排卵してしまったのでしょうか、というのは外来で時々聞かれる質問です。
排卵の兆候として皆さまがお感じになるのは、「おりものが増えた」「お腹が痛い」「(排卵誘発中の場合など)お腹の張りがラクになってしまった」などです。では、これらは本当に排卵の兆項なのでしょうか。
「おりものが増えた」は、体内のE2(エストロゲン)が増えたことを反映しています。卵胞発育→E2増加→排卵、という流れがありますので、おりものが増えたあと排卵という流れは間違いではありませんが、排卵と直接関連があるわけではなく、あくまでもE2増加の反映です。ですから体外受精治療中で、セトロタイドやルトラール、ブセレリンなどの点鼻薬(ショート法の場合)等で排卵抑制をしている場合は、卵胞は育つが排卵はしない=おりものは増えるが排卵はしない、という状況が起こり得ます。
ペラニンデポやプロギノンデポなどのエストロゲン製剤の筋注や、エストラーナテープ貼付、ジュリナやプレマリンの内服により外因性にE2(エストロゲン)が増えてた場合もおりものは増えます。これは薬に反応しておりものが増えただけで、排卵の兆項ではありません。実際に、薬を使っている場合は、ほとんどは薬の影響なのですが、本当に排卵そのものも起こっていることが全くないわけではないので、説明には気を使います。
「お腹が痛い」は難しい。腹痛だけで本が1冊書けてしまうほど腹痛は奥が深いです。お腹の真ん中が痛くて生理痛に似ている場合は、子宮内膜が厚くなってきて、それが痛みの原因になっていることがあります。左右どちらかに鈍い痛みがある場合、排卵痛の可能性はあるのですが、排卵痛には3種類あって、卵胞が育ってきて周囲を圧迫はしているが排卵はしていない場合、排卵そのものが痛い場合、排卵後に黄体(排卵後に一時的に卵巣にできる血腫)が形成されることによる場合もありますので、排卵そのものが痛かったとは限りません。腸と子宮卵巣は近いですから、便秘とか胃腸炎、別の臓器でお腹が痛いこともあり得ます。
排卵痛は奥が深く、本当に痛い場合は救急車レベルで痛いこともあります。何をしていた時に痛み出したか言えるくらい急に痛み出し、救急車を呼んだが、救急でCT撮ってもエコーしても採血しても何も所見ない。そりゃそうです、排卵痛なんですから。そして最後に婦人科にまわってきて、最終月経2週間前、経腟エコーでどちらかの卵巣に排卵の所見、内膜はまだ排卵から時間が立っていない所見、「排卵痛ですかね」。しかも厄介なことに、人生初の「ガチで痛い排卵痛」は30代半ば以降であることが多く、いくら説明しても、「私は人生で1度も排卵痛になってなったことがなかったのに、今回だけこんなに痛いのはおかしいのではないか」と最初はなかなか納得してもらえないのですが、婦人科にまわってくる頃には症状も落ち着いていることが多く、本人も落ち着いてきて、ほどなくご納得、なんていう光景が、総合病院の産婦人科だと、年に1回くらいあります。
腹の張りがラクになった、も厄介です。特に刺激周期での体外受精(採卵)周期で、採卵2日前にhCGの注射を打ち、その翌日(採卵前日)や採卵当日朝に、あれだけ張っていたお腹がラクになってしまうことが時々あります。採卵前はそういうことがよくあり、実際に排卵していることはほとんどないのですが、ごくたまに、本当に排卵しているケースが全くないわけではないので、注意してご説明します。
基礎体温もあまりあてになりません。もちろん、何日も連続で体温が高ければ排卵している可能性もありますが、1日ちょっと体温が高かっただけでは、翌日に低温期に戻っていることはよくあることだし、寝室の気温や毛布の有無などにも左右されます。また、刺激周期で採卵する場合、採卵前日くらいから、高温期になってしまっていることが往々にしてあります。
診察での質問の場合は、その日の超音波所見とかホルモン値が目の前にある状態で回答するので答えやすいのですが、こういったご質問をお電話でいただいた場合、想像でしか回答できない上、色々な可能性もありますので、様々な可能性を踏まえて、最も可能性が高いと思われることを回答しております。
ということで、今日は、「排卵してしまったのでしょうか」というよくあるご質問についてお話ししました。次回もお楽しみに。
☆は特にお読みいただきたい内容です。
レギュラー編
☆体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、どちらが確率が高いか(15)
番外編
☆25mプールを72往復?(人工授精のベストなタイミング)(番外編4)
☆ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらが妊娠率が高いか(番外編5)
結局、ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらを選んだらよいのか(番外編5 後編)
ヘパリン治療について(番外編8)(リブログ)
☆カウフマン療法(番外編9)(リブログ)