WHO が北半球の国々に対して発育鶏卵を用いて製造する H3N2 のワクチン株に推奨したのは A/Croatia/10136RV/2023 およびその類似株、培養細胞を用いて製造するワクチンや遺伝子組換えワクチンに推奨した株は A/District of Columbia/27/2023 およびその類似株。
2つの株は、抗原タンパク質の1つである HA の遺伝子系統解析において、サブクレード J.2 に属する。
例)A/Croatia/10136RV/2023 は HA のサブクレードが J.2 で NA のサブクレードが B.4.2
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新たなサブクレードの派生は、HA タンパク質にアミノ酸置換を含む変異が生じた株の出現を意味する。
アミノ酸置換が抗原部位(エピトープ;抗体が結合する部位)に生じた株では抗原性が変化する。
こうして、派生が進行するに従って少しづつ抗原性が変化する。
今秋、世界中で新たなサブクレードの株が急速に、かつ、優勢に感染を広げている。
その株はサブクレード J.2.4 から派生し、初めて検出されたのは6月(欧州において)で、当初はサブクレード J.2.4.1 とされたが、抗原性に関係する重要な変異が生じていた(後述)ことにより、サブクレード K と改称された。
サブクレード K はサブクレード J.2 およびそれから派生した J.2.1、J.2.2、J.2.3、J.2.4、J.2.5 と同じクレード 3C.2a1b.2a.2a.3a.1(略称 2a.3a.1)に属する。
次の図を見ると、2025年の後半からはクレード 2a.3a.1 の株ばかりになり、中でもサブクレード K の株が急激に割合を増していることが分かる。
図:この3年間の A/H3N2 の HA に関するサブクレードの推移(Nextstrain より)
H3N2 亜型の HA タンパク質には5か所の抗原部位(A~E)があり、HA タンパク質は3量体を形成するので、3量体には各抗原部位が3か所ずつある。
図:H3N2 亜型の HA タンパク質3量体の構造と抗原部位 A~E
Analytical and Bioanalytical Chemistry (2022) 414:2841–2881 より
European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC; 欧州疾病予防管理センター)が11月20日に発表した Threat Assessment Brief(リンク)によれば、サブクレード K の基準株 A/Norway/8765/2025 の HA タンパク質において、A/Croatia/10136RV/2023 と比べて以下の9か所のアミノ酸置換が生じている。