絶対に受けたい授業「国家財政破綻」 -196ページ目

エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー12 「アメリカは特許で市場を支配する」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの12回目です。


鳥巣 電気自動車についても、アメリカには何か秘策があるんじゃないですかねえ。


嶌峰 携帯電話の充電容量が半分くらいに減ったところで充電すると、8割くらいしか埋まらない。


これを繰り返していると、電池ってあっという間に駄目になる。


家庭のコンセントに差し込む、これがいちばん電池を駄目にする。


車なんかが、半年~1年で駄目になったら大変なことになる。


何をやらないといけないかというと、プロに交換させなきゃいけない。


既存のガソリンスタンドをぜんぶ充電スタンドにする。


十分に充電したバッテリーとスタンドで交換すればいいだけの話。


後で減った電池をスタンドが充電する。


僕がアメリカの人間であれば、そういうものを開発できれば、アメリカ中のガソリンスタンドをバッテリースタンドに替える。


バッテリーの充電規格をぜんぶ自分たちの電池の規格に統一させる。


鳥巣 ぎょっ!


嶌峰 アメリカで電気自動車を走らせようとしたら、その電池を載せるしかない。


鳥巣 う・・ん。そういう手があるのか。


嶌峰 細かな技術の特許は日本が強いが、ルールという明文化されていない特許については、日本からはほとんどない。


鳥巣 ルールを決めるのは、いつも欧米ですもんね。


日本が技術で台頭してくると、ルールで対抗してくる。


いや、潰しにかかってくる。


日本も考えておかないと。


嶌峰 ただトヨタは今年、アメリカのテスラ・モーターズと提携することに決めましたよね。


あれは、うまい戦略なんです。


アメリカの№1の技術を持っている会社と提携すれば、その会社をアメリカが保護すれば一緒にトヨタも保護される。


鳥巣 トヨタには、そういう深謀遠慮があったんですね。


嶌峰 アメリカはアメリカで、住宅バブルが崩壊したから家計が借金漬けになっていて、バランスシートの調整をせざるを得ない。


そうすると5~10年は簡単には物を買ってくれない。


一方で金融機関には、米国債を買わせるしかありませんから。


金融で稼ぐという手段はない。


そうすると製造などで食っていくしかない。


ただ言い方を変えれば、製造で食っていく自信があるから言っているわけです。


ただしアメリカは物を作って開発していくというより、特許でマーケットをばっと押さえて食っていくというやり方だと思うんです。


アメリカの製造の労働者、技術屋さんていうのは、日本のメーカーに言わせれば


連中はもう、どうにもならない。


食っていけるわけがないよ」


と言っているわけです。


そういうレベル。


そういうマーケットに日本も入っていかないと。


「じゃバッテリーは、うちのライセンスの下に作っていいよ」


と言われてしまうと、どうにもならない。


鳥巣 日本は、得意の物づくりだけで勝負をしようとするとやられる。


アメリカだけでなく、ロシアも韓国も原子力発電所の売込みで日本に勝った。


相手も当然、勝つための方策を考えている。


嶌峰 日本の電気自動車の航続距離は、ここまで頑張って実質100キロちょっと。


それを3~4倍にしなくてはいけない。


そこには相当のお金と人間、資本を突っ込まないと。


それは国が音頭を取らないといけない。


日本人はいい電池を作って1回のフル充電で1000キロは乗れますよ、というところに進みたがる。


しかし300~400キロ乗れれば、今のスタンドの距離があれば十分。


それでいいんですよ。


そういうものをどう国内企業に対して働きかけていくのか。


やっぱり国がフォローしないと。


そして、世界を牛耳ろうとするなら、国が積極的に外交で環境を作っていかなければいけない。


鳥巣 その時、アメリカに対しては圧勝してはいけない。


蓮航議員じゃないけれど、2番のつもりでいいんですよね。


嶌峰 その通りです。


うちの技術と、アンタのずる賢さで、一緒に組んでやらないか。


70対30でいいからサァ~でいいんですよ。


90対10とか、100対0は、避けなくてはいけない。


鳥巣 世界は国家主義的な方向に進んでいると言われますね。


嶌峰 それは各国の財政が立ち行かなくなっているせい。


自分のところの借金をまかなうにはどうすればいいのかが共通の課題になってきている。


