絶対に受けたい授業「国家財政破綻」 -194ページ目

鳥巣清典の時事コラム14 「榊原氏“政府の債務総額は、1300兆円超”」

榊原英資氏の「変遷」について見ています。

2007年の時点では、「すでに財政破綻をしている」とのタイトル記事まで書かれています。

「日本には、いくつかの財政の構造的問題がある」

1つめは「地方」の問題でした。

警告を鳴らす2つめの問題は、「年金積立金」などの財政状況についてです。

榊原氏は2004年に『年金が消える』(中央公論社)も著しています。

『日本の論点2007』(文藝春秋編)と合わせ、その論点を整理すると以下のようになります。

①年金積立金の不良債権化率は、推計40%

「現在の日本の年金制度は『修正積立方式』と呼ばれる。

いわゆる積立方式と賦課方式の中間的なもの。この中間的な制度をとり続けたことから、年金制度の腐食は著しく進んでしまった」

用語解説≪公的年金制度の修正積立方式≫
年金制度には、積立方式(つみたてほうしき)と賦課方式(ふかほうしき)とがあり、積立方式とは若い現役時代に払い込んだ金を積み立て、老後にそのお金を受け取る仕組み。
賦課方式とは、働く現在現役の人が払い込んだ金を現在の高齢者に支給する仕組み。
「修正積立方式」とは、積立方式を基本としながら、人口構成の変動に応じて年度ごとに負担率を変更していく年金方式。現在の日本の公的年金はこの方式を採用している。

「完全な積立方式であれば民間の年金のように積み立て分は個人のものであり、これを個人のためにいかに有利にするかが、年金当局の重要な役割になる。

逆に完全な賦課方式であれば、保険料はいわば税金であり、年金業務は所得の再配分という一般の財政政策の一部になる。

『修正積立方式』により積立金は厚生労働省が特別会計を通じて、財務省からの制約もあまりなく、厚生労働省の予算として使えることになってしまった。

2001年までは積立金は資金運用部に預託され、その25%が年金福祉事業団に融資され、厚労省がこれを使っていた。

こうした制度の中で、グリーンピアとか年金会館とかが建設され、回収できない積立金が増えていった。

年金積立金のうち、どの程度が不良債権化しているのかを示す正確な数字はないが、40%と推計する」

②財政投融資は、156兆円ほどが不良債権化

「財政投融資の不良債権化率も、日本医師総合開発機構の調査で、年金積立金と同程度(40%)と推計されている」

用語解説≪日本医師総合開発機構の調査≫
日本医師総合開発機構は、1999年度末の時点で、財政投融資の貸出先である27の特殊法人の財務状況を分析。
24法人が債務超過状況で、貸出先の約4割が不良債権化しており追貸しを受けないと破綻してしまう、という結果を発表した。

「2002年度末で財政投融資残高は約390兆円。

この4割、実に156兆円ほどが不良債権だという。

これに郵便貯金・簡易保険・年金などの特別会計及び基金(年金資金運用資金)などが別途抱えている不良債権及び含み損を加えると、この額はさらにふくらむことになる。

さらに(この時点で)668・7兆円の公債等発行残高も政府はかかえている。

これに年金の積立不足分530兆円を含めると、総額は1300兆円を超える。

これは対GDP比で270%に及ぶ数字になる。

つまり、日本政府は、郵便貯金・簡易保険・年金積立金を先食いし、積立金のないまま将来の年金給付金を約束することで、GDP比で100%を超える隠れた債務をつくり出してしまった」

③財政破綻が財政破綻として表面化する

「いままで、こうした巨大な債務の問題が表面化してこなかった大きな原因の一つは、個人金融資産の大半が銀行預金や郵便貯金、生命保険などに流れ、それが国債や財投債の購入にあてられていたからだ。

今のところ、この隠れた債務は表には出ていない。

しかし金融の自由化が進むにつれ、個人の資産が投資信託などのチャネルを経て、株式や外国債券などに大きく流れるようになり、いままでのメカニズムが機能しなくなる。

そうなれば財政当局は、公債の消化を個人投資家や外国人投資家に依存せざるを得なくなる。

結果として、財政状況に敏感に反応するマーケットがつくり出されることになる。

ここ4~5年の間には、財政破綻が財政破綻として表面化する可能性が高くなる」

このように榊原氏は、膨大な「隠れ債務」が深刻な問題であることを指摘していたのです。

(次回へつづきます)

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鳥巣清典の時事コラム13 「榊原氏“2010年以降、財政沈没が顕在化”」

前回、“民主党の最高経済ブレーン”とも言われる榊原英資氏の

「日本が目指すのは、フランス型福祉国家」

について紹介しました。

気になるのは、ここ数年の榊原氏の変遷ぶりです。

「変遷」から、その真意をつかんでおかなければなりません。

たとえば、『日本の論点2007』(文藝春秋編)では、

「財政はすでに破綻している――誰も知らない潜在的債務の実態」

衝撃的なタイトル記事を書かれています。

「財政はすでに破綻している」

とは、どういうことでしょう?

榊原氏の論点を以下に整理してみます。

①2010年以降、財政沈没危機が顕在化する

「一部に“政府の債務は資産売却によってかなりの債務が削減できる。

ネットの債務はそれほど高くない”という論議がされるが、これは全くの論外。

とくに金融資産の大部分は、年金など、将来の債務や他の特別会計への債務を抱えている。

国債・地方債を中心とする800兆円に達する国・地方の債務を帳消しにできるようなものではない。

こうしたたわいのない論議をしていられるのは、実は、財政再建問題には若干の時間の余裕があるためだ。

個人金融資産残高は1400兆円ほどあり、今のところ債務をカバーできている。

ここ4~5年は危機が顕在化することはないだろう。

しかし2010年以降、危機が一気に加速していく可能性がある。

逆に言えば、この4~5年の間に日本の財政は、いくつかの構造的問題を解決しておかなければ沈没してしまう可能性が高い」

榊原氏は、「いくつかの構造的問題」の一番手に「地方」を取り上げます。

②地方交付税特別会計は、事実上破綻

「地方歳入のかなりの部分が、郵便貯金や年金積立金でまかなわれ、現在もその状況がつづいている。

毎年借金を重ねている地方交付税特別会計は、事実上破綻している。

借入金は、主として財政投融資資金特別会計からなされ、財投債などを通じて事実上、郵便貯金や年金の資金を原資としている。

国の国債費を除く歳出の40%が地方に回されているだけでなく、国の金融資産を食いつぶして、地方の歳出が行なわれている。

財政投融資資金特別会計が持っている金融資産、貸出は、地方が地方税増税などで新たな財源をつくるか、歳出を大幅にカットして大きな黒字を出さない限り、返却されない不良債権なのだ。

