絶対に受けたい授業「国家財政破綻」 -193ページ目

鳥巣清典の時事コラム24『和僑(わきょう)の時代④』「中国への企業進出拡大と領土問題のジレンマ」

10月24日(日曜)にオン・エアされたNHK『日曜討論』の一部を記録します。

冒頭の課題に、<景気“足踏み” どうする日本企業>と題して、以下の経済界の専門家が語り合っています。

□日本商工会議所会頭・東芝相談役/岡村 正

□経済同友会副代表幹事・ローソン代表取締役社長/新浪 剛史

□米日経済協議会副会長・アフラック日本社会長/チャールズ・レイク

□東京大学教授/伊藤 元重

□三菱総合研究所シニアエコノミスト/武田 洋子

○司会
NHK解説委員■島田 敏男

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⑯「世界経済は連結している」

司会 中国は、日本をはじめ先進国の経済回復のために期待できる相手?

伊藤 もちろん、そうだと思う。

グローバル経済の中での成長と理解している。

その意味で、さらに相互依存を深めていく。

一時期、それぞれが独立して成り立っていくという議論もあった。

リカバーリングと呼ばれていた。

今回の金融危機は、明快にそうではない。

世界経済は連結していることがはっきりした。

成長が高いレベルの国々と、残念ながら成長がそう高くはない国々とがある。

それぞれの付加価値と、それぞれの戦略的貢献があって、グローバルな経済が成り立つ。それを構築していくために何が必要なのかということが議論されるべき。

⑰「中国進出の3つのリスク」

武田 中国はこれから5年間は、5か年計画ということで、今までの輸出依存から内需依存にシフトしていくことを表明している。

日本にとってプラスということは間違いない。

ただ、いっぽうでリスクもある。

3つあると考えている。

1つは、中国は格差社会で社会の歪みになっている。

いっぽうで最近、平均的に見れば労働コストが上がってきている。

2つめは、各地でのデモの広がりのような、ポリティカル・リスクがその都度出てくる可能性は否定できない。

3つめは、これはより中・長期的な課題だが、中国も2015年くらいになると高齢化が進行。

生産年齢人口、つまり労働者人口が、ピークアウトしてくる。

マーケットとして中国の完全に依存するだけでなく、その先、2段階戦略が必要になる。

⑱「日本の国際競争力は27位」

司会 スイスの調査機関がまとめた“国際競争力”比較の数値で見ると、2010年はシンガポールが1位で、3位にアメリカ、そして日本が27位。中国が18位、インドが31位。

伊藤 スイスの調査機関は、グローバル・ビジョンを持っている。

グローバルで見ると、日本はこういうふうに見えるのだと思う。

これが日本の全部ではない。

国内でも、医療、介護とか、非常に重要な分野をどうやっていくかがある。

ただ明らかになってきているのは、新興国が台頭してきて、グローバル化している中で、日本の企業は大企業も含めて対応が遅れているように見られている。

それは事実だと思う。

日本の企業が今、いちばん強く感じている。

グローバルに展開するところについては、相当に重要な問題だと我々は受け止めざるを得ない。

⑲「“国の開放”とは、“外に出て行き”、“受け入れる”こと」

司会 日本の大企業が、しっかりと明日に向かって旗を掲げろと。経済同友会、あるいは経団連には耳が痛いところ。

新浪 全般的に内向き志向になっている。

どうやって外向き志向にしていくか。

大変、大きな課題。

人材をいかに育成していくか。

大企業が就職の学生を雇う時に、最低2年以上、どこでもいいから海外経験をしている者を条件にしたらどうか。

奨学金制度も企業や政府がバックアップをする。

学生は機を見て敏だ。

若い人たちに外に行かせる。

たとえば東芝さんだと、どんどん20代は外に出して、外での経験をつけさせ、自信をつけさせる。

そういうことが大事。

内向きイコール自信のなさ。

外に行って、日本は素晴らしい国だということを見直す。

日本には、いろんなものがある。

外からこんなに評価されている。

そういうことを大企業主導型でやることによって、いわゆる「内なる者」から「外へ行く者」を育てていく。

「外」からも受け入れていかなければならない。

“国の開放”というのは、「外」に出てゆき、また「外」の優秀なあらゆるものを受け入れていくこと。

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PS

ロシアのメドベージェフ大統領が、11月1日に北方領土を訪問するとのニュースが流れています。

実現すれば、ロシア大統領としては初めて。

日本にとっては、大打撃です。

北方領土訪問は、そもそもが胡錦濤・主席との中ロ首脳会談で出てきた構想。

「尖閣諸島、北方領土は、中ロのもの」

世界のバランス・オブ・パワーに敏感な英国のタイムズ紙は、「『ロシア熊』と『中国龍』が手を組み、これから太平洋の『日本エビ』を追い回す」と報道しました。

日本にとっては悪夢のシナリオ。

こうなると、頼りになるのは“世界一の軍事大国“アメリカ。

ところが、日米同盟深化のための「日米安保共同宣言」の策定が見送られることが決定。

オバマ大統領が、横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)で訪日した際に計画されていたのです
が、「共同宣言は出せない」と米政府高官が認めたのです。

沖縄県宜野湾(ぎのわん)市の米軍普天間飛行場移設問題で、日本側が迷走を続けて先送りを繰り返し、同盟深化の協議ができない状態が続いためです。

日本のあやふやな態度が、孤立化を加速。

果たして、「経済だけは別」というふうにいくのか、非常に危惧されます。

絶対に受けたい授業「国家財政破綻」/鳥巣 清典

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鳥巣清典の時事コラム23 『和僑(わきょう)の時代③』「中国への拡大進出には経済外交が必要」

日本は、中国といかに付き合っていけば良いのか。

「政治外交」「軍事」、「経済」、全ての面でスーパー・パワー国家を目指す中国。

“中華思想の国”に対して、“日出ずる国”の日本は骨太の方針を掲げる必要があります。

中国漁船だ捕事件で、政治と経済が絡む体験を日本はしたばかり。

「戦略的互恵関係」の中身が問われます。

10月24日放送のNHK『日曜討論』では、<景気“足踏み” どうする日本企業>と題し、以下の経済界の専門家がその課題について語り合いました。

□日本商工会議所会頭・東芝相談役/岡村 正

□経済同友会副代表幹事・ローソン代表取締役社長/新浪 剛史

□米日経済協議会副会長・アフラック日本社会長/チャールズ・レイク

□東京大学教授/伊藤 元重

□三菱総合研究所シニアエコノミスト/武田 洋子

○司会
NHK解説委員■島田 敏男

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⑫「日米協調は、中国封じ込めではない」

司会 中国については、日米ともに関心ごと。

伊藤 来月、横浜でAPECがある。

1980年代に日本とアメリカが貿易摩擦でことごとく対立した。

2か国間でやると、どうしてもそういう議論になる。

アジア、太平洋という大きな枠組みの中でやると、もう少しグローバルな議論になる。

今度、胡錦濤主席が横浜に来て、オバマ大統領や菅総理と議論をすることは非常に大事。徹底的に国連、IМF、G20、あるいはAPEC、ACEAN+3だとか、そういうところに出てもらって、その地域の責任ある役割をどんどん期待していく。

そういう取り組みを日本は積極的にやっていかないといけない。

レイク 今後も継続して世界の経済成長の中心として中国が役割を果たす。

ということは現実としてある。

そのうえで中国の台頭に対して上手にどうつきあっていくのか、ということが各国問われてくる。

G20でも、WТОでも、中国が責任ある大国として責任ある利害関係者になっていく。そのように上手に話をしていくことが求められている。

日米の協調というのは、中国を封じ込めるということではない。

⑬「横浜APECで中国が果たす責任論を会議」


レイク 来月にAPECが横浜で開かれる。

首脳会談の方向付けとして、環太平洋自由貿易協定、経済連携協定がどういうふうに議論されていくのか。

そのなかで中国自身が、利害関係者としての責任を果たしていかなければならないな、と考えるという状況をいかにしてつくっていくか。

ということが求められている。

⑭「中国は、完全に市場」


武田 今年第二四半期にドルベースでみて、中国のGDPが日本のGDPを抜いたということが世界のニュースとしてひとつ話題になった。

両国のもともとの人口を考えれば、ある意味当たり前。

一人あたりのGDPでは、日本が10倍近く上回っているという現実がある。

中国の成長は、日本にとって弊害があるというよりは、利益をもたらすと考えていたほうが良い。

中国はこれまで日本にとっては、生産拠点としての位置づけが大きかった。

これからは、より市場(マーケット)としての位置づけが強まってくる。

日本企業にとっては、大きなビジネスチャンスが高まってくることになる。

ただ新興国でビジネスをやっていく時に、5年後の中国を見ておく必要がある。

岡村 1990年代は生産拠点として中国を見て進出をした。

2000年代に入ってからは、完全に市場でもある。

事業拠点でもあるということに大きく変わってきたということは間違いない。

ただ急激な発展を遂げただけに、マイナスの要因も抱えている。

環境、人口にしても、いろんな問題がある。

そこの様子をよく観察をしながら進めていく必要がある。

⑮「対中国には、経済外交という考えも必要」


司会 中国は、政治体制も違う。中には、「撤退覚悟で進出するしかない」という声もある。

新浪 最近の2年で、いろんなマーケットを受け入れるという体制に変わっては来ている。経済成長ゆえに何でもやれると思わないで、根を下ろしてやっていかなければいけない。中国なりの文

化もあり歴史もあり、そういうものを理解して、市場としてとらまえていくことが大切。

何か1、2年で成果が起こるということではなくて。

そこに生産拠点を持ち、そこで物も買って頂くという関係。

どういうパートナーにしていくか、という自分たちの考えも持たなくてはいけない。

日本でコスト競争の生産をしていくのは、非常に無理がある。

そういう意味では、(生産拠点を)中国に移転していく。

そこで中国の方々に(日本を)理解をしていってもらう。

中国側には、若い人たちの就職が非常に厳しいという問題がある。

私たちが何かその一助になりながら、パートナリングをやっていく。

ひとつの“経済外交”、という考え方も必要ではないか。

新浪 今まで中国では、非常に安いものを造った。

今後はもう少し中レベルのものになる。

いっぽうで日本はもっと付加価値の高いものを生産する。

生産財、耐久財にしても質の高いもの。

分業体制をどう考えていくか。

これもパートナリングではないか。

岡村 現在はすでに日中は、補完関係ができている。

そこをどう伸長させていくのか。

そこにポイントを置くべき。

(次号へつづきます)

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●用語解説<APEC横浜開催>
 APEC(アジア太平洋経済協力=エイペック)は、アジア太平洋地域の持続可能な成長と世界経済の成長への貢献という理念のもと、21の国・地域の協調的・自主的な行動により、貿易・投資の自由化・円滑化、経済技術協力等を推進する経済フォーラム。
世界全体の約4割の人口を域内に擁し、世界全体のGDPの約5割を占めるAPECは、世界最大の地域協力といえる。
横浜開催のスケジュールは、以下の通り。
2010年11月7日(日)-8日(月) 最終高級実務者会合(CSOM) 横浜市
2010年11月10日(水)-11日(木) 第22回APEC閣僚会議 横浜市
2010年11月13日(土)-14日(日) 第18回APEC首脳会議 横浜市


