鳥巣清典の時事コラム09 「通貨危機を回避する方法とは?」
前回、
「通貨危機がどういう理由で起こるのかには定説がない」
ということをご紹介しました。
となれば、通貨危機を回避するには、「誘引する要素」をできるだけ多く取り除いておくという方法が考えられます。
「通貨危機」とは、ジェトロによれば
「なんらかの理由で通貨の価値が下落し、それが経済活動に悪影響を及ぼす減少」。
今は「円高」で日本の輸出産業は苦労していますが、とりあえずここでは「円安」に絞って対策を練ってみます。
(1)「通貨下落は、外国との経済取引において自国の支払いが超過する場合」
(以下、ジェトロの定義に沿って進みます)をいいます。
日本の現状は、どうでしょうか?
主だった国に対して「貿易収支」は黒字になっています。
中国(+香港)、韓国、台湾、シンガポールなどアジアの新興国から、アメリカ、ドイツ、イギリスなど先進主要国からも大幅な黒字です。
いっぽうフランス、イタリア、スイスは、これらの国の「ブランド」がわが国の女性たちを魅了していて赤字。
中東産油国、インドネシア、オーストラリアなどの資源国に対しては赤字です。
そのほか日本人、日本企業は外国への出資・貸付によって、毎年10兆円を超える金利配当収入を得ています。
この所得黒字に貿易黒字を合わせれば、経常収支は20兆円前後の黒字。
10年で200兆円ちかくの経常収支の黒字が日本に流れ込んでいることになります。
今のところ、「日本の支払いが超過する」という事態とは無縁です。
(2)「通貨危機は、『良い均衡』から『悪い均衡』へジャンプする。
つまり、人々が悲観的だと悪い均衡が、楽観的だと良い均衡が実現する」
とあります。
群集行動がなせる業でしょう。
かのアメリカも、未来に希望を抱いている限りは人々も楽観的で、旺盛な消費を好みました。
「世界の富が、永遠に集まってくる」
という信仰に近いものでした。
日本人も、高度成長、バブル時期は同様でした。
デフレに陥っている日本は、その歯車が逆回転しているのです。
人々が楽観的になるには、どうすればいいのでしょうか?
「1460兆円の国民金融資産の65%を75歳以上の高齢者が所有している」
と流布されることがあります。
老後は、長くなっています。
核家族化も進んでいます。
老後を過ごす資金は、増えつつあります。
そこに「宙に浮いた年金問題」です。
ますます老後の不安は募ってしまいました。
日本人の金融資産の大半が、塩漬けになってしまった。
おカネが、消費に回らなくなった。
「この国の将来への不安」が伝播し、日本が「通貨危機を起こす」原因になりかねないほどです。
解決策は、「老後の不安を取り除いてあげる」しかありません。
どうすればいいのでしょう?
