エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー04 「金利があと0・4%上昇したらアウトです」
(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビュー4回目です。
鳥巣 国の厳しい財政状況の現状をどう見ていますか?平成22年度の新規国債の発行は44・3兆円。プラス利払いが10兆円ほどありますよね。
嶌峰 この話には、国債の借換え債の話が大きくからんでくるんです。
いま日本の財政赤字は、毎年40~50兆円ずつ増えています。
国債の発行額は基本的にその年の赤字額と一緒になります。
ところが“隠れ借金”――この言葉にはいろんな定義がありますが-―純発行額増みたいなものがある。
今までの借金の借換え債が150~160兆円くらいあるんです。
鳥巣 私も財務省主計局から「元金も含めて満期の方に償還、つまり返しています。
平成21年度ベースで157兆円です」と初めて聞かされた時には、「えっ」と思いました。
新聞報道などでは、国債の償還は20兆円とか、一般会計の枠内で報道されてきましたから。
一般会計は、37兆円の税収でまかなっている。
それに対して、特別会計は170兆円もある。
合せて国の総予算は、207兆円になるわけです。
一方で、借金のほうも157兆円に膨れ上がる。
嶌峰 これが毎年40~50兆円増えていきますよ、という話になっていけば、利払費+償還費だけの累積だけで、すごい累積赤字が膨らんでいく。
鳥巣 主計局は「自転車操業です。多重債務に陥った人と同じです」と言っていました。
嶌峰 政府としては国債の利払いを抑えるために、本当は償還が長いものを出したい。
けれど、長い期間の国債を発行すると、金利を高く設定しなくては買ってくれません。
それで2年とか1年とか償還期間が短い国債をガーッと厚くして、見栄え上、利払い費を圧縮していく、というやり方をしています。
とにかく償還される金利を下げなくてはいけない。
下げないと金利払いがものすごく増えますから。
償還される金利を下げている。そのために短い期間の国債をいっぱい発行している。
もうそこまできている。
鳥巣 財務省の誰と話をしても、金利上昇には神経質になります。
嶌峰 景気と関係なく、金利があと0・4%も上がるとアウトなんです。
どういう理屈かと言うと、本当は景気が良くなるとともに金利も上がる。
金利が上がれば利払い費も増えますが、景気も良くなっているので税収も上がる。
だから、問題はない。
ところが景気とか関係なく、金利だけポンと上がるケースを想定してみます。
国債の平均利回りは1・4%ですから、現在の1・1%前後から0・4%上がると償還される国債の平均利回りを逆転する。
利払い費のほうがどんどん増えていく。
青天井に、という世界になっていく。
そうなるとアウトなんです。
主要国で、そこまで追い詰められている国は少ない。
鳥巣 ですから私は、シミュレーションを作るべきだと唱えているんです。
嶌峰 政府はいろんな機関を持っていますから、シミュレーションを全くやっていないという事はないと思いますよ。
(次回へつづきます)
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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー03 「総予算の組替えこそ財政破綻なんです」
(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・主席エコノミストのインタビューの3回目です。
鳥巣 基本的な事を聞かせて頂きます。経済成長が必要な、本当の理由は何ですか。
嶌峰 鳥巣さんが書かれた本の中で『みんなの党』代表の渡辺喜美先生がおっしゃっている。
「デフレの状況ではどうにもならん」、と。
その通りですよ。
鳥巣 渡辺議員は、「デフレ下においては、給与所得者は給与が下がり、家計の収入が減る。
企業の売上は落ち、雇用も縮小し、格差が拡大。国も税収が激減する」と。
嶌峰 デフレから抜け出すためには、第一に成長率を上げなくてはいけない。
経済的な成長が一番なんです。
日銀がやらなければいけない事はいっぱいあるんです。
しかし、日銀がいくらお金をバラまいても、デフレからは脱却できるかもしれないけれど、スタグフレーションになるだけというリスクもあるんです。