国という単位で稼いでいくという動きが強まっていくでしょうね。


鳥巣 国と民が一体となった、国家間ビジネス競争の時代。


日本も「国のかたち」を考えていくうえで影響がありそうですね。


単に「小さな政府」を実現すればいいのか。


シンガポールでは、優秀な官僚を500人ピックアップし、年収2億円の報酬だとか。


嶌峰 優秀な官僚の人たちの力をいかに巧く引き出して活かすか。


その方法を考えることのほうが大事だと思います。


(次回へつづく)


PS


菅内閣の新閣僚の顔ぶれが決まりました。


今や国民の意識が、「財政再建」と「景気(=経済成長)」の両立をどう図るか、に焦点は絞られてきています。


その成否が、国民自身の生活に直結してくるからです。


これから進められる政策に、国民は大きな関心を示していかなければなりません。


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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー11 「世界は国の威信を賭けて戦っている」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの11回目です。


鳥巣 電気自動車については、各メーカーも研究・開発を進めているようですが。


嶌峰 企業は一所懸命に頑張っていると思いますよ。


仲の良い企業同士で組んでもやっている。


でも、そこにかけているお金には限界がある。


こういうものは、お金と人と時間をかけるしかない。


マンパワーも、要するにお金ですから。


鳥巣 私の身内に電器メーカーに勤めているのがいましてね。


法事で会った時に話をしたら、


「もうパナソニックだ、東芝だ、と国内で争っている場合じゃない。


業界の人間はみんな分かっている」と。


私が、


「日本もかつての護送船団方式でやるべきか」と聞いたら、


「軍隊でいい!」と。


裏を返して言えば、相当な危機感を持っている。


嶌峰 面白い話を聞いたんですけどね。


民間さんなんですけど。


研究・開発がすごい重要だということは分かっている。


でも業績は厳しい。


そうすると、いろんな分野、営業とかコスト削減とか言われる。


研究開発だけなぜ聖域なのかと突き上げられる、と。


企業の中だけでそういうのをやらせようとすると、そういうのが出ちゃう。


それじゃあ世界の列強が、国の威信を賭けて動いている時にかなわない。


鳥巣 世界は、競争している。


戦っている。


嶌峰 日本はこの分野では、ものすごいアドバンテージを持っています。


それは見方を変えれば、省エネ、省資源の技術開発を一生懸命にやったのは日本だけなんですよ。


資源がなかったから。


欧米は資源が無尽蔵にあった。


企業の業績を良くするためには、いかに資源を使わないかではなく、いかに人を安く使うか。


そういう経営管理の技術は発達したと思うんです。


だけど、今や電気自動車が金のなる木だと分かった。


今までは努力しない中でこれだけの差。


欧米が本気になった時に、この差が継続できるのか。


鳥巣 中国は、注意する必要はありませんか?


嶌峰 中国は電気自動車を一生懸命に作っていますが、インフラが遅れている。


一番脅威なのは、アメリカです。


ヨーロッパも一生懸命に作っていますが、開発のスピードが遅そう。


フランスは戦略的に動く国ですから、一目置くべきだと思いますが。


鳥巣 日本の研究・開発の進捗状況を調べてみたい。


嶌峰 電池だと、自動車メーカーと電器メーカー。


まつわる資源だと、商社。


技術は、いろんな研究機関がからむ。


同時進行的にスマート・グリッドも含めて、いろんな分野で同じ事をやっていくことが必要になります。


(次回へつづきます)


PS


昨日、若松孝二監督作品『キャタピラー』を新宿の映画館で鑑賞しました。


若松監督は、30年ちかく前にインタビューをしたことがあります。


パワーに衰えなし、スゴイですね。


ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した寺島しのぶさんの熱演も圧巻でした。


寺島さんの主演映画を都内の3か所の映画館で巡回中。


見逃した作品をこの機会に見ようと思っています。


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鳥巣清典の時事コラム02 「世界のリチウム生産と消費量」