決算委員会の質疑で自民党の丸山和也議員が、

「中国人船長の釈放を発表した後に、仙石官房長官に電話をした。

“どうして釈放する”と聞いたら、“APECがふっ飛ぶ”と申された」

と暴露。

仙石官房長官は、

「そういう会話をした記憶はない」

と、いつもの健忘症答弁。

丸山議員は、

「それはそれで、ひとつの見識」

と応答。

米国のオバマ大統領、中国の胡錦濤・国家主席も来る「横浜APEC」の意義を失わさせることをホスト国としては、とてもできなかったということが真相のようです。

今回の『日曜討論』の参加者は、経済界の専門家でしたから、政治的発言は最小限に留まりました。

「政治」が絡むと、こうはスムーズには進行しなかったことでしょう。

でも日本が中国市場に、生産拠点も含め拡大進出するという以外の選択肢はないようです。

中国に“大人の対応”を求めるからには、(新浪氏の唱える)「経済外交」も日本側にとってはキー・ワードになるかもしれません。

アジア近代史も勉強しておく必要が出てきます。

PS

仙石官房長官は、「柳腰外交」と称しました。

「柳腰」の語源をめぐって論争まで起きました。

私の故郷は、福岡県南部に位置する「柳川」。

その名の通り市内を廻(めぐ)る、お堀端には多くの柳の木が見られます。

天気の良い日には、穏やかな風情を見せています。

感心するのは、橋の上で軽自動車が突風にあおられ、50メートルも飛ばされていくような大型台風の時。

柳の葉は激しく宙を舞いながらも暴風雨を受け流します。

幹や地中にしっかりと根の張った土台はびくともしません。

柳川の人間は、「柳」の強さも知っています。

仙石官房長官の意図するところは、傍から見れば軟弱に映る時もあるかもしれないが、芯は揺らがない政治姿勢、ということなのでしょう。

「柳腰外交」とは、「しなやかで、したたかな」外交のことだそうです。

でも、「腰」と表現したことで、意図が伝わらなくなった気がします。

「柳腰」とは、やれ「楊貴妃のこと」、やれ「ゲイの少年のこと」(ラジオでの永六輔氏談)だとか、薀蓄(うんちく)を含め、外野のイマジネーションはあらぬ方向に行ってしまいました。

「柳に風」(=「柳が風になびくように、逆らわずに穏やかにあしらうこと」や、「柳に枝(雪)折れなし」(=柔軟なものは剛直なものよりもよく事に耐えるということ)とは使います。

「柳(の)腰」とは、どのへんを言うのかなあ、と、つい考えてしまいました。

絶対に受けたい授業「国家財政破綻」/鳥巣 清典

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鳥巣清典の時事コラム22 『和僑(わきょう)の時代②』「基金35兆円で資産デフレをなくせ」

10月24日にオン・エアされたNHK『日曜討論』の一部を記録します。

<景気“足踏み” どうする日本企業>

と題して、以下の経済界の専門家が語り合っています。

□日本商工会議所会頭・東芝相談役/岡村 正

□経済同友会副代表幹事・ローソン代表取締役社長/新浪 剛史

□米日経済協議会副会長・アフラック日本社会長/チャールズ・レイク

□東京大学教授/伊藤 元重

□三菱総合研究所シニアエコノミスト/武田 洋子

○司会
NHK解説委員■島田 敏男

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⑨「G20の枠組みの重要性は高まる」

武田 G20という枠組みは、今後も重要。

グローバル・インバランスを解決していくのは、もはや先進国だけではない。

新興国のインバランスをどう解決していくか、というのが大事。

これまでのG7に代わって、相互に評価していくプロセスは強化していく必要がある。

これまでもIМFが国際通貨制度の安定性の確保を負ってきたが、どうしても新興国の発言は弱い状況だった。

こういう状況が改善される方向にある。

さらにお互いの対立ではなくて、G20というフレームを使い、お互いを監視、あるいは評価していくプロセスを強化していくべき。

⑩「日本のビジネスマンは、”和僑(わきょう)”になれ」

新浪 G20は、それぞれ国内に抱えている課題、中身がバラエティに富んでいる。

注意しないと、昔あった保護主義にいく可能性がある、という大変な危機感を持っている。

今回の参加国も、なかなかリーダーシップが取れない国内状況の中、本当にアクションが取れるのか。

アメリカも、これから本当にドル高のほうに持っていけますか?と。

そういう意味では、大変な危惧を持っている。

今回のG20も思った通りで、あまり期待を寄せる状況にはない。

といっても、海外に出て行くにあたって、よくよく注意しなくてはいけないのは、現地で何が起こっているかを徹底的に理解する。

もっともっと出て行かなければならない。

日本にいたら駄目。

その国に住む。

その土地に入り込む。

そして海外駐在員も長く住む。

「華僑」という言葉があるが、「和僑」。

チャンスもある、リスクもある。

海外に出て行って、そういうことを体感してくることが重要。

⑪「世界の人が“通貨保護主義”を知った」

伊藤 グローバル・インバランスの要因として、アメリカが政策的に量的緩和も含めて対応していることに対する新興国の不満。
また新興国がしっかりと、とくに中国は経済に見合った形で為替を改善していくということがされていない。

G20という場で議論し続けていくことが大事。

WТОのように執行力があるわけではない。

しかし次の議論の時に、これはどうなってますか、と言えるプレッシャーはとても効果的。

それによって米国政府としても、やらなければならないと思っている事をやり続け、経済の構造改革と持続的な成長の実現に向けて動く。

そして中国も、日本も、それぞれの国がやれることをやっていけば、次回、来年出て行った時に、どこまで各国のリーダーが

「私はどこまでやりました」

という事が問われてくる。

岡村 今回のG20は、保護主義に走る雰囲気が出る中で、それを止めようという規律が働いた会議だった。

そういう意味では、非常に成果があった。

来月には、韓国でG20の首脳会議が行われる。

問題は、具体的に各国がどうするか。

11月の会議の時には、今回のメッセージに対する答えを各国が持ち出して、具体的にどうするかという会議にして欲しい。

伊藤 G20で一番の収穫は、「通貨保護主義」という言葉が、世界中のメディアによって配信、クローズアップされたこと。

実は、いま通貨保護主義はありえない。

1930年代の金本位制の時に各国が通貨を10%、20%下げるような状況ではない。

現代は変動相場制で、いくら過熱をしても限界がある。

恣意的に2~3割、通貨を切り下げられるようなことは、もう無理。

しかし、「通貨保護主義」という言葉に象徴されるような議論が行われていることを世界中の人々が知った。

これが最大の成果。

⑫「資産デフレをまずなくす」

司会 日本の民主党政権の経済財政運営、または国際金融に対する考え方に注文をつけるとすれば?

岡村 いま菅内閣が抱えている新成長戦略をいかに軌道に乗せるかがポイント。

アジアの成長をどう国内に取り込めるか。

内需をどう拡大していくか。

日本の新しい国家像を描いて、そこに向かってどう経済を運営していくか。

具体的な提示がこれから望まれる。

新浪 各国が何ができるか。

日本の場合は、実質金利差がある。

デフレを20年間、脱し切れていない。

デフレだということは、金利がこれだけ下がっても、アメリカとの実質的な金利差がまだある、ということ。

これがひとつの円高の要因でもある。

どうやってデフレを克服するか。

それを新成長戦略とともにどうやっていくか。

今回、日銀が包括的ということで、非常に踏み込んだ。

35兆円の基金をつくる。

これは過去にないくらいの危機感をもってやった。

大変、評価すべきこと。

より評価するには、35兆円をちゃんと使って、資産デフレをまずなくす。

という強いコミットメント。

政策でそれを支える。

自らの問題を自らがまず解決していく。

という事をやっていけば、通貨問題はなくなっていく。



●用語解説<35兆円の基金>
日本銀行の白川方明(まさあき)総裁は、10月5日の金融政策決定会合で決めた実質ゼロ金利政策について以下のような主旨を述べています。
(1) 今夏から米国など海外の景気回復のペースが鈍った。
円高ドル安につながって日本企業の投資意欲などを冷え込ませ、景気回復が遅れる恐れが出てきた。
前倒し的に強力に金融緩和を進める必要があると判断した。

(2) 日銀は実質ゼロ金利に復帰するとともに、株式や不動産の価格に連動した投資信託や国債などを買い入れる35兆円の基金をつくる。

(3)中長期的に望ましいと考える物価上昇率については、消費者物価指数(生鮮食品を除く)が前年比で0%超~2%。
こうした物価上昇が達成できると見通せるまでは実質ゼロ金利を続ける。
(現状の物価上昇率はマイナス1.0%程度にとどまり、物価が下がり続ける「デフレ」状態にあるため、ゼロ金利の維持は長期化する可能性もある)。

(4) 新設した基金については、初めての政策なので、効果と副作用を入念に点検する。「効果が勝ると判断する場合」は景気悪化に対応して基金の額を増やし、量的緩和の拡大を検討する。

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PS

「インフレは、コントロールできない」

従来、日銀は量的緩和に極めて慎重な姿勢を崩しませんでした。

大胆な方針転換には、「日銀法の改正」「日銀納付金の先払い」をチラつかせながらの政治家筋の“要望”も含め、さまざまな要因が背景にあると見ていいのではないでしょうか。

拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」でも、渡辺喜美「みんなの党」代表は、こう述べていました。

「こんなデフレじゃ、2年で国家財政破綻ですよ。

デフレで一番怖いのは、借金が自己増殖していくこと。

やるべきことは、財政・金融一体政策。

日銀の白川総裁は、非常事態に対する認識が非常に甘い!