ただ地方自治体を一方的に責めるわけにはいかない。

10兆円以上の国庫支出金は、じつはヒモつきの補助金になっている。

地方自治体が歳出削減し、財政再建に取り組んでも、その分だけ地方交付税・交付金などを削減され、努力をしても意味がないというケースが少なくない。

日本全体の歳出の大半を占める地方に権限と責任を与えない限り、財政の無責任体制は続き、早晩構造的破綻がしのびよってこざるをえない」

(次回へつづきます)

●用語解説≪榊原英資(さかきばら・えいすけ)≫
1941年東京都生まれ。
東京大学経済学部卒。
大蔵省(現財務省)国際金融局次長、理財局総務課長を歴任。
97年~99年財務官を務め、「ミスター円」の異名をとる。
現在、青山学院大学教授、財団法人インド経済研究所理事長。

●用語解説≪社会資本整備総合交付金≫
平成22年度より国土交通省管轄の地方公共団体向け“個別補助金”を一つの交付金に原則一括。
地方公共団体にとって公共事業の自由度が高まった。
一般予算で、2・2兆円。

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鳥巣清典の時事コラム12 「日本は、フランス型福祉国家になる!?」

『絶対こうなる!日本経済』(アスコム)の中で、“民主党の最高経済ブレーン”(田原総一朗氏)とも言われる榊原英資氏が気になる発言をしています。

発言の主旨とは、

「日本はグローバル化を進めると同時に、ヨーロッパ型の福祉社会を目指すべき。

僕は、フランス型を目指すべきだと主張している。

今の日本の社会福祉は基本的には年金と医療で、基本的に老人向け。

フランス型は雇用と育児に社会福祉を拡大している。

つまり社会福祉を、老人から若者や子どもにまで広げていく」

●用語解説≪フランスの社会保障システム≫
フランスは、子ども手当だけでなく、さまざまな形で出産・子育て支援を手厚くしている。
未婚の母にも支援の手を差し伸べていて、出産率が2・1まで上がっている。
女性が働きながら子育てするシステムが、国のシステムとして完全にできあがっている。

そこで、「歳出」のほうが気になります。

榊原氏は、ズバリ言及します。

「スウェーデンの税金と社会保障負担を合わせると、所得の約65%、90年には80%近かった。

フランスは、60%くらい。

いずれにせよ、かなり大きな政府になって税金や社会保険料が上がる。

消費税はフランスの場合は約20%。

日本も、消費税はそれくらいまで上げる。

子ども手当をやり、高校授業料の無償化をやり、さらに教育全体の無償化みたいなことをやる。

失業保険みたいなところを拡充する。

そうすれば、どうしたってカネがいる」

では、「財源」はどうするのでしょう?

榊原氏は、「国債発行」と述べます。

「国債は60兆円くらい発行しても問題はない。

カネ余りだから吸収する能力がマーケットに十分ある。

国債トレーダーたちと話をしたら、70兆円発行しても10年債の金利は2%を超えず、1・3%前後で推移するだろうと。

だから国債を発行し大型予算を組んで、成長への舵取りをすべき」

続けて、

「ここ4~5年の当面は、消費税は上げなくても済む。

日本は金融資産が非常に大きく、しばらくは国債を発行できる。

しかし、次の選挙では『消費税を上げる』と訴えなければいけない」

加えて、

「消費税を上げて、法人税も下げなければいけない」

消費税増税を福祉目的税にするということではなくて、幅広く使っていく考えです。

つまり、

第1段階としては、
「4~5年は、国債を毎年60兆円ほど発行して経済成長に使う」

第2段階としては、
「日本が経済成長軌道に乗ったら、消費税を上げる」

第3段階としては、
「フランス型の社会福祉国家を本格的に目指すために、税金と社会保障負担を合わせると60%くらいまで引き上げていく。消費税は、20%くらいにする」


以上のようなロードマップになるわけです。

みなさん、こういう構想がある、ことをご存知でしたか?

竹中平蔵氏は、

「民主党は、その構想をはっきり言わないといけない。

言わないのが、問題なのです」

と述べています。

(次回へつづきます)



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鳥巣清典の時事コラム11 「政府と国民と競争して国家戦略会議を」

あのユニクロの生みの親、『ファ-ストリテイリング』代表取締役兼社長の柳井正氏までが、国家財政破綻危機に対して声をあげ始めました。

柳井正・大前研一、両氏の共著『この国を出よ』(小学館) の中で、

「もう黙っていられないところまで、日本の危機が迫っているからです」

政治的発言に踏み込む動機について、悲痛なほどの思いを吐露しています。

お二人は、国家財政破綻(Xデー)についても、具体的な見通しについて述べられています。

大前氏は、

「3年以内に日本は国債デフォルト(債務不履行)の危機を迎えるだろうと考えています。

今の財政状態のひどさは目に余ります。

この3年以内に予算の大幅削減をして、プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化のメドを立てないと、日本は間違いなく破綻してしまうと思います」