ボリビア大統領の訪日が政治空白で延期になったことを書いた後、気になって調べてみました。


世界のリチウム生産と消費の現状は、どうなっているのでしょう。


経済産業省鉱物資源課に取材をしてみました。


「リチウムは、『埋蔵』と『塩湖(濃縮した形で存在)』の2つに大別されます。


世界のリチウム埋蔵量の


1位はボリビアで540万トン(「塩湖」=世界の埋蔵量の49・1%)、


2位がチリで300万トン(「埋蔵」=同27・3%)、


3位は公式な情報は入手できてはいませんが中国で110万トン(「埋蔵」「塩湖」が混在=同10%)と見られています」


これらを総計すると、およそ1000万トンが世界のリチウムの埋蔵量ということになります。


いっぽう、リチウムの消費量はどうなっているのでしょう。


「世界の地域別のリチウム消費量は、2008年度で


1位が中国(世界の29%)、


2位がヨーロッパ(同28%)、


3位が日本(同18%)。


世界全体の総消費量は、21280トンとなっています」


現在は、埋蔵量1000万トンのうち、2万トン(0・2%)を世界が携帯電話などのために毎年消費している計算になります。


日本にはリチウムがないので、海外から輸入しています。


「日本のリチウム輸入国は、


1位がチリで6930トン(チリが海外に輸出しているリチウムの総数は42897トン)、


2位が中国で688トン、


3位がアルゼンチンで285トンとなっています」


「今のところリチウムは、掘れば掘るほど出てきます。


ただし主に南米に遍在しているので、稀少な鉱物資源といわれます。


ボリビアは、これから生産の段階です。


日本、韓国、中国が争奪戦を繰り広げています」


ちなみに、世界で電気自動車が走るようになった時のリチウム消費量については、まだシミュレーションをした数字はないそうです。


PS


日本の財政破綻危機と成長戦略の取材は、同時並行となっています。


午後から資源エネルギー庁に取材に行ってきます。


午前中に予定していた、充電とバッテリー交換ステーションの視察は、相手方に何かトラブルが起こったようで、延期となりました。


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鳥巣清典の時事コラム01 「政治空白と国益損失」

菅首相の続投が決まりましたが、9月15日の産経新聞の一面コラムに衝撃的な記事が載っていました。


「『小沢一郎』はなぜ負けたか」


という見出しで、執筆者は乾正人・政治部長。


「3カ月以上の権力闘争によって、国益が損なわれてしまった事実を忘れてはならない」


その一つの例として、下記のような事実が明らかにされていたのです。


「あまり知られていないが、資源獲得競争でも後れをとった。


南米ボリビアには、エコカーなどに使われるリチウム電池に欠かせないリチウムが大量に埋蔵されている塩湖がある。


この権益確保をめぐって日本、中国、韓国などがしのぎを削っているが、6月に予定されたボリビア大統領の訪日が延期された。


鳩山氏が突然、首相を投げ出したためだが、大統領は先月、韓国を訪問し、経済協力の約束をとりつけた。


日本は先手をとられてしまった。


安倍晋三政権以降、毎年首相が交代することに象徴される不安定な政治状況が、日本の国力を確実に蝕(むしば)んでいる」 


私は、(なんという失態)と、歯軋りをしていました。


(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのロング・インタビューを連載しています。


いろんな専門家にインタビューを重ねてきましたが、成長戦略を具体的に語る人はほとんどいませんでした。


その点、嶌峰氏は明確です。


「日本が集中的に投資するべきは、電気自動車に使う電池の開発。


電気の供給を効率化するスマート・グリッドという次世代の電力網」


と、目標を掲げてくれました。


私はこの構想を日本の成長戦略の中核に据えるべきだと確信しました。


新エネルギーの研究・開発には、日本人を鼓舞するだけの夢があります。


にもかかわらず!政治の空白が、みすみすリチウム資源の権益を逃してしまいかねないことになっていたのです。


ボリビア大統領の訪日のお膳立てをした関係者は、天を仰ぎ、怒りで歯軋りをしたに違いありません。


日本の命運を賭けて動く場合、こういう失点は取り返しがつかないものになってしまいます。


嶌峰氏は、こう述べています。


「(このプロジェクトは)日本の財政も含めた帰趨を決める。


この5年くらいが勝負で、国盗り物語で遊んでいるヒマはないはずなんです」


こういう失態を看過できるような政治家は、


「政治主導」


など口が裂けても言って欲しくはありません。


●用語解説≪リチウムイオン電池≫
充電可能な二次電池の一つ。
正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素材を使用し、両極間をリチウムイオンが往来する電池。
短時間の充電で長時間使用できる。
カドミウムのような有害物質を含まず、エネルギー密度もニッカド電池に比べて大幅に高い。
[参考文献=大辞泉]