「生前贈与をしやすいような税制改革」を挙げるムキもありますが、これは「塩漬けされた金融資産を消費に回す方策」だと高齢者に見破られ、実効性があるかどうかは疑問です。
「3世代同居」を進めていくという方法も、核家族化が進む今の流れからすると難しい。
ほとんどの高齢者が資産を使い切れずに亡くなり、その遺産と保険金を手にした、これまた65歳以上の人たちに資産が足されていくだけ。
消費性向の強い20~40歳代前半までの子育て世代にはお金がないという状況が続いてしまいます。
今のところ、これ、といった策は見当たらないようです。
(3)「企業や銀行部門の外貨建て債務の存在」、あるいは「共通の貸し手」など、通貨危機に陥った国々に見られるような外国からの借金問題は、債権国日本では今のところは存在しません。
こうして見てくると、「対外的な問題」には強く、「対内的な問題」に弱い、という対照的な構図がくっきりと浮かびあがってきます。
「高齢者の金融資産が、老後の不安から塩漬けになって消費に回らない」
「その金融資産を政府が借りて(国債を発行して、金融機関を通して資金を得ている)使っているが、借金が膨大になり過ぎた。
このままでは、国民の金融資産を食いつぶしてしまう」
「生産者だった団塊世代が退職し、年金受給者に回り、政府出費がかさむ一方になる」
など、ひとえに「内政問題」なのは明らかです。
このままでは、それぞれが発火し合い、大火事になるのは、まさに火を見るよりも明らかです。
これらの解決法(策があれば、の話ですが)を誤ると国力は衰退の一途。
死臭をかぎつけハゲタカファンドが舞い降りて来る、ということになり、「アジア通貨危機」の時と同じような流れになっていきます。
これで「楽観的になれ」というのには、難しいものがあります。
むしろ、「火事場の馬鹿力」に賭ける他はないでしょう。
日本人に果たして、明治維新の時のような底力が湧いてくるのか。
それとも、おとなしくハゲタカに食べられてしまう運命に身をまかせるのか。
とはいっても、「敵」は国外ではなく、国内にあるのですから、「癌」との闘いのようなものです。
これは、対処が大変に難しい。
中国漁船衝突事件のように、国論が一つにまとまるようなわけにはいきません。
既得権益がはびこっているからです。
総論賛成、各論反対、の世界です。政治家、官僚だけでも、解決は難しい。
あらゆる層の国民が参加しなければ、この改革は成し遂げられないはずです。
成長戦略だけでは、解決できないものがあります。
(株)第一生命経済研究所の嶌谷義清主席エコノミストのいう、「国民のコンセンサス」が、どうしても必要になってきます。
自分たちの国は、何が問題なのか?
解決策は、あるのか?
解決策を阻むものは、何か?
じゃ、どうすれば?
タブーも含め、議論を尽くすことが必要になってくるのでしょう。
いっぽうで、百家争鳴になって、収拾がつかなくなる可能性もあります。
「問題を先送りにしない」菅首相の言葉が本当なら、国民は急いで“授業”を受ける準備をしなくてはなりません。
「通貨危機がどういう理由で起こるのかには定説がない」
ということをご紹介しました。
となれば、通貨危機を回避するには、「誘引する要素」をできるだけ多く取り除いておくという方法が考えられます。
「通貨危機」とは、ジェトロによれば
「なんらかの理由で通貨の価値が下落し、それが経済活動に悪影響を及ぼす減少」。
今は「円高」で日本の輸出産業は苦労していますが、とりあえずここでは「円安」に絞って対策を練ってみます。
(1)「通貨下落は、外国との経済取引において自国の支払いが超過する場合」
(以下、ジェトロの定義に沿って進みます)をいいます。
日本の現状は、どうでしょうか?
主だった国に対して「貿易収支」は黒字になっています。
中国(+香港)、韓国、台湾、シンガポールなどアジアの新興国から、アメリカ、ドイツ、イギリスなど先進主要国からも大幅な黒字です。
いっぽうフランス、イタリア、スイスは、これらの国の「ブランド」がわが国の女性たちを魅了していて赤字。
中東産油国、インドネシア、オーストラリアなどの資源国に対しては赤字です。
そのほか日本人、日本企業は外国への出資・貸付によって、毎年10兆円を超える金利配当収入を得ています。
この所得黒字に貿易黒字を合わせれば、経常収支は20兆円前後の黒字。
10年で200兆円ちかくの経常収支の黒字が日本に流れ込んでいることになります。
今のところ、「日本の支払いが超過する」という事態とは無縁です。
(2)「通貨危機は、『良い均衡』から『悪い均衡』へジャンプする。
つまり、人々が悲観的だと悪い均衡が、楽観的だと良い均衡が実現する」
とあります。
群集行動がなせる業でしょう。
かのアメリカも、未来に希望を抱いている限りは人々も楽観的で、旺盛な消費を好みました。
「世界の富が、永遠に集まってくる」
という信仰に近いものでした。
日本人も、高度成長、バブル時期は同様でした。
デフレに陥っている日本は、その歯車が逆回転しているのです。
人々が楽観的になるには、どうすればいいのでしょうか?