日銀ばかりでなく、日本の試験選抜エリートたちが、局あって省なし、省あって国家なし、の独立共和国を作っているんですね。

消費税増税とか、財務省の庭先をきれいにする、税収不足を解消しようとする政策を優先するとデフレはもっと加速する。

こういう非常事態に消費税を増税すれば、消費が冷え込むに決まっています。

成長なくしてデフレ脱却はありません。

日銀は、『長期国債をもう10兆円買います』とか『中小企業のローン債券を20兆円買います』とか。

マネーを増やさないと、デフレは止まりません」

注目したいのは、参議院選挙惨敗後の菅首相の“変身”ぶり。

選挙中にあれほど「消費税」を連呼していたのに、選挙後はあっさり「論議を始めるだけ」。

台頭したのは、「日銀の金融緩和」策の推進。

財政拡大路線を唱える小沢一郎氏や「国民新党」はもちろん、「みんなの党」とのパイプづくりの一環と見えなくもありません。

これらの政策が正しければ、国民にとっては言う事はありません。

(残念ながら)結果は、歴史によってのみ知ることになります。

(次回へつづきます)

絶対に受けたい授業「国家財政破綻」/鳥巣 清典

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鳥巣清典の時事コラム21 『和僑(わきょう)の時代①』「本格的な海外進出と開国論議が始まった」

大企業だけではなく、中小企業も海外進出を加速していく時代。

先にあるのは、産業の空洞化と少子高齢化の日本社会。

拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」でホリエモンこと堀江貴文氏は、

「このままでは、”老人ホームみたいな国”になる。

僕は、イヤですけどね」

と述べています。

日本は現実を直視し、どういう国づくりを目指すべきなのか。

今まさに、“開国”論議も始まってもいます。

全ての国民が考えなければならない大テーマです。

10月24日(日曜)にオン・エアされたNHK『日曜討論』の一部を記録します。

冒頭の課題に、<景気“足踏み” どうする日本企業>と題して、以下の経済界の専門家が語り合っています。

□日本商工会議所会頭・東芝相談役/岡村 正

□経済同友会副代表幹事・ローソン代表取締役社長/新浪 剛史

□米日経済協議会副会長・アフラック日本社会長/チャールズ・レイク

□東京大学教授/伊藤 元重

□三菱総合研究所シニアエコノミスト/武田 洋子

○司会/NHK解説委員■島田 敏男

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①「向こう半年、景気は悪化」

司会 今月19日、政府は月例経済報告で、アジアの経済成長が緩やかになっていることや、 円高が進んでいる影響で、持ち直しを続けてきた日本の景気が「足踏み状態になっている」として、 景気判断を1年8ヵ月ぶりに下方修正しました。

円高が依然続く中で、さらなる景気の悪化が懸念されています。

こうした中、景気を回復、成長させるためには何が必要か。

新浪 心理的には、“足踏み”どころか、大変厳しくなる。

「円高」というより、「円高心理」。消費者に対して、「景気はますます悪くなる」という心理を移り出している。

今後11月、12月、また来年の最初は大変厳しくなる。

いっぽう、安いものだけ買っていくという消費者心理が少しだけ「いや、そうは言っても質のいい物」とい
う傾向も出ている。

消費者心理は、まだら模様になってきている。

円高心理をどうやって解決するか。

そのためには、なんといってもデフレ。

全ての元凶である、と思っている。

②「デフレ対策は、日米共通の課題」

伊藤 日本銀行の短観でも、先行き悲観的な見方が出ている。

企業に与える心理的な部分も大きい。

日本だけでなく、アメリカに置き換えても、先行きに不安感がある。

日本の景気は世界と連動しているところがある。

レイク 米国政府にとっても他人事ではない。

世界経済が相互依存が進み、戦略的コラボレーションが行われている中で、日本を含めパートナーの経済状況がアメリカのモデルに影響してくる。

このデフレ懸念は、共通の課題。

20年前の日米の貿易摩擦の時代とは全然違う。

武田 来年の前半くらいまでは足踏みの状況が続く可能性が高いと判断している。

理由は、大きくは3つ。

1つは、政策効果が剥落する。

エコカー補助が9月で終わり、エコポイントも12月には半分、3月には終了する。

2つめは、海外経済の減速により、日本でも少し減速感が出てきている。

3つめが、円高進行。

プラスの面もなきにしあらずだが、日本全体では収益悪化。

なによりも家計や企業のマインドを冷やす要因になってきている。

そういう理由から、景気の下押し感が半年間くらいは続くのではないか。

③「中小企業は国際的な活動に順応できていない」

司会 日本銀行と日本商工会議所の間の体感温度の差はどう位置付ける?

岡村 本来であれば連動しなければいけないが。中小企業が3か月先行してマイナスの兆候が出てしまった。
これは大企業の先行きの見通しが非常に厳しくなってきていることが大きな原因。

新浪 大企業は、アジアの発展を自分の収益にする力がある。

中小企業は、国内に留まっていることが多く、海外に行こうかなどうしようかな、と逡巡している間に日本の市場が非常に悪くなってくる。

大企業には、柔軟性、人やおカネもある。

中小企業では、そういう打ち手が限られてくる。

大企業のほうが、先に何か打ち手を打つことにつながってくる。

司会 かつては大企業はひとつの道標(みちしるべ)を出して、中小企業がそこについていく、という流れ、姿があった。

伊藤 ここ20年くらいの日本が抱えている大きな問題であるデフレギャップ、需要の不足が生じている構造的な問題がある。

大企業は比較的対応する手段をたくさん持っている。

中小企業の方々は、そこで戸惑っている。

これまでは自分の親会社である大企業を追っかけて行けば、仕事もビジネスもあった。

しかし、なにせ大企業も含めて、日本の経済構造が大きく変わろうとしている。

そこに低迷の波が来て、さらに厳しくなってきている。

岡村 中小企業自身が抱えている問題が2つある。

1つは、国際的な活動にまだ順応できていない。

2つめは、大企業からの仕事で生産性は上がっているけれども、基本的な部分で生産性が上がっていない。

輸出に関連していない中小企業は、輸出をしている中小企業の生産性に比べてはるかに低いというデーターもある。

④「アメリカも国内だけではビジネスが成り立たなくなった」

レイク 米国の中小企業も大きな問題を抱えている。

アメリカ国内の市場がホットで、その中で生産、活動していけば自分のビジネスモデルが成り立っていく、ということだけではもうない。

さらに海外のマーケットの中で活動していかなければならなくなってきている。

それを理解したうえでオバマ政権も、5年間で輸出を倍増する計画の一環として、中小企業対策をとても手厚く展開している。

これはグローバル化でさまざまな構造改革が求められている中での中小企業の皆様の苦悩だと思う。

司会 アメリカには、世界的に有名な企業がいっぱいある。

いっぽうで、海外展開が困難な中小企業も山ほどある?

レイク アメリカのGDPを見ても、中小企業の占める割合は圧倒的に高い。

中には、中小企業だった企業が一挙に世界に出て行って、同時に国内でも新しいビジネスモデルを開発することによってグローバル企業になってきている例もある。

まだまだ期待をもって頑張っている中小企業の社長もいる。

ただ今までどこを向いて来ていたかというと、アメリカ国内でビジネスが充分に成り立った。

それだけでは乗り越えられない時代になった。

海外に進出することが求められている。

中国、インドに自分はどうやって出ていくのか。

悩んでいるところだと思う。

⑤「日本商工会議所も目的を海外進出に移す」

武田 循環的に言えば、日本経済に自立的な芽が出てきたところに今回の円高。

そして世界経済の減速が重なってしまった。

大企業の回復から中小企業の回復になろうとしていたところに、今回の円高が足踏みに。

2つめが、中小企業として海外展開を進めていくか。

大企業は、海外で収益源をかなり確立してきている。

いっぽうで中小企業は、大企業に比べると少し遅れている。

今の日本を取り巻く環境を見れば、海外に出ていく流れは不可避。

そこは思い切ってついて行くというくらいの勢いがあってもいいかなと考えている。

岡村 商工会議所自身も、今年から目的も大きく変換しなければならないと思っている。

国際的な活動ができる中小企業をどう育てるか。

生産性を上げるために、どうIТを活用するか。

この2つを中心に、中小企業の支援をしたい。

⑥「中小企業の海外進出に大企業が主導を」

司会 経済同友会は?

新浪 海外に出ていくのは不可避。

どうやって海外に出て行くか。

そういった意味では、人材がなかなか厳しい。

大企業の先導も非常に重要だろう。

成長豊かなアジア市場。

裏腹にリスクも大変にある。

こういったところを把握してやっていくには、大企業が主導していくのも非常に重要。

パッケージ的に大企業と一緒に行かないと、非常に厳しいのではないか。

⑦「”通貨”の問題を世界が注目」

司会 今回のG20の共同声明のポイントは2つ。

「通貨安競争は、各国とも自制をすべき」が、確認事項として明記された。

いっぽうでアメリカが中心になって、

「経常収支の赤字・黒字を一定の範囲に収めるように縛りをかける」

という提案を出した。

この考え方については、表明はあったものの数値目標が定められるまでにはいかなかった。

伊藤 ひとつのプロセスだと思う。

「通貨」の問題に世界の注目が集まっている。

主要国が、世界はマクロな問題に関心を持っている。

見逃してはいかない、と。

では目に見える形で、各国を縛るような形の政策につながるか。

というと、まだ距離はあるだろうなと思う。

通貨問題は10年前からある。

アメリカの景気過熱で、世界の需要を一手に支えてきた。

ほかの国が、それに乗っかってきた。

そのアメリカが景気低迷で需要が落ち込むと、結局は為替に反映されている。

為替を含めて、各国のマクロ政策をどう考えるか。

ということが、ここから出てくれば将来的に期待できる。

⑧「グローバル・インバランスの改善が課題」

レイク 通貨、ドルが安くなっている。

明確に求めてそうなっているというよりは、米国経済に対する市場関係者の期待があるいっぽうで、先行き不透明感に対する認識でそうなっている。

昨日ガイトナー長官も、

「強いドルは、米国の国益としても守っていく。

通貨基準としてその責任を果たしていく」

と述べた。

重要なのは、グローバル・インバランスという問題に今後どう対応していくのか。

●用語解説<グローバル・インバランス>
アメリカの経常赤字とアジアや中東諸国の経常黒字に象徴されるグローバル・インバランス(世界的な国際収支の不均衡)。

レイク 今回アメリカ発でスタートした金融危機も、それはアメリカ政府の不備、投資銀行のビジネスモデルの問題があった。

同時にアメリカ国内の過剰な消費と、それに対する様々なマーケットの期待によるグローバル・インバランスの問題。

解消していくには、G20で議論が必要になっていく。

それがスタートし、プロセスが継続していく。

(次号へつづきます)