鳥巣 不況なのに物価だけが上がる現象ですね。
庶民にとっては、デフレよりやっかい、いちばん恐ろしい状況です。
そうか、それで中身のある経済成長が必要になってくるんですね。
嶌峰 そして持続的な成長。これこそが重要です。2007年にはデフレ脱却のドアをノックしようとしたところまではよかった。
鳥巣 基礎的財政収支は、右肩上がりに改善されてきつつありましたよね。
嶌峰 ところが一歩踏み出す前にサブプライム問題でパタンとドアを閉められた。
また、ワーッとこっち(デフレの世界)に戻ってしまった。
鳥巣 基礎的財政収支も、かなりの赤字を出してしまった。
財務省では、対GDP(国内総生産)比で名目30兆円の赤字だと言っていました。
嶌峰 民主党政権になって、平成22年度の赤字は対GDP比10%。
鳥巣 510兆円あった日本のGDPは450兆円を割り込んできている。
平成22年度の予算は、税収37兆円に対して国債の発行は44・3兆円ですから、まさに10%。
嶌峰 取り返しのつかない数字です。
子ども手当などマニフェストが盛り込まれていますから、簡単に削除はできない。
今後はGDP比10%の赤字を基準に予算を組まなくてはいけなくなった。
鳥巣 拙著でインタビューをさせて頂いた、民主党の五十嵐文彦議員は、
「積立方式では、数年以内に予算を組めなくなる。
改革のために残された時間はあまりない、と思っています」と。
財政破綻危機に陥った時には、国民が積み立てている年金から財源を借りてくることも示唆していた。
今回、民主党の代表戦に出馬した小沢一郎氏は、子ども手当や高速道路無料化など、衆院選のマニフェストの遵守を明言している。
一般会計だけではなく、「特別会計を含む総予算207兆円の組替えにより財源は十分に捻出できる」と言っている。
嶌峰 それがまさに、我々の言う財政破綻なんですよ。
鳥巣 あ、エコノミストの方の世界では、そういう見方なんですね。国際エコノミストの長谷川慶太郎氏も、来年度の予算編成に相当の危機感を抱いていた。
「こんな困難な予算編成はありません。財務省の主計局は、編成ができないと思っています」と。
最悪の場合は、市場の反乱が始まって(日本国債が投資家によって売られて、長期金利の指標となる10年もの国債の)金利が急上昇することもあり得ると。
政府への不信感の表れですね。
嶌峰 周囲が何を言おうと、最後は政治家の人たちが方針を決めますから。
今の政治状況を我々も固唾を飲んで見守っているんです。
(次回へつづきます)
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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー02 「日本の最大の課題は『人口抑制』」
(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの2回目です。
鳥巣 日本の財政を考える場合、いちばん大きなウエイトを置くのは何だと思われますか。
嶌峰 長い目で見た場合、どうしても人口制約が及ぼす影響がいちばん大きいでしょうね。
鳥巣 ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンが著した本を読んでいたんです。
日本の最大の課題は、やはり「人口問題」と書いていますね。
ピークは、2025年、2050年の2回も来る。
団塊世代、団塊ジュニア世代と波は続きます。
これから40年は、この社会問題と取り組まなければならない。
将来への大いなる不安が、消費を冷え込ませ、需給ギャップを生んでいる、としか考えられない、と。
専門的には、「『流動性の罠』に陥っている」、というそうですが。
嶌峰 そこに緊縮財政で突き進むというケースを考える場合、義務的支出、つまり年金にまで突っ込んで歳出を抑制していくのか。
ギリシャとかはやろうとしていますが、ああいう路線に突き進んでいくという世界観はあるでしょうね。
現実的には、年金制度を変えていくのはしょうがないのかな、と。
鳥巣 ただでさえ消えた年金問題が解決されていない中で、年金制度の改革を果たして打ち出せるのでしょうか。
嶌峰 僕の日々の仕事は、株、為替、国債、原油などのマーケットの担当なんです。
講演では、先の見通しを含めて、財政に興味をもたれている方が多い。
今後の日本経済の見通しをお話しすると、「じゃ、どうすりゃいいのよ」と聞かれます。
鳥巣 何と答えているんですか?