柳井氏は、

「僕は、今の日本をさらに悲観的に見ています。

大前さんが考えるより速いスピードで、日本が破綻する“Xデー”が近づいている気がします。

ところが、多くの日本人はそんな危機意識を持たずに、逆に

『この国はまだまだ大丈夫だ』

と錯覚しているようです。

そして、驚くほど能天気な国民が能天気な政権を支え、未だに国からお金を引き出すことばかり考えている。

自分の力で立ち上がってグローバル化の荒波に立ち向かおうという人は、明らかに少数派です」

激烈です。

大前氏は、1943年、福岡県生まれ。

柳井氏は、1949年、山口県生まれ。

お二人とも、私(1951年生まれ)より年上です。

衰えない国を憂える気持ちには、心より敬服致します。

竹中平蔵氏も、“Xデー”に触れています。

竹中平蔵・榊原英資、両氏の共著(田原総一朗責任編集)『絶対こうなる!日本経済』(アスコム) では、

「あと5年ほどかなり大量の国債を発行しても、金利は上がらず余裕がある」

そう述べる榊原氏に対して、

「榊原さんのいう5年は無理で、猶予期間はせいぜいあと3年でしょう」

竹中氏が“Xデー”を口にするのは珍しい。

私が今年インタビューをした時には、

「今度は10年はもたない。

ただ、それが2年なのか5年なのかは判らない」

と述べていました。

拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」

「あと2年」

と述べた渡辺喜美「みんなの党」代表や、

「2年? 甘い!」

と語る国際エコノミストの長谷川慶太郎氏などを含めると、錚々たる人たちが“Xデー”は近いと見ている。

いたずらに不安を煽ることは避けなくてはいけませんが、これ以上、噂の類として避けていてはいけないと考えます。

前回、財務省の見解を掲載しました。

「あらゆる事態に備えての調査研究は必要。その一環として、審議会や国会などで議論が行なわれると思われます。

公にすべき事項については、積極的に公開していきたい」

さる大物政治家のスタッフにこの話をすると、

「そうなる可能性はある」と、はっきりと答えました。

政府内で根回しが進んでいる様子です。

政府に残された道は、適切な情報公開と国会での論議。

ヒステリックで対立的な構図ではなく、学問的に議論を重ねるべきです。

そろそろ、政府内でこそこそ、国民側でこそこそ、というのを止めましょうよ。

ALL JAPANによる、日本を元気にするための国家戦略改革会議の準備が必要でしょう。

いつもの中途半端なものではなく、収斂していくまで、数ヶ月かかろうが、連日連夜になろうが、構わないじゃないですか。

日本の民主主義の力が、試されることになる。

政府(政治家、官僚)が賢いのか、国民のほうが賢いのか、大いに競争すればいいと思います。


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財務省主計局インタビュー01 「政府の負債が大きくなると、金利上昇を招く」

鳥巣 国の債務が、膨らみつづけている。菅首相は参議院選挙期間中に、「あと2~3年でギリシャみたいになる」と演説していた。

財務省 それはない。

鳥巣 首相の認識は、間違っている?

財務省 かなり違う状況です。

日本は、世界最大の資産国、債権国、貿易黒字国。

一般政府の持っている金融負債と、家計の純金融資産(約1000兆円余り)が同じになっていますが、金利は反応していない。

国債の金利は低く推移しており、市場の信用収縮は起きてはいない。

鳥巣 対GDP比の債務残高が膨らむと、金利急上昇を懸念するムキがある。




用語解説≪国内総生産(GDP)≫
一定期間に国内で生み出されたモノやサービスの付加価値の総額。
2008年度は物価変動の影響を除く実質GDPが544兆円、物価の影響を含む名目GDPは498兆円。
個人消費が6割を占める。名目GDPはアメリカに次ぐ世界2位だが、中国に抜かれ3位の可能性も。
国民1人当たりGDPは、07年に世界19位だったが、10年に27位まで後退している。




財務省 国の寿命は20年、30年で終わるわけではない。

個人の債務残高を考えるに当たって可処分所得の2年分が限界の目安にされるが、国にそれを適用するということになると、GDPの200%が債務の限度額(GDPを500兆円とすれば、限度は1000兆円)ということになる。

が、その理論的根拠はなんら明確ではない。




用語解説≪可処分所得≫
個人所得の総額から直接税や社会保険料などを差し引いた残りの部分で、個人が自由に処分できる所得。



鳥巣 財政危機ではない?

財務省 現在、財政危機ではあるが、政府債務不履行のリスクが高いということでは決してない。

ただし、政府の負債が大きくなると、企業の借入や投資に回されるべき金融資産まで国債に回ってしまい、いわゆるクラウディング・アウトによって成長を阻害することになってしまう。




用語解説≪クラウディング・アウト≫
政府による国債の大量発行が民間の資金調達と競合を起こし、金融市場が逼迫して金利を上昇させ、民間の資金調達が阻害される現象。




財務省 日本には膨大な資産はある。

しかしながら国債が増えていくと、民間への貸し出しに支障が出かねない。

現在のところ、投資のクラウディング・アウトはまだ起きてはいないが、このまま進むと信用収縮につながり、金利の上昇をまねかないとも限らない。

鳥巣 国民の金融資産の「家計部門」で国債をあとどれくらい買える?

財務省 政府と家計がバランス取れるまで国債が拡大できる、ということであれば今のところ400兆円の余裕があることになる。

鳥巣 平成22年度の「新規財源債」国債発行額は44・3兆円。

毎年同じ額の国債を発行していくと、(400÷44・3兆円)=9年になる。

クラウディング・アウトの可能性もあるから、「9年の猶予」ということにはならない。




用語解説≪新規財源債≫
一般会計における国債発行額の44・3兆円は、財務省では「新規財源債」と呼ぶ。「国債発行額」という表現になると、「借換債、財投債を含む概念であり、22年度は約162兆円」(財務省主計局)と膨大なものになる。


用語解説≪400兆円の余裕≫
財務省主計局が提示する「400兆円」は、(「国民の金融資産1460兆円」-「長期債務残高1000兆円」)で計算されてきたものです。
総額1460兆円を「グロス」、総額から住宅ローンなど国民の負債400兆円を差し引いた1000兆円を「ネット」。
国民の金融資産で国債を買い支える限界を、「グロス」「ネット」のどちらで考えるべきかについては諸説ある。




鳥巣 国内で国債を消化できなくなった時は?

財務省 国内で国債が消化できなくなれば、海外に頼るという方法はある。

資源国、貿易黒字国などが対象として考えられる。

ただ信用リスクが高くなり、国債が暴落したときには、インフレ及び円安が発生し、国債費が予定より上昇して払えなくなる可能性がある。

鳥巣 
国債が暴落すれば、その時にはインフレが発生する?

財務省 日銀が国債を市中銀行から引き受けると貨幣供給が過多となり、物価上昇と円安を引き起こす可能性がある。

そうなった場合は、輸入物価が上がる。

このような事態にならないように、財政収支の基礎的バランスを取るようにする必要がある。

鳥巣 インフレが引き起こす、国民への影響は?