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鳥巣清典の時事コラム20 「特別会計の事業仕分け」

10月19日に行われた決算委員会の質疑の一部を記録しておきます。

質問は、民主党の松野信夫議員。

答えるのは、蓮舫行政刷新大臣。

松野 蓮舫大臣といえば「事業仕分け」、まさに民主党政権ならでは、自民党政権では絶対にできなかったやり方と評価できるもの。

第一弾が平成22年度予算に関わる事業仕分け。

第二弾が、特別行政法人や政府の公益法人。

これから第三弾ということで、特別会計に切り込む。

大いに期待をしたい。

まさに無駄遣いがないかどうか。

税金の使い道が国民監視のもとに行われることが大事。

ただ野党の一部の皆さんからは、

「事業仕分けといっても、財源にするにはあまり大したことはない」

という声もなくはない。

蓮舫 事業仕分けは、税金を使って事業を行っている。

その目的に到達するための手段としてお金が適切に使われているかどうかを厳しい目をもって確認をする。

あるいは、その事業が国が行うべきものなのか。

地方自治体、民間が行うべきものなのか。

その事業の必要性も含めて仕分けをするもの。

歳出削減を第一義的な目的にしているものではない。

結果としてその事業の適切性が見直されて財源が出てくることはある。

私たちは、お金を出すという目的ではなく、適切な税金の使われ方、無駄は徹底的に排除するという思いで仕分けを行っている。

松野 私も全く同感。

金額の大小に関わらず無駄なものは無駄ということで、しっかり仕分けをすることが大事。

一部には、

「1時間で1事業は乱暴ではないか」

という声もないわけではない。

しかし1回こういう事を通して、国民の皆さんに税金の使われ方を見ていただきながらしっかりチェックをする。

ということが、大変大事なこと。

ただ財源を確保するのが厳しいところがある。

「隠し財源」みたいなものが出てくれば、それは充分に国民のために活用する。

これはこれで大事なこと。

会計検査院の指摘もあるが、たとえば畜産基金には余剰として4040億円。

整理回収機構には1800億円。

鉄道建設運輸施設整備支援機構には、なんと1兆2000億円もの余剰があるのではないかということで、これは会計検査院の指摘金額としては過去最高。

こういうのが眠ったまま充分に国民のために活用されないというのでは宜しくない。

こういう特殊法人におかれている基金にもメスを入れて、眠っているおカネ、余剰がないかどうか、ぜひチェックを入れてもらたい。

会計検査院が指摘をした以外にも、まだまだあるのではないかと考えている。

蓮舫 松野議員のご指摘の「1時間では」という声は、私どもも受けている。

仕分けは1時間で行っているものではなくて。

事業仕分け本番に至るまでに相当数の時間をかけて、丁寧な資料の精査、ヒヤリングは行っている。

いうのは、改めてご理解をいただきたい。

そのうえで眠っているおカネをそのまま眠らせておくというのは、昨今の経済事情、財務状況を考えたときに、これは有効活用する。

ご指摘を受けた鉄運機構をはじめ、今年の4月に独立行政法人の仕分けを行い、内部に貯まっている利益剰余金等に対しては国庫返納とされたもののみならず、横串を刺して、現在の事業仕分けの結果に沿って各省庁の取り組みを精査しているところ。

今後予算に適切に反映していきたい。


松野 余剰金、そういう眠っているおカネが見つかった。

という場合は、適切に国庫のほうに納付にしていただく仕組みを作らないといけない。

せっかく事業仕分けで見つかった。

「じゃ国庫のほうに返せ」

「いや、それは返せない。

こういう理由があって・・」。

返すか返さないか。

ということでゴタゴタ、あまりモメていても如何かなあという気がする。

どういう仕組みで返してもらうか。

場合によっては法整備も含めて取り組んでいかなければいけないのでは。

独立行政法人については、まもなく施行される通則法で一応国庫に納付される仕組みはできている。

その他の公益法人については、まだまだきちっとした形で、どの範囲で、どういうやり方で国庫に返してもらうのか。

法整備は、まだ充分ではないように思う。

蓮舫 ご指摘の通り、独立行政法人についてはこの5月に法改正が行われ、まもなく施行される。

ただ一点、私が懸念しているのは、不要清算を国庫に納付してもらうスキームは整ったが、独立行政法人がそのおカネがあくまで

「“不要”と認めた場合に限り」

という文言になっている。

行政刷新の立場からは、本当にそのおカネが“不要”と認めていただけるのかどうなのか。

そのチェックは、引き続き行っていきたい。

また、「特例民法法人」、従来の公益法人は民間法人で財産権が保障されている。

国からの支出も含めて、法人が合法的に取得をした財産を強制的に国庫納付させるという仕組みは困難であると理解をしている。

ただ公益法人には指導監督基準があり、内部留保は公益事業の適切、継続的な実施に必要な程度となっている。

問題があると認めた場合には、各省は必要な指導を行う必要があると思っている。

指導監督の徹底という観点では、各所管大臣に、特に国に由来するものについては国庫納付を含めて精査するようにお願いしている。

内部留保額が適正なのか、国庫納付要請額が妥当かどうかの精査は引き続き行っていく。

松野 どの範囲が不要なのかどうか、
それ自体論点のひとつになっている。

民法特例の公益法人は、まさに民間の法人。

それに対して国家のほうが強制的に財産を取り上げるというのは、確かに難しいところがある。

ただ民間の公益法人にも国の税金が投入されている。

いろんな工夫のしようがあるのではないか。

少なくとも税金投入という形でやった範囲では、一定の余剰ということで検討の余地はある。

***********************************


拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」では、民主党の五十嵐文彦・衆議院議員は、
こう述べています。

「(埋蔵金)は、あります!

ただ深堀しないと分からない。

民間まで流れ着いてしまうと、もう民間だから別の世界という話になる。

実際には天下りの実力者が下のほうに潜っていて、そこで大量に利益をハネる。

いい例が、空港は全部赤字だけど、空港を管理している株式会社はみんな黒字。

そこも正当な取引が行われているのか。

それとも随意契約による甘々の予算で行われていて、利益はそっちに流れているのか。

その流されている民間の利益でみんな食っている。

ということが起きているのではないか、というところまで掘り下げていかないと、実態は分からない。

すごい巧妙なんです!」

一口に「埋蔵金」と言っても、いくつかの種類があります。

評価をしなくてはいけないのは、節約の努力をした結果、余剰金が発生したようなケース。

松野議員は、表彰したり特典を与えることも必要ではないかと述べています。

国債費の予算で、思ったより金利が低くて余剰金が出る場合もあります。

問題なのは不正経理はもちろん、国民目線からして明らかに無駄遣いをしている。

あるいは、ここで問題になっている、天下り先に税金が恣意的に流されているケースなどが挙げられます。

論点となっているのは、「返納金の範囲」。

民主党の執念に掛かっています。

前出の五十嵐議員が語っていた言葉が印象的です。

「ここで安易に消費税を導入したら、爪に火を灯すようにしてやっている事業仕分けの努力も無駄になる」

民主党にとっては国民の共感を得て、かつ珍しくブレが少ない「目玉行事」なのは確かでしょう。

●用語解説<随意契約>
国や地方自治体の事業を、競争入札ではなくて、国・地方の任意で業者を決定し、契約すること。


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鳥巣清典の時事コラム19 「公務員の不正経理防止法案」

国会で平成21年度の決算委員会が行なわれています。

国の抱える問題点が、浮き出てきます。

10月18日の参議院での質疑を記録しておきます。

以下は、公明党の木庭健太郎・参議院議員が質問した際のやりとりです。

木庭 本当に浮き彫りになってきている。

会計検査院が、19年度及び20年度決算で検査。

対象になったのは、38都道府県、2政令指定都市。

用語解説≪政令指定都市≫
50万以上の市のうち政令で指定された市。
2010年(平成22)4月現在、政令指定都市となっているのは札幌、仙台、さいたま、千葉、川崎、横浜、相模原、新潟、静岡、浜松、名古屋、京都、大阪、堺、神戸、岡山、広島、北九州、福岡の19都市。

木庭 全てに不正経理があって、約42億円。

さらに今月の初めに検査院が新たに検査をすると、9都府県16政令指定都市でも12億円の不正経理が判明した。

3年間で47都道府県全て、さらに18政令都市で計52億円にのぼる不正経理が行なわれたことが明らかになった。

この“不正経理”とは何か。

結局、経理をごまかして自分たちの裏金を作ってみたり。

本来は適用できない経費や旅行などにお金を充てる。

とんでもない話ですよ!

これが、いつまで経っても治らない。

なんでこんなに続くのか。

野田財務相 国・地方であろうと、不正経理は国民・住民の信頼を損ねることなので、あってはならないこと。

平成22年度予算編成においては、個別の事業ごとに必要性や効率性を洗い直し、予算に反映するよう政府一丸になって取り組んできた。

反映額としては、1686億円。

片山総務相 自治体の問題でもある。

私もこの問題に心を砕いた。

是正策としては、透明性を徹底する。

監査や議会のチェックを厳しくする。

国と自治体の関係でいえば、たとえば補助金が使い切り制度になっていて、返すことが事実上なかなか難しい。

それじゃあというのでヘンな創意工夫をやっていた面もある。

そういのをなくす。

これは補助金改革にもつながってくることでもある。

用語解説≪片山善博総務相≫
前鳥取県知事。慶応大教授。
蓮舫公務員制度改革担当相と連携し、人事院勧告制度や国家公務員の総人件費抑制などについて制度改革を促進していくと見られる。
また地方自治体が地方債を発行する際に国との協議が必要な点については、
「きめ細かい、手取り足取りの(国の)関与は変えねばならない」
などと発言している。
地方分権推進論者。

菅首相 不正経理は、あるべきことではない。

制度変更も必要であれば、そのことも検討させたい。

木庭 「どうせどこでもやっている」

というような公務員の甘えに対しては、強い危惧を持っている。

『不正経理防止法』という法案を出している。

<不正経理をした公務員は処罰できる>という法律。

何回も提案しているが、何回も廃案になっている。

今回の結果を見て、いろいろやってもやっぱり直らない。

鞭(むち)が必要と実感している。

野田財務相 『不正経理防止法』は必要という考えは共有している。

そのうえで、不正経理のケースと、単純な過失のケースで、ペナルティの課し方をどうバランスをとるか。

公明党さんが今回ご提案をされると思うが、関係機関とともによく検討したい。

木庭 総理からも、同じような答えを何回か頂いている。

5月19日、これは財務大臣当時で、

「関係機関において充分かつ慎重に検討する必要がある」。

つい最近は10月7日にの本会議では、

「よく検討を行なう必要がある」。

「充分かつ慎重」

から

「よく検討」

と。

一歩前進しているようには見えるが。

今の財務大臣の答弁も、

「関係機関とよく協議をして」。

「関係機関」とは、どこになる?

処罰対象になる公務員のことになる。

そら自分の首を絞めるのはイヤですよ。

こういう問題こそ、政党主導というか政治主導でやらなければ、こんな法律はできない。

菅首相 法律によって罰則を強くして不正を防止する。

場合によって並行してもいいが、不適切な事を繰り返す者に対しては、大臣・副大臣も含め行政的になんらかのペナルティを課す。

内容によっては、こういうことも適切な場合がある気がする。

玄葉政調会長に検討するように指示をしたい。

木庭 不正経理、無駄遣いをなくすには、もう一つ大事なのは会計検査院の機能をどこまで考えていくかだと思う。

現在は、無駄とか不正を検査してチェックをする。

ここまでで終わり。

もう少し、権限を与える。

チェックをした結果、おかしな事が行なわれている。

じゃ改善がされているのか? 

その不正経理のお金が、国庫に戻っているのか?

