※登場する人物・団体名等は、架空のもので実在しません。
二日後、雲母は将棋会館の対局室にいた。早指しの銀河王戦の予選であった。この棋戦は、早指しのため、勝てばもう一局すという変則的なものだ。今日連勝できれば、連勝記録更新に大きく前進する。対戦相手は、糸山八段。糸山八段は早指しで知られる強豪で、ランキングA に所属するトップ棋士である。午前九時、対局が始まった。先手は、糸山八段である。初手、1六歩。いきなり変則な一手が飛び出した。しかし、雲母は驚く様子もなく、淡々と飛車先の歩を伸ばした。この変則的な初手を、雲母は何度か経験していたからである。雲母の8四歩を待って、糸山八段はさらに端歩を伸ばした。雲母も8五歩と飛車先を伸ばした。二十一手目、先手は飛車を5八へと移動させた。雲母は、7六飛車の横歩取りから二筋へと飛車を転回させた。この時点で、形勢は後手の雲母が指しやすいものとなっていた。
この対局を検討していた若手棋士たちは、雲母の飛車の動きに注目していた。
「後手の飛車が十字に活躍しているなあ。これは、糸山八段は苦しいかも・・・。」
「そうですねえ。この後、後手の飛車は8筋に戻り、局面をさらに有利に持って行けそうで すね。」
「それにしても、端歩の連打には驚きましたねえ。」
「ですねえ。まあ、糸山八段ならやりそうですけれどね。」
局面は、中盤を迎えていた。先手陣は、5筋に飛車と角が縦に並ぶ珍しい形になっていた。形勢は、後手の雲母の有利な展開であった。先手は、飛車を3筋に移動させ局面の打開を図るが、この構想がやや無理筋で、後手の有利が拡大してしまった。終盤、先手の1筋からの攻めが続いたが、雲母が冷静に先手玉を追い詰めることに成功。136手で糸山八段が投了を告げた。
「5六に飛車を浮いた手が悪かったですかねえ。」
「うーん。この局面では、3六歩、3七桂という手順がちょっと気になっていました。」
「なるほど。右桂の活用ですか・・・」
感想戦は小一時間ほど続いた。不思議なことに初手からの歩の連打については、全く触れらなかった。午前十一時三十分、感想戦が終わったとこで、銀河王戦担当者から連絡が入った。
「雲母先生、午後の対局は十三時からとなります。昼食は控え室にご用意しましたので。午 後の対局室は、三階の特別室です。よろしくお願いします。」
「承知しました。ありがとうございます。」
難敵を下し連勝記録を26と伸ばした雲母は、控え室に行く途中会長室へ向かった。
「先生、いらっしゃいますか?」
「おう、雲母君か。どうぞ、どうぞ。」
「先生、お元気そうで何よりです。」
「心配かけたねえ。この通り、ピンピンしてるよ。幸い、何処も悪いところなしだよ。」
「そうですか。よかった。よかった。」
「それはそうと、対局はどうだったかな?」
「はい。何とか一勝を加えました。」
「おお、それは素晴らしい。じゃあ、午後も対局だね。」
「はい。十三時からです。」
「連勝を祈ってるよ。」
「ありがとうございます。気を引き締めていきます。では、また。」
会長室を出た雲母は、清々しい気分で控え室へと向かった。
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