鳥巣清典の時事コラム23 『和僑(わきょう)の時代③』「中国への拡大進出には経済外交が必要」
日本は、中国といかに付き合っていけば良いのか。
「政治外交」「軍事」、「経済」、全ての面でスーパー・パワー国家を目指す中国。
“中華思想の国”に対して、“日出ずる国”の日本は骨太の方針を掲げる必要があります。
中国漁船だ捕事件で、政治と経済が絡む体験を日本はしたばかり。
「戦略的互恵関係」の中身が問われます。
10月24日放送のNHK『日曜討論』では、<景気“足踏み” どうする日本企業>と題し、以下の経済界の専門家がその課題について語り合いました。
□日本商工会議所会頭・東芝相談役/岡村 正
□経済同友会副代表幹事・ローソン代表取締役社長/新浪 剛史
□米日経済協議会副会長・アフラック日本社会長/チャールズ・レイク
□東京大学教授/伊藤 元重
□三菱総合研究所シニアエコノミスト/武田 洋子
○司会
NHK解説委員■島田 敏男
司会 中国については、日米ともに関心ごと。
伊藤 来月、横浜でAPECがある。
1980年代に日本とアメリカが貿易摩擦でことごとく対立した。
2か国間でやると、どうしてもそういう議論になる。
アジア、太平洋という大きな枠組みの中でやると、もう少しグローバルな議論になる。
今度、胡錦濤主席が横浜に来て、オバマ大統領や菅総理と議論をすることは非常に大事。徹底的に国連、IМF、G20、あるいはAPEC、ACEAN+3だとか、そういうところに出てもらって、その地域の責任ある役割をどんどん期待していく。
そういう取り組みを日本は積極的にやっていかないといけない。
レイク 今後も継続して世界の経済成長の中心として中国が役割を果たす。
ということは現実としてある。
そのうえで中国の台頭に対して上手にどうつきあっていくのか、ということが各国問われてくる。
G20でも、WТОでも、中国が責任ある大国として責任ある利害関係者になっていく。そのように上手に話をしていくことが求められている。
日米の協調というのは、中国を封じ込めるということではない。
レイク 来月にAPECが横浜で開かれる。
首脳会談の方向付けとして、環太平洋自由貿易協定、経済連携協定がどういうふうに議論されていくのか。
そのなかで中国自身が、利害関係者としての責任を果たしていかなければならないな、と考えるという状況をいかにしてつくっていくか。
ということが求められている。
武田 今年第二四半期にドルベースでみて、中国のGDPが日本のGDPを抜いたということが世界のニュースとしてひとつ話題になった。
両国のもともとの人口を考えれば、ある意味当たり前。
一人あたりのGDPでは、日本が10倍近く上回っているという現実がある。
中国の成長は、日本にとって弊害があるというよりは、利益をもたらすと考えていたほうが良い。
中国はこれまで日本にとっては、生産拠点としての位置づけが大きかった。
これからは、より市場(マーケット)としての位置づけが強まってくる。
日本企業にとっては、大きなビジネスチャンスが高まってくることになる。
ただ新興国でビジネスをやっていく時に、5年後の中国を見ておく必要がある。
岡村 1990年代は生産拠点として中国を見て進出をした。
2000年代に入ってからは、完全に市場でもある。
事業拠点でもあるということに大きく変わってきたということは間違いない。
ただ急激な発展を遂げただけに、マイナスの要因も抱えている。
環境、人口にしても、いろんな問題がある。
そこの様子をよく観察をしながら進めていく必要がある。
司会 中国は、政治体制も違う。中には、「撤退覚悟で進出するしかない」という声もある。
新浪 最近の2年で、いろんなマーケットを受け入れるという体制に変わっては来ている。経済成長ゆえに何でもやれると思わないで、根を下ろしてやっていかなければいけない。中国なりの文
化もあり歴史もあり、そういうものを理解して、市場としてとらまえていくことが大切。
何か1、2年で成果が起こるということではなくて。