事後チェックのような問題。

また、おかしな事をしているという公務員に対して、処罰をうながす行為。

ここまでくらいは、会計検査院に力を与える必要があるのではないか。

併せて、会計検査院法の改正をやるべき。

実は私達より前に、野党時代の民主党が出していた中身だ。

総理、ぜひ実現を図りたいと思うが。

菅首相 私もガオ(GAO)、ジェネラル・アカウンティング・オフィスというアメリカの制度を参考にしたことがある。

●用語解説≪GAO:(General Accounting Office)≫
アメリカ会計検査院。
議会の付属機関で、連邦予算の支出や政府機関の活動を監査する。
その内容は我が国では行政監察庁に近いが、同庁が行政機構内にある日本と異なり、米国においては議会にこの機能がある。
会計検査・行政監察の結果はまず立法府において審議・検討されるというシステムになっている。
(行政府内にも独自の監査システムはある)

菅首相 国会の中に会計検査院的な機能、あるいはかつての総務庁の行政検査機能を持たせる。

そこで出たものがおかしいということになれば、国会が是正を指示。

言う事を聞かなければ予算を止めてしまう。

国会にそういう機能を持たしたらいい、という法案を出したことがある。

そのときは三権分立がどうのこうの、という大議論になった。

会計検査は、憲法で規定された制度。

どこまで法律で動かせるか、検討をしなければならない。



***********************************

「公務員の不正経理法案の中身は、かつて民主党さんが出した法案ですよ」

木庭議員は、民主党の痛いところを衝いています。

「民主党は政権与党になったら、良く言えば現実路線。

その実、何をやったらいいのか分からなくなっているのではないか」

という声も上がっています。

公明党とのパイプを強めるにあたっては、この法案の処理はリトマス試験紙になるかもしれません。

官僚の強い抵抗が予想されます。

菅首相としては、また

「もごもごしている!」

とのヤジを受けるのでしょうか。

予算(財政危機)、普天間(米軍基地)、APEC(中国首相の出席有無)、小沢問題(政治とカネ)、ねじれ国会など、難問は山積み。

「元気がない!」

そういうヤジを聞くと、精神的ガス欠を起こした福田、安倍、麻生、鳩山・・歴代首相の政権末期の姿を思い出してしまいます。

首相の孤独。

精神的疲労は、並大抵ではないでしょう。

(「決算委員会」の質疑については、次回もつづきます)


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鳥巣清典の時事コラム18 「そもそも予算が本当に組めるの?」

昨日、NHK『日曜討論』に海江田万里・経済財政政策担当大臣が登場。

専門家の中からは、

「昔の自民党とどこが違うのか?!」

と厳しい意見が出るいっぽう、

「平成23年度の予算編成は、果たして大丈夫なのか」

と心配の声も。

民主党政権の経済財政運営の“現状”が見えるので、一部を記録しておきます。

<出席者>

□経済財政政策担当大臣・海江田万里

□政策研究大学院大学・大田弘子

□早稲田大学大学院教授・野口悠紀雄

□同志社大学大学院教授・浜矩子

□第一生命経済研究所 主席エコノミスト・熊野英生

①農業改革

太田 EPA、FTAを進めるためには、農業改革が不可欠。

安倍内閣でもオーストラリアとの交渉をスタートさせたが、日本国内の農業団体の強い反対で頓挫している。

農家への戸別所得補償とセットで進めていくチャンス。

しかし農業改革の話が民主党から全く出てこない。

海江田 全く出てこない、ということはない。

『成長戦略実現会議』の中でも、いちばん基本になるのは農業改革の問題。

(10月)8日の菅首相、農水大臣の発言からしても、進み始めていると考えて頂いて良いと思う。

●用語解説≪FTA(自由貿易協定・free trade agreement)
鉱工業品や農畜産物の関税撤廃・引下げ、サービス貿易の障壁解消を柱とする2国間以上の国際協定。

●用語解説≪EPA/FTA(経済提携協定)・Economic Partnership Agreement、Free Trade Agreement ≫
FTA(自由貿易協定)を発展させた協定で、看護師などの人材移動から、投資ルール、環境保護、貧困撲滅、テロ防止まで幅広い項目を盛り込んだ包括的条約。

野口 FTAもアメリカとカナダとオーストラリアと結ぶことができれば良いが、FTA/EPA条約を結べば問題が解決するわけではない。

農業のあり方は、日本にとっては大問題。

原理的に考えれば、農業は未来の輸出産業になり得る。

それをどう実現するか。

今の政策は、全く逆方向に進んでいる。

農家への戸別所得補償というのは、コストがいくら高くてもその差額を補償するという政策。

というのだから、ありえない制度。

●用語解説≪農家への戸別所得補償制度≫
農家への「戸別所得補償制度」は、対象作物の販売価格が生産コストを下回って赤字になった場合、国が直接、差額を穴埋めする。
算出のもとになる「販売価格」と「生産コスト」は、過去数年分の平均値を使う。
農林水産省の予算要求額は、5618億円。

浜 農業問題もグローバルなスケールで考えていかないと回答が出てこない。

かつ簡単に答えが出てくるような問題ではないだろう。

「来るものは拒まず、去るものは追わず」

というのが、グローバル時代の考え方。

そこに向って農業の世界も大きな風が吹いていくという格好になれば、グローバル化された日本の農業の姿というのも充分に想定できる。

農業の当事者と政策責任者たちが一緒に考えていかなければならない。

熊野 製造業を強くするには再編が必要。

農業も強いところを大きくしていく発想が重要。

WTOの話もそうだが、総論賛成、各論反対。

農業の中にも、総論賛成、各論反対がある。

自分たちの競争力を高めたい、という農業もある。

そこをいかに大きくしていくか。

弱いものの意見だけを多数派だと思わないほうがいい。

中国の人が観光に来てびっくりして帰るのは、日本の農産物のおいしさ。

何故これが競争力に使われないのか。

そういうところを根源的に考える必要がある。

●用語解説≪WTO(World Trade Organization )≫
世界貿易の自由化と秩序維持の強化を目ざす世界貿易機関。
1995年1月に発足。
鉱工業製品や農産物のほか、通信・金融などのサービス貿易や知的財産権なども対象とする。
本部はジュネーブ。

海江田 もちろん戸別所得補償だけではいけないが、EPA、FTAにつながる風穴が開いたと思っている。

農業の未来を考えている人たちに、国際協力のある商品だという事を自覚してもらう。

中国の人たちが、秋葉原でたくさん炊飯器を買っていく。

一人で、7つ8つも。

あの後ろに、日本のお米を食べている人たちがいる。

日本のお米をあの炊飯器で炊くからおいしい。

中国の米をあの炊飯器で炊いてもそれほどおいしくない。

そういうふうに、すでに(米輸出の可能性が)広がっている事実がある。

日本の農業も、そういうところに伸びていくきっかけがある。

司会 自民党の末期の頃に大規模化農家を育てるという方向に、石破農林水産大臣たちがシフトしようとしていた。

海江田 大規模で効率が上がるかというと、そうではないとは思っている。

民主党の戸別所得補償は規模には関係ない。

そういう意味では、大規模志向ということではない。

太田 あまりに規模が小さすぎる。

農地1ヘクタール未満の農家が5割~6割。

また、あまりに高齢化しすぎている。

65歳の農業従事者が6割を超えている。

これでは、強くなりようがない。

大規模化と法人化、若い人がサラリーマンとして勤められるような農業にしていくことが必要不可欠。

海江田 規模だけではなく、農業の規制がある。

その規制を緩和していく、という方針は打ち出している。


②補正予算

司会 先日に閣議決定した経済対策が5兆5百億円規模と中身。

公共事業・中小企業支援が3兆1千億円。

公共事業が増えた。

「民主党どうしたんだ?」

という声がある。

海江田 “公共事業”と書かれると、そう考える方々もいるかもしれない。

高速道路のミッシングリンクといって、そこが通らないと使えないという所がある。

そういう所に、きっちりと光を当てていこうということ。

またこの間、都市と地方の格差が大きく広がっている。

そこにも、きちっと手当をしていこうと。

その中で、公共事業も出てくることになる。

熊野 考え方が、いつのまにか規模が大きくなればいい、ということになってはいないか。

これは財政再建のために返済に回せばいい。

前の予備費も合わせれば6兆円。

GDPは上がるかもしれないが、来年、再来年に活きるかどうか分からない。

むしろ家電エコ・ポインへの追加補助を継続すべき。

8月30日のときには700億円手厚くしたが、それを+300億円、4000億円にする。

費用対効果はかなりあり、景気のアップダウンを均(なら)すことができる。

もう少し、ピンポイントに絞ったほうがよかった。

野口 いま日本が直面している大問題は、景気が悪くなることではなくて、構造変化に直面していること。

産業の構造改革が、最優先の課題。

補正予算は、景気対策になっている。

雇用調整助成金をどう緩和するかとか、エコポイントを延長したらとか。

それは典型的な緊急避難の景気対策。

構造が変わることに対してどうするか、それが一番大切。

また公共事業を増やせば、それは円高要因になる。大丈夫だろうか?

●用語解説≪産業の構造改革≫
早稲田大学大学院教授で政府税調会長の野口悠紀雄氏は、
「真の構造改革とは、日本の産業構造の転換。
これまで日本経済を支えた輸出立国モデルが成り立たなくなった以上、産業構造を転換し、将来の日本を支える新しいタイプの産業を模索する以外に、日本が生き残る道はない。
輸出中心のものづくり産業への依存を続けている限り、日本は外需に依存し、円安を求めるしかない。
中国などの新興国が安く豊富な労働力を使って、安価な工業製品を作り出すようになったら90年代以降、従来型のものづくり産業は基本的にはすでに命脈を絶たれているのだ」
と論文などで指摘している。