財務省 国債は、国内で消化されている限り、高いインフレを起こせば最悪圧縮できる。

しかしインフレは金融資産を持っている層を直撃してしまう。

鳥巣 高齢者が、金融資産の大半を所有している。

財務省 年金、預金も目減りしてしまう。

年金や公債については、基本的に額面を渡せばいいため、インフレでは実質的に価値が目減りしてしまう。

いずれにしても、あくまで高いインフレを起こすのは最後の手段。

ただ、インフレが起きると、やがて賃金も上がっていく。

しかし、その間に時間差がある。

国内インフレリスクを高いと考えるのであれば、海外に資産を移すという安全策はあるでしょうね。

鳥巣 元財務官僚の片山さつき衆議院議員は最新著『真実の議論』で

「政府は財務内容を全て明らかにして、国民と真実の議論をする時が来ている」

と述べている。

官僚になっている私の知人も

「ひどい財政状態だ。

万が一の時のシミュレーションをすべきだ」

と言っている。

シミュレーションをしたことは?

財務省 財務省として今のところ提示できるものはない。

ただ、あらゆる事態に備えての調査研究は必要。

その一環として、審議会や国会などで議論が行なわれると思われます。

公にすべき事項については、積極的に公開していきたい。

鳥巣 そうなれば、本格的に国民も関心を持つ。

財務省 国としてはそうならないにようにしますが。

国内で国債を消化できなくなった時には、日本銀行が引き受けるという最終手段がある。

それも駄目ということであれば、国際的な枠組みとして、IMFに支援を申し込むスキームがある。

IMFの管理下では、歳出カットは、歳出が大きい順になるのが通常です。

年金、地方交付税、政府内では人件費が対象になると思われます。

ギリシャも同じような事が起きている。

ただし、日本がそこまで深刻になることは現段階では考えにくい。


用語解説≪IMF(国際通貨基金)≫
国際連合の専門機関の一つで、為替相場の安定と自由化、および国際収支の均衡を図ることを目的に設立された国際金融機関。




鳥巣 財務省の人と話をしていて、金利の上昇にはみんな神経質だ。

仮にゆうちょ銀行の限度額を2千万円に上げて、預金を集め、第2財政投融資機関にしていった場合、金利上昇面の懸念があるのでは?




用語解説≪財政投融資≫
財政投融資特別会計国債(財投債)の発行で調達した資金を財源とし、国が特殊法人などの財投機関に対して有償資金を供給する。
財投機関はそれを原資として事業を行い、その事業からの回収金などによって資金を返済する。




財務省 仮にゆうちょ銀行が投資手段として国債に重点を置き、民間部門に結果として資金が回らなくなった場合は、ゆうちょ銀行と民間部門に投資している通常の銀行との間に利回りに差が出てくるという可能性はあるかもしれない。

いずれにせよ、ゆうちょ銀行の運用如何によって金利上昇が起こるというよりは、日本全体としての金融資産に対する需要が実質金利を決めるものと考えている。

鳥巣 国債の平均利回りは?

財務省 平成20年度で、1・4%。

鳥巣 民主党は、「成長戦略」を強調している。

デフレ不況下にある日本としては、国民は景気が良くなることを期待している。

その限りにおいては、経済成長は望ましい。

いっぽう、金利が上昇するリスクがある。1・4%を超えると、借金が雪だるま式に増えてしまう。

自民党の石破茂衆議院議員は、NHKの日曜討論で

「金利が1%高くなるだけで大変なことになりますよ」

と民主党に注意をうながしていた。

財務省 
金利の上昇とは、国内のパイの奪い合いが始まることを意味する。

経済が回復し、資金需要が高まると、金利が低いところから、金利が高いところへ運用先が流れていく。

今のうちから、道筋をつけなければならない。

鳥巣 財務省の考える「道筋」とは?

財務省 基礎的財政収支を黒字化していくことが将来の目標。

均衡(平成22年度の赤字は、30兆円余り)していれば、国債に頼らなくても政府サービスを行うことができる。

将来的に借金を返していくことを考えるのならば、黒字化することが必要になる。

今のうちから、基礎的財政収支の均衡を目指さなければならない。




用語解説≪基礎的財政収支(プライマリーバランス)≫
債務の元利払い以外の支出と、公債発行などを除いた収入との収支。基礎的財政収支が均衡していれば、毎年の政策的な経費が税収などの毎年の収入でまかなわれていることになる。この場合、この年の債務の増加は利払い分だけになる。
ただし、利子率と経済成長率が同じであれば公債の対GDP比は一定となるが、名目経済成長率よりも名目金利が高ければ政府債務残高の名目GDP比は上昇し続ける。



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鳥巣清典の時事コラム10 「財政破綻=インフレとは限らない!?」

「通貨危機がどういう理由で起こるのかには定説がない」など、「定説」について取り上げています。

実は“授業(取材)”を進めていると、一般的に「定説」のごとく語られている中には、必ずしもそうではないことも含まれているのを知ることがあります。

例えば、「デフォルト=インフレ」という“定説”です。

「日本が財政破綻すれば、急激な円安になり、輸入インフレになる」

私も、そう思い込んでいました。

ところがJPモルガン・チェース銀行シニアFXストラジストの棚瀬順哉氏は、その定説を検証、調査によって実態を明らかにしています。

週刊エコノミスト6月29日特大号で、調査の一部を発表されてもいます。

まず、

「ソブリン(国債)のデフォルトとは、政府が本来約束された期日に債務の利子や元本の支払いを履行しなかったり、リストラクチャリング(条件変更などの債務再編)に陥る事態などを指す」

と、定義。

そのうえで1990年代以降に財政破綻を経験したロシア、エクアドル(99年と2008年の計2回)、ペルー、アルゼンチン、ウルグアイの5か国を調査対象にしています。

そこで判明していることは、まさに目から鱗なのです。

①ロシア、アルゼンチン、99年のエクアドルでは、破綻後にインフレ率が急上昇。

②ウルグアイでは、破綻前にインフレ率が急上昇。

破綻後には、インフレ率はむしろ低下した。

③ペルーと08年のエクアドルでは、インフレ率は破綻前後を通じて安定していた。

以上の3つのパターンに分かれる。

②③の国々は、インフレが起こっていない。

なぜ、こんなことが起こるのでしょう?

