よく、採卵を早めに、遅めに、などと言ったりしますが、質問や相談、あるいは誤解もある部分なので、今日は採卵のタイミングが早い、遅いについてお話したいと思います。

 

刺激周期(高刺激)ではしっかり排卵抑制(排卵しないように抑える薬)をしますので、排卵しやすい体質であるか、薬が効きにくい体質とか、その周期の治療がたまたま合わないとか、運が悪い周期とか、担当医がイケてない等以外は、排卵抑制を併用しながら刺激する限り、卵胞が40mmくらいまでなら、排卵させないまま刺激を続けることができます(体質やその周期の状況にもよります)。

 

ここで皆様が気にされるのが、「月経はいつも〇〇周期」とか、「次回の月経予定は〇〇日」とか、「月経〇〇日目で採卵」といったことですが、自然周期や内服のみの低刺激で採卵する場合以外は、ほとんどの場合は関係ありませんので、いったんこれらのことは忘れるようにしてください。

 

採卵が早めとか遅めとか私たちが表現するのは、例えば、E2値や卵胞の大きさに対して、普通ならその3日後くらいに採卵を組むのが標準的だが、早めに2日後にしようとか、遅めに4~5日後にしようということであって、あくまでも月経〇〇日目ということではなく、ホルモン値や卵胞の大きさとの比較になります。

 

採卵決定が早すぎると、卵回収率、卵成熟率(未熟卵しか取れない)が悪化する可能性があります。排卵しなければよい、というものではなく、成熟卵が取れなければ意味がありません。自然周期かそれに近い周期で採卵をして、主席卵胞以外の小卵胞から取れた未熟卵は、最初から未熟で取れて当たり前のものですから成熟培養すれば成熟することもありますが、刺激周期の場合は、卵胞が小さいうちに未熟卵で取っても今一つであることが多いです。とは言え、採卵決定時で15mmくらいあれば、ちゃんとトリガーすれば50%くらいの確率で成熟卵が得られます。

 

採卵決定が遅すぎると、卵回収率、卵変性率が悪化する可能性があります。医師の中にも25mmを超えたら排卵だ変性だと必要以上に心配を煽る方もおられますが、実際には排卵抑制がきちんとなされていれば排卵することは少なく、採卵決定時の卵胞の大きさとしても30mmくらいまでは大丈夫なことが多いです。卵胞の大きさと卵回収については、合う・合わないが大きいので、自分に合った状況があれば、それに従って治療する必要があります。

 

様々な考え方がありますが、採卵決定時(トリガー日)の卵胞の大きさは20~22mmあたりを基準として、卵胞18~19mmで採卵決定すると「早め」、卵胞25mm以上まで育ててから採卵決定すると「遅め」となります。早めに採卵決定するのは、過去に複数回排卵してしまったことがあり、刺激を変えてもNSAIDs(ボルタレン等)を使用しても無効であり、かつ今まで未熟卵が問題になったことがあまりないような場合、遅めに採卵決定するのは、過去に排卵してしまったことがあまりなく、どちらかといえば未熟率や卵回収率の問題を抱えているような場合です。

 

採卵を遅めにしたい場合、アンタゴニスト法でもよいのですが、未熟問題を抱えていることが多いのでダブルトリガーを実施したい場合が多く、その時点でロング法とショート法は選択枝からはずれます。またアンタゴニスト法の場合、アンタゴニス注射(セトロタイド、ガニレスト)はできれば1周期あたり3回以内にしたいので採卵を遅めに決めたい場合は不利、アンタゴニスト内服(レルミナ)はLHが下がり過ぎてしまうことがあることがあるので未熟問題を抱えている場合はできれば使いたくない、残るのはPPOS(黄体フィードバック法)です。もともと卵子の質・数と、コスト面、注射でも点鼻でもなく内服で排卵を抑えるコンプライアンス、あらゆる面で刺激周期の中でもともと秀逸な方法ですが、排卵を遅めにしたい場合も最もやりやすく、良い方法です。

PPOSは、月経8日目からルトラールなら1日1錠内服すれば十分ですが、よりしっかり排卵を抑えて卵胞を大きくしていきたい場合は、月経中からルトラールを内服する、LH>5ならルトラール2T/日で内服開始する、あるいは途中から2Tに増量する(2TでもLH>5なら3Tに増量する)、採卵決定時にLH>10ならインドメタシンやボルタレン等を併用する等すればうまくいきやすくなります。

 

あくまでも卵胞の大きさやE2の値を参考に早い・遅いと判断しますので、前回が月経〇日目で採卵とか、今回は〇日目であるとか、そういうことは基本的には気にしなくて大丈夫です。

 

採卵は1回1回が情報ですので、そこで未熟が多い、変性や空胞が多い、もしくは期待通りの結果が得られない場合でまた採卵をした方がよい場合、トリガーの薬剤やタイミング、そして採卵のタイミング、卵巣刺激等について検討し、直近1回のデータも加えて方針を練り直し、次の周期の参考にします。

 

 

当院は、採用薬剤が多数あるだけでなく、自然周期から低刺激、中刺激、高刺激、超高刺激まであらゆる卵巣刺激に対応し、豊富な経験と豊かな治療方針の引き出しから最適な治療方針をご提供しています。当院の卵巣刺激過去ログも、ぜひご一読ください。

 

 

【卵巣刺激について】

採卵周期中の出血

採卵周期中の出血

採卵周期中の出血

HMG製剤とFSH製剤

☆☆☆卵巣刺激に使うHMGの量はどのように決めるのか

☆☆卵巣刺激法とその薬剤 前編

☆☆卵巣刺激法とその薬剤 後編

FSH調節法 前編

FSH調節法 後編

☆☆黄体フィードバック法(PPOS)について

排卵してしまったのでしょうか

排卵抑制は諸刃の剣

「点と線」(ホルモン値の読み方)前編

「点と線」(ホルモン値の読み方) 後編1「FSH」

「点と線」(ホルモン値の読み方) 後編2「E2」

「点と線」(ホルモン値の読み方) 後編3「ホルモンが変」 

当院の卵巣刺激

高刺激、中刺激、低刺激、自然周期に定義はない

遅延スタート法(月経中に"遺残卵胞"がある場合、月経中に卵胞が少ない場合)

刺激に対する反応性は人それぞれ、周期によりけり

卵巣刺激法「〇〇法」の分類なんて意味がない?

アンタゴニストの使い方

排卵誘発における low dose hCG療法とは

DHEA

卵巣刺激は、ホルモン値と卵胞発育の状況から刺激量を増減させるとうまくいく 前編

卵巣刺激は、ホルモン値と卵胞発育の状況から刺激量を増減させるとうまくいく 後編