海江田 規模優先ということではない。

円高に対して景気対策のスピードを優先したかった。

予算が通るのは11月ぎりぎりかかるかもしれない。

できたら12月中に、この補正予算の執行をしたいと考えた。

次に中身。

何が必要とされているか、ということを考えた。

規模は、あとに続いてきた話。

ただ、国民新党、社民党がどうしてもこういうものを入れて欲しいということで、最後に2500億円ほど上積みをした。

構造改革については、民主とは成長戦略という形で位置づけをしている。

円高でも、今度は海外の資源を買えるようにしようという形で手当をした。

成長戦略で力を注いでいるのは需要面なので、成長戦略につながる医療、介護に1・1兆円に分配をした。

また、いよいよ第3段、来年の本予算の執行分が出てくる。

それも含めてトータルに見てもらえれば、構造改革、私共のいう成長戦略がくっきりと出てくる。

浜 「構造改革」と「成長戦略」とは、全然違う。

そもそも「成長戦略」という言葉が出すぎ。

日本にとって必要なのは、成長戦略ではない。

あえて「戦略」という言葉を残すとするなら「成熟戦略」。

成熟した経済をいかにお互いが支え合うものにしていけるか。

そこに民主党が掲げてきたビジョンがあったはず。

そのビジョンは、どこに行ったのか。

補正予算といえども、基本的な姿勢に従ったメリハリ、姿を示してくれてこそ従来とは違う政権ということではないのか。

全然、そういうところが見えない。

いわんや野党に御用聞きをして、みなさんが言ったことを全部盛り込みました。

というような格好では、何のために存在しているのかが分からない現政権ということになってくる。

海江田 たいへん厳しいご意見を頂戴した。

今回の補正予算は、国民生活にしっかり対応しようというのも大きな柱。

地域の活性化交付金というのは、使い道を自由にする。

また地域の中で埋もれてしまっている、お年寄りの方とか低所得者の方々とか、政治の光が届かない人たちがいる。

そういうところに、しっかりと光を届けていこう。

という事も盛り込んでいる。そういうことは民主党の原点だと思っている。

太田 鳩山さんの時は、とにかく企業を軽視する。

分配だけを重視する。

ということだったから、現実的な政策にはなってきたとは思う。

しかし民主党は何をやりたいのかが見えにくくはなっている。

今回の経済対策は、やっぱり規模から入ったと思える。3兆円、4兆円、5兆円、と。

少なくとも外から見ていると、規模の話から出てきた。

規模の議論から入ると、補正としての緊急性、必要性のないものまでかき集めることになる。

実際、中身を見ると、本予算でやるようなことがかなり入っている。

来年度予算がかなり緊縮だから、それで予算を取っておこうというものがかなりある。

そして公共事業が――全ての公共事業が悪いわけではないが――大きな柱になっている。

来年度予算では公共事業を減らしたのに、補正予算では膨らましている。

つまり、規模の議論から入る。本予算は緊縮だが、補正で公共事業を膨らます。

これは昔の自民党と何が違うのか、というのが率直な印象。

海江田 私共はなんで補正をやるのか、という事でいうと、円高の問題もある。

国民の暮らしが持ち直しを実感できていない。

これから年末をひかえて、企業の資金繰り等の問題もある。

政治がしっかりと国民の生活に対して責任を持つ、ということをアピールする。

これを理解してもらわないと、本当に日本の経済活動がどんどんどんどん萎縮をしてしまう。

そういう意味では、安心をしてください、と。

円高に対する為替の介入もそう。

必要と感じた時には、政府がしっかりと対応していく。

という事のアピールをしたい、というのが、補正の本当の目的。


③消費税

熊野 来年度予算の編成以降に視野を広げると、社会保障の財源と消費税の議論と並行して進まざるを得ない。

来年度予算は、菅政権が本当に成長に取り組めるかどうかが極めて試される。

ぜひ果敢にやってもらいたい。

その果敢さは、消費税を上げること。

消費税を上げなければ、社会保障が膨らみっぱなしで、その他に成長に役立つものというのは縮小いっぽう。

あるいは、1割カット。

こういう図式を崩すためには、消費税を上げると同時に、法人税を下げる。

今までの政権は、先に減税をやって、その後に消費税と言っていた。

これは、失敗すると思う。

消費税を上げると同時に法人税を下げる。

それを同時にやる事が、構造改革。歳入・歳出一体化の構造改革に進む。

そういう大胆な、今までやらなかった事をやるべき。

海江田 消費税については、社会保障の制度をしっかりする。

そのための財源が消費税。

これはずっと一貫して変わらない民主党の方針。

消費税を上げませんという事ではないが、社会保障をしっかりとする。

そのためには、いくら必要なのか?

じゃその財源を消費税に求めようという話。

税の話は、平成22年度でその方向を出す。

だから消費税については、それからあと何年か遅れることになると思う。

藤井元財務大臣が座長となって、社会保障と一体化した議論が始まっている。

浜 現実路線ということは、ビジョンを捨てるということではないはず。

いかにビジョンを実現していくために現実的な対策を取っていくかの発想であるはず。

そこのところが、

「現実的になって成長も目指すんです」

というような雰囲気になってきてしまっている。

言ってみれば節度のないスタンスからは、大きな思い切ったことは出てこない。

「現実的になりました」

というところで評価してもらおうという姿勢になってしまうという事では、まともな経済運営はこのグローバルではできていかない。

海江田 現実的になりました、評価をしてください、とは考えていない。

円高問題でも為替介入、需要面からの経済の下支え。

また内閣府にお願いをしたが、円の国際化。

これから恒常的に円高が続く。

中・長期的に円をどう位置づけるのか、もしっかり考えていきたい。

熊野 基礎年金の国庫負担率を引き上げた。

この税源手当については法律で、

「恒久財源を確保せよ」

と書いてある。

2004年に決めたことだが、ずっと先送りにしてきている。

法律上、2011年度予算で手当をしないと法律違反になる。

これをどうするかが、民主党政権が予算に本当に取り組んでいるんだろうか、というリトマス試験紙になる。

年金の国庫負担は税外収入、いわゆる埋蔵金と呼ばれるもので工面してきている。

それが、恒常財源に切り替えられるかどうか。

海江田 今の話は、現在の基礎年金の3分の1を、2分の1にする、それを税金でもってくる、というところの財源の話。

基礎年金を今のままでずっといきましょうという話であれば、恒常的な、パーマネントな財源を考えなくてはいけない。

片一方で民主党は、基礎年金から最低保障年金に切り換えましょうと、マニフェストでも言っている。

●用語解説≪最低保障年金制度≫
厚生年金、共済年金、国民年金の共通の土台として、全額国庫負担による一定額の最低保障額を設定し、そのうえに掛け金に応じて給付を上乗せする制度。

海江田 最低保障年金というのは、基礎年金とは違って全ての人に支給するわけではない。

基本は、自分の保険料で年金をまかなってください。

だけど、足りない人たちには、最低保証年金をしますよ、ということになっている。

この議論があるので、いまどこからお金が出てくるのかということで財源を探している。

これは年金の議論がはっきりする中で、恒久的な財源を使っての基礎年金、あるいは最低保障年金をまかなうということになると思う。

太田 そもそも予算が組めるのかと心配している。

去年は埋蔵金といわれる一時金をかなり使ったが、今年は使えない。

しかも社会保障を聖域にしてしまっている。

いっぽうで国債は44兆円に発行を抑えると明言している。

本当に答えが出てくるのだろうか。

早く形を示してもらわなければいけない。

民主党政権が、初めて一からやる予算。

誠実に民主党らしさをどこに出すのかを明確にして予算の姿を見せて欲しい。

海江田 来年度の予算が、一番の勝負時だと思っている。

野口 消費税については、インボイスがどうしても必要になる。

ヨーロッパにあるインボイスの仕組みもない制度を変えなくてはいけない。

●用語解説≪インボイス(方式)≫
商品の流通過程で仕入先の発行するインボイス(=送り状・納品書)の提出が義務づけられている方式。
インボイスには、商品の価格、仕入先に支払われた税額などが明記されており、控除額が確認され、脱税や二重課税の防止に効果がある。
日本の消費税ではインボイスを必要としない帳簿方式がとられている。
拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」でも民主党の五十嵐文彦・衆議院議員は、次のように明かしています。
「日本の帳簿方式では不公平が生じます。
消費税5%ならまだいいが、例えば2桁になるんだったら、輸出免税などはかなり不公平になります。
輸出産業の大部分は、自動車や大手家電メーカーは大輸出企業。
こうした企業が下請けメーカーに支払った消費税は、海外に輸出する際に国から返してもらえる。
輸出企業だけ、年間2兆2000億円くらいの還付がある。
しかも、下請けに消費税のコストを押し付けたりするできるので、その分が利益になる」
いっぽうトヨタが、カローラの生産拠点を海外に移すかもしれないというニュースも流れています。
円高はもちろん、労働派遣法、インボイス導入などの政策転換の流れも影響しているのではないか、という印象を持っています。

海江田 政府税調の会長である野口先生のご指摘のように今の税制が、とくに消費税制が欠陥税制であることは、私もそう思っている。

それがないと益税、これが5%の時と10%の時とでは、全然違ってくる。

軽減税率を設けるときも、どういうふうに設計するのか。

あるいは、戻し税にしようかという議論もある。

そういう時に大切になってくるのが、消費税をもう1回見直しをするということになってくる。

浜 グローバル時代にふさわしい税制という意味では、消費税などの間接税から税金を上げる。

“日本人”ではなくて、“日本で活動をしている人”から税収が上がってくる、というふうに租税体系を変えていく。

ということは、大きな話としては間違いなく必要なこと。

消費税をまともに機能させるためには、インボイスが不可欠だというのは当然。

熊野 あと重要なのは、消費税負担が重くならないように、中堅所得層の所得が上がるように頑張る。

こういうメッセージを菅政権は、もうちょっとやったほうがいいのでは。

野口 インボイスにしても、今やらなければならないことではなく10年は遅れている。

タイムリミットは来ている。

海江田 菅首相は、積み残したものを全部一掃する、解決するという意気込み。

私も同じ意気込みなので、それは期待して欲しい、見守って頂きたい。

*******************************

「そもそも予算が本当に組めるのか。私は、心配です」

大田弘子さんは、2006年から2008年まで安倍内閣、安倍内閣改造内閣及び福田康夫内閣で民間人閣僚として経済財政政策担当大臣を務めた人です。

長期金利が低下し、ひとまず“市場の反乱”の可能性は収まってはいます。

しかし懸念されるのは、民主党政権が関連法案も含めて、平成23年度の予算を可決までもっていけるかどうか。

最近は公明党とのパイプを強めているようですが、予算をめぐる政局は来年まで波乱含みです。

万が一、関連法案が参議院で否決でもされたら・・それこそ日本を沈没させることにもなりかねないものがあります。

●用語解説≪予算の関連法案≫
予算執行に必要な政策の制度設計を盛り込んだ法案で、税制改正法案や特別公債法案など。
予算案は憲法の規定で、衆院で可決されて衆院送付後、30日たてば議決されなくても自然成立する。
しかし、予算関連法案は一般の法案同様、衆院可決後、参院で否決されると、衆院の3分の2以上の多数で再可決が必要になる。

PS①

農家への戸別補償制度が施行。

ところが、

「制度の分、安くして欲しい」

卸業者からの値下げ要求が相次ぐ事態。

さっそく、

「戸別補償制度は、農家のためにならないのではないか」

との意見が噴出。

玄葉光一郎政策調査会長は、

「日本の農業を潰すわけにはいかない。

農家への戸別補償制度は、守りの制度。

攻めの制度にしていかなければならない」

と述べました。

PS②

米フォード・モーターズが、マツダの株を売却することを決定。

マツダは、トヨタ、ホンダなどとの再編を模索することになりそうです。

PS③

アメリカの財政赤字が105兆円に。

医療保険制度の施行や追加景気対策で、さらに財政悪化の懸念。

ドルが売られ、円高の基調は続くとみられます。


絶対に受けたい授業「国家財政破綻」/鳥巣 清典

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鳥巣清典の時事コラム17 「社会保障の充実か削減か」

財政危機にある日本が抱える“対立軸”について考察しています。

榊原英資氏が唱える『フランス型福祉国家社会』を紹介してきました。

ただし、

「消費税は20%。国民の社会保障負担は60%になる」

という世界です。

いっぽう財務省のほうは、「消費税増税」と合わせて、「社会保障の歳出削減」も視野に入っています。

「IMFの管理下になれば、歳出カットは、歳出が大きい順になるのが通常です。

年金、地方交付税、政府内では人件費が対象になると思われます。

ギリシャも同じような事が起きている」

先日、さるストラテジストから、

「合理性の誤謬」

という言葉を聞きました。

「高齢者の社会保障を充実する」「財政危機から社会保障をカットする」

それぞれ理に合った考えです。

でも、対立してしまう。

「世の中は、トレード・オフなことばかり」

という言葉もあります。

日本流に言えば、

「あちらを立てれば、こちらが立たず」

ということになるのでしょうか。

●用語解説≪ストラテジスト≫
金融経済用語で、「投資戦略を考える専門家」。
主に外資系証券会社や投資信託会社、資顧問会社に在籍し、投資戦略を立案する人のこと。
英語の「Strategist」の本来の意味は、戦略家や兵法家。

