわけではありません。
国民は、1460兆円ともいわれる金融資産(不動産を除く、債券や株や貯金)を持っている。
政府は、国・地方を合わせて1000兆円を超える借金を抱えてしまった。
要は、1460兆円の国民の金融資産を借りて、政府が発行する国債を(金融機関がその預金を使って)買い続けてきた結果なわけです。
この状況って、みなさんなら、どういう言葉で表現されますか?
私は、いい表現が見つからない。
とにかく財政危機、いや破綻危機にあるのなら、何とか処方箋を見つけなくては、と、そちらのほうの気持ちが先走って今日まできたわけです。
電気自動車用の蓄電池、スマートグリッドについての取材も、その一環です。
でも藻谷さんは、
「内需の縮小と、国際競争力とは無関係」
と述べられています。
「外需」と「内需」を分けて考えなければ問題解決に結びつかないという「視点」は、やっぱり目から鱗というべきかもしれません。
ですから資源エネルギー庁にも、「内需」効果から聞いたのです。
「微妙」という回答でした。
う・・ん。というのが、私の今の正直な気持ちです。
もっとも藻谷さんは、
「処方箋として挙げられがちな、生産性を上げろ、経済成長を上げろ、公共工事を景気対策として増やせ、インフレ誘導をしろ、エコ対応の技術開発でモノづくりのトップランナーとしての立場を守れとかいった話には実効性が欠ける」
と書かれています。
私が取り組んでいることは、無駄な抵抗なのでしょうか。
とすれば、
「内需の縮小を生んでいる原因」
は、まことに恐るべし、と言わざるを得ません。
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資源エネルギー庁・野田豊和課長補佐インタビュー06 「内需拡大につながるかは微妙」
鳥巣 今回は、財政危機にある日本が成長戦略の柱に何を据えればいいのか、という視点から取材をしている。
経済産業省は、ズバリ「稼ぐ」という言葉を使っている。
増税にできるだけ頼らず、成長による税収増ができないかと。
電気自動車用の蓄電池やスマートグリッドのプロジェクトは、うまくいけば莫大な富を生み出すことができるかもしれない、という声もある。
エネ え~と・・生み出す、とは?
鳥巣 内需拡大ですね。
エネ あ、需要ですね。
ただ大型メガソーラー(大規模な太陽光発電)の発電所なんていうのは土地がないと駄目です。
風力発電というのは回転体があるので、環境アクセスとかいう問題がある。
場所によっては建てにくいところもある。
なので、必ずしも需要がおいしくなるかというと、微妙なところが・・。
それよりか海外とかで、たとえば中東にメガソーラを置くとか、風力を置いて外貨を稼ぐという手はあるかもしれません。
現在は、今の供給系統を安定化させるというのがメインと考えておりまして。
せっかく新エネルギーで発電しているのを捨てるのはもったいないですから。
まず日本の低酸素社会をどう生み出していくのかが先で、ある程度普及が進めばコストが安くなって、性能の良い電気とか製品が生まれてきますので。
それから海外に持ち込んでいく、という戦略もあり得ると。
電気自動車で言いますと、若い人たちが車離れしている。
都会に地方から若い人たちが流入してきている。
都会は公共インフラが発達していて、地方のように車をあまり必要とはしない。
そういう状況から考えると、自動車自体の需要が減少していくかと。
●用語解説≪新エネルギー≫ 『新エネルギーの利用等の促進に関する特別措置法』(新エネルギー法)により国内で指定されているのは、バイオマス(木くずや廃材、トウモロコシ、サトウキビなどの生物・植物資源を加工して作る燃料) 太陽熱利用、雪氷熱利用、地熱発電、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギー。 |
鳥巣 スマートグリッドでは電線はそのまま?
エネ 電線は交換しません。
交換せずに何とかできないか、というのがスマグリであり、蓄電池を使った系統の安定化、という考え方なんです。
鳥巣 となると公共工事は見込めない?