棚瀬氏は、

「為替制度が硬直的か否か、デフォルトに伴う債務リストラが自発的か非自発的かによって、大きく異なってくる」

と、分析されています。

たとえば、

「破綻前後に通貨急落を経験したロシア、エクアドル(99年)、アルゼンチン、ウルグアイは、いずれもドル・ぺッグ制(ドルに固定レートで自国通貨を連動させること)などの硬直的な為替制度を採用していた」

現在ドル・ぺッグ制を採用している中国などが仮に財政破綻に直面した場合には、「人民元」は急落する可能性があるわけです。

いっぽう、

「対照的にペルーは、他の中南米諸国に先駆けて90年代初頭に変動相場制に移行していたため、経済危機が通貨の急落にはつながらなかった」

日本は、もちろん変動相場制を採用しています。

(先日は「円高」対策として為替介入をして欧州から批判を浴びましたが、中国の為替介入<=ドル・ペッグ制の維持>を先進国が批判している時に、マズイだろうという話です。

対日赤字の国が欧州には多く、

「ユ-ロに対して、円はまだ安い」

と思っていることもあるでしょう)

「通貨の急落(円安)につながらない」という事は、「輸入インフレ」を心配しなくてもいいことになります。

さらに、

「デフォルト前から債権者との交渉に入り、その意志がある程度尊重される形の自発的なものだったか、非自発的なものだったかの違いも、デフォルト時の通貨の動向に大きな影響を及ぼしている。

デフォルト時に通貨の急落が見られたロシア、エクアドル(99年)、アルゼンチンのケースはいずれも債務リストラが非自発的なものだったのに対して、債務リストラが自発的だったウルグアイ、ペルーではデフォルト後に通貨の大幅な変動は見られなかった」

たとえば「日本政府」が財政破綻から逃れられないと認識した時には、「債権者(つまりは日本国民や海外投資家など)」に対して情報を公開し、事前に暗黙の了解を得ておけば、急激な円安は起こらないかもしれない。

この調査結果だけで軽々に結論づけることはできないのでしょうが、財政破綻のシミュレーションをする場合の重要な情報になると思われます。

こういう調査情報があるからかは判りませんが、財務省主計局は私の取材に「財政破綻時のシミュレーション」について回答してきました。

次回、その内容をお知らせしたいと思います。



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鳥巣清典の時事コラム09 「通貨危機を回避する方法とは?」

前回、

「通貨危機がどういう理由で起こるのかには定説がない」

ということをご紹介しました。

となれば、通貨危機を回避するには、「誘引する要素」をできるだけ多く取り除いておくという方法が考えられます。

「通貨危機」とは、ジェトロによれば

「なんらかの理由で通貨の価値が下落し、それが経済活動に悪影響を及ぼす減少」。

今は「円高」で日本の輸出産業は苦労していますが、とりあえずここでは「円安」に絞って対策を練ってみます。

(1)「通貨下落は、外国との経済取引において自国の支払いが超過する場合」

(以下、ジェトロの定義に沿って進みます)をいいます。

日本の現状は、どうでしょうか?

主だった国に対して「貿易収支」は黒字になっています。

中国(+香港)、韓国、台湾、シンガポールなどアジアの新興国から、アメリカ、ドイツ、イギリスなど先進主要国からも大幅な黒字です。

いっぽうフランス、イタリア、スイスは、これらの国の「ブランド」がわが国の女性たちを魅了していて赤字。

中東産油国、インドネシア、オーストラリアなどの資源国に対しては赤字です。

そのほか日本人、日本企業は外国への出資・貸付によって、毎年10兆円を超える金利配当収入を得ています。

この所得黒字に貿易黒字を合わせれば、経常収支は20兆円前後の黒字。

10年で200兆円ちかくの経常収支の黒字が日本に流れ込んでいることになります。

今のところ、「日本の支払いが超過する」という事態とは無縁です。

(2)「通貨危機は、『良い均衡』から『悪い均衡』へジャンプする。

つまり、人々が悲観的だと悪い均衡が、楽観的だと良い均衡が実現する」

とあります。

群集行動がなせる業でしょう。

かのアメリカも、未来に希望を抱いている限りは人々も楽観的で、旺盛な消費を好みました。

「世界の富が、永遠に集まってくる」

という信仰に近いものでした。

日本人も、高度成長、バブル時期は同様でした。

デフレに陥っている日本は、その歯車が逆回転しているのです。

人々が楽観的になるには、どうすればいいのでしょうか?

「1460兆円の国民金融資産の65%を75歳以上の高齢者が所有している」

と流布されることがあります。

老後は、長くなっています。

核家族化も進んでいます。

老後を過ごす資金は、増えつつあります。

そこに「宙に浮いた年金問題」です。

ますます老後の不安は募ってしまいました。

日本人の金融資産の大半が、塩漬けになってしまった。

おカネが、消費に回らなくなった。

「この国の将来への不安」が伝播し、日本が「通貨危機を起こす」原因になりかねないほどです。

解決策は、「老後の不安を取り除いてあげる」しかありません。

どうすればいいのでしょう?

「生前贈与をしやすいような税制改革」を挙げるムキもありますが、これは「塩漬けされた金融資産を消費に回す方策」だと高齢者に見破られ、実効性があるかどうかは疑問です。

「3世代同居」を進めていくという方法も、核家族化が進む今の流れからすると難しい。

ほとんどの高齢者が資産を使い切れずに亡くなり、その遺産と保険金を手にした、これまた65歳以上の人たちに資産が足されていくだけ。

消費性向の強い20~40歳代前半までの子育て世代にはお金がないという状況が続いてしまいます。

今のところ、これ、といった策は見当たらないようです。

(3)「企業や銀行部門の外貨建て債務の存在」、あるいは「共通の貸し手」など、通貨危機に陥った国々に見られるような外国からの借金問題は、債権国日本では今のところは存在しません。

こうして見てくると、「対外的な問題」には強く、「対内的な問題」に弱い、という対照的な構図がくっきりと浮かびあがってきます。

「高齢者の金融資産が、老後の不安から塩漬けになって消費に回らない」

「その金融資産を政府が借りて(国債を発行して、金融機関を通して資金を得ている)使っているが、借金が膨大になり過ぎた。

このままでは、国民の金融資産を食いつぶしてしまう」

「生産者だった団塊世代が退職し、年金受給者に回り、政府出費がかさむ一方になる」

など、ひとえに「内政問題」なのは明らかです。

このままでは、それぞれが発火し合い、大火事になるのは、まさに火を見るよりも明らかです。

これらの解決法(策があれば、の話ですが)を誤ると国力は衰退の一途。

死臭をかぎつけハゲタカファンドが舞い降りて来る、ということになり、「アジア通貨危機」の時と同じような流れになっていきます。

これで「楽観的になれ」というのには、難しいものがあります。

むしろ、「火事場の馬鹿力」に賭ける他はないでしょう。

日本人に果たして、明治維新の時のような底力が湧いてくるのか。

それとも、おとなしくハゲタカに食べられてしまう運命に身をまかせるのか。

とはいっても、「敵」は国外ではなく、国内にあるのですから、「癌」との闘いのようなものです。

これは、対処が大変に難しい。

中国漁船衝突事件のように、国論が一つにまとまるようなわけにはいきません。

既得権益がはびこっているからです。

総論賛成、各論反対、の世界です。政治家、官僚だけでも、解決は難しい。

あらゆる層の国民が参加しなければ、この改革は成し遂げられないはずです。

成長戦略だけでは、解決できないものがあります。

(株)第一生命経済研究所の嶌谷義清主席エコノミストのいう、「国民のコンセンサス」が、どうしても必要になってきます。

自分たちの国は、何が問題なのか?

