鳥巣清典の時事コラム21 『和僑(わきょう)の時代①』「本格的な海外進出と開国論議が始まった」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム21 『和僑(わきょう)の時代①』「本格的な海外進出と開国論議が始まった」

大企業だけではなく、中小企業も海外進出を加速していく時代。

先にあるのは、産業の空洞化と少子高齢化の日本社会。

拙著「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」でホリエモンこと堀江貴文氏は、

「このままでは、”老人ホームみたいな国”になる。

僕は、イヤですけどね」

と述べています。

日本は現実を直視し、どういう国づくりを目指すべきなのか。

今まさに、“開国”論議も始まってもいます。

全ての国民が考えなければならない大テーマです。

10月24日(日曜)にオン・エアされたNHK『日曜討論』の一部を記録します。

冒頭の課題に、<景気“足踏み” どうする日本企業>と題して、以下の経済界の専門家が語り合っています。

□日本商工会議所会頭・東芝相談役/岡村 正

□経済同友会副代表幹事・ローソン代表取締役社長/新浪 剛史

□米日経済協議会副会長・アフラック日本社会長/チャールズ・レイク

□東京大学教授/伊藤 元重

□三菱総合研究所シニアエコノミスト/武田 洋子

○司会/NHK解説委員■島田 敏男

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①「向こう半年、景気は悪化」

司会 今月19日、政府は月例経済報告で、アジアの経済成長が緩やかになっていることや、 円高が進んでいる影響で、持ち直しを続けてきた日本の景気が「足踏み状態になっている」として、 景気判断を1年8ヵ月ぶりに下方修正しました。

円高が依然続く中で、さらなる景気の悪化が懸念されています。

こうした中、景気を回復、成長させるためには何が必要か。

新浪 心理的には、“足踏み”どころか、大変厳しくなる。

「円高」というより、「円高心理」。消費者に対して、「景気はますます悪くなる」という心理を移り出している。

今後11月、12月、また来年の最初は大変厳しくなる。

いっぽう、安いものだけ買っていくという消費者心理が少しだけ「いや、そうは言っても質のいい物」とい
う傾向も出ている。

消費者心理は、まだら模様になってきている。

円高心理をどうやって解決するか。

そのためには、なんといってもデフレ。

全ての元凶である、と思っている。

②「デフレ対策は、日米共通の課題」

伊藤 日本銀行の短観でも、先行き悲観的な見方が出ている。

企業に与える心理的な部分も大きい。

日本だけでなく、アメリカに置き換えても、先行きに不安感がある。

日本の景気は世界と連動しているところがある。

レイク 米国政府にとっても他人事ではない。

世界経済が相互依存が進み、戦略的コラボレーションが行われている中で、日本を含めパートナーの経済状況がアメリカのモデルに影響してくる。

このデフレ懸念は、共通の課題。

20年前の日米の貿易摩擦の時代とは全然違う。

武田 来年の前半くらいまでは足踏みの状況が続く可能性が高いと判断している。

理由は、大きくは3つ。

1つは、政策効果が剥落する。

エコカー補助が9月で終わり、エコポイントも12月には半分、3月には終了する。

2つめは、海外経済の減速により、日本でも少し減速感が出てきている。

3つめが、円高進行。

プラスの面もなきにしあらずだが、日本全体では収益悪化。

なによりも家計や企業のマインドを冷やす要因になってきている。

そういう理由から、景気の下押し感が半年間くらいは続くのではないか。

③「中小企業は国際的な活動に順応できていない」

司会 日本銀行と日本商工会議所の間の体感温度の差はどう位置付ける?

岡村 本来であれば連動しなければいけないが。中小企業が3か月先行してマイナスの兆候が出てしまった。
これは大企業の先行きの見通しが非常に厳しくなってきていることが大きな原因。