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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー10 「アメリカのエネルギー戦略」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの10回目です。


鳥巣 日本人も、世界的な視野で考える必要がありますね。


嶌峰 現在は日本だけでなく、世界的に需給ギャップ、デフレに陥っているんです。


今までは需要をアメリカにお願いしていたのに、アメリカが駄目。


次にお金持ちの日本もヨーロッパも駄目。


どうしても、みんな中国に豊かになってもらって、なんとか物を売って食いつないでいこうとしている。


インドに対しても然りでしょうね。


なにせ、その2つの国とも頭数が多いので、資源が急速になくなります。


資源がなくなるそこを埋める技術というのが、いちばん効率的かつ旨味がある。


いちばんガーンと値段が上がっているのが原油なので、ガソリン以外にも、まつわる商品はものすごく多岐にわたります。


民需をどう抑え、抑えられるのであれば切り換える。


鳥巣 石油に代わる新エネルギーの開発。


「アメリカが、最大のライバル」とおっしゃる理由は?


嶌峰 アメリカは時代の先を見越して、戦略を立てるのが早いですからね。


ブッシュが大統領になって最初の演説の中で、「原発を倍にする」と言ったことがあったんです。


ブッシュはテキサス出身で、オイルまみれ。それがどうしてオイル離れなの?と思ったんです。

●用語解説≪米国第43代大統領 ジョージ・ウォーカー・ブッシュ≫
在任期間は、2001年1月20日~2009年1月20日。
2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件の後に「テロとの戦い」を発表してアフガンに侵攻。
2003年3月には、イラク侵攻を命じる。

嶌峰 電気を火力から原子力に移していく、と。


スリーマイルでの原発事故があってトラウマになっているはずなのに原子力を増やすと言った。


当時のアメリカ経済からいっても、すごく違和感がありました。


一方で、国家の戦略的備蓄を増やしていくと。


国がかかえる石油を倍増すると。


で何年後かに、原油に対して長期の試算をしたら、はっと気がついて。


鳥巣 何を?


嶌峰 要は、中国がドンと成長してきた。


原油の消費量がドーンと増えている。


一方で備蓄量はものすごい勢いで増えませんから。


早ければ2015年には逆転する。


なくなるわけではないが、消費する量が早いので逆転する。


すると、お金を出しても満足に石油が手に入らなくなる時代がやって来る。


そのときにアメリカという国が考えた一番重要な問題は、原油が満足に手に入らなくなると、有事の際に戦車とか戦闘機が動かなくなる。


それは避けなくてはならない。


国が買う原油をぜんぶ軍事に持っていく。


民間部門は、原油は使わない。


ということなんです。


鳥巣 アメリカは軍事的な安全保障を最優先に考える。


ということを覚えておく必要がありますね。


嶌峰 最終的に戦争が起きた時に、最後まで戦車とか動かしたほうが勝ちですから。


ま、ミサイルは別として。


戦闘機とか戦車とかを電気に換えると莫大なお金がかかる。


それは後回しにする。


いかに戦争をする時の原油を国が持っておくか、ということにもう2000年の頃から動いている。


で2004年頃に、中国がそれに気がついて、あわてて世界中の石油を買いに走った。


その頃、日本は何をやっていたかというと、帝国石油が協定でばら撒いたどうしたこうした。


感覚が鈍いんです。


鳥巣 世界の動きを理解するには、彼らの戦略性を見ていなければならない、ということですね。


(次回へつづきます)


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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー09 「スマート・グリッド」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの9回目です。


鳥巣 「国のかたち」を論議する上で、「小さな政府」か「大きな政府」か、というのがよくテーマになります。


お話を聞いていると、この国が何で食っていくのか?