エネ 設備投資による雇用増というのは見込めるんですが。
銅線を全部取り替えるとかになると、設備投資に何兆円とかになり電気料金にはね返ってしまいます。
消費者の方は、「また電気料金が上がる」という話になります。
で電線を取り換えたから万全かというとそうでもなくて。
お昼はちょろちょろしか電気が流れない。
昼間は100%動いたとしても、稼働率が悪くなってしまう。
そんなオーバースベック(過剰性能)な設備を持つよりは、既存の設備を使って臨機応変に対応できる装置。
蓄電池も含めてエネルギーマネージメントシステムを使って省エネにしたほうが、まだ裾野の産業を増やしていくなどして、電力会社の系統の取り替えよりはいいのではないか、と。
中国が経済復興で銅がなくなって、一度資材が高騰したことがありましたよね。
もし日本の送配電部分を取り替えればいいじゃないか、という考え方だと、銅価格がまた上がって利益につながらないという事もあるかもしれません。
鳥巣 このプロジェクトは、内需拡大というより輸出戦略の一環として考えたほうが良さそうですね。
『デフレの正体』という本をご存知ですか?
日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介さんが書かれた。
エネ 政策投資銀行は知っていますが・・。
(次回へつづきます)
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資源エネルギー庁・野田豊和課長補佐インタビュー05 「スマートグリッドは、産業輸出戦略」
経済産業省資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の野田豊和・課長補佐(以下、「エネ」)インタビューの5回目です。
鳥巣 技術開発の中で、とくにポイントは?
エネ 電気自動車に着目すると、加速をしなければならないので、エネルギーの「出力密度」が命になります。
しかし家庭用のほうは、必ずしもアクセルのように加速、要するにドンと流さなくてもいいところがある。
電気を溜められることができれば、安い極材でもいいわけです。
そういうふうに利用シーンによって、電池の使い方も違ってくる。
どこを目指すか、というのもテーマになります。
今はあくまでEV(電気自動車)用に注目して、電池は「エネルギー密度」と「出力」、しかも「小型」で「軽量」でなくてはいけない。そういう要件があるんです。
鳥巣 いっぽう、スマートグリッド用の電池との違いは?
エネ “スマグリ”のようなものは、地上に置くことができる。
場合によっては、大きな目のものになっても構わない。
ということになれば、「小型」でも「軽量」でなくてもいい。
ただ、「エネルギー密度」は自動車に比べて非常に高いものが欲しい。
という場合もあるし、「出力密度」がいらないのであれば、レアメタルを使わずにアースメタルの安い材料で作れば安く作れる。
そういうふうに利用シーンによって、開発方向が違ってきます。
鳥巣 ALL JAPANで力を入れてやっているのは、どちらを?
エネ まだ、見えない。
鳥巣 三菱自動車さんが、電気自動車『I-MiEV(アイミーブ)』を発売しました。
フル充電で航続距離が160㎞。
どうですか?
エネ 三菱自動車側は、量産型とは言っていますが。
あれは、『I-MiEV』という既存車に電池モーターをつけて造ってある。
それでも1万台そこそこですよね。
自動車で利益を上げようとすれば、3万台とか5万台とかでないと利益が出ない。
本当の量産車としては、安くて、普通の人たちが買えるようなものを目指そうとしたら、電池が高い。
『I-MiEV』でも価格の約半分、あるいは3分の2ちかくを電池代が占めている。
電池を安くすることで、車の価格も安くして買っていただくようにしていかないと。
鳥巣 三菱自動車に聞いたところでは、2025年までにプラグイン・ハイブリッド車を含めて、EVは20%が目標になっている。
EVに賭けるとした日産のゴーンさんなんかの意気込みに比べると、目標値としては緩くはないですか?
