財務省主計局インタビュー01 「政府の負債が大きくなると、金利上昇を招く」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

財務省主計局インタビュー01 「政府の負債が大きくなると、金利上昇を招く」

鳥巣 国の債務が、膨らみつづけている。菅首相は参議院選挙期間中に、「あと2~3年でギリシャみたいになる」と演説していた。

財務省 それはない。

鳥巣 首相の認識は、間違っている?

財務省 かなり違う状況です。

日本は、世界最大の資産国、債権国、貿易黒字国。

一般政府の持っている金融負債と、家計の純金融資産(約1000兆円余り)が同じになっていますが、金利は反応していない。

国債の金利は低く推移しており、市場の信用収縮は起きてはいない。

鳥巣 対GDP比の債務残高が膨らむと、金利急上昇を懸念するムキがある。




用語解説≪国内総生産(GDP)≫
一定期間に国内で生み出されたモノやサービスの付加価値の総額。
2008年度は物価変動の影響を除く実質GDPが544兆円、物価の影響を含む名目GDPは498兆円。
個人消費が6割を占める。名目GDPはアメリカに次ぐ世界2位だが、中国に抜かれ3位の可能性も。
国民1人当たりGDPは、07年に世界19位だったが、10年に27位まで後退している。




財務省 国の寿命は20年、30年で終わるわけではない。

個人の債務残高を考えるに当たって可処分所得の2年分が限界の目安にされるが、国にそれを適用するということになると、GDPの200%が債務の限度額(GDPを500兆円とすれば、限度は1000兆円)ということになる。

が、その理論的根拠はなんら明確ではない。




用語解説≪可処分所得≫
個人所得の総額から直接税や社会保険料などを差し引いた残りの部分で、個人が自由に処分できる所得。



鳥巣 財政危機ではない?

財務省 現在、財政危機ではあるが、政府債務不履行のリスクが高いということでは決してない。

ただし、政府の負債が大きくなると、企業の借入や投資に回されるべき金融資産まで国債に回ってしまい、いわゆるクラウディング・アウトによって成長を阻害することになってしまう。




用語解説≪クラウディング・アウト≫
政府による国債の大量発行が民間の資金調達と競合を起こし、金融市場が逼迫して金利を上昇させ、民間の資金調達が阻害される現象。




財務省 日本には膨大な資産はある。

しかしながら国債が増えていくと、民間への貸し出しに支障が出かねない。

現在のところ、投資のクラウディング・アウトはまだ起きてはいないが、このまま進むと信用収縮につながり、金利の上昇をまねかないとも限らない。

鳥巣 国民の金融資産の「家計部門」で国債をあとどれくらい買える?

財務省 政府と家計がバランス取れるまで国債が拡大できる、ということであれば今のところ400兆円の余裕があることになる。

鳥巣 平成22年度の「新規財源債」国債発行額は44・3兆円。

毎年同じ額の国債を発行していくと、(400÷44・3兆円)=9年になる。

クラウディング・アウトの可能性もあるから、「9年の猶予」ということにはならない。




用語解説≪新規財源債≫
一般会計における国債発行額の44・3兆円は、財務省では「新規財源債」と呼ぶ。「国債発行額」という表現になると、「借換債、財投債を含む概念であり、22年度は約162兆円」(財務省主計局)と膨大なものになる。


用語解説≪400兆円の余裕≫
財務省主計局が提示する「400兆円」は、(「国民の金融資産1460兆円」-「長期債務残高1000兆円」)で計算されてきたものです。
総額1460兆円を「グロス」、総額から住宅ローンなど国民の負債400兆円を差し引いた1000兆円を「ネット」。
国民の金融資産で国債を買い支える限界を、「グロス」「ネット」のどちらで考えるべきかについては諸説ある。




鳥巣 国内で国債を消化できなくなった時は?

財務省 国内で国債が消化できなくなれば、海外に頼るという方法はある。

資源国、貿易黒字国などが対象として考えられる。

ただ信用リスクが高くなり、国債が暴落したときには、インフレ及び円安が発生し、国債費が予定より上昇して払えなくなる可能性がある。

鳥巣 
国債が暴落すれば、その時にはインフレが発生する?

財務省 日銀が国債を市中銀行から引き受けると貨幣供給が過多となり、物価上昇と円安を引き起こす可能性がある。

そうなった場合は、輸入物価が上がる。

このような事態にならないように、財政収支の基礎的バランスを取るようにする必要がある。

鳥巣 インフレが引き起こす、国民への影響は?