嶌峰 僕の中では、いちばん進むべき道は成長戦略。
これに賭けていくしかないだろうな、と思います。
仮にそれが成功したら、その世界は何かというと、歳出を抑制しなくても税収が上がる。
プライマリー・バランス(基礎的財政収支=PB=借金に頼らず、税収だけで歳出まかなう)さえ均衡が取れていれば、あとは成長率が金利を上回っていればいいわけです。
鳥巣 理想的な財政再建のパターンですよね。
財務省も、「財政収支の均衡が、目標。将来、借金を返すのなら、黒字化が必要」と言います。
嶌峰 ざっくり4%の成長率があれば、財政問題は基本的にほっといても改善されていきます。
出生率は、非常に成長率とリンクしています。
持続的な経済成長が起こった2006~2007年あたりは、出生率が上がっているんです。
「将来不安は何か?」、いろんな定義がありますが、持続的に収入が増えるという安心感があって、初めて出生率が上がった。
ということですから、経済成長率をうながしていくことで、人口問題にもある程度対処する。
そこから始めるのが、いちばん良いような気がします。
(次回につづきます)
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(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・主席エコノミストのインタビュー01「財政を考えることが重要」
(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清(しまみね よしきよ)・経済調査部主席エコノミストに会いました。
鳥巣 シミュレーションをする必要があると思っています。
財政破綻とは、何?どういうことになるの?ということを分かった上で、いま何をしなければいけないか、議論が始まり、具体的に見えてくるものがあると考えるからです。
国民が分かっていないと、あるいは分かろうとしないと、政治家は何も言いません。
財政危機はデリケートな問題ですから、しゃべりたがらない。
有権者が「あなたは、どう考えるんですか?」と聞くようになれば、政治家も答えなくてはいけなくなります。
嶌峰 全く同感です。国民が考えて、知識が足りないと思えば勉強して、さらに考えて、議論を深めていく。
ということが、とても重要です。
消費税も、おそらく国民は、何のために必要なのか、本当のところは分からないままに判断しているんだと思います。
鳥巣 トータルな国家財政の状態が分からないと、判断もできにくい、ということだと思います。
そこで、お聞きしたい。
エコノミストの人たちは、どういう道筋で考えていくものなんですか。
嶌峰 財政赤字がどうなっていくか、ということについてシミュレーションを立てる時には、たとえば
(1)経済成長によって税収が変わる。
(2)消費税をこういうパターンで引き上げていく。
(3)全く今の税制をいじらない。
など、いくつかのパターンに分けます。
その上でざっくりと、10年後には財政赤字はこうなっていますよ、と。
じゃその世界って何だろう?ということで、次のシナリオに入るんです。
鳥巣 なるほど。
嶌峰 次のシナリオとしては、たとえば国の借金が、日本が持っている担保価値、つまり家計の純金融資産1000兆円を上回ってくる場合は、とか。
鳥巣 日本は、国民が1400兆円の金融資産を持っている。
うち400兆円は、住宅ローンなどの負債。
差し引いた額が、純金融資産。
それを国の借金額が超えてしまった時のシナリオということですね。
嶌峰 という状況になった時に、その段階ですぐ何かが起こるわけじゃありません。
ただ、ここで(国債流通市場で、投資家による)売り崩しみたいなものが出た場合に、金利がどの程度上がるの?上がると何が起こるのか?
鳥巣 何が起こりますか?