何で稼いでいくか?


のほうが優先課題ですね。


嶌峰 政府のサイズは、その次なんです。


やり方として、歳出を増やすというやり方でやるのか、減税という形でやるのかの違いだけであって、何のためにやるのかが違う。


それがちゃんと焦点に向って行っているのであれば、財政赤字か国債発行が膨らんでも、みんなが使っていくと思いますよ。


何のために使っているのか分からないのに、赤字が膨らんでいる、というのが一番マズイ。


鳥巣 選択と集中が必要。


そして何を選択するかが、いちばん重要だと。


嶌峰 確実なのは電気自動車。


動力ですよ。


発電、動力をどう変えていくか。


そのためのインフラも、ぜんぶ変わっていくわけですから。


スマート・グリッドという電気の供給を効率化します。


そのためには、電線をぜんぶ変えないといけない。


ものすごい需要ですよ。


第二次世界大戦から復興してきた時と同じ需要の規模が生まれる。


●用語解説≪スマート・グリッド≫
情報通信技術を活用することによって、電力の需要と供給を常時最適化する、次世代の電力網。
水力・火力など既存の発電施設と風力・太陽光発電など新エネルギーによる分散型電源を制御し、効率・品質・信頼性の高い電力供給システムの構築を目指す。
地球温暖化対策の一つとして各国で取り組みが進められている。
オバマ米国大統領がグリーンニューディール政策の一つとして掲げ、注目を集めた。
(参考文献=大辞泉)


嶌峰 それは、すごいマーケットですから。


その技術を取るか取らないか。


日本の財政も含めた帰趨を決める。


それは多分、5年とかが勝負です。


鳥巣 5年!


嶌峰 この手のものというのは、ある一点を越えると、ものすごく急速に進んでいきます。


需要が生まれるのは、その後。


もちろん、この5年くらいが勝負で、国盗り物語で遊んでいるヒマはないはずなんです。


あるいは、「政治にウンザリ」なんて言っているヒマはないはずなんです。


鳥巣 「5年」というのは、本当に暗示的です。


日本の国家財政破綻も、「5年以内がタイムリミット」という説が有力視されている。


時間がない。


遊んでいるヒマはない。


まさに、その通りですね。


(次回へつづきます)


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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー08 「トヨタの危機感」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの8回目です。


鳥巣 ポスト石油の産業革命を日本がリードする構想。


もう少し詳しく教えてください。


嶌峰 電気自動車の技術がスタンダードになったとすると、石油、ガソリンは、10年か15年で需要を満たさなくなってしまう。


価格は、青天井に上がっていく。


そうすると世界中の車がぜんぶ電池を使う。


これは日本がこれまでに何10年と稼いできた規模より大きい。


「そんなことが可能ですか?」という話なんですが。


鳥巣 政府の認識はどうなんですか?


民主党代表戦でも、菅首相の「雇用、雇用」とか、小沢(一郎・前幹事長)氏の「国債増発」発言とかは耳に残っても、国民を鼓舞するような目標は出てこない。


嶌峰 政府の中にそれだけ具体的に絵を描く人がいないんです。


世界的にどう動いているかを把握している人が少ない。


仮に理解したとして、それで選挙を戦えるかいうこと。


鳥巣 あ、やっぱり選挙が問題になるんですか。


嶌峰 税金がこども手当に回ってくるのであれば、国民にある程度は戻ってくる。


でも、直接国民には返さない。


とりあえず取った税金を、僕が言ったイメージの世界に賭けるからつきあってくれ。


それを説得できるかどうかは、非常に難しい。


それだけの大風呂敷を広げて説得する意欲がないとそれは動かない。


直接に関係のない分野からは、「不公平だ」という話になる。


同じ企業であっても、そこを突破するのはなかなか難しい。


鳥巣 トヨタが、アメリカの電気自動車メーカーのテスラ・モーターズと提携しました。


嶌峰 あれには、僕もびっくりしました。


アメリカ政府の援助を受けているとはいえ、ベンチャー企業と提携するとは・・。


トヨタが、それほど危機感を持っている現れだと思いますね。


鳥巣 テスラは、リッター380キロ走行に成功したとか。


やはり最大のライバルは、アメリカですか。


嶌峰 だと思います。


大きな成長分野がはっきりと見えた時点で、それこそ総力をあげて開発に取り組んできています。


(次回へつづきます)


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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー07 「石油枯渇は、神風」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの7回目です。



鳥巣 経済成長で財政再建を図っていくのは理想ですが、具体的にはどういう分野での成長が有望とお考えですか?