「1460兆円の国民金融資産の65%を75歳以上の高齢者が所有している」
と流布されることがあります。
老後は、長くなっています。
核家族化も進んでいます。
老後を過ごす資金は、増えつつあります。
そこに「宙に浮いた年金問題」です。
ますます老後の不安は募ってしまいました。
日本人の金融資産の大半が、塩漬けになってしまった。
おカネが、消費に回らなくなった。
「この国の将来への不安」が伝播し、日本が「通貨危機を起こす」原因になりかねないほどです。
解決策は、「老後の不安を取り除いてあげる」しかありません。
どうすればいいのでしょう?
「生前贈与をしやすいような税制改革」を挙げるムキもありますが、これは「塩漬けされた金融資産を消費に回す方策」だと高齢者に見破られ、実効性があるかどうかは疑問です。
「3世代同居」を進めていくという方法も、核家族化が進む今の流れからすると難しい。
ほとんどの高齢者が資産を使い切れずに亡くなり、その遺産と保険金を手にした、これまた65歳以上の人たちに資産が足されていくだけ。
消費性向の強い20~40歳代前半までの子育て世代にはお金がないという状況が続いてしまいます。
今のところ、これ、といった策は見当たらないようです。
(3)「企業や銀行部門の外貨建て債務の存在」、あるいは「共通の貸し手」など、通貨危機に陥った国々に見られるような外国からの借金問題は、債権国日本では今のところは存在しません。
こうして見てくると、「対外的な問題」には強く、「対内的な問題」に弱い、という対照的な構図がくっきりと浮かびあがってきます。
「高齢者の金融資産が、老後の不安から塩漬けになって消費に回らない」
「その金融資産を政府が借りて(国債を発行して、金融機関を通して資金を得ている)使っているが、借金が膨大になり過ぎた。
このままでは、国民の金融資産を食いつぶしてしまう」
「生産者だった団塊世代が退職し、年金受給者に回り、政府出費がかさむ一方になる」
など、ひとえに「内政問題」なのは明らかです。
このままでは、それぞれが発火し合い、大火事になるのは、まさに火を見るよりも明らかです。
これらの解決法(策があれば、の話ですが)を誤ると国力は衰退の一途。
死臭をかぎつけハゲタカファンドが舞い降りて来る、ということになり、「アジア通貨危機」の時と同じような流れになっていきます。
これで「楽観的になれ」というのには、難しいものがあります。
むしろ、「火事場の馬鹿力」に賭ける他はないでしょう。
日本人に果たして、明治維新の時のような底力が湧いてくるのか。
それとも、おとなしくハゲタカに食べられてしまう運命に身をまかせるのか。
とはいっても、「敵」は国外ではなく、国内にあるのですから、「癌」との闘いのようなものです。
これは、対処が大変に難しい。
中国漁船衝突事件のように、国論が一つにまとまるようなわけにはいきません。
既得権益がはびこっているからです。
総論賛成、各論反対、の世界です。政治家、官僚だけでも、解決は難しい。
あらゆる層の国民が参加しなければ、この改革は成し遂げられないはずです。
成長戦略だけでは、解決できないものがあります。
(株)第一生命経済研究所の嶌谷義清主席エコノミストのいう、「国民のコンセンサス」が、どうしても必要になってきます。
自分たちの国は、何が問題なのか?
解決策は、あるのか?
解決策を阻むものは、何か?
じゃ、どうすれば?
タブーも含め、議論を尽くすことが必要になってくるのでしょう。
いっぽうで、百家争鳴になって、収拾がつかなくなる可能性もあります。
「問題を先送りにしない」菅首相の言葉が本当なら、国民は急いで“授業”を受ける準備をしなくてはなりません。