●用語解説≪誤謬(ごびゅう)≫
論理学における誤謬は、論証の過程に論理的または形式的な明らかな間違いがあり、その論証が全体として妥当でないこと。

用語解説≪社会保障≫国民の生存権を確保することを目的とする保障。
日本では、社会保険(労災、失業、医療、年金、介護など)・公的扶助・社会福祉事業・公衆衛生などから構成されている。

用語解説≪トレード・オフ(英trade-off)≫
失業率を低めようとすれば物価の上昇圧力が強まり、物価を安定させようとすれば失業率が高まるというように、一方を追求すると他方が犠牲になるような両立しえない経済的関係。

(以上、大辞泉を参考)


世界最速の勢いで少子高齢化社会に突入している日本。

たとえば首都・東京都では、高齢者対策の現状や流れはどうなっているのでしょう。

都の福祉保険局高齢福祉対策課(以下、東京都)に聞いてみました。

鳥巣 高齢化対策のポイントは?

東京都 高齢者の中でも、とくに単身者に留意している。

65歳以上の単身者は、2010年で60万人。

高齢化がピークになるといわれる15年後の2025年には、82万1千人に増えるという予想です。

鳥巣 東京都の人口.は、4月1日現在で1300万人を突破したとニュースになりました。

人口が変わらなければ、今の人口比4・6%から、15年後には6%余りに増えるという事になりますね。

当然、介護を受ける人も増えることになる。

人口比のヘルパー数、施設数は地方と比べてどうですか?

東京都 地方と比べた数字は手元にはありませんが、感覚的に言えば少ないと思います。

いちばんは、地価の違い。

地方とはそれこそ、何10倍もの差がある。

物価高どころの話ではない。

施設を建て増やすには、それだけのコストがかかる。

鳥巣 今後は?

東京都 高齢化に沿って施設をどんどん造っていこう、という事にはならない。

むしろ、「在宅介護」のほうに舵を切りつつある。

鳥巣 財政的な問題で?

東京都 財政的な問題だけではない。アンケートをとると、

「住み慣れた地域で最期を送りたい」

という要望が一番多い。

「在宅」施策を進めていく理由です。

鳥巣 在宅介護には、課題もある。

東京都 都会は、「無縁社会」と話題になっている。

「地縁組織づくり」を進めていこうとしている。

地域の見守りや、種々の介護サービスを動員していく。

鳥巣 都の高齢福祉への支出は?

東京都 高齢福祉対策課の予算は、施設建設も含めて1690億円。

ただし、介護ヘルーパーの人件費は、補助は出しているが区市町村がベースになっている。

都としては、国に対して介護報酬を手厚くしてもらえないか、と要望はしている。

あと、施設の規格が全国一律になっている問題も改善の必要があると考えている。

都の場合は、スペースが広いと費用が高くなる。

都に限っては、スペースが狭くてもいいという事になれば、安価で建設できる。

鳥巣 都の総予算は?

東京都 一般会計は、6兆2千億円。公債費を除くと4兆6千億円になる。

鳥巣 一般会計予算のうち2%余りですか。

ちなみに、借金は?

東京都 6・5兆円。国と比べると(財政は)健全です。

東京都は、「土地高」という事情もあり、明らかに「在宅介護」の方向に向っているようです。

しかし認知症も出た私の母の介護経験からいえば、在宅では困難な状況が出てきます。マスコミでも、『介護難民』特集を組んだところもありました。

社会保障費の削減が進むと、どういう不都合が起こるのか検証をしなければならないでしょう。

それとも「消費税増税」か、という選択論議がいずれ始まることになると思われます。

竹中平蔵氏は、

「小泉型の小さな政府でやっていっても、消費税はたぶん12~15%になります」

と、試算を出しています。

拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」では、民主党の円より子・参議院議員(当時)が、こう語っています。

「国民のひとり一人がお互いを支え合う、なんてことがなかなかできなくなっている、ということも含めて、人を育てることをしなきゃいけない。

そういうところから見るともう日本の国はもうダメかもしれない、というのもあったとしてもですね」

と述べつつ、『新しい公共』という概念に希望をつないでもいます。

「国家」とは、異なる立場の人が集う“共同体”だという事を改めて思わせます。

●用語解説≪新しい公共≫
鳩山由起夫・元首相が2009年10月の所信表明で掲げた理念。
これまで官が支えてきた教育や子育て、防犯や防災、医療や福祉などの公共サービスに、地域のNPO法人や市民が積極的に参加できるようにして、社会全体として支援する新しい価値観を生み出そうとした。


PS

「栃木県宇都宮市が“自転車の町”を宣言しました。

高齢者用の自転車の開発も進んでいます」。

TBSラジオを聴きながら仕事をしていたら、“元気になった”永六輔さんがこのニュースを読み上げました。

ゲストの増田明美さんは、「ロコモティブ・シンドローム」という言葉を紹介。

骨、関節、筋肉を鍛えるウォ-キングを勧めていました。

●用語解説≪ロコモティブ・シンドローム≫
骨・関節・筋肉など体を支えたり動かしたりする運動器の機能が低下し、要介護や寝たきりになる危険が高い状態。国の介護予防・健康対策などの方針を受けて日本整形外科学会が平成19年(2007)に提唱した。

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鳥巣清典の時事コラム16 「GDPも5番のフランス並を目指す?」

経財政問題を調べていると、専門家の間でも“対立軸”が存在します。

「キー・ワード」を整理しておきましょう。

「日本は、“フランス型福祉国家”を目指すべき」

世界で最も速く超少子高齢社会に突入する日本。

榊原英資氏は、社会システムで備えをしたほうが良いという考え方のようです。

高齢化社会は、“互助の精神”が大切になってきます。

もっともフランスは、もともとは個人主義が発達している国です。

榊原氏の考え方には、もう少し付け加えておく必要があります。

「ただ分配するだけではなく、フランスのように競争させ、成長しなければならない。

そのために、とくにサービス産業に対する規制緩和が必要。

医療や介護は、いまだに完全な社会主義。

これを規制緩和し、混合医療も認めて医療を伸ばす。

教育も文部科学省なんかぶっ潰すくらいの自由化をやる。

医療、介護、教育、農業などで規制を緩和し自由化して、第三次・第一次産業を活性化させる。そしてヨーロッパ型の福祉社会を目指す」

やはり「分配」をするには、「富を集める」ことが必要になる、ということでしょう。

「それはそれで、りっぱな考え方だと思います」

と認めつつも、“立場”を異にする竹中平蔵氏は、こう忠告しています。

民主党の鳩山由紀夫さんに、ぜひ日本のミッテランになってほしいと思っていた。

ミッテランは1981年、初めて社会党のフランス大統領になった。

社会主義の建設を目指して9つの企業群を国有化。

これはGDPの17%を占めた。

それから労働組合の影響を受けて労働時間の短縮をやり、家族手当を手厚くした。

その結果、初年度の財政出資が30数%増と、ものすごい財政赤字になった。

そこでミッテランは、82~83年に政策の大転換をやった。

もう

『社会主義の建設』

とは言わず、

『ヨーロッパの統合』

と言った。

競争するところは競争しようということで、実質的にかなり自由主義を入れた。

これがうまくいって、ミッテランは14年の長期政権になった。

民主党が自民党と違う政策を打ち出すのは大いに結構だが、ヘンな規制の強化は困る。

ミッテランのように賢い転進をやってほしい」

竹中氏は『政権バブル~重税国家への道~』(PHP研究所)でもこの話を取り上げており、繰り返している例えです。

「真実は、その中間にある」

という格言もあります。

ヨーロッパ諸国には、「社会主義」と「自由主義」の中間を採用している国が多く、いちばん現実的だということなのでしょう。

理念に偏りすぎると、現実社会ではなかなか上手くはいかない。

『フランス型福祉社会』も、最近伝わってくる状況は、必ずしも上手くいっているようには思えません。

自由主義、社会主義、どちらの政策によりウエイトを置くかで選挙をした結果、自由競争主義の強化を訴えたサルコジ大統領が勝利を収めています。

やはり、財政問題がネックになった結果のようです。

イギリスは、フランスより一足先に学習しています。

1960年代のイギリスには、「ゆりかごから墓場まで」と言われる充実した社会保障制度や、基幹産業の国有化等の政策をとる、大きな政府に守られた生活がありました。

児童・家族手当や国民保健サービスに加え、手厚い失業保険等、包括的な社会保障制度の確立は、戦争で疲弊したイギリスを立て直すために必要な政策だったようです。

イギリスの福祉は、中央集権型福祉へと変化し、中身を充実させたのです。

その結果は、極端な累進課税制度による社会的活力の低下や、手厚い福祉への依存による勤労意識の低下、産業保護政策による国際競争力の低下などが常態化していきます。

政府の意図とは裏腹に、経済全体が停滞する方向へ向かう悪循環に陥ります。

ストライキが多発し、多くの企業が倒産する中、第一次オイル・ショックが追い打ちをかけるようにイギリスの経済に打撃を与えていきます。

用語解説≪オイル・ショック(石油危機)≫
アラブ産油国の原油生産削減と価格の大幅引き上げが、石油を主なエネルギー資源とする先進工業諸国に与えた深刻な経済的混乱。
第一次は昭和48年(1973)、第二次は昭和54年(1979)に起こった。


イギリスはついに国の抱える負債は危険水準を超えてしまいます。

1976年、苦渋の決断を迫られ、一旦は拒否したIMFの救済を受け入れたのです。

私がイギリスを訪れたのは20代の半ば、1975年頃でした。

歴史で習った「大英帝国」の頃の繁栄ぶりはなく、印象的だったのは、高福祉に手厚く守られた若者たちが退廃的な音楽の中で気だるく踊っている姿。

オイル・ショックにより、世界は経済混乱に見舞われました。

それでもその頃の日本は、難問を克服していく精神的エネルギーに満ち溢れていました。

数ヶ月のイギリス滞在から帰国した時、東京の青山辺りはオイル・ショックなどどこ吹く風とばかりの若者でにぎやかでした。笑い声が、満ちていました。

ただ、イギリスの惨状を見てきた私は、

「現在は経済的繁栄を謳歌しているけれど、日本人は満腹になった後は、いずれイギリスみたいになるのかもしれない」

と予感めいたものがありました。

敗戦で貧乏のどん底に突き落とされた日本人は、がむしゃらに復興に取り組み、「奇跡」と世界からおどろかれました。

私が1971年にアメリカに行った頃も、

「日本は戦争で負けて瓦礫の山になってたはずなのに、どうして目覚しい経済成長をしているんだ」

と、白人の若者たちから質問を浴びたものでした。

人というのは本来、なまけものなのかもしれません。

目的が見つかった時に、力を集中していく。

「経済」というのはとくに、国民が働いて、富を稼ぐ、というモチベーションが見つからなければ総体として発展しないようです。

(資源国のように、天の恵みがあるところは別ですが)

