たまには(?)マジメなお話を。今日は胚移植のお話です。

 

胚移植は、今までの諸検査、卵巣刺激(排卵誘発)、採卵、授精(受精)、そして凍結融解を経て、生殖医療の集大成です。胚移植は、する側もされる側も緊張する瞬間ではないかと思います。

 

 

では、胚移植は果たして難しいのでしょうか。

 

胚移植の難易度に関連する要素としては、

1)医師の技術(経験数)

2)医師の技術(その医師のセンス、上手さ)

3)患者さんの子宮の状態

4)医師と患者さん(の子宮)の相性

5)その施設が用意している胚移植のカテーテルの種類(メーカーもさまざま、モノもさまざま、1~2種類しかない施設から、たくさん種類がある施設まである)

6)その日の偶発的な子宮の状態(子宮の状態は日によって違う)

 

といったものがあります。

 

批判が来るかもしれないことを承知で敢えて書けば、子宮の状態に問題がなく容易に移植できる状況であり、当日にイレギュラーなことが何も起こらない前提なら、よっぽどイケてない医師が実施しない限り、どんなカテーテルでどの医師がやっても(ベテランでも新人でも)妊娠率はほとんど変わりません。やっていることは人工授精や卵管造影と同じで、そんなに難しいことをしているわけではないです。

 

 

医師の中には、胚移植をことさら神聖化し、あたかも経験のあるベテランの医師が移植してこそ結果が出るみたいなことを言われる先生もおられます。もちろん大前提として、胚移植は神聖なものであり、大真面目に、丁寧に、最大限の注意を払って誠心誠意行うのは当たり前ですが、それはそれ、胚移植が神聖であることと、それが技術的にどの程度難しいかは別問題であり、胚移植は「子宮の状態に問題がなく容易に移植できる状況であり、当日にイレギュラーなことが何も起こらない前提が崩れない限り」そこまで難しいものではありません。

 

 

 

ただし、中には移植が難しい患者さんがおられます。

 

まず、20~30人に1人くらい、前屈・後屈が強い、「やや難~難」の患者さんがおります。このあたりの難易度については、患者さん本人には伝えるときと伝えない時とありますが、どの程度の難易度なのかは、過去の移植歴があればすぐ分かりますし、移植初回でも子宮鏡やエコーで難しいかも知れないと推定できればメモをしますので、当日になってもあわてないように、事前にそのあたりを把握した上で移植当日を迎られるよう努めています。もちろん予想外に簡単な場合、予想外に難しい場合はありますが、移植を迎えるまでにある程度の事前評価はあったほうがいいです。

 

こういう方のためには、移植用のチューブは複数種類あったほうがよいです。移植用のチューブには、太いもの、細いもの、硬いもの、柔らかいもの、様々なものがあり、子宮の特性によって使い分けます。用意している移植チューブのラインナップはクリニックによって大きく異なりますが、ここは意外と大切なポイントです。当院では移植歴一覧に、どの移植チューブを使用して移植したのかもパッと見て分かるようになっています。

 

 

そして、数百人に1人未満の頻度で、「移植難」、1000人に1人レベルで「移植げきむず」の方がおられます。強前屈・強後屈なんてかわいい方で、左右に曲がったり、最初は前屈で途中から左に曲がったりS字カーブだったり、最初強前屈なのに最後の最後で後屈カーブがあるとか、途中が非常に狭くて通過困難だったり、途中何か所も行き止まりのわき道トラップがある迷路のような子宮もある、子宮が非常に大きくて奥まで到達するのが大変だったり、状態はバラエティに富みます。


これだと今まで超有名他院でも次々と色々な先生が出てきて数人がかりで1時間近くかかって移植した、なんていう話をお伺いすることもありますが、こういう方でも医師によっては数秒で移植が成功することもあり、こういう方に対する医師の技術の差は雲泥どころではないほど差があります。事前評価、準備、そして医師の腕、これが揃って初めてスムーズな移植となります。こういう方は頻度が低いため、移植の技術そのものは、いわゆる表面的な妊娠率等の数字には出にくいのですが、実力の差は、こうしたところで大きく出ます。書いちゃっていいか分かりませんが書いちゃいますけど、こうした方へも当院はしっかり対応します。他院で移植チューブが入りにくくてお悩みの方、ぜひご相談にいらしてください。

 

それでも入らない場合は、TOWAKO method (子宮に針を刺して移植する)という方法もあり、当院でも対応可能であり、妊娠例ももちろんありますが、対応可能なクリニックはかなり少数ではないかと思います。

 

ということで今日は「胚移植」は難しい技術なのかについてお話いたしました。次回もお楽しみに!

 

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