そこに生産拠点を持ち、そこで物も買って頂くという関係。
どういうパートナーにしていくか、という自分たちの考えも持たなくてはいけない。
日本でコスト競争の生産をしていくのは、非常に無理がある。
そういう意味では、(生産拠点を)中国に移転していく。
そこで中国の方々に(日本を)理解をしていってもらう。
中国側には、若い人たちの就職が非常に厳しいという問題がある。
私たちが何かその一助になりながら、パートナリングをやっていく。
ひとつの“経済外交”、という考え方も必要ではないか。
新浪 今まで中国では、非常に安いものを造った。
今後はもう少し中レベルのものになる。
いっぽうで日本はもっと付加価値の高いものを生産する。
生産財、耐久財にしても質の高いもの。
分業体制をどう考えていくか。
これもパートナリングではないか。
岡村 現在はすでに日中は、補完関係ができている。
そこをどう伸長させていくのか。
そこにポイントを置くべき。
(次号へつづきます)
決算委員会の質疑で自民党の丸山和也議員が、
「中国人船長の釈放を発表した後に、仙石官房長官に電話をした。
“どうして釈放する”と聞いたら、“APECがふっ飛ぶ”と申された」
と暴露。
仙石官房長官は、
「そういう会話をした記憶はない」
と、いつもの健忘症答弁。
丸山議員は、
「それはそれで、ひとつの見識」
と応答。
米国のオバマ大統領、中国の胡錦濤・国家主席も来る「横浜APEC」の意義を失わさせることをホスト国としては、とてもできなかったということが真相のようです。
今回の『日曜討論』の参加者は、経済界の専門家でしたから、政治的発言は最小限に留まりました。
「政治」が絡むと、こうはスムーズには進行しなかったことでしょう。
でも日本が中国市場に、生産拠点も含め拡大進出するという以外の選択肢はないようです。
中国に“大人の対応”を求めるからには、(新浪氏の唱える)「経済外交」も日本側にとってはキー・ワードになるかもしれません。
アジア近代史も勉強しておく必要が出てきます。
PS
仙石官房長官は、「柳腰外交」と称しました。
「柳腰」の語源をめぐって論争まで起きました。
私の故郷は、福岡県南部に位置する「柳川」。
その名の通り市内を廻(めぐ)る、お堀端には多くの柳の木が見られます。
天気の良い日には、穏やかな風情を見せています。
感心するのは、橋の上で軽自動車が突風にあおられ、50メートルも飛ばされていくような大型台風の時。
柳の葉は激しく宙を舞いながらも暴風雨を受け流します。
幹や地中にしっかりと根の張った土台はびくともしません。
柳川の人間は、「柳」の強さも知っています。
仙石官房長官の意図するところは、傍から見れば軟弱に映る時もあるかもしれないが、芯は揺らがない政治姿勢、ということなのでしょう。
「柳腰外交」とは、「しなやかで、したたかな」外交のことだそうです。
でも、「腰」と表現したことで、意図が伝わらなくなった気がします。
「柳腰」とは、やれ「楊貴妃のこと」、やれ「ゲイの少年のこと」(ラジオでの永六輔氏談)だとか、薀蓄(うんちく)を含め、外野のイマジネーションはあらぬ方向に行ってしまいました。
「柳に風」(=「柳が風になびくように、逆らわずに穏やかにあしらうこと」や、「柳に枝(雪)折れなし」(=柔軟なものは剛直なものよりもよく事に耐えるということ)とは使います。
「柳(の)腰」とは、どのへんを言うのかなあ、と、つい考えてしまいました。
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「政治外交」「軍事」、「経済」、全ての面でスーパー・パワー国家を目指す中国。
“中華思想の国”に対して、“日出ずる国”の日本は骨太の方針を掲げる必要があります。
中国漁船だ捕事件で、政治と経済が絡む体験を日本はしたばかり。
「戦略的互恵関係」の中身が問われます。
10月24日放送のNHK『日曜討論』では、<景気“足踏み” どうする日本企業>と題し、以下の経済界の専門家がその課題について語り合いました。
□日本商工会議所会頭・東芝相談役/岡村 正