エネ 自動車産業にもっと力を入れるべきではないか、という考え方もあります。
鳥巣 オバマ大統領のニューディールでは、ハイブリッド車は2015年までに100万台。
2020年までにEVを100万台、2030年以降500万台以上を導入計画のドイツに比べると、アメリカもEVに関しては数値目標は低い感じがしますね。
エネ アメリカは国土が広く走行距離が長い、充電インフラが未整備、そして車載用蓄電池の価格が高いことなどの理由によって、EVよりプラグインハイブリッド車が市場を先導するとの見方が強いですね。
鳥巣 その国ごとの事情がある。
エネ 諸外国のほうは、逆にスマートグリッドのほうで難儀しています。
電力をつくる力もまだ未熟なところもある。
アメリカは、どちらかというと、電力供給系統に非常に脆弱なところがあって。
日本のようにがっちりとした電力網がないものだから、「スマートグリッドが欲しい」って言う。
諸外国でそういう動きをしているならば、スマートグリッドというシステムを使って、海外に売っていこうという考え方もあるんです。
これはどちらかというと産業輸出戦略の関係ということで動いています。
これも製品とすれば、これまた国にとっては有難い話です。
今年からスマートグリッドの実証を始めていて、インドとか海外進出もしている。
業界さんにも集まって頂いて進めようとしています。
(次回へつづきます)
PS
「財政」「経済」をテーマにしている昨今ですが、「人間力」「情緒」など文科系の感動は必需品です。
昨日は、いいものを2つ見せてもらいました。
1つは神社で催された里神楽(さとかぐら=宮中で行なわれる神楽に対して民間による神楽)。
奉奏された『天孫降臨』は、アマテラスオオミカミ(天照大神)の孫のニニギノミコト(迩迩芸命)が、地上を統治するために降臨してくる神話です。
鎮守の森で笛、大拍子、長胴太鼓の奏でる幽玄の世界に見入りました。
日本の魅力のひとつは、「(凛とした」静寂」と「間(ま)」ですね。
もう1つは、赤坂真理原作、廣木隆一.監督、 寺島しのぶ主演の映画『ヴァイブレーター』(2003年作品)。
寺島さんは『キャタピラー(芋虫)』で戦争の実相の語り部を熱演して2010年ベルリン映画祭の主演女優賞(銀熊賞)を受賞したばかり。
『ヴァイブレーター』では、孤独や渇きを持ちながら都会に生きる女性を、これまた見事に演じています。
赤坂真理さんの原作は、「壊れを抱えた時代と心と言葉にシンクロし、共鳴して震えている作品である」とも評されます。
映画でも知的で繊細な“(内なる)声”には唸りました。寺島さんの時折見せる、はっとするような美しさにも魅入りました。
愛と慄(おのの)き、嘘と真実、狂気と解放。
心の内を映し出すグラデーションのような表情の変化だけでも、一見の価値ありでしょう。
大森南朋とコンビニで出会い、トラックに乗り込むまでの自然さは、日本映画の中でも秀逸ではないでしょうか。
一気に物語の中に没頭できました。
単純なハッピーエンドではありません。
「彼を食べて、彼に食べられた。ただ、それだけのことだった」というクールな別れの台詞も効いていました。
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鳥巣清典の時事コラム04 「中国との戦略的互恵関係の宿命」
同時に、中国との政治的対立は即経済的対立(資源の囲い込み)に発展しかねない、ということが明らかになった事件でもありました。
中国漁船だ補事件の1か月ほど前の8月28日、北京で『第3回日中ハイレベル経済対話』が行なわれました。
日本からは、岡田克也外相(当時=現在、幹事長)、野田佳彦財務相、直嶋正行経済産業相ら6閣僚と3副大臣。
中国側は王岐山副首相ら閣僚級8人が出席。
「戦略的互恵関係」をいかに育てるかがテーマでした。
しかし中国は日本が強く求めたレアアース(希土類)輸出緩和には応じません。
レアアースは、ハイブリッド車の性能向上などに不可欠です。
次回日本で開催される会合まで輸出削減が継続されることになり、ハイテク関連の価格上昇などにつながりかねません。
中国の狙いは、レアアースを求める外国のハイテク企業を自国内に呼び寄せ、高い加工技術を移転させることが真の狙いともいわれており、簡単に譲歩に応じる気配はありません。
またレアメタル(希少金属)についても、中国は産出国です。