アメリカも福祉国家に転換した途端、かつてのイギリスのようになっていくのでしょう。

狩猟本能をかきたて、持続させていくキーワードが「新自由主義」、すなわち競争原理というわけです。

成功した者は、ビル・ゲイツのようになれるという「夢」が原動力となっています。

竹中平蔵氏は、その立場に立っています。

大きく分ければ、3つの選択肢があるような気がします。

(1)「競争」して「成長」を目指し、サッカー全日本代表のように世界と激烈に戦う。(「1番」をあきらめない)

(2)競争や成長の考え方は止めて、少子高齢化の流れに従い、自分たちの価値観でほどほどに生きる。(価値観を変えて、経済競争の順番争いからは脱落)

(3)「競争」と「互助」の中間辺りを目指し、「(蓮航議員のように「なぜ2番じゃ駄目なんですか」と言っても2番も無理だろうから、名目GDPがフランスと同じ)4~5番」志向でいく。

ちなみに世界の名目GDP(国内総生産)<( )内は一人当たりGDP>ランキングは、以下の通りです。

1位 アメリカ(9位)

2位 日本(17位)

3位 中国(99位)

4位 ドイツ(16位)

5位 フランス(15位)

6位 イギリス(22位)

7位 イタリア(21位)

8位 ブラジル(61位)

9位 スペイン(23位)

10位 カナダ(18位)


さて、これからの日本社会を見渡してみた時、日本人はどういう進路を選択すればいいのでしょうか。

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政権交代バブル (Voice select)/竹中 平蔵

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鳥巣清典の時事コラム15 「榊原氏は、菅首相にパンドラの箱を開けさせる!?」

榊原英資氏の「変遷」の訳について見ています。

2004~2007年の時点では、「すでに財政破綻をしている」とのタイトル記事まで書かれています。

実に具体的です。

「現在170兆円ある厚生年金積立金のうち100兆円が財務省の財政融資資金特別会計等を通じて、今、民営化で話題になっている日本道路公団など公共事業関連の公社・公団や事業団あるいは特別会計等に貸し出されているのです」

榊原氏は、

「年金積立金の40%が不良債権化していると推計する」

と述べています。

その処理についても、

「公的資金の投入、この場合は具体的には国債か財投債による借換が必要になります」(著書『年金が消える』)

●用語解説≪厚生年金≫
正式には、「厚生年金保険」といい、日本の公的年金制度の一つで、主として民間企業の労働者が加入する社会保険制度。
全国民共通の基礎年金に上乗せして支給される二階部分の報酬比例の年金制度。
昭和61年(1986)の年金制度改正により、国民年金の基礎年金に上乗せして給付される。

●用語解説≪借換(かりかえ)≫
借金を返したり、または、借金を返したことにして、また新たに借りること。
公社債の償還期限がきたとき、新しく公社債を発行して償還する。

ところが、『日本の論点2010』(文藝春秋編)では、

「国債発行にまだ余裕あり――消費税増税は回復した4、5年後に」

一転、楽観的なタイトル記事。

最初の小見出しも、

<まだ日本の財政が危機的な状況にないわけ>

3年前の危機感溢れるタッチとは違い、おどろくほどに榊原氏は、いかに日本の財政が危機ではないかを説得します。


(以下の記事のデーターは、2009年<平成21>6月末現在となっています)

「国債および借入金残高は860兆2557億円、政府保証債務45兆6766億円を超えると905兆9323億円に達する。

08暦年ベースで対GDP比170・9%にのぼっている。

いっぽう、日本の家計の金融資産は1490兆円(07年度末)と国債及び借入金の額を大きく上回っている。

家計の負債387兆円を引いても1103兆円。

国および地方の債務は家計の純貯蓄額によって充分にカバーされている。

さらに日本の対外純資産は250兆円

07暦年末で、現状で世界最大の債券国。
日本の経常収支(家計・企業・政府の貯蓄・投資差額の純計)は、08年には12・3兆円の黒字でGDPの2・5%。

世界不況の関係で、07年度の24・5兆円と比べると半減しているが、30年以上も黒字が続いている。

要するに、“少なくとも今のところは”心配するような状況にはないということが出来ます」

そして、

「財務省がこのまま国債残高が増加することに警告を発するのは、不適切だとはいえないでしょう。

しかし、そのことと、短期的な国債が悪であるということとはまったく別のことです。

景気が下降すれば、当然、景気対策が必要です。

公定歩合がゼロに近く、流動性の供給も日本銀行から充分なされている状況では、財政によって景気対策を行なわざるをえません。

昨今、新規の歳出増加のために財源を確保しなければならないとしばしば言われるが、これは平時でのこと。

財源での手当をして新規の歳出を行なっても景気対策にはならない。

新しい歳出のほうが、財源となった歳出より需要刺激効果が高ければ、多少の効果はあるが、景気対策は新規の国債発行によっておこなうのがケインズ以来の常識です」

●用語解説≪ケインズ[1883~1946]≫
英国の経済学者で、著書『雇傭・利子および貨幣の一般理論』により、失業と不況の原因を明らかにして完全雇用達成の理論を提示。
その理論は、有効需要論・乗数理論・流動性選好説を柱とする。
のちにケインズ革命とよばれる近代経済学の変革をもたらした。
この理論を基礎として、自由放任主義の経済にかわって政府による経済への積極的介入を主張、修正資本主義の理論を展開して今日の経済改革に大きな影響を及ばした。

榊原氏は、この時点では

「09年10~12月に、景気は二番底につける可能性が少なくない」

という見通しに立っていました。

この予測は当たらなかったのですが、「景気悪化→新規の国債発行」という考え方を支持しています。

論文の最後のほうでは、

「中ぐらいから大きな政府を維持するためには増税は必要です」

この一文がさりげなく挿入されています。

論文の前半は

「二番底対策には、新規の国債発行が必要」

ということを説得するために、

「いかに日本は財政危機ではないか。

国債を発行しても大丈夫」

という論証をされている。

しかし中・長期的には、榊原氏もそういう楽観的な見通しはさすがに取れません。

「おそらく、4、5年後以降の増税は大きく社会保障負担を削減しない限り不可能。

また現在の年金、医療システムが事実上、破綻していることに手をつけなければ、国民負担率だけを上げることは政治的に難しい。

次の選挙では、年金、医療制度の抜本的改革を提案し、そのために必要であれば、消費税増税を考えると明確にマニフェストに示すべき」

と書かれています。

文章を並べ替え、再構成したほうが榊原氏の思考が明瞭になる気がします。

つまり、

「デフレ+二番底(2010年末にも起こるともいわれます)」

「新規の国債発行で対応していく」

「4、5年以降には、大増税が必要になる」

「国民の消費マインドを冷やさないためにも、
『フランス型福祉国家』という目標を国民に与える」

「フランスは、大きな政府」

「“大きな政府を維持するためには、増税が必要になる“」


というロジックを展開。

同じ「増税」でも、まだ「夢」があるというわけです。

個人的には、

「日本は、『フランス型福祉国家』を目指すべき」

という国民的選択ともなる命題は、もっと早く議論を始めるべきことだったとは思います。

菅首相は最近、補正予算の国会質疑でこう述べました。

「問題を先送りにしない。

有言実行内閣でいく。

私はたしかに、大風呂敷を広げたんですよ」

本当ならば、パンドラの箱を開けるようなものかもしれません。

“民主党の経済最高ブレーン”(田原総一朗氏の発言)とも言われる榊原氏は、どういうアドバイスを菅首相に伝えているのでしょうか。

●用語解説≪パンドラの箱≫
ギリシャ神話で、ゼウスがパンドラに持たせた、あらゆる災いの詰まった箱(本来は壺)。
パンドラが好奇心に負けて開けたところ、すべての災い・苦悩が地上に飛び出したが、急いで蓋(ふた)をしたので希望だけが残った。
壺の中に残ったのは
「未来を全て分かってしまう災い」
であり、人類は絶望せずに希望だけは失わずにすんだと言われる。

PS①

余談ですが、榊原氏の

「(平時ではない場合の)景気対策は新規の国債発行によっておこなうのがケインズ以来の常識です」

との下りが、私には非常に勉強になったところです。

『絶対こうなる!日本経済』(アスコム)では竹中平蔵氏も、

「(日本の論点2010)の論文を読む限りは、私も(「新規財源債」国債の発行は)賛成です。

財政のあり方は、短期と中期をきちんと分けて考えなければならない。

いま財政再建が重要だという一般論だけで財政を締めると、大変なことになってしまう。

09年の財政赤字は52兆円。

10年の赤字が44兆円ならば差し引き8兆円。

つまりGDP比マイナス1・6%の緊縮財政となるが、この状況下ではありえない。

残念ながら国債を出さざるをえません」

と答えています。

私は、

「とにかく国債発行をできるだけ削減しなければ」

と思い込んでいました。

実は、柳井正氏との共著『この国を出よ』(小学館)の中で大前研一氏も、

「この3年以内に予算の大幅削減をして、プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化のメドを」

と語っています。

中・長期的には正論でも、実はそう簡単ではない、「平時」と「戦時」をちゃんと見分けなければいけない、というのがケインズの教えるところなのでしょう。

今の日本の経済状況が、それだけ厳しい(「平時」とはいえない)状況にあるということです。

「マクロ経済学」が、知識として必要となる所以(ゆえん)です。

PS②

日本の財務省が10月8日発表した国際収支状況速報によると、

「8月の中国の対内債券投資は、中長期債が103億円の資本流入超、短期債が2兆0285億円の資本流出超となり、対内証券投資の合計は2兆0182億円の資本流出超となった」。

中国政府筋は、

「投資においては、われわれは常にさまざまな変動を注視し、それを分析している。

政治的な説明は必要ではない」

と答えたとか。

「レアアース禁輸」につづき、「日本国債売り」の事実。

第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストは、

「中国が日本国債を買い始めたということは、ある意味“箔をつける”ことにはなります。

いっぽう、うるさい国に買われたな、という思いはある」

と私のインタビューに答えていましたが、さっそく心配が当たった感があります。

日本国債を国内で消化できなくなりつつある現在、これも近未来のシミュレーションのひとつになるのでしょう。


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