□経済同友会副代表幹事・ローソン代表取締役社長/新浪 剛史
□米日経済協議会副会長・アフラック日本社会長/チャールズ・レイク
□東京大学教授/伊藤 元重
□三菱総合研究所シニアエコノミスト/武田 洋子
○司会
NHK解説委員■島田 敏男
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⑫「日米協調は、中国封じ込めではない」
司会 中国については、日米ともに関心ごと。
伊藤 来月、横浜でAPECがある。
1980年代に日本とアメリカが貿易摩擦でことごとく対立した。
2か国間でやると、どうしてもそういう議論になる。
アジア、太平洋という大きな枠組みの中でやると、もう少しグローバルな議論になる。
今度、胡錦濤主席が横浜に来て、オバマ大統領や菅総理と議論をすることは非常に大事。徹底的に国連、IМF、G20、あるいはAPEC、ACEAN+3だとか、そういうところに出てもらって、その地域の責任ある役割をどんどん期待していく。
そういう取り組みを日本は積極的にやっていかないといけない。
レイク 今後も継続して世界の経済成長の中心として中国が役割を果たす。
ということは現実としてある。
そのうえで中国の台頭に対して上手にどうつきあっていくのか、ということが各国問われてくる。
G20でも、WТОでも、中国が責任ある大国として責任ある利害関係者になっていく。そのように上手に話をしていくことが求められている。
日米の協調というのは、中国を封じ込めるということではない。
⑬「横浜APECで中国が果たす責任論を会議」
レイク 来月にAPECが横浜で開かれる。
首脳会談の方向付けとして、環太平洋自由貿易協定、経済連携協定がどういうふうに議論されていくのか。
そのなかで中国自身が、利害関係者としての責任を果たしていかなければならないな、と考えるという状況をいかにしてつくっていくか。
ということが求められている。
⑭「中国は、完全に市場」
武田 今年第二四半期にドルベースでみて、中国のGDPが日本のGDPを抜いたということが世界のニュースとしてひとつ話題になった。
両国のもともとの人口を考えれば、ある意味当たり前。
一人あたりのGDPでは、日本が10倍近く上回っているという現実がある。
中国の成長は、日本にとって弊害があるというよりは、利益をもたらすと考えていたほうが良い。
中国はこれまで日本にとっては、生産拠点としての位置づけが大きかった。
これからは、より市場(マーケット)としての位置づけが強まってくる。
日本企業にとっては、大きなビジネスチャンスが高まってくることになる。
ただ新興国でビジネスをやっていく時に、5年後の中国を見ておく必要がある。
岡村 1990年代は生産拠点として中国を見て進出をした。
2000年代に入ってからは、完全に市場でもある。
事業拠点でもあるということに大きく変わってきたということは間違いない。
ただ急激な発展を遂げただけに、マイナスの要因も抱えている。
環境、人口にしても、いろんな問題がある。
そこの様子をよく観察をしながら進めていく必要がある。
⑮「対中国には、経済外交という考えも必要」
司会 中国は、政治体制も違う。中には、「撤退覚悟で進出するしかない」という声もある。
新浪 最近の2年で、いろんなマーケットを受け入れるという体制に変わっては来ている。経済成長ゆえに何でもやれると思わないで、根を下ろしてやっていかなければいけない。中国なりの文
化もあり歴史もあり、そういうものを理解して、市場としてとらまえていくことが大切。
何か1、2年で成果が起こるということではなくて。
そこに生産拠点を持ち、そこで物も買って頂くという関係。
どういうパートナーにしていくか、という自分たちの考えも持たなくてはいけない。
日本でコスト競争の生産をしていくのは、非常に無理がある。
そういう意味では、(生産拠点を)中国に移転していく。
そこで中国の方々に(日本を)理解をしていってもらう。
中国側には、若い人たちの就職が非常に厳しいという問題がある。
