筆者は医師で、医学部を出て医師国家試験に受かって医師をしているが、大学時代の特に前半は苦労した。

 

医学部3年生だったかな、ある科目で得点が伸びず単位をもらえそうになく、あやうく留年しそうになったことがあった(医学部は基本的に全科目必修なので1科目でも落とすことができない)。

 

もうダメかとなかばあきらめていたら、ある日、その科目のM教授から呼び出しがあった。今度、特別に口頭試問で再試験をするから勉強してくるように。と。

 

どういう風の吹き回しかと思いながら一生懸命に勉強して口頭試問の日を迎え、無事に色々回答できて単位をもらうことができそうだと安堵した時、M教授が言った。「なんで今日、口頭試問をしたか分かるか」と。筆者は素直に、分かりません、と答えた。

 

M教授は語り始めた。「先日、お前が単位を落とすかも知れないと知った某科のH教授が、俺のところに来たんだ。頼むからあいつにはもう一度チャンスをやってくれ、と。H教授は先輩で俺は頭が上がらないから仕方なく呼び出したが、いいか忘れるな、そういう風に言ってもらえるのはお前の人望だ。お前のために頭を下げてくれる人がいる、そういう風に言ってくれる人がいたということに免じて今回呼び出してチャンスを与えたんだ。チャンスは1回増えたが、今日はちゃんと勉強してきたようだし、今回単位を与えるのはズルでも不正でもないし、正規の再試験で正々堂々と受かったと思ってよい。だが大切なのはそこではない。これから医師になるにあたり、これから先も色々な人から大事に思ってもらえるように、今日のことを決して忘れずに人生を歩みなさい。」


具体的な言葉は記憶が曖昧だが、こんなことを言われたことを今でも昨日のことのように覚えている。その後、無事に医師国家試験に受かった時と医学博士を取れた時に報告に行ったら目を細めて喜んでくれて嬉しかった。

 

M教授の期待に沿えるような人生を歩めているかは分からないが、節目節目で、自戒を込めて、この言葉を思い出すことにしている。