●用語解説≪レアアース(希土類)≫ 磁石の原料となるネオジム、耐熱性を高めるジスプロシウムなどに代表される希少金属17元素の総称。 他の物質に電子を与えることができる。 ほんのわずか添加するだけで材料の特性を変え還元力が高まっていくことが知られている。 ネオジウムやジスプロシウムはエコカーや携帯電話などに搭載されるモーターの重要パーツである高性能磁石を作るのに欠かせない。 世界需要量の9割以上を供給している中国の輸出規制に対して、日本を含む先進国は先端技術の流出を強く警戒している。 |
●用語解説≪レアメタル(希少金属)≫ 国際的な定義はないが、日本では経済産業省がプラチナやニッケルなど31種類の金属を指定。 現在工業用需要があり、今後需要があるものと、今後の技術革新に伴い新たな工業用需要が予想されるものと定義している。 産出国は、中国、アフリカ諸国、ロシア、南北アメリカ。 |
船長の起訴が決定されでもしたら、レアアースやレアメタルの禁輸という、経済カードを公式に切ったことでしょう。
中国やロシアが、「資源ナショナリズム」と呼ばれる自国資源の囲い込みを始めているため、日本も2007年より対応プロジェクトを立ち上げました。
経済産業省(=「希少金属代替材料開発プロジェクト」)や文部科学省(=「元素戦略プロジェクト」)などについては、いずれレポートします。
先端ハイテク技術開発が「生命線」の日本にとって、「資源国」中国との戦略的互恵関係づくりの成否は、まさに国の運命を握っているともいえるでしょう。
いっぽう、中国が日本の国債を3兆円に迫る単位で買い増してきています。
日本への中国の影響はひたひたと深まりつつあり、「財政」問題とも絡んできていることを見逃せません。
中国が、日本の技術を欲しがっているのはご存知のとおりです。
「日本囲い込み」戦略という視点からも見ていく必要があるのではないでしょうか。
米国が20~40%の人民元の切り上げを要求し、対中国強硬路線に舵を切り始めました。
日米中の間でのスリリングでタフな交渉から目が離せなくなっています。
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資源エネルギー庁・野田豊和課長補佐インタビュー04 「アメリカは、鉄空気電池を研究説」
経済産業省資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の野田豊和・課長補佐(以下、「エネ」)インタビューの4回目です。
鳥巣 ポスト・リチウムイオン電池とは?
エネ 一説には、米国では「鉄空気電池」に注目してやろうとしているといいます。
鉄と空気の酸化還元現象で電力を起こす、というものです。
一次電池でもあるんです。
まだ二次電池、要するに充電、放電を繰り返すような電池ってまだできていないんです。
あとテレビなんかで紹介されましたが、埼玉の県の試験所なんかでやっているマグネシウム電池。
リチウム電池ですと1個の電子をやり取りするんですが、マグネシウムの場合は2個の電子を充電、放電できる。
それだけエネルギー密度が高まる。
そういった電池の可能性についての研究はうちもやる。
リチウム電池の限界が来れば、次の蓄電池、というのは間近に来ている。
鳥巣 京都大学でやっている、という。
エネ そうです。そこで日本が何をやっているかは、まだ秘密です。
鳥巣 トヨタさんは、亜鉛という情報もありますね。
エネ あ、亜鉛もあります。
鳥巣 リチウムはあくまで途上のものと考えたほうがいい。
エネ リチウムは90年代にソニーさんが作って、商業化されて20年くらい経ちますが、汎用と考えています。
理論上の限界は見えている。
その先を行こうとすると、次の革新型蓄電池を開発していかないと競争に負けてしまう。
各メーカーさんも独自にやっています。
もしくは京都大学を中心としたALL JAPANで基礎から、原子・分子レベルで調べれば、高性能の電池が作れるようになる。
鳥巣 電機メーカーに勤める親戚の者から聞いたところによると、触媒を活用して能力を上げる方法はいろいろある、と。
エネ リチウムを高機能にすることは、できることはできます。
たとえば炭素の場合は、プラス極をリチウム金属に替えたり、いろいろすると、まだ能力を上げることができる。
あるいは別の種類の、マグネシウムとか鉄空気電池とかも、そういうことができます。
鳥巣 アメリカは、鉄空気電池。
その意図するところは?