解決策は、あるのか?

解決策を阻むものは、何か?

じゃ、どうすれば?

タブーも含め、議論を尽くすことが必要になってくるのでしょう。

いっぽうで、百家争鳴になって、収拾がつかなくなる可能性もあります。

「問題を先送りにしない」菅首相の言葉が本当なら、国民は急いで“授業”を受ける準備をしなくてはなりません。

鳥巣清典の時事コラム08 「通貨危機の原因には定説がない!?」

前回、「つまりは、通貨調整なんですよ。

ドル体制がおわるということなんですね」

という、渡辺喜美「みんなの党」代表の“予言”をご紹介しました。

この機会に「通貨調整」「通貨危機」などについて調べていると、『日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所』の調査報告に、興味深い記述が見つかりました。

実は、「通貨危機がどういう理由で起こるのか」については、“定説”がないという事実です。

「お金」の世界も、グローバル化で複雑化しています。

この調査報告は、定説がないということを書いているだけに、逆に世界が抱えている課題が透けて見えてきます。

以下に、要点をまとめてみました。

(とはいっても、やや長文になりますので、前編と後編に分けてみます)





《前編》

(1)「通貨危機とは、なんらかの理由で通貨の価値が下落し、それが経済活動に悪影響を与える現象を指します。

(2)通貨の価値が下落するのは、外国との経済取引において自国の支払が超過する場合です。

外国との経済取引は、モノの取引(経常収支)とカネの取引(資本収支)に大別できます。

近年の通貨危機のほとんどは、カネの取引の激変によって通貨価値の下落を余儀なくされるという特徴を持っています。

(3)通貨危機の原因を探るためには、こうしたカネの取引の変化の理由をうまく説明する必要があります。

1980年代には、「定説」とも言える理論があって、通貨危機の説明は、この定説を中心にして展開していました。

(4)ところが、1990年代に入って、この定説では十分に説明しきれないような通貨危機が多発するようになりました。

とりわけ1997年-98年にかけて勃発したアジア通貨危機は、通貨危機を説明する理論の展開にも大きな刺激を与えました。

それ以後、まさに百花繚乱とでもいうほど、多くの異なる仮説、理論が提示されています。

多様な理論が出されることは、研究の一段階として必要なことですが、一定のコンセンサス(合意)が形成されつつあるとはとても言えない状況なのは問題です。

(5)「通貨危機の原因を説明する諸説」を大きく3つのカテゴリーに分類すると、

1・為替投機(スペキュラティブアタック)の理論

2・伝染の理論

3・群集行動(ハードビヘイビャー)の理論

の3つに分けられます。

(6)「為替投機」の理論は為替市場における投機がなぜ発生するのかを説明しようとするものです。

それによると、政府の政策が長期的な為替価値の維持という目標と矛盾しているときには、将来の政策の破綻を予想した投資家が、より早い時点で為替投機を開始し、その結果、通貨危機が起こるとされます。

この理論は、長きにわたって「定説」として支持されました。

そのため、第一世代モデルと呼ばれますが、様々な改良や修正を加味した発展型のモデルがあります。

第二世代モデルと呼ばれる一群の理論です。

第一世代モデルでは、政府の政策は通貨危機の前後を通して変化しないと仮定されているのに対して、このモデルでは政府の政策は為替投機を受けた場合とそうでない場合では異なると想定している点が大きな違いです。

このモデルでは複数均衡の可能性を指摘した点が画期的です。

通貨危機は「良い均衡」から「悪い均衡」へのジャンプとして説明されます。

しかも、どの均衡が実現するかは、人々が将来をどのように予想するかによって異なると説明されました(自己実現的)。

つまり、人々が悲観的だと悪い均衡が、楽観的だと良い均衡が実現するとされました。

このモデルは、国際金融市場の不安定な側面を示唆していると言えるでしょう。

(7)ところが、アジア通貨危機など90年代後半以降の通貨危機では、第二世代モデルの説明でも十分ではないと見なされるようになりました。

その筆頭としてあげられるのが、バランスシートモデルと呼ばれる一群の理論です。

これらは、

①企業または銀行部門の外貨建て債務の存在に注目している、

②通貨価値の下落はバランスシートを悪化させ、逆に、バランスシートの悪化は通貨価値を下落させるという双方向の関係があると想定している、

③その結果、第二世代モデルと同様に複数均衡の可能性を指摘している、

という共通点を持っています。ただし、バランスシートの悪化がなぜ通貨価値を下落させるかという説明に関しては、銀行危機、クレジットクランチ、預金保険の履行による過剰流動性、など、さまざまな仮説に分かれます。


●用語解説≪クレジットクランチ≫
金融機関の自己資本比率が低下して貸し出しを抑制することにより、金融市場に資金が十分に供給されなくなる状態。不良債権処理に伴うことなどが引き金になる。
別名、「信用収縮」。
国民1人当たりGDPは、07年に世界19位だったが、10年に27位まで後退している。

●用語解説≪預金保険≫
銀行・金融公庫・信用金庫・保険会社・証券会社などの金融機関が集まって一つの保険機構をつくり保険料を積み立てておき、加盟金融機関の経営が破綻して預金の払い戻しができなくなったときに、その金融機関に代わって預金者に一定の限度内で支払いを行う保険制度。

●用語解説≪過剰流動性≫
現金・預金などの流動性資産が、企業の通常の経営に必要な額以上になっている状態。



《後編》


(8)「伝染の理論」は、90年代以降の通貨危機において見られる一つの大きな特徴は、一国で発生した通貨危機が別の途上国へと「伝染(コンテイジョン)」することが多かったという事実です。