嶌峰 アメリカ、ヨーロッパは、しばらくは成長は難しい。


一方で中国が台頭して、いろんな物を売りつけようとしている。


頭数が多いから、どうしても物が足りなくなる。


今のうちに新しい省資源とか、新しいエネルギーを開発しようと世界は動いている。


車も電気自動車。


今はフル充電で航続距離150キロとか言っていますが、クーラーとか使うと実際には100キロちょっと。


フル充電で航続距離300~400キロを継続して走行できるような電池を作ればこれほどの成長分野はありません。


そのときに、世界規格を取るか取らないかは、ものすごく大きい。


各国が、血眼になっています。


資源のない日本は、省エネ技術の開発に取り組んできました。


欧米は表現は悪いけれど、鼻くそをほじりながら来た。


今までのところは日本が技術的には1位ですが、彼らが本気になったら追い越されるかもしれない。


鳥巣 巨万の富が見える。


21世紀のゴールドラッシュだ、と。


嶌峰 日本にとっても、神風だと思うんです。


鳥巣 神風・・ですか。


嶌峰 今の日本経済の状況が、仮に1980年代としたどうでしょう。


何をやったらいい?


何も見当たらない。


でも今なら、間違いなく石油が枯渇する時代がやって来る。


いろんなイノベーションが必要になる。


石炭、石油などにつづく、第3か第4の産業革命がやって来る。


とば口に立っているわけです。


鳥巣 技術大国・日本の力を見せるには、まさに好機到来、神風というわけですね。


嶌峰 そこに向って突き進むのが日本にとっては、いちばんリスクが小さい。


あるいは、コストが小さい。


と、僕の中では思っています。


(次回へつづきます)


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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー06 「破綻論と成長論」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの6回目です。


鳥巣 国家財政破綻危機の議論は今後、どういうふうに進めていくべきだと思われますか?


嶌峰 財政の話になると、「無駄に使ったからじゃないか」とか、どうしても突っ込まれるじゃないですか。


それよりは、破綻は近づいているけど、こういう方法で回避できる。


そうすると、皆さんのところにも仕事が行きますよ、と。


前向きなトークを政府も官僚もマスコミもしないと、今の日本人は、なかなか聴く耳を持ってくれない気がします。


鳥巣 私の周りでも、まだ、そういう人は多い。


嶌峰 なぜかって言うと、


財政の穴を埋めることが目的のように聞かれると、オレの生活は20年でここまで落ちたのに、まだ穴を埋めることをしなくてはいけないのか、と考えます。


となるとモチベーションが湧かない。


鳥巣 財政問題は、経済が再生できないことが、本質的な問題だと言われますね。


嶌峰 日本再生論を広めていくという事が大事です。


国民が聞くだけじゃどうにもならない。


考えるためには、前向きに見てもらわなくてはいけない。


それをうながす作業が必要な気がします。


そこで初めて国民は、「何を考えているんだ?」と聞いてくるし、聞かれれば政治家は答えなくてはいけませんから。


国家論、成長論というものを、真剣に考えて語り始める。


そこから、じゃ、どの分野からお金を使おうか、というコンセンサスが絞られてくる。


破綻論だけを描いても、おそらく今の日本人は、たぶん奮起もしないし、パニックにもならない。


粛々(しゅくしゅく)と自分の守りを固める。


城の周りに壁を塗っているだけ。


稼いでも、お金を使わない。


鳥巣 ええ。


嶌峰 もうひとつ、そういうパニックを防ぐためには、何が必要で、どんな世界が待っているかを知った上で、どっちを選びますか?