エネ 材料がものすごく安い。
要するに、レア・メタルでなくて、アース・メタルで、普通にどこにでもあるような金属で作ればコストが安くなる。
そっちのほうの競争もあるんです。
鳥巣 レア・メタルでは、供給の安定が心配な面もある。
アメリカは、経済安全保障の面から考えているのかもしれませんね。
(次回へつづきます)
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資源エネルギー庁・野田豊和課長補佐インタビュー03 「中国への技術と人材の流出を問題視」
経済産業省資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の野田豊和・課長補佐(以下、「エネ」)インタビューの3回目です。
鳥巣 日本は直接、企業支援ができないという考え方を、もう少し詳しく教えてください。
エネ 仮に次の新しい電池ができたとしても、工場を建てるお金が不足してしまって。
企業さんから、次もまた国にお願いしますと言われても、国のほうも財政を圧迫するので。
もう次は本当に出せませんよ、というふうになるのは避けたい。
どう、いかにして企業を支えて、次につなげる利益を上げて頂けるか。
次の工場への投資とか、そういうものをやって頂くか。
その経済の連続性を重視しているんです。
鳥巣 今の日本のシステムは、それでうまくいっていますか?
エネ 今は、蓄電池に関してはまだリードしています。
世界から見ますとね。
ただ設備投資以外の研究・開発のほうでも、アメリカ、中国というのは、どんどん国の予算をつぎこんでいまして。
しかも中国の場合は、留学生とかけっこう日本に来ていまして。
その留学生はほとんど日本で就職をせずに、中国に帰って、そこの第一線で働いたりとか。
逆に日本は、よく問題になるんですが、電池メーカーさんからリタイアされた方をスカウトして。
3年ぐらい、退職金の3倍くらいを約束して、3年が終わった時には、はい、さよなら。
という形で、本人たちはそれでいいのかもしれませんけど。
企業から見れば、10年かかるスパンが、3年くらいで習得できる。
そういうことを目指してやっていますから。
技術の輸出をどうすべきなのか。
人材の確保の流出をどう防ぐのか。
ちょっと問題視しているというのが現状ですね。
鳥巣 技術競争の中で、いちばんのポイントになるのは何ですか?
エネ 蓄電池の場合は、どうしてもエネルギー密度。
要するに、小さな電池にどれだけの電気を留められるか。
そういうのが一番。
リチウム電池の場合、理論上ではキログラム当たり250WH(ダブル・アワー)くらいしかないんですね。
鳥巣 あ、そうなんですか。
エネ EV用のロードマップというのがありまして。
「エネルギー密度」は、どれだけエネルギーを溜められるか。
「出力密度」というのは、車でいうと加速するときに、どれだけの電力を一瞬で出せるか。
「カレンダー機能」は、耐久性。
「コスト」は、どれだけ安くできるか。
それぞれ、そういうところを見ているんです。
そして、目指している。
鳥巣 リチウム電池は、250KWHが理論上の限界といわれている。
ということになると?
エネ それを普通車の重さ、1トンあたりの自動車に換算すると、航続距離がだいたい250キロなんですよ。
だけれどもガソリン車というのは、500~700キロ走るのが普通ですから。
一般受けするには、おそらく700KWHくらいまでは性能を上げてやらないと、一般の方は買ってくれないだろう、と。
ということで技術開発を行なっているんです。ここの部分については、おそらくリチウムでは厳しいので、今、大学を中心として
――これも競争が激化していますが――
新型蓄電池というのが主流になりつつある。
鳥巣 すでに、ポスト・リチウムイオン蓄電池の時代になりつつあるんですか。
(次回へつづきます)
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資源エネルギー庁・野田豊和課長補佐インタビュー02 「日本と米韓との企業支援の違い」
経済産業省資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の野田豊和・課長補佐(以下、「エネ」)インタビューの2回目です。
鳥巣 次世代蓄電池研究・開発の最先端事業は?
エネ 革新型基礎研究事業というのがあります。
拠点は京都大学で、ALL JAPANでやろうとしている。
平成22年度予算で30億円。
蓄電池の反応メカニズムなどを解明し、革新型蓄電池を実現しようというものです。
これが日本の秘密、という部分ですね。
鳥巣 分かりやすく研究の概要を教えてください。
エネ 電池の作り方というのは、昔から極材、電解液、セパレーターの組み合わせなんです。
●
用語解説≪リチウムイオン電池用セパレータ≫
正極板と負極板の間に介在して、両極活物質の接触に伴う短絡防止や電解液を保持して導電性を確保する役割を担っている。 |
エネ これまでは作ってみないと、どういう電池になるか分からなかった。
それを革新型基礎研究事業では、極材の働き方などを最初から原子・分子レベルから調べてみようと。
今までのように組み合わせをしてみたら、いい電池ができた、万歳!というような研究・開発のやり方ではなくて。極材はこういったもの、電解率はこういったもの、そしたらこういった性能が出る。
といったシミュレーションが出来るような基礎の部分の研究をやりましょう、というのを7年がかりでやろうとしている。
鳥巣 国としての予算執行の流れは?