嶌峰 支払いコストがさらに増える。
一方、日本銀行が引き受けをやらなければ、国債価格がどんどん下がっていく。
そういう状況の中で、債券の需要というのは一気に現物債の中でも崩れていく。
そうすると、もっと金利が上がれば、景気はその分ダメージを受ける。
デフレはもっとひどくなるが、やがて円安が起こるので、円安によって輸入インフレが起こる。
人々の収入は増えない。
実質所得はどんどん減っていくので、輸入品が買えなくなるし、生活は窮乏を極めていく。
こういう話になっていくわけです。
(このインタビューの内容については、今後、何回かに分けてご紹介していきます)
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絶対に受けたい授業「国家財政破綻」08
朝鮮日報の辛貞録(シン・ジョンロク)東京特派員記者に会いました。
韓国が1997年、財政破綻危機に陥ったときの様子を聞くためです。アジア通貨危機の余波を受けて、韓国の通貨のウォンが暴落したことがきっかけでした。
辛記者が、こう回想します。
「タイ、マレーシアの通貨の価値が落ちて、韓国も1997年の11月末からウォンの価値がどんどん落ちていって、12月にそれが爆発しました。
政府はそれを防ぐためにドル相場にたくさん資金を投入したんです。
12月末には外貨準備が30億ドルくらい持った。
それでIMF(国際通貨基金)に救済を陳情しなければならなくなりました。
IMFからは救済金融を受け取りましたが、いろいろ条件があったんですね。一番の条件が緊縮財政でした」
前回のブログで、財務省主計局が
「そうならないようにしますが、日本が破綻危機のときは、IMFに申し込む」と考えていることをお知らせしました。私はそのことと重ね合わせながら、辛記者の話を真剣に聞きました。
「財政がすごく縮んで、銀行金利がすごく上がりました。政策金利が上がり、市中の金利も一時30%ちかくまで上がったんです。
それで企業が倒れて、失業者がたくさん出たんですね。地価は、3分の1~4分の1になりました。
首都ソウルには、漢江(ハンガン)という川がありますが、川の中に身を投げる自殺者が毎日のように出たんですよ。
1997年にIMFから緊急金融をもらってから、1~2年くらい、そんな状況が続きました。2001年のGDP成長率が、マイナス8・6%まで落ち込みました」
さらに、
「97年の12月に大統領選挙があって、金大中(キム・デジュン)が当選。
98年2月から金大中政権下で、いろんな経済政策がとられたんですが、その中で一番が大企業の合併。
ビッグ・ディールと言ったんですが、1つの産業に3~4つ参加していた企業を合併。事実上、強制です。
サムソンも自動車会社を持っていたんですが、それを他の会社に売って、半導体だけの会社になりました」
最近の韓国経済の快進撃に至るまでには、多くの血が流れたことがわかります。
国家の財政破綻危機は、いかに国民の犠牲をともない、コストもかかるかを噛み締める必要があります。
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絶対に受けたい授業「国家財政破綻」07
「政府と家計部門(国民の金融資産)との指標で見れば、国債を買える余裕はあと300兆円、いえ250兆円でしょう」
拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」を出版した後も、財務省とのコンタクトは継続しています。
冒頭は、主計局のAさんとの会話です。
政府の借金は膨らみつづけ、国・地方を合せて1000兆円になりました。
国債は主に国内の金融機関が買っていますが、原資は1400兆円余りの国民の金融資産です。
そのうち400兆円は住宅ローンなどの負債。さらにすでに国債購入に充てられている700兆円を差し引くと、(1400兆円-400兆円-700兆円=300兆円)。
しかし、国民の金融資産全てを国債購入に充てるわけにはいきませんので、ぎりぎり50兆円を残して「250兆円」という数字が出てくるのです。
平成22年度は、国債の新規発行は44兆3千億円でした。
同じ額の国債を今後も発行しつづければ(250兆円÷44兆円=5・6年)。
5~6年で限界、ということになります。
そのとき、政府はどうするのでしょうか。
Aさんが、こう説明します。
「国内で国債を消化できなくなれば、海外に頼るという方法はあります。
資源国とか経常黒字国が、その対象として考えられます。
ただ、信用リスクが高くなり国債が暴落した場合は払えなくなるのでどうでしょうか。
国債を圧縮するためには、インフレを起こせば問題は解決させやすいのですが、金融資産を持っている層を直撃してしまいます。
年金、預金も目減りします。あくまで(国の借金を圧縮するために)インフレを起こすのは最後の手段です。
(財政破綻になりそうな時は)日銀法の改正が必要ですが、日銀が国債を引き受けてくれると思います。
(そのときは外国人投資家などの円売りが起こることで)円が安くなり、(石油、小麦、大豆などの)輸入物価が高くなります。