この点を、為替投機の第一世代モデルは説明することが困難です。

また、第二世代以降のモデルで複数均衡の可能性を持つものは、それと関連づけて伝染を説明しようとしています。

伝統的な経済学の枠組みの中でも、「伝染」を説明できるとする立場からは、貿易リンクや共通のマクロ経済ショックの存在による説明や、競争的切り下げ(コンペティティブデバリュエーション)の仮説が提示されました。

しかし、これらの説明は、近年の通貨危機における伝染の説明としては適切ではないとする批判が、実証研究の分野から出されています。

これらに代わって、「伝染の理論」の主流と見なされるようになったのは、「共通の貸し手」の存在に注目する諸説です。

これは、主要な先進国の投資家や銀行が、世界中の新興市場諸国に対して分散投資を行うことにより、「共通の貸し手」となっている現実を背景にしています。

そして、これら共通の貸し手の何らかの「問題行動」が通貨危機の伝染を引き起こしていると考える点を共通の特徴としています。

さらに、「問題行動」の原因として、貸し手が何らかの特別な制約(流動性の制約など)に直面していることを重視します。

例えば、ある一カ国の通貨危機は、共通の貸し手に損失を与えるが、その結果、貸し手は全く関係ない別の国への貸付も絞らざるを得なくなる、というのが「共通の貸し手」による説明の一例です。

(9)「群集行動の理論」は、それ自身としては通貨危機を説明するために発展してきた理論ではありませんが、通貨危機のメカニズムの説明として援用できると期待されているのが、「群集行動」についての一連の研究です(その一部は、「伝染」の説明にも援用が可能とされています)。これらはさらに、

(1)投資家心理やノイズトレーダーの存在といった一種の非合理性を前提とするもの

(2)銀行や投資ファンド内部のエイジェンシー問題(投資担当のマネージャーが、運用成績そのものではなく自身の評価を気にして行動する)に注目するもの

(3)インフォメーションカスケードの理論(先行する他者の行動から自分の得ていない情報を推察して行動するときに起こる群集行動の理論)などに分類されます。

群集行動の理論が通貨危機の説明という文脈で注目されるようになったのは、第一に、為替投機の第二世代モデルとの関連です。

第二世代モデルでは、人々の将来予想の違いによって均衡が左右されるという自己実現的複数均衡が特徴的ですが、実のところ人々の将来予想そのものの形成メカニズムはブラックボックスとして扱われています。

群集行動の理論は、この人々の予想形成のメカニズムとして援用できないかと考えられました。

第二に、群集行動の理論は伝染の理論とも関連があります。

とくに、「共通の貸し手」仮説では、貸し手の問題行動をどのように説明するかが重要ですが、この部分に群集行動の理論を援用することは可能でしょう。

このように、群集行動の理論自身は直接的に通貨危機を説明しようとするものではありませんが、通貨危機の理論と高い親和性を持った理論群だと言えます。

(10)また、アジア通貨危機に際しての、IMF(国際通貨基金)の対応のまずさも多くの議論を呼びました。

まず問題になったのは、IMFが資金支援を行う条件として提示するコンディショナリティ(融資条件)の内容が適切であったかどうかということです。

しかし危機の原因についてさえ定説が定まらない状況を反映して、望ましい政策が何であったのかについても十分なコンセンサスが形成されているとは言えません。

さらに、危機が発生した際に一部の債権者(特に民間の債権者)だけが抜け駆け的に行動するのを防ぐべきだという議論も起こりました。

そのために、秩序だった対応手順を、あらかじめ国際的に取り決めておくべきだという提案(新国際金融アーキテクチャー)がなされました。

というのも、原因はともあれ民間の貸し手が我先に資金を引き揚げることにより通貨危機の規模や経済への悪影響がより大きくなったという事実があるからです。

しかし、どのような取り決めが望ましいかという事に合意ができないまま、2000年代に入って全般的に通貨危機の勃発がおさまりを見せると同時に、新国際金融アーキテクチャーの具体化を目指す機運は急速に失われてしまいました。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


如何でしたか?

時には、難しそうな理論に触れておくのもオツというものではないでしょうか。

なにしろ、「定説」はないのですから。

あなたは、最先端の理論の諸説を知ったことになるのです。

私が上記の報告の中で強く引きつけられたのは、「群集行動の理論」というあたりでした。

「国民みんなが、“財政破綻する”と思った時には、間違いなく日本は破綻する」

という話は、嘉悦大学の髙橋教授(拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」の第4章)なども言っていたことです。

要は、「国債」=「政府への信頼」が、「政府への不信」=「国債への不信」になった場合は、「国債を売る」→「国債の暴落」につながるという理屈です。

さらに「日本国民」だけではなくて、「外国人投資家」がプラスされ、場合によっては投機的な影響が大きくなるのが、現在のグローバル債券市場の世界。

現代ではいかに「政府」が、国民や投資家からの信頼を受けるような政策を行なっていくかが重要、ということになります。


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鳥巣清典の時事コラム07 「渡辺喜美『みんなの党』代表の予言」

10月になりました。

この「10月」という数字が、ずっと私の頭の隅にはありました。

拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」を読んで頂いた方はお分かりでしょう。

第2章に登場する渡辺議員が述べている、4つほどの「予言」。

「予言」の1つめが、

「今は小康状態になっていますけれど、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン、たぶんフランスあたりにも波及すると本格的にやばい話になるんですよね」

今年の2月にインタビューしたのですが、ギリシャ危機は表面化していませんでした。

つい最近、スペインの国債も格付けを落とされました。

2月~4頃というのは、インタビューをした複数の経済学者やエコノミスト、国会議員の方々は

「中国は内需を拡大し、アメリカもV字回復をすると思いますよ」

と希望的観測を述べられていました。

今日、世界の景気動向を楽天的に語る専門家はおられないのではないでしょうか。

渡辺議員の2つめの「予言」は、次のようなものでした。

「残念ながら世界の金融不安はまだ解決しておりません。

今年の末から来年にかけて二番底が来る。

それは、アメリカからです。

(中略)

中国が上海万博をイケイケドンドンでやりますから。

これは10月まで続きますから。

常識的に言えば、10月以降なんでしょうね。

ドルぺッグが限界に達し、人民元が切り上げられたら、中国のバブルは崩壊するでしょう。

その時、日本は間違いなく二番底。

一体、どうするんでしょうねえ」

中間選挙を前にしてオバマ政権は、中国に対して強硬に

「20~40%の人民元切り上げを要求」

しています。

「実行すれば、国内の企業はバタバタと倒産して、国内不安を引き起こす」

と、温家宝首相は受け入れられない姿勢を崩しません。

上海万博は、10月31日に閉幕します。

世界の景気は、一気に冷え込むのでしょうか。

それ以上の激変を迎えるのでしょうか。

「つまりは通貨調整なんですよ。

ドル体制がおわるということなんですね」

これが、渡辺議員の3つめの「予言」です。

さらには、あってはならない事態も聞きました。

「金融経済危機というのはだいたい4段階くらいあって、

(中略)