エネ 蓄電池を担当するうちの課に関する予算については、NEDO(ネド)で一旦執行して、研究・開発のマネジメントを行っています。
ただし次年度の概算要求が必ずしも通るかどうかは分からないので、経産省としてはお金を積み立ててはいます。
●用語解説≪NEDO(ネド)≫ 新エネルギー・省エネルギーの開発及び導入普及事業、産業技術の研究開発関連事業などを行なう経済産業省所管の独立行政法人。 |
鳥巣 次世代自動車用の蓄電池の研究・開発は、世界的に熾烈な競争下にある。
世界の予算化事業の動向は、どうなっているんですか?
エネ アメリカでも、莫大な予算を投入しています。
オバマ大統領のニューディール政策で2015年までにプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)を100万台導入、2025年までに再生エネルギーによる電力消費を25%まで引き上げるという目標を掲げています。
鳥巣 アメリカの予算規模は?
エネ 予算面としては、環境エネルギー関連の施策として、スマートグリッド関連の
「スマートグリッド投資グランドプログラム」
と
「スマートグリッド実証プログラム」
の2つで45億ドル。
それに加え、米国国立標準技術研究所(NIST)が産業界を集めた標準化作業に着手しました。
●≪標準化≫ 工学や産業の分野では、標準化とは工業製品などの質・形状・大きさなどについて標準を設け、それに従って統一すること。 公的な標準化団体が策定した標準に従わなければならない。 |
エネ また、研究開発では6700万ドル。
さらに、自動車メーカー、蓄電池メーカーに対して、生産設備・関連インフラ補助、低利融資などさまざまな観点から巨額の融資を実施しています。
●資料≪アメリカの支援≫ 先進バッテリー製造助成=20億ドル PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)、電気自動車の充電インフラ等の実証=4億ドル 次世代環境技術の開発を行なうメーカーに対する融資=250億ドル。 |
エネ 日本と違うのは、彼らは企業の設備投資に直接お金がつけられるんです。
鳥巣 1ドル83円で計算すると、研究開発費6700万ドルは55・61億円。
企業融資250億ドルは、2兆0750億円にもなる。
エネ 日本は、それができない。
鳥巣 なぜ、できない?
エネ あくまで企業支援という形でやる場合は、税制面ではできるんですが。企業が本来負担しなければならないお金を、国民の税金を投入し提供するというのは、ちょっとおかしいんじゃないか。
という思想がけっこうあるものですから、そういうやり方はしていないんです。
鳥巣 う・・ん。
エネ 韓国も、アメリカと同様、直接企業に支援を行なっています。
半導体も大量生産のために国が設備投資を支援してやって、今のように日本を追い越してしまった、というところがある。
鳥巣 新聞マスコミの一部からも、「日本経済を立て直すためには、策を出し惜しみをしている場合じゃない」という論調が出ている。
エネ 外国の場合は、平気でやれるんですが。
日本の場合は、倫理観というか道徳観があって、なかなか直接投資は厳しいですね。
なので、どうしても税制優遇で支援していこう、と。
鳥巣 日本経済の基幹産業が衰退し、負ければ国家の屋台骨も揺らぐかという時に、直接投資ができないのは苦しいのでは?
