Q&A3167 虫除けスプレー、ディート(DEET)の影響は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 虫除けスプレーのディートという成分が妊娠中には良くないという事を目にしました。私は蚊に刺されるのが良くないと思い、夏~秋にかけ外出の際は頻繁に虫除けスプレー(ディート入り)をしてしまっていました。赤ちゃんへの影響の不安が大きいです。影響はいかがでしょうか。知っている限りで教えて頂けたらと思います。

 

A ディート(DEET)は、昆虫などの虫よけ剤(忌避剤)として用いられる化合物で、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミドと呼ばれます。皮膚あるいは衣服に塗布し、昆虫やダニによる吸血を防ぎます。特に、ダニ(ツツガムシ病やライム病の媒介役)や蚊(日本脳炎、デング熱、ジカ熱、西ナイル熱、マラリアなどの媒介役)に対する防御手段として、高い有効性を示します。比較的安価で歴史もあることから、1950年前後から世界中で使用されています。ディートは忌避剤として最も効果的かつ持続時間が長いことが示されています。日本では10〜30%までの濃度しか製造できませんが、海外では80~100%の濃度の製品が発売されています。このような高濃度の製品では、プラスチックや皮革表面に影響を及ぼすことが知られています。

 

ディート(DEET)と妊娠に関する論文を調べてみました。

Obstet Gynecol 2016; 128: 1111(米国)doi:10.1097/AOG.0000000000001685

要約:米国USEPAおよびカナダCPMRAは、指示通りの使用法ではDEETには急性毒性がなく、ヒトへの有意な健康被害はないとしています。動物実験では、ピレスロイド系殺虫剤への暴露により認知行動障害が生じる可能性が示唆されています。しかしジカウイルス感染リスクと天秤にかけると、CDCは蚊に刺されることを回避する為にDEETの使用を強く推奨しています。米国産婦人科学会も同様の見解を示しています。

 

CMAJ 2003; 169: 209(カナダ)

要約:西ナイル熱感染リスクを低下させる唯一の方法は蚊に刺されることを避けることです。その為にDEET使用が最も効果的かつ世界的に行われています。DEETによる副反応として、大人では、低血圧、てんかん、昏睡が1時間以内に出現します。血中濃度が1mM以上の場合には死に至ることもあります。子供では、てんかんが報告されています。2002年に報告された米国の大規模なデータから、DEETによる副反応は子供よりも大人で顕著であるとしています。参考までに、DEET濃度とその有効時間を示します。この結果から、10%を用いるのが良いとしています。

 

DEET濃度  有効期間

30%     6時間

15%     5時間

10%     3時間

5%      2時間

 

コメント:以上により、(妊娠中には良くないというのがどのような根拠で書かれたのか不明ですが)妊娠中の女性がDEETを使用することに関しては、特別なデメリットはないと思います。

 

なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。