藤井聡太棋王、カド番で見せた“神の読み”~棋王戦第4局を深層解析
棋王戦第4局は、ただの一局ではありませんでした。
負ければ失冠、勝てば最終局へ──藤井聡太六冠にとって“後がない”舞台であり、挑戦者・増田康宏八段にとっては初タイトルへ王手をかける絶好の機会でした。緊張が張りつめた盤上で、両者は序盤から一歩も引かない相掛かりの激戦を繰り広げ、形勢はやや先手寄りの状況が続きました。しかし、互角の範囲から動かず、両者の読みがぶつかり合いました。
中盤では、角の打ち合いと歩の連打が交錯し、AIでも評価が定まらない難解な局面が続きました。そして迎えた終盤、増田八段が放った“5連続王手”。勝負を決めにいく渾身の攻めに対し、藤井六冠はすべて最善で応じ、わずかな安全地帯へと玉を逃がしていきます。極限の読み合いの末、藤井六冠が反撃の糸口をつかんだ瞬間、盤上の空気は一変しました。
本局は相掛かりの出だしとなり、先手増田八段は1手目▲2六歩、3手目▲2五歩と、現代相掛かりの王道を進みます。後手藤井六冠も△8四歩〜△8五歩と応じ、互いに飛車先を伸ばし合う“スピード勝負”の構図が早くも整います。
序盤の最初の分岐は13手目▲2四歩〜15手目▲同飛の仕掛けです。増田八段は飛車先交換を強行し、後手に△2三歩を打たせて飛車を引く形に誘導します。これは相掛かりでよくある“歩を持たせて主導権を握る”狙いで、増田八段らしい積極策です。
後手は△3四歩〜△3三金と構え、飛車の横利きを止めて安定を図りますが、先手は▲3六飛と横歩取り風の配置に飛車を据え、後手の陣形にプレッシャーをかけ続けます。この時点で、先手は飛車が活発、後手は玉形が安定という典型的な相掛かりのバランスです。
22手目△8六歩〜24手目△同飛は藤井六冠の積極的な踏み込みで、飛車を捌きながら先手の陣形に揺さぶりをかけます。しかし増田八段は▲8七歩と冷静に受け、飛車を追い返して主導権を渡しません。
ここまでの応酬は互角ながら、**先手の“攻めの形”、後手の“受けの形”**がはっきりと分かれ、後の中盤戦の激しさを予感させる流れでした。
31手目▲同飛に対し、藤井六冠は32手目△8八角成と踏み込みます。これは後手の角交換からの強手で、先手の金銀の連結を乱す狙いがあります。増田八段は▲同銀と応じ、角を手持ちにした後手に対して慎重に構えます。
その後、後手は△2二銀〜△5二玉と“玉の早逃げ”を選択し、先手の飛車の横利きを避けながら中盤戦に備えます。
一方、先手は▲7七銀〜▲4七銀と銀を活用し、攻めと受けの両面を見据えた柔軟な布陣を整えました。
40手目△6四歩の段階で、局面は完全に“中盤の入り口”に差し掛かります。
ここまでの評価としては、
• 先手:飛車が活発で攻めの形が良い
• 後手:玉が安定し、角を持っているため反撃力が高い
という、まさに“相掛かりらしい互角の難解局面”でした。
【中盤 詳細解説】41〜90手付近
41手目▲4六歩から中盤戦が本格的に動き始めます。先手は飛車を3筋に構えたまま、4筋の歩を突き合わせて後手の銀の進出をけん制しつつ、攻めの含みを持たせる狙いです。後手は△6三銀〜△7四歩と、右銀を積極的に繰り出して主導権を奪いにいく構えを見せます。相掛かりでは後手が銀を繰り出す形はややリスクもありますが、藤井六冠は玉の早逃げを済ませているため、攻め合いに踏み込む準備が整っていました。
47手目▲3七桂に対し、後手は△6二金と受けの形を整えます。ここで先手は▲4八金と固め、後手は△8一飛と飛車を引き締めるなど、両者が“攻めと守りのバランス”を慎重に調整していることがわかります。
中盤の最初の大きな山場は、57手目▲5七角打です。この角打ちは、
• 7五の地点をにらむ
• 後手の銀・桂の連携を乱す
• 飛車の横利きを強化する
という複数の狙いを含んだ高度な一着で、増田八段らしい鋭さが光りました。
これに対し藤井六冠は△8三飛とかわし、先手の角の利きを避けつつ反撃の準備を整えます。続く▲7五歩〜▲同角に対し、△7四銀とぶつけたのが藤井らしい“受けながら攻める”妙手で、ここから局面は一気に複雑化します。
64手目△5三角打は、後手が角を手持ちにしている強みを活かした反撃の一着で、先手の飛車・銀・角の連携を乱す狙いがあります。
先手は▲1五歩〜▲1三歩と端攻めを絡めて揺さぶりをかけますが、後手も△6六歩〜△8六歩と歩を連打し、先手陣に迫ります。特に76手目△8六角は鋭い踏み込みで、先手の金銀の連結を乱しながら飛車取りを含む強手でした。
このあたりはAI的にも形勢が揺れ動き、どちらが優勢とも言えない“読みの勝負”でした。
そして90手目△7五桂打で、後手は先手玉への攻め筋を明確にし、終盤戦へ突入します。

【終盤 詳細解説】91手以降〜投了
91手目▲2四歩打から、終盤の激戦が幕を開けます。
先手は歩を叩いて飛車を活用し、後手玉に迫る準備を整えます。
藤井六冠は△8七桂成〜△同飛成と踏み込み、ついに先手陣に龍を作り、攻めの主導権を握りました。
しかし増田八段も負けていません。
97手目▲2一飛成は鋭い寄せで、後手玉に迫る“勝負手”。
後手は△2二金と受けますが、先手は▲3一龍と食い下がり、玉頭戦に持ち込みます。
ここからが本局最大のクライマックスです。

101手目▲6四角打
この角打ちは後手玉をにらみつつ、▲7三角成〜▲同角成の両狙いを含む強烈な一着で、増田八段の勝負勘が光りました。
藤井六冠は△4一金と辛抱し、先手の攻めを受け止めますが、先手は▲7三角成〜▲同角成と攻めを継続し、ついに後手玉が薄くなります。
108手目△8九龍は後手の勝負手で、先手玉に迫る決定打を狙った踏み込みです。
ここで先手は▲8六歩と受け、後手の龍を追い返しながら反撃の糸口を残します。
しかし後手は△7七歩成〜△6八とと迫り、先手玉を薄くしていきます。
先手は▲4七玉と逃げますが、後手は△5九龍と迫り、ついに先手玉が危険圏に入ります。
ここで増田八段は121手目▲5五桂打からの“5連続王手”に踏み込みます。
• ▲5五桂
• ▲5四銀
• ▲5五銀
など、玉頭に迫る連続攻撃で、藤井玉を追い詰めにかかります。
しかし藤井六冠はこれをすべて最善でしのぎ、
• △同歩
• △同玉
• △6三玉
と逃げながら自玉の安全を確保します。
この“受けの正確さ”こそが藤井将棋の真骨頂であり、勝敗を分けた決定的なポイントでした。
最終的に先手は攻めが切れ、後手玉は安全圏に脱出。
一方で先手玉は龍と角の利きの網にかかり、詰み筋が生じたため、126手で増田八段の投了となりました。

投了図