エネ ただ我々の考え方としては、一旦投資をしても、投資回収に失敗するか、成功するか、なんですよ。
もし成功して利益が出れば、次の新しい電池とか、新しい工場を造る時の資金になるんですけども。
投資をじゃぶじゃぶして、もし負けてしまったら、彼らは次の工場を建てられない。
言い方は悪いかもしれないが、欧米に負けてしまったら、そのお金は生き金にならないですよね。
死に金になってしまう。
(次号へつづきます)
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資源エネルギー庁・野田豊和課長補佐インタビュー01 「蓄電池は、関西が拠点」
経済産業省資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の野田豊和・課長補佐に取材しました。(以下、「エネ」)
(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストの「日本は命運を賭けて、電気自動車の蓄電池とスマート・グリッドに集中的に投資すべき」との提案に基づき、状況を把握するために行いました。
鳥巣 予算面から教えてください。
エネ 平成22年度予算では、
(1)「系統連携円滑化蓄電システム研究開発」が8億円。
(太陽電池と併設する100KWくらいの電池)
(2)大規模電力供給用太陽光発電系統安全化等実証実験に20億円。
(系統に流す時の影響を調べる。
その一部に蓄電池を置いて、系統の不安定化を緩和しようという事業も含まれている)
(3)蓄電池複合システム技術開発に43・4億円。
今年から始まった事業ですが、ここに充てる予算がいちばん多い。
これが今言われているスマートグリッドの予算に組み込まれていきます。
国交省、環境省とも予算で連携していくと聞いています。
うちの隣りの課で社会実験室という部があり、関係省庁との連携をやっている。
豊田、北九州、京阪、横浜の4都市を指定して、事業を行っていく。
(4)次世代自動車用高性能蓄電池システム技術開発が、24・8億円。
来年で終了しますが、自動車用のリチウム電池に特化した開発を行っています。
そのほかに、
(5)次世代蓄電池材料評価基盤技術開発
材料は化学メーカーなので、製造産業局化学部で担当しています。
鳥巣 ざっと100億円くらいですね。
エネ そうですね。
鳥巣 蓄電池については、拠点はどこに?
エネ 関西に集中しています。
『産業技術研究所』――昔の『工業技術研究所』の地方版ですが――そこの関西センターという所が蓄電池ALL JAPANの拠点になっています。
鳥巣 予算は?
エネ 『技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(通称LIBTEC=リビテック=所在地・大阪府池田市の独立行政法人 産業技術総合研究所関西センター内)』の運営費の一部に1・3億円をつけています。
●資料《libtecの組合員》 |
鳥巣 具体的には、どういう役割を?
エネ 電池メーカーさんから、「こういう材料はないか」と言われた時に、材料メーカーさんが「こういう材料はどうですか」と紹介できるように拠点化しています。
材料メーカーさんが、材料の評価とか、どういう材料が蓄電池に良いか、などを研究してストックしている。
鳥巣 蓄電池は、負(マイナス)極は炭素材。
エネ 基本的にはマイナス極は炭素材ですが、以外のものも開発されている。
プラス極は、電池メーカーさんによってニッケル系でいくとか、バラバラで企業秘密になっている。
精度がいろいろとあるので、それに合った材料を電池メーカーさんに送り込まなければならない。
材料メーカーさんは、あらかじめ自分たちでデータ-ベース化しておかないと納品できない。
大手というより、ほとんど中小の規模なので集まってやっている。
(次回へつづきます)
PS
このブログレポートは、
日本は財政破綻危機にある
↓
回避する方法として、経済成長の道を探る
↓
次世代自動車とスマート・グリッドに集中投資をする策の可能性を調べる
↓
失敗した時には、どうなるかをシミュレーションする
↓
成功した時にはどうなるか、をシミュレーションする、
などの流れに沿っています。
菅首相は消費税増税の道を考えていますので、いずれ消費税についてもレポートする予定です。
消費税を○%上げた時にはどうなるか、をシミュレーションする
↓
消費税を上げなかった時はどうなるか、をシミュレーションする、
などを考えています。
国民が国の政策が理解できるように、総合的なレポートにしていく予定です。
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鳥巣清典の時事コラム03 「鍵を握るのは、若い人のモチベーション」
「かれ」と、連休の間に電話で話しました。
「かれ」とは、私の親戚筋のK君。
某電器メーカーに勤め、半導体の仕事に関わっています。
鳥巣 日本経済の地盤沈下が著しい。
国際競争力は、前年の17位から27位までに転落。
これまで日本の基幹産業だった自動車、電器産業の輸出モデルが通用しなくなった、とまで言われる。
日本のお家芸だった液晶パネルも、世界生産シェアは韓国のサムスン電子とLG電子が4割を占める。
日本勢は、シャープが5位に入るのがやっと。
K君 耳が痛い・・。
鳥巣 半導体業界の現状は?
