皆様の胚を培養する心臓部、培養液と培養器。そのうち今日は培養液についてご紹介したいと思います。

世界初の体外受精成功は1978年イギリスのエドワードらによるものでした。体外受精のためには、採卵、検卵、精子調整、媒精(体外受精、顕微授精)、受精確認、培養、胚評価、移植のすべてがうまくいかなければなりません。培養部には、クリーンベンチやそこに設置されている顕微鏡、遠心分離機、培養器とそれに付随する混合ガス管、マニピュレーター(顕微鏡用)、配偶子を扱うガラス管、凍結タンクや液体窒素、その他無数の機器類があります。そして胚がほとんどの時間過ごすのが培養液(メディウム)であり、それを格納して育てるのが培養器(インキュベーター)があります。

具体的なことは差し控えますが、それらの機器の1つ1つは高級外車のような値段であり、培養液は1ccあたりの値段で比較すれば、ものによっては超希少ビンテージワインのような値段です。

体外受精の創成期は胚盤胞培養が困難と言われており、D2あるいはD3まで培養したら子宮内に移植するといった方法がなされていました。培養液には、グルコース、ピルビン酸、乳酸、アミノ酸などが含まれていますが、D3までは比較的低グルコースで、D3以降胚盤胞まで育てるためには、グルコース濃度を手厚くするなど途中で培養液の組成を変えることで胚盤胞まで育てることができるようになりました。この、途中で培養液を変えるタイプのものを、「シーケンシャルメディウム」と言います。

しかし、途中で培養液を変えるのは管理も煩雑であり、またD3でメディウムチェンジが必須になるなど業務が煩雑になるため、試行錯誤して開発されたのが、最初から胚盤胞まで同じもので育てられる設計のもので、これは、シングルステップメディウムと言います。「途中でメディウムチェンジがいらないので胚に優しいのがメリット」と謳っておきながら、D3で新しいメディウムに交換しているクリニックも少なからずありますが、途中で変えても変えなくても成績は変わらないようです(メディウムチェンジというと、培養液を吸って新しい培養液を入れるイメージだと思いますが、実際には新しいディッシュに新しいメディウムを満たして、胚の方を移動する)。なお、タイムラプスインキュベーターにおいては、専用ディッシュが極めて高額なため、途中でメディウムチェンジをしないことが一般的ですが、ディッシュをもう一枚使えば、理論的にはシーケンシャルメディウムでも培養可能です。

なお、シングルステップ、シーケンシャルともに、これらの培養液は受精後のものであり、採卵後から翌日の受精確認までは、通常はそれ用の専用の培養液を使いますので、シングルステップも場合は2種類、シーケンシャルの場合は3種類の培養液を使うことになります。

培養液は現在10社ほどから発売されており、昔は成績や特徴もだいぶ違いましたが、今は各社開発にしのぎを削っていますので成績が向上し、治療成績に大きな差はなくなってきており、クリニックの方針や規模によっては1つの培養液しか採用していないこともあります。

しかし、中には合う・合わないが生じる場合もあるほか、1社からだけだと何らかの事情で供給が不安定になった場合に不安ですので、複数の培養液を常に用意して使い分けをするクリニックもあります。当院では、シングルステップ、シーケンシャルの両方を用意しています。

いかがだったでしょうか。ということで今日は培養液について解説いたしました。次回もお楽しみに!

 

 

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