エコノミストの嶌峰義清氏インタビュー12 「アメリカは特許で市場を支配する」
(株)第一生命経済研究所の嶌峰義清・経済調査部主席エコノミストのインタビューの12回目です。
鳥巣 電気自動車についても、アメリカには何か秘策があるんじゃないですかねえ。
嶌峰 携帯電話の充電容量が半分くらいに減ったところで充電すると、8割くらいしか埋まらない。
これを繰り返していると、電池ってあっという間に駄目になる。
家庭のコンセントに差し込む、これがいちばん電池を駄目にする。
車なんかが、半年~1年で駄目になったら大変なことになる。
何をやらないといけないかというと、プロに交換させなきゃいけない。
既存のガソリンスタンドをぜんぶ充電スタンドにする。
十分に充電したバッテリーとスタンドで交換すればいいだけの話。
後で減った電池をスタンドが充電する。
僕がアメリカの人間であれば、そういうものを開発できれば、アメリカ中のガソリンスタンドをバッテリースタンドに替える。
バッテリーの充電規格をぜんぶ自分たちの電池の規格に統一させる。
鳥巣 ぎょっ!
嶌峰 アメリカで電気自動車を走らせようとしたら、その電池を載せるしかない。
鳥巣 う・・ん。そういう手があるのか。
嶌峰 細かな技術の特許は日本が強いが、ルールという明文化されていない特許については、日本からはほとんどない。
鳥巣 ルールを決めるのは、いつも欧米ですもんね。
日本が技術で台頭してくると、ルールで対抗してくる。
いや、潰しにかかってくる。
日本も考えておかないと。
嶌峰 ただトヨタは今年、アメリカのテスラ・モーターズと提携することに決めましたよね。
あれは、うまい戦略なんです。
アメリカの№1の技術を持っている会社と提携すれば、その会社をアメリカが保護すれば一緒にトヨタも保護される。
鳥巣 トヨタには、そういう深謀遠慮があったんですね。
嶌峰 アメリカはアメリカで、住宅バブルが崩壊したから家計が借金漬けになっていて、バランスシートの調整をせざるを得ない。
そうすると5~10年は簡単には物を買ってくれない。
一方で金融機関には、米国債を買わせるしかありませんから。
金融で稼ぐという手段はない。
そうすると製造などで食っていくしかない。
ただ言い方を変えれば、製造で食っていく自信があるから言っているわけです。
ただしアメリカは物を作って開発していくというより、特許でマーケットをばっと押さえて食っていくというやり方だと思うんです。
アメリカの製造の労働者、技術屋さんていうのは、日本のメーカーに言わせれば
「連中はもう、どうにもならない。
食っていけるわけがないよ」
と言っているわけです。
そういうレベル。
そういうマーケットに日本も入っていかないと。
「じゃバッテリーは、うちのライセンスの下に作っていいよ」
と言われてしまうと、どうにもならない。
鳥巣 日本は、得意の物づくりだけで勝負をしようとするとやられる。
アメリカだけでなく、ロシアも韓国も原子力発電所の売込みで日本に勝った。
相手も当然、勝つための方策を考えている。
嶌峰 日本の電気自動車の航続距離は、ここまで頑張って実質100キロちょっと。
それを3~4倍にしなくてはいけない。
そこには相当のお金と人間、資本を突っ込まないと。
それは国が音頭を取らないといけない。
日本人はいい電池を作って1回のフル充電で1000キロは乗れますよ、というところに進みたがる。
しかし300~400キロ乗れれば、今のスタンドの距離があれば十分。
それでいいんですよ。
そういうものをどう国内企業に対して働きかけていくのか。
やっぱり国がフォローしないと。
そして、世界を牛耳ろうとするなら、国が積極的に外交で環境を作っていかなければいけない。
鳥巣 その時、アメリカに対しては圧勝してはいけない。
蓮航議員じゃないけれど、2番のつもりでいいんですよね。
嶌峰 その通りです。
うちの技術と、アンタのずる賢さで、一緒に組んでやらないか。
70対30でいいからサァ~でいいんですよ。
90対10とか、100対0は、避けなくてはいけない。
鳥巣 世界は国家主義的な方向に進んでいると言われますね。
嶌峰 それは各国の財政が立ち行かなくなっているせい。
自分のところの借金をまかなうにはどうすればいいのかが共通の課題になってきている。
国という単位で稼いでいくという動きが強まっていくでしょうね。
鳥巣 国と民が一体となった、国家間ビジネス競争の時代。
日本も「国のかたち」を考えていくうえで影響がありそうですね。
単に「小さな政府」を実現すればいいのか。
シンガポールでは、優秀な官僚を500人ピックアップし、年収2億円の報酬だとか。
嶌峰 優秀な官僚の人たちの力をいかに巧く引き出して活かすか。
その方法を考えることのほうが大事だと思います。
(次回へつづく)
PS
菅内閣の新閣僚の顔ぶれが決まりました。
今や国民の意識が、「財政再建」と「景気(=経済成長)」の両立をどう図るか、に焦点は絞られてきています。
その成否が、国民自身の生活に直結してくるからです。
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