K君 この円高で、3か月で生産調整をしなくてはいけない。
にっちもさっちもいかなくなった。
現在、海外の製造工場では現地の人間を雇用している。
いよいよ日本国内の製造部門を全て海外に移そうという動きになってきた。
若い人も含めて、日本人社員も海外で働いて、と。嫌なら辞めてくれ、と、リストラされかねない。
若い人が海外に出て行けば、後戻りはできなくなる。
日本に残るのは、高齢者ばかりになる。
鳥巣 韓国、中国の勢いがすごい。
K君 ヘッドハンティングをして、日本の技術を盗んでいる、という噂がある。
鳥巣 これは自衛隊のOBの人が言っていたんだけど、英国のように国内の高度な技術が国外に流出しないような法律を作る必要がある、と。
K君 でも退職金の何倍も報酬を出されたら・・。
みんな生活もあるし、止めるのは無理なんじゃないかなあ。
鳥巣 競争に負けるのは、日本のレベルが落ちたせい?それとも外国勢のレベルが上がったせい?
K君 モチベーションが違う。
韓国人、中国人、彼らの目はギラギラしている。
日本人は、腹いっぱいになっている。
会社に出勤していれば、何百万円かをもらえる。
やる気が見えない。
今の若い人は、笛吹けど踊らず、というのが社内事情。
鳥巣 電器業界はデジタル思考かと思っていたら、回答はアナログなんだ。
K君 人間は、結局はアナログ。
ハングリー精神があるほうが勝つよね。
鳥巣 今や破竹の勢いの韓国も10数年ほど前の1997年から財政破綻危機に陥り、大変だった時期がある。
市中の金利が高騰。
企業はバタバタと倒産し、ソウル市内にある漢江(ハンガン)という川に身を投げる人が毎日のようにいた、という。
その時に国策として企業を合併していった。
「俺たちは2度と、あの地獄図絵には戻らないぞ」という強烈な気持ちがあるのだと思う。
K君 うん。
鳥巣 じゃあ、米国のモチベーションとは何か。
iPadのスティーブ・ジョブスのスタンフォード大の卒業式でのスピーチをネットで読んだけど、『Stay hungry。Stay foolish』と結んでいる。
やっぱりハングリー精神が大切だと言っている。
『foolish』とは、その仕事が好きかどうかを自問自答して、好きだったらバカ、つまり一途になれ、という意味かな。
それが立ち止まらず、革新を生み出そうとする力につながっているんだろうな。
もちろん、莫大な富を掌中にするぞ、というものはあるんだろうけど。
今の日本の若い人には、どうすればモチベーションが生まれるのだろう。
「これを造ったら、絶対に儲かるぞ!」というものが見つかったら、やる気が出る?
K君 それは、みんな頑張るよ。
鳥巣 やっぱり目標が、最高の特効薬になる。
電気自動車の蓄電池の開発はどう?これも追いつかれ役になるのかな?
K君 追いつかれると思う。
東芝もフラッシュメモリの開発に3000億円を投入して、やっと1位か2位。
蓮舫議員が、「2番ではいけないんですか?」
と言っていたけれど、あれは科学技術への冒涜だよ。
鳥巣 企業の研究・開発も大変な時代を迎えている。
でも、リスクを心配していたら先には行けない。
K君 だから一度、日本を破綻させたほうがいい、と言う人もいるんでしょ?
鳥巣 堀江貴文氏(ホリエモン)も、「日本は、1度破綻したほうがいいかもしれない」と言っていた。
でも、本気では言っていない。
「僕は、この国は何とかなると思う。
マネも含めてイノベーションを起こす潜在的な力がある。
いきなりエクセレントな国に生まれ変わるかもしれない」と予言していた。
K君 今はどこも、目先の利益を確保するのに必死。
でも3Dテレビのように、まだまだ先かと思っていたら、できてしまうこともある。
鳥巣 夢に挑戦して欲しい。
●用語解説≪フラッシュメモリ≫ 書き換え可能であり、電源を切ってもデータが消えない不揮発性の半導体メモリ。 NAND型フラッシュメモリとNOR型フラッシュメモリなどに分けられ、ともに舛岡富士雄が東芝在籍時に発明した。 |
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