財務省 国債は、国内で消化されている限り、高いインフレを起こせば最悪圧縮できる。

しかしインフレは金融資産を持っている層を直撃してしまう。

鳥巣 高齢者が、金融資産の大半を所有している。

財務省 年金、預金も目減りしてしまう。

年金や公債については、基本的に額面を渡せばいいため、インフレでは実質的に価値が目減りしてしまう。

いずれにしても、あくまで高いインフレを起こすのは最後の手段。

ただ、インフレが起きると、やがて賃金も上がっていく。

しかし、その間に時間差がある。

国内インフレリスクを高いと考えるのであれば、海外に資産を移すという安全策はあるでしょうね。

鳥巣 元財務官僚の片山さつき衆議院議員は最新著『真実の議論』で

「政府は財務内容を全て明らかにして、国民と真実の議論をする時が来ている」

と述べている。

官僚になっている私の知人も

「ひどい財政状態だ。

万が一の時のシミュレーションをすべきだ」

と言っている。

シミュレーションをしたことは?

財務省 財務省として今のところ提示できるものはない。

ただ、あらゆる事態に備えての調査研究は必要。

その一環として、審議会や国会などで議論が行なわれると思われます。

公にすべき事項については、積極的に公開していきたい。

鳥巣 そうなれば、本格的に国民も関心を持つ。

財務省 国としてはそうならないにようにしますが。

国内で国債を消化できなくなった時には、日本銀行が引き受けるという最終手段がある。

それも駄目ということであれば、国際的な枠組みとして、IMFに支援を申し込むスキームがある。

IMFの管理下では、歳出カットは、歳出が大きい順になるのが通常です。

年金、地方交付税、政府内では人件費が対象になると思われます。

ギリシャも同じような事が起きている。

ただし、日本がそこまで深刻になることは現段階では考えにくい。


用語解説≪IMF(国際通貨基金)≫
国際連合の専門機関の一つで、為替相場の安定と自由化、および国際収支の均衡を図ることを目的に設立された国際金融機関。




鳥巣 財務省の人と話をしていて、金利の上昇にはみんな神経質だ。

仮にゆうちょ銀行の限度額を2千万円に上げて、預金を集め、第2財政投融資機関にしていった場合、金利上昇面の懸念があるのでは?




用語解説≪財政投融資≫
財政投融資特別会計国債(財投債)の発行で調達した資金を財源とし、国が特殊法人などの財投機関に対して有償資金を供給する。
財投機関はそれを原資として事業を行い、その事業からの回収金などによって資金を返済する。




財務省 仮にゆうちょ銀行が投資手段として国債に重点を置き、民間部門に結果として資金が回らなくなった場合は、ゆうちょ銀行と民間部門に投資している通常の銀行との間に利回りに差が出てくるという可能性はあるかもしれない。

いずれにせよ、ゆうちょ銀行の運用如何によって金利上昇が起こるというよりは、日本全体としての金融資産に対する需要が実質金利を決めるものと考えている。

鳥巣 国債の平均利回りは?

財務省 平成20年度で、1・4%。

鳥巣 民主党は、「成長戦略」を強調している。

デフレ不況下にある日本としては、国民は景気が良くなることを期待している。

その限りにおいては、経済成長は望ましい。

いっぽう、金利が上昇するリスクがある。1・4%を超えると、借金が雪だるま式に増えてしまう。

自民党の石破茂衆議院議員は、NHKの日曜討論で

「金利が1%高くなるだけで大変なことになりますよ」

と民主党に注意をうながしていた。

財務省 
金利の上昇とは、国内のパイの奪い合いが始まることを意味する。

経済が回復し、資金需要が高まると、金利が低いところから、金利が高いところへ運用先が流れていく。

今のうちから、道筋をつけなければならない。

鳥巣 財務省の考える「道筋」とは?

財務省 基礎的財政収支を黒字化していくことが将来の目標。

均衡(平成22年度の赤字は、30兆円余り)していれば、国債に頼らなくても政府サービスを行うことができる。

将来的に借金を返していくことを考えるのならば、黒字化することが必要になる。

今のうちから、基礎的財政収支の均衡を目指さなければならない。




用語解説≪基礎的財政収支(プライマリーバランス)≫
債務の元利払い以外の支出と、公債発行などを除いた収入との収支。基礎的財政収支が均衡していれば、毎年の政策的な経費が税収などの毎年の収入でまかなわれていることになる。この場合、この年の債務の増加は利払い分だけになる。
ただし、利子率と経済成長率が同じであれば公債の対GDP比は一定となるが、名目経済成長率よりも名目金利が高ければ政府債務残高の名目GDP比は上昇し続ける。



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