インフレにならないように、収支のバランスをとるように準備をしておかなくてはなりません。
(※注=経常収支の黒字を維持していれば、円の暴落を防ぎ、緩やかに円安に導いていくことが可能かもしれない、というエコノミストの意見もあります)
国際的な枠組みでは、IMF(国際通貨基金)に申し込み、歳出カットを行うことになるでしょう。
大きなところから順番になるので、主には年金、地方交付税。政府内では人件費カットが対象になると思います」
そして、
「国としては、そういう事態にならないように努力はしますが、なんらかの調査をする必要があるでしょう。そのときは、国民の皆様に公開します」
政府と国民が「真実の議論」を始める時が来たようです。
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絶対に受けたい授業「国家財政破綻」06
65回目の終戦記念日がやってきました。
先日、享年86歳で亡くなった私の母は、大正14年生まれで、昭和20年(1945)の終戦時には20歳。
戦争一色の日本で青春時代を送ったのです。
「戦争は、私の青春をめちゃくちゃにした」
そんな言葉を時々こぼしていました。
拙書「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」で歴史資料にあたっていると、「戦争」の悲惨さとは「戦後」も含むことがよくわかります。
戦争当時の日本政府は、戦争にかかる巨額なお金を調達するために、いわゆる戦時国債を大量に発行していました。
買っていたのは、日本国民でした。
「徴兵保険を生命保険会社が売り出して、おふくろは、食うものも減らして、出征した長男のために掛け金を払いつづけていた。
戦後、国債と同様、紙屑になったけどね」
母の通夜の席で、そんな昔話をする親戚の叔父さんがいました。
戦争に敗れた戦後の日本政府には、国民に対して債権(国債など貸したお金を返してもらう権利)を支払う能力を無くしていました。
あわせて、世の中は物不足でインフレになっていました。
そこで政府は、強行手段に出て、国民が銀行に預けていたお金を引き出せる金額を少なくしました。
「預金封鎖」と呼ばれます。
日本円を旧勘定と新勘定の2つに分けて、一定の期間、旧勘定が使えなくなるという政策を実施したのです。
実際に預金封鎖が実施されたのは、昭和21年2月18日から3月2日の間。国民から回収された旧銀行券は総計503億409万円。
余剰資金の大半は、国債の買入れに向けられます。
つまり国民から回収したお金で、国債の償還をチャラにしたのです。
今、日本は戦後ではありませんが、国家の借金が先進国の中でも群を抜いて悪い状態にあり、政府の中でも財政再建の方法が議論されています。
戦後の非常時の政策を実行するしかない、と発言する国会議員もいるほど、状況は追い詰められてきています。
「戦後」は、現代に生きる私達とけっして無縁ではなくなってきているのです。
(weeklyちくごタイムズ 平成22年8月14日付 第353号に掲載)
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絶対に受けたい授業「国家財政破綻」05
菅首相は最近、政府税制調査会専門家委員会委員長を務める神野直彦・東京大学名誉教授の意見に耳を傾けているといわれます。
今年の2月半ばころは、小野善康・大阪大学教授から集中講義を受けていました。
しかし財政再建を考える財務省は、小野教授の「一番大事なのは、雇用を増やすこと。
消費税増税はまず借金を返すためではない」という点には賛成できません。
菅首相は、小野教授と財務省の間で微妙にバランスを取るようになります。
そこで飛びついたのが神野名誉教授の財政再建論でした。マスコミに答えている神野氏の考えは次のようなものです。
「私は(財政の悪化による)格下げで国債が発行できなくなる事態より、金融市場の混乱で国債価格が下落し発行できなくなる事態のほうがありうるシナリオだと考えています。
信用収縮が起きて国債発行ができなくなるのです」
「金融市場の混乱」の原因については、具体的には触れてはいません。
拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」で、渡辺喜美・「みんなの党」代表も述べていますが、「今年の末から来年にかけてリーマンショックの二番底がくる」ことを示唆しているのかもしれません。
神野氏は、こう続けます。
「三つの方針を掲げました。
それは消費税の増税、所得税の累進性を高める、法人税引き下げについては課税ベース拡大と合せて実施するということです。
GDP比で20%の税収、26%の歳出があるとすれば6%分が赤字となり国債で調達することになります。
増税して26%の税収を得るようにし、歳出も6%増やして32%にし、そのぶんを強い社会保障の構築に充てるのです。
強い社会保障の下、新しい産業構造に変えていくことで強い経済が生まれます。
