鳥巣清典の時事コラム10 「財政破綻=インフレとは限らない!?」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム10 「財政破綻=インフレとは限らない!?」

「通貨危機がどういう理由で起こるのかには定説がない」など、「定説」について取り上げています。

実は“授業(取材)”を進めていると、一般的に「定説」のごとく語られている中には、必ずしもそうではないことも含まれているのを知ることがあります。

例えば、「デフォルト=インフレ」という“定説”です。

「日本が財政破綻すれば、急激な円安になり、輸入インフレになる」

私も、そう思い込んでいました。

ところがJPモルガン・チェース銀行シニアFXストラジストの棚瀬順哉氏は、その定説を検証、調査によって実態を明らかにしています。

週刊エコノミスト6月29日特大号で、調査の一部を発表されてもいます。

まず、

「ソブリン(国債)のデフォルトとは、政府が本来約束された期日に債務の利子や元本の支払いを履行しなかったり、リストラクチャリング(条件変更などの債務再編)に陥る事態などを指す」

と、定義。

そのうえで1990年代以降に財政破綻を経験したロシア、エクアドル(99年と2008年の計2回)、ペルー、アルゼンチン、ウルグアイの5か国を調査対象にしています。

そこで判明していることは、まさに目から鱗なのです。

①ロシア、アルゼンチン、99年のエクアドルでは、破綻後にインフレ率が急上昇。

②ウルグアイでは、破綻前にインフレ率が急上昇。

破綻後には、インフレ率はむしろ低下した。

③ペルーと08年のエクアドルでは、インフレ率は破綻前後を通じて安定していた。

以上の3つのパターンに分かれる。

②③の国々は、インフレが起こっていない。

なぜ、こんなことが起こるのでしょう?

棚瀬氏は、

「為替制度が硬直的か否か、デフォルトに伴う債務リストラが自発的か非自発的かによって、大きく異なってくる」

と、分析されています。

たとえば、

「破綻前後に通貨急落を経験したロシア、エクアドル(99年)、アルゼンチン、ウルグアイは、いずれもドル・ぺッグ制(ドルに固定レートで自国通貨を連動させること)などの硬直的な為替制度を採用していた」

現在ドル・ぺッグ制を採用している中国などが仮に財政破綻に直面した場合には、「人民元」は急落する可能性があるわけです。

いっぽう、

「対照的にペルーは、他の中南米諸国に先駆けて90年代初頭に変動相場制に移行していたため、経済危機が通貨の急落にはつながらなかった」

日本は、もちろん変動相場制を採用しています。

(先日は「円高」対策として為替介入をして欧州から批判を浴びましたが、中国の為替介入<=ドル・ペッグ制の維持>を先進国が批判している時に、マズイだろうという話です。

対日赤字の国が欧州には多く、

「ユ-ロに対して、円はまだ安い」

と思っていることもあるでしょう)

「通貨の急落(円安)につながらない」という事は、「輸入インフレ」を心配しなくてもいいことになります。

さらに、

「デフォルト前から債権者との交渉に入り、その意志がある程度尊重される形の自発的なものだったか、非自発的なものだったかの違いも、デフォルト時の通貨の動向に大きな影響を及ぼしている。

デフォルト時に通貨の急落が見られたロシア、エクアドル(99年)、アルゼンチンのケースはいずれも債務リストラが非自発的なものだったのに対して、債務リストラが自発的だったウルグアイ、ペルーではデフォルト後に通貨の大幅な変動は見られなかった」

たとえば「日本政府」が財政破綻から逃れられないと認識した時には、「債権者(つまりは日本国民や海外投資家など)」に対して情報を公開し、事前に暗黙の了解を得ておけば、急激な円安は起こらないかもしれない。

この調査結果だけで軽々に結論づけることはできないのでしょうが、財政破綻のシミュレーションをする場合の重要な情報になると思われます。

こういう調査情報があるからかは判りませんが、財務省主計局は私の取材に「財政破綻時のシミュレーション」について回答してきました。

次回、その内容をお知らせしたいと思います。



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