という事を言わないと、なかなか向いてくれない。


鳥巣 菅首相が財政破綻危機を訴え、消費税を持ち出したけど参議院選挙で惨敗した。


嶌峰 菅さんが、「あと2、3年でギリシャみたいになりますよ」と言ったって、日本人は生活ができていますから。


じゃオレだけ守ろう、という話になるだけ。


成長のためには、日本人が努力しなくちゃいけないわけですが。


努力してくんないですよね。


国に対しても。それだと国家財政の破綻を回避することができない。


国民が、自分のやりたい仕事がないから失業者でいることから、自分が働くことによってその次の生活が待っている、と。


価値判断を変えるようにしていかないといけない。


破綻した時は、こういう生活になりますよ。


でも成長すればこういう世の中になりますよ。


ということも、合せてちゃんと出してあげないと。


(次回へつづきます)


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エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー05 「国の借金は、誰に借りているの?」

(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの5回目です。


鳥巣 国の財政危機を論じていく時に、具体的には消費税増税について判断していく場合に、国民はいくつかハードルがあると考えていると思っているんですね。


ただでさえ不況で生活に困窮している上に、これ以上の重税はたまらない、という反発はもちろんあります。


それ以外にも、無駄な政府支出が行われていないのか。


公務員の人件費の削減はどうなっているんだ。


そして、埋蔵金の存在の有無。


いったい、どれくらいあるのかが判然としない。


嶌峰 鳥巣さんの本の中でも、(元財務省。現在、嘉悦大学教授の)髙橋洋一先生が「埋蔵金がいっぱいあるじゃないか」と、「天下り先を減らせばいいじゃないか」とおしゃっている。


鳥巣 髙橋先生は、「公務員が老後のために、天下り先の特殊法人などに300兆円くらいを貯め込んでいる」と。


そこまで言われると、政府に協力しようとしても、国民の総意として前向きに議論ができにくいところがあります。


ここをクリアにしなくてはいけないでしょうね。


嶌峰 家庭の収入が400万円ある、と想定してみます。


収入以上に600万円を使っている。


そのうち100万円は、奥さんがヘソクリでどこかに貯め込んでいる。


だから、そのヘソクリを出しゃいいんだよ、という話なんですが。


ヘソクリは100万円しか使っていないとするならば、400万円の収入に対して、そのヘソクリの分も含めて500万円の支出がある。


しかし、その支出は、子どもが大きくなるにつれて、だんだん大きくなる。


とすれば、方向性としては、やっぱり・・。


そのヘソクリの一部を使えばだいぶ違うんですよ、という話はもちろんあるんですが、財政の構造自体は変わらない。


ということと、その分、資産をぐっと減らすわけですから。


結局、資産を担保にしてお金を借りているんですよ。


という構造からすれば、資産も債務も圧縮されれば、担保価値分としての資産が減れば、やっぱり借りられる限度は同じですよ。


鳥巣 俯瞰的に見れば、そういうことになるんでしょうね。


「どうして、へそくりを隠しているんだ」とか、感情的な問題は残りますね。


嶌峰 もっとアレなのは、国の借金は、誰に借りている? 


私たちが貸している? 


それを私たちが返さなくてはいけない? 


日本人に日本人が、返す必要はない。


国が返せばいいでしょう、という話なんです。


国が借金を返す方法が税金なんですが。


そういう意味では、「税金を上げますよ」という時に、国は相応の説明が必要になる。


そこが、我々が借金しているみたいな話になっている。


我々は、道路とか便益を受けているわけで、そこは本当は考えなきゃいけないんですが。


上目線から言われた時に、日本人が「受け入れられません!」と言うのは、それはその通りです。


だって、我々が国にお金を貸しているわけですから。


その肌感覚はあると思う。


おばさんが財政が全然分かっていなくても、「なんで?」という。


だから、国の無駄遣いが今でもじくじく言われる。そこらへんを、つまびらかにした上で言わないと。


それで一番マズイのは、しかも国債が何のために使われているかを国民が分かっていないということなんです。


これが本当に一番マズイ。


鳥巣 それでいて、その国債が暴落するかもしれない、と。


急にそういうことを言われても、一体どういうことなんだろう? と思いますよね。


(次回へつづきます)


PS

財政問題は、分からないことが多いと思います。疑問点があれば、どしどし書き込んでください。取材の参考にさせて頂きます(鳥巣 拝)


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