金融市場の混乱で国債が発行できなくなっても、26%分の歳出は税収で支えることができ、現在の社会保障の水準を維持することができます。
菅首相も仙石官房長官も、このことを説明したら〝強い財政、強い社会保障、強い経済〟でいこうということになりました」
政治家の経済・財政政策は、どの経済学者をブレーンにするかで決まっていくかがわかります。
(weeklyちくごタイムズ 平成22年7月24日付 第350号に掲載)
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絶対に受けたい授業「国家財政破綻」04
参議院選挙の投票日、東京伝習館の同窓会が九段のダイヤモンドパレスホテルで開かれました。
260名余りが出席。私も久しぶりに顔を合わせる同級生、先輩、後輩などと挨拶を交わしました。
卒業生で中央省庁の官僚となっているAサンと国家のことについて話がはずみました。
私が、国家財政破綻についてのインタビュー本を出版したこともあり、Aサンの認識を問うと、「非常に危機的であることは間違いない。
平成2、3年の頃は、まだ100兆円台だった国の借金が、800兆円にもなっている。
ひどい状態だ」という言葉が返ってきました。
私が、「国家が財政破綻した時のことをシミュレーションをしておく必要があると考えている」と言うと、すかさず「シミュレーションをしておくべきだ」との返事。
一方、その言葉の節々に「官僚が国家を支えている」という自負は十分に感じられました。
官僚に対する逆風に不満も述べました。
「自民党は、30分は話を聞いてくれた。
しかし民主党は、10分も話を聞いてくれないのではないか。
官僚なくして国家運営はできないことを彼らは分かっていない。
局長以上は、辞表を胸のポケットにしまって直言すべきだと言っている。こんな状況ならいつ辞めてもいい。
一方で、国家のためにはそういう考えでは駄目だ…という思いもある」
二次会ではワインをあびるように飲みながら、彼は心の葛藤を吐露しました。
官僚にも閉塞感が充満しているようです。
私が国家財政・経済運営のことをある程度は理解できたからなのか、「ありがとう。今日は話ができてよかった」と、何度も口にしました。
財政・経済問題は難しく、仲間内以外と話する相手が見つからず、深い孤独感があったようです。
二次会の後、私を家族にどうしても紹介したいと言い張りました。
2人の息子にも国家の置かれた現状を話してくれ、と口説かれました。
結局、私は外で家族にも会い、日本が陥っている危機的な状況を説明し、いかにあなたたちのお父さんが苦悶しているかを暗に知らせました。
20歳台の2人の息子さんは、理解をしてくれたようでした。明治維新の時のように、日本を国難から救うような若い人たちが現れて欲しいものです。
(weeklyちくごタイムズ 平成22年7月17日付 第349号に掲載)
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絶対に受けたい授業「国家財政破綻」03
本来なら、デフレ時には増税はご法度です。
消費をますます冷やし、デフレをさらに深刻化していくからです。
「財政再建」を旗印にした橋本内閣が消費税を3%から5%へと引き上げたのは97年。
その結果、バブル後の不況期を脱しつつあった日本経済は、ふたたび深刻なデフレに陥ったことがあります。
翌年の消費税の税収は税率アップで4兆円増えたにもかかわらず、所得税と法人税収などが合せて6兆5000億円も落ち込み、税収は差し引きで2兆5000億円も減るという最悪の結果を招きました。
橋本首相の後を継いだ小渕首相は、景気対策のために国債を刷りまくって任期中に84兆円も借金を増やしました。
しかし、公共事業による景気浮揚効果はあがりませんでした。
それでも菅首相が消費税論議を始めようと呼びかけているのは、「2、3年後には、ギリシャのようになる」という危機感があるからです。
異論があるのも確かです。週刊ポストは、「財政危機は、財務省が仕掛けたフィクション」という立場で報道しました。
日本金融財政研究所所長の菊池英博氏は、こう述べています。
「財務省が煽る財政危機論にはトリックがある。900兆近い借金の金額だけを宣伝し、日本政府が社会保障基金や特別会計の内外投融資など約500兆円の金融資産を持っていることが議論から抜けている。
借金から資産を差し引けば、日本の純債務は367兆円ぐらいで、他の先進国とそれほど変わらない水準です」
拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」(青志社刊)でも、渡辺喜美「みんなの党」代表、髙橋洋一・嘉悦大学教授なども、同じ指摘をしています。
私が危惧するのは、いろんな改革案がいっこうに進まず、政府の無能力ぶりを見透かされて海外のヘッジファンドによる空売り――国債市場の反乱を招いてしまいかねない、ということです。
(weeklyちくごタイムズ 平成22年7月10日付 第348号に掲載)
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