最終段階は通貨危機になります。

これに失敗すると第4段階に入って、大量殺戮と大量破壊、つまり戦争になります。

そしてお金の世界では預金封鎖と強制預金切捨てが行なわれる。

それによって官民の債務をチャラにするというのが一番最後の決着なんですね」

尖閣諸島、北方領土問題での中露の動きは、かつての東西冷戦時代に戻りかねない兆候を感じないではありません。

世界経済の破綻は、人類の歴史を振り返っても良い結果を生むとは思えません。

というのは、危惧すぎでしょうか。

いずれにしても私としては、

「渡辺予言」

の兆候と成り行きをしばらくは観察していくことになります。

もちろん、「日本の国家財政破綻」についての「予言」も忘れてはいません。




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●用語解説≪ドルぺッグ≫
自国の為替レートを米国ドルと連動させること。
米国に対する輸出比率の高い中東の産油国、経済基盤の弱い国が多く採用する。

資源エネルギー庁・野田豊和課長補佐インタビュー07 「バッテリー交換式EVと安全性」

経済産業省資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課の野田豊和・課長補佐のインタビュー7回目です。(以下、「エネ」)


昨日は、

レアアース(希土類)を使わない新構造のハイブリッド車(HV)向け磁石モーターの開発に成功。

電気自動車(EV)にも応用可能」

というニュースに感動したことをお伝えしました。

「レアアースが禁輸になったどうする?」

「じゃ、こういう方法がありますよ」

と、玉手箱のように代替案を出してくれた科学の力。

そんな科学技術に敬意を払う意味でも、革新型蓄電池とスマートグリッドの開発や課題について取材を進めてみます。

「日本が進むべき道」



「世界の中の日本」

が、見えてくるかもしれません。


鳥巣 EVについて、経済産業省が注目して行っていることは?

エネ 優秀な蓄電池を使ってそれを走らせて、実証データ-を積み重ねていっているところです。

EVを造っている他の国で、いくら「規格」といっても、エビデンス(検証結果)による根拠がないですから。

実証データ-を持っている日本は、有利になってくる。

しかし日本も、EVが走り出したのは去年。

量産車を出したのが今年。

現在は自動車メーカーさんの状況とか、劣化状況とかを調べているところです。

そこから得られた状況から規格案を提出していく。

そういう事をすることによって量産化というのが簡単になってきて。

価格の安い蓄電池ができて、車全体の価格を安くしていける。

鳥巣 EV用のインフラ整備の状況は?

エネ それも今は、日本は勝っています。

急速充電器を普及すればいいのか、普通充電でいいのか。

いまデータ-を収集しています。

急速充電器が普及してきた時に、どういう問題が起こるのか。

もしくは車が途中で止まってバックアップ(支援)を必要とした時にJAFみたいなのがあれば、急速充電器を持たずとも、そこに横付けをして充電すればいいのか。

必ずしも高いお金をかけて急速充電スタンドを造るべきかどうか。

など、いま方向を探っているところです。

鳥巣 夜中に家のコンセントから充電しておけば事足りるということになりませんか?

エネ 使っている方の心の持ちようなんですね。

自宅に帰って来た時にすぐコンセントにつなぐ、というその行為が普通にできれば充電スタンドは要らない。

一日で使うのは、数10キロでしょうから。

一晩で充電できてしまう。

休日の時は遠出をしたりするかもしれませんけども。

鳥巣 ただ家庭用のコンセントにつないで充電すると蓄電池の劣化を早めませんか?

エネ 昔ほどではないですね。

鳥巣 そうなると将来、ガソリンスタンドは?

エネ そこはですね・・。

ガソリンスタンドを閉鎖した場合はどうなるか、を考えたりするのは、うちの石油部が担当なんですが。

そこの部分は、こうだとは言えない。

EVと普通のガソリン車の間にプラグイン・ハイブリッドがある。

そうですねえ・・。

エネルギー供給マネジメントとして、ガソリンスタンドがどうなっていくかというのは、ちょっと・・。

鳥巣 充電ではなくて、バッテリー自体を交換するという方法もありますよね。

エネ ええ、イスラエル資本の企業が入ってきています。

環境省が実証でやっています。

鳥巣 「世界初のバッテリー交換式EVタクシー」

と言うので視察予約をしていたら、前日の夜になって担当者から電話が。

「トラブルが起こった」

と。

エネ ほうほう。

鳥巣 「何のトラブルですか?」

と聞いたら、

「100%充電ができているかの確認を通信を飛ばしてやっている。

それが80%くらいしか充電ができていない可能性が出てきている。

大丈夫だとは思うが、国の実証でもあるので安全性には万全を期したい。

米国製なので、アメリカからエンジニアを呼ばなくてはいけない。

しばらく時間がかかるかもしれない」

と。

エネ バッテリー取り換え方法も、本当にいいのかどうかは微妙なところでして。

あれだけ大きな電池だと、不慮の事故が起こると感電死してしまう可能性もあるものですから。

端子が剥き出しになっているとは言いませんけれども。

大きい事故がボンと起きた時に、何がしかの問題で接触面に何かが起きると火花が散ったり。

いろいろあるんじゃないか、と憂慮はしていて。

まだ実証中なので、何とも言えないですねえ。

鳥巣 取り換えというのは、手っ取り早いことは確かですけどね。

エネ EVでは、メーカーは違う車だけれど、電池は同じ形式で取り換えっこをするようになります。

今はガソリンスタンドで給油が2,3分ですむ、というのと比べると、充電時間がよけいに長く感じてしまう。

そうだとすると取り換え式のほうを使うのかもしれません。

ただ安全性の観点からすると、どうかな?

というのはありますね。

日本で運用する場合、ぴったりはまるとは思われない。

ある程度余裕をもってはめられるという事は、隙間があるということですから。

何かトラブル的な事が起きないのかなあとは思っています。

取り換えの部分では、標準化というのが非常に重要になってきます。

鳥巣 実証には時間がかかりそうですね。

(次回へつづきます)



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