新浪 大企業は、アジアの発展を自分の収益にする力がある。

中小企業は、国内に留まっていることが多く、海外に行こうかなどうしようかな、と逡巡している間に日本の市場が非常に悪くなってくる。

大企業には、柔軟性、人やおカネもある。

中小企業では、そういう打ち手が限られてくる。

大企業のほうが、先に何か打ち手を打つことにつながってくる。

司会 かつては大企業はひとつの道標(みちしるべ)を出して、中小企業がそこについていく、という流れ、姿があった。

伊藤 ここ20年くらいの日本が抱えている大きな問題であるデフレギャップ、需要の不足が生じている構造的な問題がある。

大企業は比較的対応する手段をたくさん持っている。

中小企業の方々は、そこで戸惑っている。

これまでは自分の親会社である大企業を追っかけて行けば、仕事もビジネスもあった。

しかし、なにせ大企業も含めて、日本の経済構造が大きく変わろうとしている。

そこに低迷の波が来て、さらに厳しくなってきている。

岡村 中小企業自身が抱えている問題が2つある。

1つは、国際的な活動にまだ順応できていない。

2つめは、大企業からの仕事で生産性は上がっているけれども、基本的な部分で生産性が上がっていない。

輸出に関連していない中小企業は、輸出をしている中小企業の生産性に比べてはるかに低いというデーターもある。

④「アメリカも国内だけではビジネスが成り立たなくなった」

レイク 米国の中小企業も大きな問題を抱えている。

アメリカ国内の市場がホットで、その中で生産、活動していけば自分のビジネスモデルが成り立っていく、ということだけではもうない。

さらに海外のマーケットの中で活動していかなければならなくなってきている。

それを理解したうえでオバマ政権も、5年間で輸出を倍増する計画の一環として、中小企業対策をとても手厚く展開している。

これはグローバル化でさまざまな構造改革が求められている中での中小企業の皆様の苦悩だと思う。

司会 アメリカには、世界的に有名な企業がいっぱいある。

いっぽうで、海外展開が困難な中小企業も山ほどある?

レイク アメリカのGDPを見ても、中小企業の占める割合は圧倒的に高い。

中には、中小企業だった企業が一挙に世界に出て行って、同時に国内でも新しいビジネスモデルを開発することによってグローバル企業になってきている例もある。

まだまだ期待をもって頑張っている中小企業の社長もいる。

ただ今までどこを向いて来ていたかというと、アメリカ国内でビジネスが充分に成り立った。

それだけでは乗り越えられない時代になった。

海外に進出することが求められている。

中国、インドに自分はどうやって出ていくのか。

悩んでいるところだと思う。

⑤「日本商工会議所も目的を海外進出に移す」

武田 循環的に言えば、日本経済に自立的な芽が出てきたところに今回の円高。

そして世界経済の減速が重なってしまった。

大企業の回復から中小企業の回復になろうとしていたところに、今回の円高が足踏みに。

2つめが、中小企業として海外展開を進めていくか。

大企業は、海外で収益源をかなり確立してきている。

いっぽうで中小企業は、大企業に比べると少し遅れている。

今の日本を取り巻く環境を見れば、海外に出ていく流れは不可避。

そこは思い切ってついて行くというくらいの勢いがあってもいいかなと考えている。

岡村 商工会議所自身も、今年から目的も大きく変換しなければならないと思っている。

国際的な活動ができる中小企業をどう育てるか。

生産性を上げるために、どうIТを活用するか。

この2つを中心に、中小企業の支援をしたい。

⑥「中小企業の海外進出に大企業が主導を」

司会 経済同友会は?

新浪 海外に出ていくのは不可避。

どうやって海外に出て行くか。

そういった意味では、人材がなかなか厳しい。

大企業の先導も非常に重要だろう。

成長豊かなアジア市場。

裏腹にリスクも大変にある。

こういったところを把握してやっていくには、大企業が主導していくのも非常に重要。

パッケージ的に大企業と一緒に行かないと、非常に厳しいのではないか。

⑦「”通貨”の問題を世界が注目」

司会 今回のG20の共同声明のポイントは2つ。

「通貨安競争は、各国とも自制をすべき」が、確認事項として明記された。

いっぽうでアメリカが中心になって、

「経常収支の赤字・黒字を一定の範囲に収めるように縛りをかける」

という提案を出した。

この考え方については、表明はあったものの数値目標が定められるまでにはいかなかった。

伊藤 ひとつのプロセスだと思う。

「通貨」の問題に世界の注目が集まっている。

主要国が、世界はマクロな問題に関心を持っている。

見逃してはいかない、と。

では目に見える形で、各国を縛るような形の政策につながるか。

というと、まだ距離はあるだろうなと思う。

通貨問題は10年前からある。

アメリカの景気過熱で、世界の需要を一手に支えてきた。

ほかの国が、それに乗っかってきた。

そのアメリカが景気低迷で需要が落ち込むと、結局は為替に反映されている。

為替を含めて、各国のマクロ政策をどう考えるか。

ということが、ここから出てくれば将来的に期待できる。

⑧「グローバル・インバランスの改善が課題」

レイク 通貨、ドルが安くなっている。

明確に求めてそうなっているというよりは、米国経済に対する市場関係者の期待があるいっぽうで、先行き不透明感に対する認識でそうなっている。

昨日ガイトナー長官も、

「強いドルは、米国の国益としても守っていく。

通貨基準としてその責任を果たしていく」

と述べた。

重要なのは、グローバル・インバランスという問題に今後どう対応していくのか。

●用語解説<グローバル・インバランス>
アメリカの経常赤字とアジアや中東諸国の経常黒字に象徴されるグローバル・インバランス(世界的な国際収支の不均衡)。

レイク 今回アメリカ発でスタートした金融危機も、それはアメリカ政府の不備、投資銀行のビジネスモデルの問題があった。

同時にアメリカ国内の過剰な消費と、それに対する様々なマーケットの期待によるグローバル・インバランスの問題。

解消していくには、G20で議論が必要になっていく。

それがスタートし、プロセスが継続していく。

(次号へつづきます)

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