私たちが何かその一助になりながら、パートナリングをやっていく。
ひとつの“経済外交”、という考え方も必要ではないか。
新浪 今まで中国では、非常に安いものを造った。
今後はもう少し中レベルのものになる。
いっぽうで日本はもっと付加価値の高いものを生産する。
生産財、耐久財にしても質の高いもの。
分業体制をどう考えていくか。
これもパートナリングではないか。
岡村 現在はすでに日中は、補完関係ができている。
そこをどう伸長させていくのか。
そこにポイントを置くべき。
(次号へつづきます)
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●用語解説<APEC横浜開催> APEC(アジア太平洋経済協力=エイペック)は、アジア太平洋地域の持続可能な成長と世界経済の成長への貢献という理念のもと、21の国・地域の協調的・自主的な行動により、貿易・投資の自由化・円滑化、経済技術協力等を推進する経済フォーラム。 世界全体の約4割の人口を域内に擁し、世界全体のGDPの約5割を占めるAPECは、世界最大の地域協力といえる。 横浜開催のスケジュールは、以下の通り。 2010年11月7日(日)-8日(月) 最終高級実務者会合(CSOM) 横浜市 2010年11月10日(水)-11日(木) 第22回APEC閣僚会議 横浜市 2010年11月13日(土)-14日(日) 第18回APEC首脳会議 横浜市 |
決算委員会の質疑で自民党の丸山和也議員が、
「中国人船長の釈放を発表した後に、仙石官房長官に電話をした。
“どうして釈放する”と聞いたら、“APECがふっ飛ぶ”と申された」
と暴露。
仙石官房長官は、
「そういう会話をした記憶はない」
と、いつもの健忘症答弁。
丸山議員は、
「それはそれで、ひとつの見識」
と応答。
米国のオバマ大統領、中国の胡錦濤・国家主席も来る「横浜APEC」の意義を失わさせることをホスト国としては、とてもできなかったということが真相のようです。
今回の『日曜討論』の参加者は、経済界の専門家でしたから、政治的発言は最小限に留まりました。
「政治」が絡むと、こうはスムーズには進行しなかったことでしょう。
でも日本が中国市場に、生産拠点も含め拡大進出するという以外の選択肢はないようです。
中国に“大人の対応”を求めるからには、(新浪氏の唱える)「経済外交」も日本側にとってはキー・ワードになるかもしれません。
アジア近代史も勉強しておく必要が出てきます。
PS
仙石官房長官は、「柳腰外交」と称しました。
「柳腰」の語源をめぐって論争まで起きました。
私の故郷は、福岡県南部に位置する「柳川」。
その名の通り市内を廻(めぐ)る、お堀端には多くの柳の木が見られます。
天気の良い日には、穏やかな風情を見せています。
感心するのは、橋の上で軽自動車が突風にあおられ、50メートルも飛ばされていくような大型台風の時。
柳の葉は激しく宙を舞いながらも暴風雨を受け流します。
幹や地中にしっかりと根の張った土台はびくともしません。
柳川の人間は、「柳」の強さも知っています。
仙石官房長官の意図するところは、傍から見れば軟弱に映る時もあるかもしれないが、芯は揺らがない政治姿勢、ということなのでしょう。
「柳腰外交」とは、「しなやかで、したたかな」外交のことだそうです。
でも、「腰」と表現したことで、意図が伝わらなくなった気がします。
「柳腰」とは、やれ「楊貴妃のこと」、やれ「ゲイの少年のこと」(ラジオでの永六輔氏談)だとか、薀蓄(うんちく)を含め、外野のイマジネーションはあらぬ方向に行ってしまいました。
「柳に風」(=「柳が風になびくように、逆らわずに穏やかにあしらうこと」や、「柳に枝(雪)折れなし」(=柔軟なものは剛直なものよりもよく事に耐えるということ)とは使います。
「柳(の)腰」とは、どのへんを言うのかなあ、と、つい考えてしまいました。
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