☆胚移植の技術:新人 vs. ベテラン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、胚移植の技術について新人とベテランの成功率(妊娠率)についての報告です。

 

Fertil Steril 2022; 117: 115(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.08.044

Fertil Steril 2022; 117: 123(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.11.003

要約:2009〜2020年に胚移植を実施した3073件を対象に、産婦人科を研修中の研修医15名による1225件と常勤医による1848件の妊娠成績を後方視的に検討しました。研修医1年目、2年目、3年目の臨床妊娠率(44.1%、43.2%、45.7%)と出産率(39.1%、38.1%、38.4%)に有意差を認めませんでした。研修医と常勤医による妊娠成績は、臨床妊娠率(45.0%、43.0%)と出産率(39.8%、37.3%)ともに有意差を認めませんでした。種々の交絡因子で補正後も有意性は認められませんでした。

 

解説:移植の技術に大差はありませんので、誰が移植しても結果は同じですが、なかなか患者さんには納得して頂けません。本論文は、1年目の研修医でも、妊娠成績は常勤医と同じであることを示しています。すなわち、移植の技術的な差異はほとんどないことを示しています(リプロの年間の移植成績は医師による優劣はありません)。移植の基本は「受精卵(胚)を子宮の中央にそっと置くこと」それだけです。子宮内へのカテーテル挿入が容易な場合には、極めて単純かつ簡単な手技です。しかし、子宮内へのカテーテル挿入が困難な場合にはテクニックが必要になりますが、必ずしも妊娠成績とはリンクしません。

 

コメントでは、米国の研修医の基本的なスキルとして(患者さんに不利益をもたらすことなく)胚移植を実施することが正当化されるとしています。

 

なお、リプロで勤務する医師は基本的に、研修医ではなく産婦人科専門医ですので、心配は要りません。

 

下記の記事を参照して下さい。

2014.9.18「胚移植のラーニングカーブ